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「父からお金をもらわないと何もできないなんて…」専業主婦の母をもつ40代独身女性が結婚を焦らないワケ

プレジデントオンライン / 2024年10月13日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

40代前半で独身のNさんは、稼ぎのある男性を探すことより自分がキャリアを築き自立することが最優先だったという。その背景には専業主婦の母の影響がある。合理的で前向きな結婚、キャリア観をライターのあたそさんが取材した――。

■離婚したいときに離婚を選択できるのは健全な社会

厚生労働省「人口動態統計」によると、熟年離婚が過去最多の23.5%を記録した。離婚そのものに関しては直近20年で減少傾向にあるらしいが、2022年は離婚した夫婦のうち4組に1組が、20年以上連れ添って別れた「熟年離婚」にあたるようだ。

現在、離婚は珍しいものではなく、統計上では3組に1組が離婚を経験している。離婚を選択したところで、「嫁の甲斐性がないから」「女性が我慢するべき」「片親では子どもが可哀想」などと言われる機会はゼロではないにせよ、ひと昔前と比較すれば減っているように思う。共働きが一般的になり、女性が手に職を付けて経済的に自立しやすい社会になっていることも要因のひとつとして挙げられるだろう。

「離婚」と聞くと、ネガティブな印象を持ってしまうが、今は男性も女性もひとりの力で生きていくことができる。そんななか、離婚したいときに我慢することなく離婚を選択できるのは、社会的にも夫婦にとっても健全であると言えるのではないだろうか。

■専業主婦にはならないと強く誓った理由

私の母は、私・弟・妹の3きょうだいの世話を一手に引き受けながら専業主婦として暮らしていたのだが、私はそんな母の姿を見ているのが嫌だった。

父は家庭を顧みず、まともに家事をしている姿を一度も見たことがない。インフルエンザになっている母親にも料理をさせるような人だった。何か言い合いになれば、「誰のおかげで生活できていると思っているんだ!」と怒鳴り、手が出る。お互いの怒鳴り声が止んだと思えば、キッチンで嗚咽を漏らす母の姿を幼い頃から何度も目にしてきた。

母には、ずっと趣味らしい趣味がなかった。お菓子作りだって子どものためだったし、庭で大切に育てていたバラの花たちも「邪魔だから」という理由で父に突然撤去されてからは、何の世話もされていない。我が家の庭は荒れ、廃れていった。

私たち3人の子どもから手が離れるようになってからはパートとして働きに出るようになるが、専業主婦だった頃の母は趣味がなく、夜や休日に自由時間を持つことも許されず、欲しい物すら好きに買えなかったのだと思う。私は、自由に生きている母の姿を今まで一度も見たことがなかった。

それでも離婚という選択をしなかったのは、世間体とお金のためだったのではないだろうか。母の姿を間近で見てから、私は専業主婦にはならないし、自立した生活が送れる給与の得られる職に就こうと心に強く誓った。

■父親からお金をもらわないと生活ができない母を見て育ったNさん

Nさんは、現在40代前半。都内で一人暮らしをしている。福岡出身で、父親は典型的な九州男児だった。母親の出す毎日のご飯に対しても「美味しい」「ありがとう」という言葉は今まで一度も聞いたことがない。

母親は専業主婦で、父親からお金をもらわないと生活ができない。家事も育児もあんなに大変なのに、ひとりでこなしていかなければならず、それ以外の選択肢がない姿を目の当たりにするのが、ものすごく嫌だったそうだ。そんな母の姿を見て、何か欲しいものがあったときにすぐに自分のお金で買えるよう、仕事を一生懸命するようになったとNさん自身は考察している。

料理する主婦
写真=iStock.com/kazoka30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

父親が母親に気を遣うこともなく、常に機嫌が悪かった。Nさんは幼少期から父親の機嫌を伺っていたからこそ、大人になった今でも他者との関係においても誰かの機嫌を伺い、自分らしく振る舞えていないことに気がついた。だからこそ、東京に出たい、一人になりたいという気持ちを一層強く持つようになったそうだ。

■稼ぎのいい結婚相手より自立した生活が先

また、Nさんには、自分の生まれ育った地方都市にいい思い出が全くない。周囲には「自分で働いて自立した生活を送るよりも、結婚して稼ぎのいい旦那さんに養ってもらうのが幸せ」「早く結婚して、生活を安定させたほうが幸せ」だと考えている女性が多く、息苦しさを感じていた。そんな地元の雰囲気が嫌で、Nさんは大学進学をきっかけに東京で生活をはじめることとなった。いまもその選択をしてよかったと感じているという。

