あがり症の人は「立ち方」を変えてみる…ハーバード大の研究で判明した緊張がスッと消える"魔法のポーズ"
プレジデントオンライン / 2024年10月24日 7時15分
■「上を向け」監督の言葉は理に適っている
スポーツの試合で、接戦の末、惜しくも敗れうなだれる選手たちに、監督のみなさんがよく伝えるメッセージがあります。
「上を向け、お前たちはしっかり戦ったんだ! 堂々と胸を張って上を向け!」。
とても感動的なシーンです。
実はこのシーンで、監督たちはかなり理に適ったことをやっています。善戦をしたとはいえ、結果的には負けてしまったのが事実。うなだれ、下を向きがちになるのは当然のことです。
すると当然、気持ちも落ち込んでくる。知らず知らずのうちに、負けた原因を探すモードになり、その原因と自分との関わりを認識し、責任を感じ、さらに落ち込む。こんなパターンになる人は、結構多いのではないかと思います。
■下を向いていると自分を讃える気持ちになりにくい
選手たちはこの試合に向けて一生懸命練習してきました。パーフェクトではなかったかもしれないけれど、試合でも培ってきたことを発揮しました。そんな自分を誇りに思っていいはずです。
負けたとはいえ、ここまできた努力を自分で讃えてあげていいはずです。
そんな時、下を向いていると、なかなか自分を讃えるような気持ちにはなりにくい。
そう、これは姿勢の問題なのです。
■生理学的に証明されている
これは生理学的に証明されていることですが、姿勢が気持ちをつくるのです。
だから、監督たちの「胸を張って上を向け!」は、選手たちががんばってきた自分を讃え、誇りに思うことをしっかりと促す言葉なのです。
実際にやってみましょう。視線を下に向けて、猫背になりながらちょっと落ち込んだ気持ちになってみてください。自然に落ち込んだ気持ちになりますよね?
次に、胸を張って、視線を上げて、やや上を見ながら落ち込んだ気持ちになってみてください。どうでしょうか?
今度は先ほどとは感覚が違うのではないでしょうか?
この姿勢では、なかなか落ち込んだ気持ちになりにくいですよね?
■姿勢は心の状態に大きな影響を及ぼす
では、今度は逆に、視線を下に向けて、猫背になりながら、しっかりと喜び、清々しい気持ちを感じてみてください。
これもきっと難しいはずです。
これを、胸を張って、視線を上げて、やや上を見ながらやるとどうでしょうか?
自然と全身に清々しさが溢れてくるのがわかると思います。
そう、姿勢は心の状態に大きな影響を及ぼすのです。
■姿勢は心理に大きな影響を与える
ハーバード・ビジネス・スクールで教鞭を取る社会心理学者エイミー・カディ教授は、姿勢とボディランゲージ(非言語行動)の重要性を強調しています。
姿勢とボディランゲージは、人に与える印象だけでなく、自分自身の心理状態にも大きな影響を与えるからです。
彼女のある実験では、被験者のグループをランダムに2つに分けて、1つ目のグループには、ハイパワーポーズと呼ばれる自信のある人がよく取るようなポーズを2分間取ってもらいました。
ハイパワーポーズは、立ちながら両手を腰に当てて、仁王立ちをするようなポーズだったり、椅子に浅く腰かけて、踏ん反り返りながら両手を大きく広げるポーズだったりします。
いずれも身体がしっかり開いていて、視線が自然と上を向くような姿勢です。
■姿勢の違いが脳内のホルモンに影響
一方、もう1つのグループにはローパワーポーズと呼ばれる自信なさげな人たちがよく取るポーズを2分間取ってもらいました。
ローパワーポーズは、何かから自分を守ろうとする時に取るようなオドオドした姿勢、身体を閉じ、腕で胸のあたりを覆うような姿勢で、視線はうつむき気味です。
実験では、このわずか2分間の姿勢の違いが、脳内の2種類のホルモンに大きな影響を与えることがわかりました。
1つは、支配性のホルモンであるテストステロン、もう1つはストレス度を表すホルモンであるコルチゾールです。
ちなみに、優れたリーダーシップを発揮するリーダーは、高いテストステロン値と低いコルチゾール値を持つと言われます。支配性が高く、ストレスが少ないという状態です。
■「ハイパワーポーズ」でテストステロン値が平均20%上昇
