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バリ島で人気の「おいしい串焼き」は違法な犬肉だった…悪徳業者に捕まった野良犬が飲食店にたどり着くまで

プレジデントオンライン / 2024年10月10日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/christian_sutheja

■違法な犬肉が押収された

日本などアジアの国々やオーストラリアから、多くの観光客を惹き寄せるインドネシアのバリ島。レストランや屋台で一度は目にするのが、名物料理のサテ(串焼き)だ。だが、鶏肉などと称して売られている一部のサテは、実は犬肉だった。

フランスのAFP通信が報じたところによると、バリ島の当局は7月、島西部のジェンブラナ地区において、違法な犬肉の串焼き500本と生の犬肉56kgを押収した。

バリ島では2023年に犬肉の取引が禁止されており、違反者は最大3カ月の懲役または約4100ドルの罰金刑に処される可能性がある。バリ公共秩序機関の責任者であるデワ・ニョマン・ライ・ダルマディ氏はAFP通信に、7月の検査で、規制に違反して犬肉の取り扱いを続けている3人の犬肉販売者を発見したと明かした。初犯者は警告処分のみだが、他の2人の再犯の販売者は軽犯罪として起訴された。

インドネシア全般では犬肉と猫肉の販売が許可されているが、この慣習を改める動きがあり、バリ島では地域独自の取り締まりを行っている。しかし、取引禁止令にかかわらず販売する業者は後を絶たない。

■騙された観光客たちが犬肉を食べている

バリ島における犬肉の販売は、以前から問題視されていた。地理的に近いオーストラリアから多くの観光客が訪れるが、豪TV局のABCは2017年、夜のニュース番組「7.30」で、騙されて実際に犬肉を食べたオーストラリア人観光客らの顛末を取り上げている。

動物保護団体のアニマルズ・オーストラリアの調査によると、バリの観光地で提供されるサテ(串焼き)の中には、犬肉でできたものがある。観光客はこれを知らずに食べてしまうことが多いという。同団体のキャンペーンディレクター、リン・ホワイト氏は、ABCの取材に対し、「犬肉取引は動物虐待法と食品安全法に違反しています」と説明している。

バリのセミニャックビーチ近くの屋台は、犬肉のサテを販売している屋台の一つだ。観光客には「チキンサテ」として提供される。「7.30」は、アニマルズ・オーストラリアの調査員が屋台の販売者に「何を売っているのですか?」と尋ね、販売者が「犬のサテです」と答える様子を取り上げている。

販売者が商品の肉を収めている箱には、シェパードの絵柄と、「RW MOBIL」の文字が書かれている。「RW」は犬肉を意味する。インドネシア中部、スラウェシ島北部の言葉である「Rintek Wuuk」(柔らかい毛皮)に由来する。だが、観光客は「RW」の意味を知らない。

■「ノー、犬ではない」

この販売者の男は、観光客に対して同じ商品を、「チキンサテ」であるかのように誤解させていたという。7.30が報じた顛末は以下の通りだ。ビーチパラソルの下でくつろぐオーストラリア人観光客の元に、販売員が近づいて話しかける。

販売員「サテです、たった1ドル」
オーストラリア人「何の肉だろうね。これは何、チキン?」
販売員「サテです」
オーストラリア人「チキンサテで、犬ではない?」
販売員「ノー、犬ではない」
オーストラリア人「犬でなければ問題ないよ」

7.30は、「ミスリードされた彼らは、知らず知らずのうちに犬肉を食べるのである」と続ける。

アニマルズ・オーストラリアのホワイト氏は、こう指摘する。「観光客は通りを歩き、サテを売る露店を見かけます。しかし、彼らは露店の看板に書かれたRWという文字が、犬肉を意味していることに気づいていないのです」

バリ動物福祉協会によると、バリ島のおよそ70軒のレストラン・屋台で犬肉が提供されている。

■土嚢に詰められ運ばれる犬たち

犬肉の販売は現在も続いている。国際動物保護団体のアニマルズ・インターナショナルは今年、英インディペンデント紙に対し、バリ島で引き続き観光客が犬肉を食べさせられていることを明らかにした。

野良犬や連れ去られた犬が犬肉になっている。AFP通信が配信する写真では、連れ去られた多数の犬の様子が示されている。口輪を掛けられた犬たちが土嚢のような袋に入れられ、首から上だけを袋の外に出した状態で宙づりにされている。数十匹が一度に車両で搬送される。

インディペンデント紙によると、犬肉の需要は高く、多くの犬が街頭やビーチで毒殺されているという。「その他にも、残酷な方法で捕獲され、口をテープで塞がれ、縛り上げられて袋に押し込まれ、運命を待つ」犬もいる、とアニマルズ・インターナショナルは明らかにした。

