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ブラック企業が絶滅しない元凶は7つある…日本人が「低収入、長時間、パワハラまみれ」でも働き続けるワケ

プレジデントオンライン / 2024年10月7日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jay Yuno

働き方改革が浸透しても、なぜか劣悪な労働環境はなくならない。ビジネスコンサルタントの新田龍さんは「消費者がコスパを追求する限り、過重労働と不払い残業によって従業員にシワ寄せをしてでも商品やサービスを安く出そうとするブラック企業は出現し続ける」という――。(前編/全2回)

■企業による違法行為の被害者は絶えない

ブラック企業は時代遅れのはずなのに、しぶとく生き永らえている。いまだに「知らずに入った会社が実はブラック企業だった!」といった被害報告は絶えることがないのだ。

それは一体なぜなのか。私はその理由は大きく分けて7つあり、それぞれが複雑に絡み合っていると考えている。

本稿では、代表的な「ブラック企業を延命させている元凶」について解説していきたい。

(1)「ブラック企業」という言葉そのもの

「ブラック企業」という言葉の存在自体が、ブラック企業にまつわる諸問題をややこしくし、かつ真にアプローチすべき問題点を見えにくくさせている原因かもしれない。

「ブラック企業」という言葉はあまりにキャッチーであり、便利すぎるのだ。

例えば、労働環境にまつわる諸問題として、賃金や残業代の不払いは「労働基準法違反」だし、パワハラの場合は「侮辱罪」「傷害罪」「名誉毀損罪」、セクハラなら「強制猥褻罪」等が該当するかもしれない。経営者や従業員の行為として「詐欺罪」「収賄罪」「横領罪」「背任罪」等も当てはまるだろう。

■訴訟リスクを回避する安全で便利な言葉

これらはれっきとした「違法行為」であり、すぐにでも糺さなければならない重大事案だ。しかし、それらをメディアを通じて公に指摘してしまうと、事実であっても場合によっては「名誉毀損罪」が成立してしまうリスクがある。

しかし「あの会社はブラック企業だ!」と指摘するだけなら、具体的に事実を適示しているわけではなく、かつ「なんとなく怪しい」イメージを読者に植え付けることができるので、実に都合がいいという面がある。

一方で、従業員目線からの「なかなか給料が上がらない」「(残業代は出るが)長時間労働が蔓延している」「ノルマがある」「上司や先輩が厳しい」……といった、特段の違法行為でもなく、単に受け手にとって「個人的に不快な事態」までもが「ブラック企業」とひとまとめに論じられてしまうことがある。

当然ながら「何をブラックだと認識するか」という基準自体も人によってまちまちであり(「違法レベルのハードワークでも、見合う報酬が得られるならOK」VS「違法な時点でそもそもアウト」など)、結果としてその会社は本当に違法なことをやっているのか、もしくはお気持ちで不快なだけなのかが分かりにくくなり、議論をややこしくする元凶となってしまうのだ。

■「コスパ最高」という悪魔のささやき

(2)過度に「コスパ」を求める一般消費者/過剰サービスを求めるモンスター客

支払った金額に対して期待以上の成果を得られる状態を指す「コスパ(コストパフォーマンス)がいい」という褒め文句に、われわれ消費者もマスメディアも全力で乗っかってきた。

単なる個人の消費志向という範疇で収まっていればよかったのだが、多くの消費者が「もっと安くしろ!」「もっとお買い得に!」と、企業に対して「安さ」を過剰に求めるようになってしまい、仮に一部企業が商品やサービスの価格を値上げすると、消費者とメディアは声を合わせて「庶民切り捨てだ!」「金儲けに走るな!」と文句を言い、とにかく値下げ圧力を加えてきた。

しかし、そもそも企業は金儲けのために存在するものであるし、企業の儲けは給料としてそこで働く人に還元される。そのような経済の基本を無視するかのような足の引っ張り合いの結果が「失われた30年」であり、「皆平等に貧しくなる」道であったのだ。

視点を企業に移すと、従業員に充分な給料を支払うにも、キッチリ残業代を支払うにも、手厚い福利厚生を実現するにも、必要になるのはお金であり、企業の売上である。しかし、われわれ消費者が「送料無料!」「ワンコイン!」「24時間365日営業!」といったサービスを過剰に求め、コスパばかりを追求する限り、過重労働と不払い残業によって従業員にシワ寄せをしてでも、商品やサービスを安く出そうとするブラック企業は出現し続ける。

そして、そんな企業やサービスをわれわれ消費者が「コスパ最高‼」と選び続ける限り、ブラック労働はなくならないのだ。

■「お客様は神様」と勘違いしたクレーマーの罪

過剰労働(ブラック労働)とのつながりでいえば、その背景にはサービスや商品に完璧を求め、無限に要求をエスカレートさせるモンスター客やクレーマーなどの存在もある。

彼らは、「お金を出しているのだから」「お客さまは神様だから」という意識が根強く、初めから自分たちの立場を上と見なしている。しかし、この「お客さまは神様」というフレーズが間違った意味で広まっていることは前回記事で紹介した通りだ。

