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「高齢者の暴走事故=認知症が要因」は間違っている…高齢者医療の専門家「医師もメディアも伝えない真実」

プレジデントオンライン / 2024年10月6日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

高齢者は免許返納すべきなのか。医師の和田秀樹さんは「私はそうは思わない。高齢ドライバーの事故の原因は、本当に認知症と言い切れるのか。意識障害の可能性はないのか。その点をしっかり調べるべきだ」という――。(第1回)

※本稿は、和田秀樹『「せん妄」を知らない医者たち』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■医師が感じる「東池袋の事故」の不快さの正体

私はこれまで4000人以上の認知症患者と接してきましたが、たとえ認知症が進んでも、自分の命を守ろう、危険を回避しようという能力はかなり最後まで残るとみています。なぜなら、危険回避は人間の本能的なものだからです。しかも認知症というのは、若年性認知症でない限り、かなり時間をかけてゆっくりと進行します。

認知症の7割を占める「アルツハイマー型認知症」であれば、ブレーキとアクセルの違いがわからなくなりつつある、という時点で自らの判断で運転を止めるでしょう。運転動作のような「手続き記憶」というものは、エピソード記憶や意味記憶と比べ、最後まで残る記憶とされ、そう簡単に落ちることはないとされています。

東池袋の事故の不快さというと、それは「年をとっても運転なんかするから事故が起きてしまった。高齢者は速やかに運転免許証を返納すべき!」と短絡的に考えられていることです。

高齢者の不可解な事故は他にもあります。

2023年の2月に、78歳の男性が横浜市でひき逃げ事故を起こしました。

■認知症ではなく意識障害では

車やバイクなど5台が巻き込まれた大きな事故です。しかし、その男性は事故後に、「散髪に行っていた」と話していました。

バイク2台と車3台に次々と衝突したその車で、です。

その男性は、床屋から自宅に戻って、車を見て、「あれ? なぜ傷がついているのだろう」と不思議に思ったようです。自分が衝突事故を起こしたことは、まったく覚えていないと言うのです。

「なんたることか! 他人の車にぶつけて事故を起こし、そのままのんきに床屋に行くとは」

フツウの人ならそう思うでしょう。しかしある程度、臨床経験が豊富な医者であれば、人が普段と変わらない言動を取り、それを覚えていないとすればこれは意識障害が起こした事故だろう、と想像ができると思います。

突発的な車の暴走事故は、薬の副作用による意識障害によって引き起こされたものであると言えるのです。少なくともその可能性を疑うべきです。

大事なことは、なぜそんなことが起きたのか。医者として、人として、その背景をしっかりと考えるべきだと思います。どのタイミングでその薬を飲んだのか、なぜ運転したのか。薬の副作用を知らなかったのか、などです。

■パーキンソン病の治療薬の副作用

そこで、まずパーキンソン病の治療薬について考えていきましょう。

パーキンソン病というのは、中脳の黒質という部分の神経細胞の数が減少し、黒質で作られる神経伝達物質のひとつである「ドーパミン」が減少してしまう神経変性疾患です。

その症状は、運動障害といったものが顕著です。たとえば、手が震えたり、筋肉がこわばり手足の動きがぎこちなくなったり、動かすのに時間がかかったり、バランスをとる反射がスムーズにできなくなったりします(これらを4大症状「振戦」「筋固縮」「無動・寡動」「姿勢反射障害」と言います)。

進行はゆっくりですが、最後には、立つことも歩くこともできず、日常生活に全介助が必要な寝たきりとなってしまいます。

故・永六輔さんが闘った病としても知られています。前向きな永さんは、歩行障害で車椅子になっても、ありのままの姿を見せて、テレビのインタビューで、「(僕は)パーキンソンのキーパーソン」と言っていました。しかし日々動作能力が低下していくこの疾患は、決してたやすいものではないのです。