ルークと名乗る同団体の調査員は、バリの犬肉取引の実態を明らかにするために、4カ月間にわたり潜入調査を行った。彼は豪ABCに対し、「犬が捕まえられ、袋に入れられ、恐怖におののく様子を目の当たりにした」と語っている。

2024年1月6日、食用目的の犬数百匹を乗せたトラックを検査するAnimals Hope Shelter Indonesiaの活動家
写真=AFP/時事通信フォト
2024年1月6日、食用目的の犬数百匹を乗せたトラックを検査するAnimals Hope Shelter Indonesiaの活動家 - 写真=AFP/時事通信フォト

■「犬肉は苦しめれば苦しめるほど美味になる」

アニマルズ・オーストラリアがYouTubeで公開する動画には、野良犬が捕らえられてからビーチの観光客らに売られるまでの顛末がまとめられている。

動画は、ビーチでくつろぐオーストラリア人観光客と、その横で売られるサテの映像から始まる。ビーチの調理スタンドで豪快に焼かれて煙を上げており、何の肉かを知らなければ食欲をそそる映像だ。

しかし字幕は、「ところが(海外客を迎える)ホスピタリティ・ブームに乗り、秘密の取引が加速している」と告げる。映像が切り替わると、島内の観光スポットから離れた路地裏が映し出される。真っ白な母犬が、子犬のそばで怯えている。次の瞬間、人間が捕獲棒を伸ばし、先端に設けられたワイヤーの輪を母犬の首にかけて絡め取る。

犬は2人がかりで地面に組み伏せられ、口輪を掛けられると、四肢を縛られる。映像では次々と犬が捕獲されていく中、ある犬は激しく抵抗したとみえ、すねの骨が露出している。縛られ、不安そうに人間たちを見上げる。子犬たちも捕まえられ、プラスチックの袋に捕獲される。

観光情報を扱うウェブメディアの英カルチャー・トリップは、バリ島で捕獲された犬の約70%が木にロープで縛り付けられ、首を絞められ、生きたまま屠殺されると報じている。

「シンタ」と名付けられたある犬は、もともと檻の中で四肢を縛られて横たわり、食肉にされる寸前だった。バリ島では、犬肉は苦しめれば苦しめるほど美味になると信じられており、シンタも前足や顔に深い傷を負っていたという。シンタは愛護団体に救助され、里親センターに保護された。

■毒殺された犬を食べる危険性

犬食には、衛生上の問題もある。タイムズ・オブ・インディア紙によると、バリの公共秩序機関の責任者であるデワ・ニョマン・ライ・ダルマディ氏は、「犬肉は食品ではなく、病気の原因にもなり得る。犬肉は健康に良いという迷信を信じてはならない。それは誤解を招く」と述べている。

また、一部の犬は毒殺されていることから、食べれば人間の体内に毒が取り込まれる危険性がある。ニューサウスウェールズ毒情報センターのアンドリュー・ドーソン博士は、豪ABCに、「シアン化物は調理によって破壊されないため、犬肉に含まれるシアン化物が人間に害を及ぼす可能性があります」と警告している。

アニマルズ・オーストラリアのホワイト氏は、食品業界の動向を報じるフード・ナビゲーター・アジアに対し、「犬肉の取引には毒殺された肉が出回っているだけでなく、生の犬肉のサンプルを検査したところ、大腸菌群と大腸菌が大量に混入していることが判明しました」と語る。深刻な食中毒を引き起こす可能性がある、危険な状態だ。

さらに、ペットの里親探しを推進するボビー・フェルナンド氏は、アルジャジーラに対し、「インドネシアはアジアで5番目に狂犬病の患者数が多い国です」と語る。

シンガポールの肉串
写真=iStock.com/Simon Harry Collins
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Simon Harry Collins

■バリ島がこれから観光客に愛されるために

バリ島では、犬肉が食事の一環として浸透している。バリ動物福祉協会の調査によると、バリ島では毎年7万匹の犬が犬肉取引のために殺されているという。

同協会のボランティアであるジェン・ヤマナカ氏は、カルチャー・トリップに、「一度解体されてしまうと、犬のサテと鶏のサテの違いを見分けられるかなんて、誰にも分かりっこないのです」と指摘する。

現地に根付いた食文化を一概に否定することは難しいが、少なくとも観光客を騙して食べさせる手口は改善されるべきだ。倫理面の問題だけでなく、毒物や大腸菌などを含み体調に異変を来しかねない状態の肉は販売されるべきでない。

まばゆいビーチが広がる南部・クタや自然豊かな山中のウブドの街など、バリ島は数え切れない魅力に満ちている。国際的に観光客を惹き寄せ続ける島から、知られざる悪しき慣行が根絶されることを願うばかりだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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