一方で、地元の同級生は結婚して子どもを育てている人が多い。

やはり結婚観や子どもに対する価値観は、生育環境が大きく由来するのだと思う。Nさんは子どもの頃から、「大人になったら結婚して子どもを産むんだろう」と考えたことはなかった。子どもは好きだが、産んで育てるというイメージが持てなかったのだという。どちらかといえば、人生を確立させるために仕事をしたいと考えていた。稼ぎのいい旦那さんを見つけるよりも、自立した生活ができるようになるほうが先だという意識をずっと持っていた。

Nさんは今も、仕事中心の生活のほうが自分には合っていると感じるという。社会人になって働き始めてからも、仕事で忙しく過ごすほうが好きだと思っているそうだ。

■男性は子孫を残したい生き物だから、浮気や不倫をする

Nさんは今まで秘書業務や転職エージェントとして従事してきたが、昨年念願の社会保険労務士の試験に合格したため、転職をきっかけに人事職として働いている。今後、人事としてのスキルを身に付けながら、将来的に勤め先の役員に昇進することも視野に入れ、日々仕事に打ち込んでいるという。職業柄、昔から経営者や役員の話を聞く機会が多く、働き始めてから仕事を通じて男性に対する考え方や結婚観を変えていった。

インタビュー前に実施した未婚者への結婚観に関するアンケートでは、“お互いの同意、契約ありきでの重婚であれば”結婚してもいいとNさんは回答している。

結婚を前向きに考える条件として「選択的夫婦別姓制度の導入」「不妊治療の補助」「扶養制度の廃止」などが並ぶなか、Nさんの回答はかなり目立っていた。

男性が重婚を希望するのならわからなくはないが、女性が重婚を希望するケースは珍しいのではないだろうか。

仮に重婚が許されるようになれば、自分のパートナーに自分以外のパートナーが存在するということになる。どうしてなのだろうか?

「男性は子孫を残したいという本能があるし、だから浮気や不倫をするじゃないですか。でも、奥さんを大切にしていないわけではなくて、奥さんとは違う女性にも魅力を感じるように身体ができているから、おかしいことじゃないと思うんですよね」「男の人は、やっぱりひとりの人を愛するのは難しいんじゃないかな」ということらしい。

白い背景にLoveと書かれた木製のハートとペアの結婚指輪
写真=iStock.com/gesrey
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gesrey

■お金があれば子育てはひとりでも可能

女の人はおいそれとは身ごもれないが、男の人はいつでも子どもを産ませようと思えば可能である。肉体的・精神的ともに、いつでも子孫を繁栄させることができるような本能が備わっているとNさんは解釈しているようだ。日本社会は一夫一婦制を取り入れているが、生物学的には少し不自然であると捉えているのも自身が今まで結婚してこなかった理由のひとつであるそうだ。

もちろん、重婚は女性にとってリスクになる側面はあると考えている。女性は出産することになれば、しばらくの間は働くことができない。精神面も不安定になり、体調の変化もあるだろう。その間の金銭面含めたサポートは必ず必要になる。子どもが生まれてからも旦那さんの支えやベビーシッターなどの活用は必要となるが、お金さえあれば、ストレスなく子育てができると思っている。それは、愛情の有無ではない。そのため、お金が十分に担保されていれば、重婚はありだとNさんが考えている。Nさん自体は子どもについてはまだわからないという。将来、結婚することがあれば配偶者と相談のうえで決めたいそうだ。今まで、結婚や出産に対する焦りの気持ちも持ったことがないという。

■結婚は気持ちだけでは成立しない

話を聞いていると、Nさんはとても前向きで、将来や老後などの不確定な要素が多い事柄に対しても不安を感じないマインドセットを持っているようだった。また、合理的で一度設定した目的・目標に対して全力で走り抜く人であるようにも感じる。人事職に就くために、社会保険労務士の試験取得に向けて全力で取り組む。家事も苦手だからこそ、ハウスクリーニング業者を定期的に入れて綺麗に保っている。

恋愛と結婚も同一化せず、理と情を分けて考えているのかもしれない。結婚は、お互いを思う気持ちだけでは成立しない。金銭や衛生観念、価値観、家族・親戚との関係など、さまざまな問題がはらんでくるだろう。結婚の何に重きを置くのか? にも左右されるが、条件やルールを設け、お金で解決できることは合理的に解決させながら子どもを育てていくのは新しい考え方であり、お互いにストレスや不満を抱えることなく過ごすことができるのかもしれない。「お金さえあれば」という前提が重要にはなるが、強いものが多くのものを持つというのは正しい自然の摂理であるようにも思えてくる。結婚や育児において、重婚という手段は悪くないのかもしれない。