この治療薬として処方されるのが、脳内で不足するドーパミンを補う薬物で、代表的なものが、レボドパです。しかしこれは、「運転注意薬」とされています。

「運転注意薬」とは、文字通り服用後の運転に注意が必要な薬のことです。

■もし意識障害が運転中に起きたら

他に、プラミペキソールという薬もあります。こちらの場合は、運転中に突発的な睡眠が起こることがあるため、「運転禁止薬」に指定されています。

このように、パーキンソン病の治療薬には、運転注意薬と運転禁止薬があるのです。

運転注意薬とされる血圧降下薬やコレステロール降下剤などなど、飲んでいる薬は4〜5種類、という人はそう少なくないと思います。

そんな人がある日急に、頭がぼんやりして、意識がおかしくなってしまう。これが意識障害の怖さです。もし家にいる時に起きたら、周囲は慌ててしまうことでしょう。

「あそこに誰かがいる!」とか「虫がいっぱい這っている!」といった幻視や、「誰かの声が聞こえる!」といった幻聴で騒ぎますから。

とうとう、ボケてしまったと思うかもしれません。しかしこれは数時間のうちに収まります。というのも、それは、「せん妄」という意識障害が引き起こしたものだからです。

あぁ、よかった、認知症ではなくて。薬の副作用だったのね。と安心することでしょう。

しかし、この意識障害が運転中に起きたら、どうなるでしょうか。

■薬の副作用を知っておくべき

目の前に見えている信号や横断中の人々などのリアルな景色、それがリアルに見えずに、見えているのは幻視。幻の視界が広がります。幻覚が起きます。

たとえば、後ろから誰かに襲われているような感覚になり、「あー怖いー! 逃げなくては!」とハンドルを必死に回して、アクセルを踏み続ける。つまり暴走運転です。方向感覚を失えば、逆走運転にもなります。赤信号も見えません(認識できません)から、そのまま通り過ぎる。事故を起こして目が覚めたら(気づいたら)、人を撥ね殺していた、ということも当然あり得るのです。

麻薬などの薬物を飲んで運転している状態を、想像してみてください。

普通に病院で処方され、飲んでいる薬の副作用でそんな状態が起きてしまう。これは、非常に大きな問題です。

パーキンソン病患者は、全国に16万人強いるとされています。

東池袋の事故から、学ぶべきこと。それは「高齢になったら運転はやめないとね」ではなく、「運転をする前に、飲んでいる薬の副作用を知っておかないとね」です。

■なぜ海外では高齢者の暴走事故が少ないのか

それにしても、どうして今日本では、高齢者が逆走や暴走事故を起こしたら、すべて年のせいだと捉えられてしまうのでしょうか。普通の感覚を持っている医者だったら「薬のせいだ」と考えるというもの。「これってせん妄とか、意識障害を起こしていたんじゃないの?」

そう導かれない社会、医療機関や報道機関も含めて、非常に残念に思います。

ちなみに、欧米では車の暴走事故がほぼ問題にならない。起きていないのです。

ドイツのような車大国でも「高齢者の暴走事故」というのは、ほとんど報道されていないそうです。

これは私が思うに、高齢者には無駄に薬剤処方がなされず、「薬づけ高齢者」が少ないからでしょう。アメリカだってそうです。

日本のような皆保険制度がありませんから、病気になったら大変です。高い医療費を払わないで済むようにと、おのずと国民に高い予防意識が根付いています。医者にかかるのも最低限。よって処方薬も少ないので、薬の副作用の問題も日本のように多くないのでしょう。

■「せん妄」への認識が低すぎる

ここで、日本の医療の問題点を述べたいと思います。

超高齢社会であるのにもかかわらず、高齢者に起こりうる「せん妄」という意識障害についての医師や社会の認識が低すぎます。

和田秀樹『「せん妄」を知らない医者たち』(幻冬舎新書)
和田秀樹『「せん妄」を知らない医者たち』(幻冬舎新書)

高齢の肉親が入院して、しばらくぶりに退院した時に、どうも様子がおかしい。ぼーっとしていて、いつもと違う反応速度。「あれ? ボケちゃったの?」と思ったことはきっとあるはずです。しばらくすると元に戻る。これは一時的な意識障害、つまり「せん妄」です。多くの方が体験したことがあると思うのです。

医療の現場では、非常にありふれた症状です。

それなのに、なぜ考えが及ばないのか。社会が触れないのか。医者がわからないのか。

本当にわからないのであれば、本当に情けないほどに、日本の医者のレベルが低すぎると言わざるを得ません。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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