「笑顔で深々とお辞儀する店員」なんて客は求めてない…接客業を疲弊させる「日本式おもてなし」の罪

高いレベルのサービスを受けて気持ちよくなりたいのであれば、それに見合った金額を支払うべきだが、こうした誤った認識が過剰な水準の接客サービスを従業員に強いることにつながり、結果として、対抗手段をもたない末端の従業員の過剰労働につながってしまうのだ。

■ちゃんとした企業は時間をかけて人材を選ぶ

(3)ブラック企業を支える就職希望者

採用選考経験を相当に積んだ面接のプロであっても、応募者の人柄や能力を評価して見抜くには相応の時間を要する。

だからこそ採用選考では筆記試験、グループディスカッション、グループ面接、個人面接と多くの選考ステップがあり、面接官は人事採用担当のみならず、現場で共に働くことになるメンバーや上司になる人など、さまざまな立場の人が選考に関わり、時間をかけて総合的に判断するものだ。

必然的に、そういった選考過程を通過できるのは、学生時代に目標をもって取り組み、成果を出したことのある人や、現職で実績を残している人ということになる。

面接を行う担当者は履歴書を確認している
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■明らかに怪しい企業を選んでしまう人たち

一方で、離職が激しく、慢性的に人手不足であるブラック企業の場合、応募者を厳選している余裕などないため、「面接1回で即内定」「学歴、職歴などすべて不問」といった、選考のハードルを極端に低くして採用をおこなうことが多い。

本来はその時点で警戒すべきだが、学生時代を自堕落に過ごしてしまい、「学生時代に頑張ったこと」が皆無のような学生や、真剣に就活せず、なんとなく受かった会社に入ったものの、入職後ミスマッチを感じて、大した組織貢献もしないまますぐに辞めてしまったような人の場合、就活や転職活動において複数の企業に応募するも、残念ながら意中企業の選考が不合格となったり、軒並み通過しなかったりすることがままある。

採用試験に連戦連敗で自信を失い、自己肯定感も低下してしまうと、「もうどこでもいいから受かったところに……」という心境になりがちだ。

そんなタイミングでうっかりブラック企業を受け、一発内定が出てしまうとつい恩義を感じてしまい、「こんなダメな自分を拾ってくれた……この会社で頑張ろう‼」などと決意してしまう。そうやってブラック企業に入社し、貢献してしまう人がいる以上、ブラック企業が生き永らえることに繋がる。

■「労基法違反」は大したダメージにならない

(4)抑止力になっていない司法

いまだに多くの労基法違反が発生しているのは、ズバリ「違反しても企業にとっては大きな痛手にならない」ためだ。

実際、労基法に違反した会社はめったに取り締まられることはなく、労基署の臨検を受けて違法行為が見つかっても、「是正勧告」がなされて書面を提出すれば終わり。

労基署からの勧告を複数回無視するとようやく書類送検されるが、そこから起訴されることは稀であり、仮に起訴され、有罪判決を受けても、それに対する罰則の多くが「6カ月未満の懲役もしくは30万円以下の罰金」であり、法律とその運用が、まったく違法行為の抑止力になっていないのだ。

■「解雇」以外の違法行為には甘い歴史的事情

現行の「労働基準法」は戦後間もない時期に制定されたもので、重点指導対象は「工場労働者の安全衛生」であり、法違反に対して罰則が緩い。

これは戦後復興期に、国として財源が不足しているなかでも社会保障を拡充しなければならないという局面において成立した、「企業が雇用を増やすことで社会保障の一部を担う」「企業が負担する雇用と保障について行政が支援する」「労組が経営を監視する」という役割分担をそのまま継承している。

したがって現在に至るまで、司法は「解雇」に対しては大変厳しい判断を示す一方で、「長時間労働」「サービス残業強要」「各種ハラスメント」といったそれ以外の違反については、「雇用が守られているなら……」と大目に見られている面がある。すべては当時の役割分担に起因していると考えられる。

人手不足の労働基準監督署に持ち込まれる相談案件の数が多すぎて、実質的に捌き切れていないことも背景にある。

日本は労働者数あたりの労働基準監督官(以下、監督官)の数が他国と比較して相対的に少なく、監督官が日本に存在するすべての事業所を訪問するとなると、現在の監督官の人数では何十年もかかってしまう計算になる。人員増の要求は以前からおこなわれているが、厳しい財政状況もあり、なかなか実現できていないのが現状だ。

■99.7%を占める中小企業に過保護すぎる?