■養子を含めて将来を話し合えるパートナーを見つけたい

今、Nさんはいずれ結婚したいと思っている。自分も働くことが好きで、ずっと仕事中心の生活をしてきた。ここ5年ほどは資格取得のため、友だちと会うことも誰かとお付き合いすることも辞め、すべての時間を勉強に費やしていた。だからこそ、今は寂しさを覚えることもあるという。資格取得も転職も済み、落ち着きを取り戻しつつあるので、最近は新しいパートナーを探すことに前向きでいる。

Nさんは40代前半なので、結婚や子どもを考えるとどのような付き合いになるのかはわからない。けれど、将来や出産のことを視野に入れて相手を探したいと思っているそうだ。

昔から子どもが好きで、もし結婚することがあれば子どもを持ちたい。今まで、出産・子育てのために結婚を焦ることがなかったのは、相手のことを好きでなければ、子どもを持つことは考えられないからだった。もし、子どもができないのであれば、養子でもいい。血縁関係を伴わなくてもよく、パートナーと話し合ったうえで、養子を迎えいれる形でもいいと思っている。将来のことを含めて、話し合いを重ねられるパートナーを見つけたいと考えている。

■相手の年収は同等か少なくてもいい

Nさんの周りにはもともと仕事をバリバリしている人が多く、自身もそういう男性が好みだった。優しさと年収は反比例していると考える。重要な意思決定をする人は、ヒエラルキーの上の立場にいることが多い。さまざまな上下関係のなかで勝ち残ってきたからこそ、他者に対する優しさや自分のペースを守っている人は見当たらないように感じるそうだ。

だからこそ、最近は優しい人と結婚をするのもいいのではないか? と考えはじめている。年収も、自分と同じくらいか、もしくは家事を分担できる人であれば自分より低くてもいい。今までは仕事にすべてを打ち込むような男性が好みだったが、結婚となれば生活をともにしなければならない。視野を広げて相手を見つけたいという。

食事に関しては、自分の身体を作るものなのでできるだけ気を遣うようにはしている。もともと家事が苦手で、結婚すれば女性が家事や育児をしなければならないという価値観が嫌だった。でも今は十分な収入がある。特に掃除と洗濯に関しては定期的なアウトソーシングで解決させている。自分の苦手なこと・やりたくないことはお金で解決したい。今後結婚したとしても、さらに仕事でキャリアを積みながら、可能な限りやらないつもりだという。

現在は、コーチングスクールに通っている。まだ入学して日は間もないが、自分の考え方や仕事への姿勢を含め、あらゆるものが変わっていったと感じている。仕事をするエネルギーがないと話す職場や友だちにスクールで学んだことを披露して、だんだん元気になっていく姿を見ていると、幸せだなと感じる。どのような形になるかはわからないけれど、と前置きをしたうえで、いずれは講師という形でも誰かの役に立ちたいと考えているそうだ。

■前向きで合理的……結婚を焦らない理由

経営者という肩書の人が好きで、ビジネスにおいてさまざまなことを乗り越えてきた人が意思決定に至るまでの思考は聞いていて面白い。その人たちの悩みを自分のコーチングスキルで解決することができれば、こんなにうれしいことはない。転職やキャリアに悩んでいる人が不安に感じていることを取り除いてあげることにも興味があるという。

女性は、自身のキャリア形成と結婚・出産というバランスを年齢も考慮しながら選択していかなければいけない。不公平だとも、男性に対してずるいとも感じる。自立した生活、地盤の固まったキャリアを積んでいたら、気づいたら出産適齢期が過ぎていたという話はあるあるなのかもしれない。

それでも、前向きで合理的な考え方を持っているNさんは、将来に対しても自分の目標に対してひた走るのだろう。自分が今したいこと、できることを考えながら、叶えていけることがNさんにとっての幸せなのだろうし、きっとあらゆることを叶えていけるのだと感じる。

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あたそ 文筆家
普段は会社員。たまにインターネット上であれこれ文章を書いたりトークイベントを開いたりしている。好きな飲みものは酒。著書に『女を忘れるといいぞ』(KADOKAWA)『孤独も板につきまして 気ままで上々、「ソロ」な日々』(大和出版)など。

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(文筆家 あたそ)

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