(5)非効率企業も守られる、産業保護政策

1963年の「中小企業基本法」制定以来、わが国では中小企業保護政策に莫大な税金が費やされてきた。法人税率が低めに設定されていたり、赤字でも延命しやすく、接待交際費についても課税の特例があったりするなど、税制面でもさまざまな優遇措置が用意されている。

バブル経済崩壊のタイミングでは、銀行は不良債権の顕在化を先送りし、共倒れを防ぐために「追い貸し」や「金利減免」をおこなったし、2008年のリーマンショック時には当時の民主党政権が「金融円滑化法」を制定。借入れ条件を緩和したり、返済に一定の猶予期間を与えたりすることで、中小企業の資金繰りをサポートした。

そして先般のコロナ禍においては、政府主導で莫大な補助金と、実質無利子・無担保で融資する、いわゆる「ゼロゼロ融資」を提供するなど、中小企業の延命策は脈々と継続されているのだ。

それもこれも、わが国の企業全体の99.7%を中小企業が占め、中小企業で働く従業員数は全体の約70%と、日本の経済も雇用も中小企業によって支えられているからに他ならない。

厚紙で作られた人の輪を守る両手
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

■普通なら存続できない企業も生き残っている

たしかに、これらの対応は草の根レベルで雇用を守っている中小企業を下支えするのに役立ったし、金融危機や天災に見舞われた際には、倒産によるさらなる危機の連鎖や、失業者の発生を予防する効果もあったことだろう。

一方で、手厚すぎる保護政策によって、利益も創出できず、従業員に充分な給料も払えない、生産性の低い産業や企業を温存させることに繋がり、日本経済の長期低迷をもたらす一因となったとも考えられる。

わが国では大企業に比べて中小企業の賃金水準は低い。令和5年度版厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、企業規模別の賃金格差は大企業を100とした場合、中企業は90.0、小企業は85.0となっている。

すなわち、さほど儲からず、高い給料も払えない中小企業を守り続けることで、そこで働く人たちの雇用は守れる一方で、低い給与水準もまた維持されてしまう、という構造問題が存在するのだ。

赤字で事業を継続するのがやっとという中小企業が、満足な賃上げなどできるはずがない。政府として賃上げを目指すならば、経済状況を改善するのみならず、生産性の低い中小企業が適切に淘汰される仕組みや、アルバイトやパートタイマーの「働き控え」の原因となる「年収の壁」見直し、社会保険料率の低下など、思い切った構造改革が必須であろう。

■「有名企業かどうか」で価値を判断するマスコミ

(6)恣意的な報道をおこなうマスメディア

マスメディアがニュースとして取り上げるのは、全国的に知名度のある大手企業か、何かしらの理由で世間から注目されている企業がほとんど。そのような大手有名企業であれば、些細な事象でも針小棒大に騒ぎ立てる。

一方で、本当に悪質な違法行為で、世の中に知らしめるべきブラック企業の事案であっても、それが地方の小規模な無名企業であれば視聴者や読者の耳目を引くこともないため、ニュースとして採り上げられる機会も稀となる。

報道されない以上、違法行為の抑止力とはならず、特にコンプライアンス意識が低い小規模企業において自浄作用が働かないという残念な結果になってしまっている。

帰宅ラッシュ時のビジネスパーソンたち
写真=iStock.com/AzmanL
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanL

■「御恩」があるのでブラックでも文句が言えない

(7)日本独自の雇用慣行

日本は、「人に仕事を当てはめる」メンバーシップ型の雇用システムを採用している珍しい国だ。諸外国は「仕事に人を当てはめる」ジョブ型が多い。

日本人の有休消化率が異様に低い理由も、この雇用システムの違いが影響している。

なぜ日本人は「休むこと」に罪悪感を持ってしまうのか…「有休取得率が世界最下位」となる3つの根深い理由

詳しくは上記記事を参照してほしいが、メンバーシップ型は、入社時点では職務内容を厳密に特定せず、まずは「会社の一員」として採用する。その後、本人の適性に応じて配属したり、異動させたりするのが慣例だ。

こうした世界では、組織が働き手を家族のように守る代わりに、働き手は「ファミリーの一員」として、組織の要望に無制限に応える働き方を期待されることになる。

したがって、「休暇を取りたい」「ワーク・ライフ・バランスを確保したい」という意思は、(あくまでメンバーシップ型の建て付けにおいては)組織からの「御恩」に対する反旗に捉えられてしまうことになり、必然的にブラック労働が強化されてしまう構図となるのだ。

(後編に続く)

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新田 龍(にった・りょう)
働き方改革総合研究所株式会社代表取締役
働き方改革総合研究所株式会社代表取締役。労働環境改善、およびレピュテーション改善による業績と従業員満足度向上支援、ビジネスと労務関連のトラブルと炎上予防・解決サポートを手がける。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。

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(働き方改革総合研究所株式会社代表取締役 新田 龍)

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