まず、支配性のホルモンであるテストステロン値は、ハイパワーポーズを2分間取ったグループでは、なんと平均20%上昇し、ローパワーポーズを取ったグループでは逆に10%減少しました。
ハイパワーポーズを取った人たちは支配的感覚が上がり、ローパワーポーズを取った人たちは感覚が下がったのです。
■ストレスホルモンのコルチゾール値は平均25%減少
そして、ストレス度を表すホルモンであるコルチゾール値は、ハイパワーポーズを2分間取ったグループでは、平均25%減少し、ローパワーポーズを取ったグループでは逆に15%上昇しました。
たった2分間、異なるポーズを取っただけで、これほどの違いが出るのです。
大きなストレスを抱えた人が、落ち着かない様子で、身体をかがめ、閉じたような姿勢を取りがちなことはイメージできると思いますが、実はこの姿勢自体がストレス値をさらに上昇させる原因ともなっているのです。
「よい姿勢をしなさい」という教育を受けてきた方はたくさんいると思います。とくに武道や茶道や華道など、日本独特の“道”の付く稽古事をされてきた方は、背筋の伸びた姿勢を徹底的に教え込まれ、習慣になっている方も多いことでしょう。
これは、このハイパワーポーズと同じような効果をもたらすと考えられます。
このような方は、軸を持った強い身体の感覚とともに、脳のホルモンの分泌を促進しているので、凛とした心の状態やストレスに対抗力のある状態をつくり出しやすいと言えます。
■「英語でプレゼン」のほうがうまくいった
私は外資系企業に10年以上勤めた経験があります。その時思ったのは、プレゼンテーションを行う時、なぜか英語でプレゼンテーションした方が、日本語の場合より気分良くできたことです。
英語のレベルで言えば、こういったプレゼンテーションをなんとかこなせる程度のレベルで、決してネイティブ並みに流暢というわけではありませんでした。
それでもなぜか、英語でプレゼンテーションをするとうまくいった感覚が自分の中に常にあったのです。
そんな中、かつての同僚によく言われたのが、「日本語でのプレゼンテーションより、英語でのプレゼンテーションの方が堂々としてずっといい」ということでした。
■「大袈裟なボディランゲージ」が効果的
思い返してみれば、英語でのプレゼンテーションをする時は、外国人の上司や同僚のやり方を真似て、かなり大袈裟なボディランゲージを使っていた覚えがあります。
両手を大きく開いたポーズや、自信ありげに聞き手の前に仁王立ちする感じなど、日本語の時とは明らかに違う姿勢や動きをしていました(英語という言語は、こういう大袈裟な身体の表現によく合うのです)。
後に、このカディ教授の話を聞いて、ずいぶんと合点がいった覚えがあります。それからというもの、日本語の時でも同じように、大きな動きやハイパワーポーズを取ることが、すっかり習慣になりました。
自分を堂々と見せるようにしようという目的よりも、脳内のテストステロン値を上げ、コルチゾール値を下げるためにやっています。
これが習慣になり始めてから、企業研修の講師をやっている最中などに、いわゆるゾーンとかフロー状態に入ることが多くなったような気がします。
そして、これらの状態に入ると、自分でも驚くほどの成果を残すことも実感しています。
■横柄で失礼な印象を与えかねない
さて、ではこのハイパワーポーズ、どのように習慣化していくのがよいのか?
注意すべきことは、ハイパワーポーズは場合によっては、少し横柄で失礼な印象を与えかねないポーズでもあることです。
営業の商談の席で、あまり大げさにすることに抵抗を感じる方もいるかもしれません。
ですから、まずは、あなたの仕事やその他の活動で、緊張を強いられる場面や、プレッシャーの大きくかかる場面を前にした事前準備の習慣とすることをおすすめします。
■「2分間のハイパワーポーズ」でプレッシャーを克服
仕事上の大事なお客さんとの商談の前、プレゼンテーションの前、面接の前など。また、人によっては、朝、会社に行って、上司や同僚にこちらから挨拶するのも、これに近いプレッシャーがある場面と感じる方もいるかもしれません。
まずは、これら1つ1つの場面に入る前に、2分間だけでいいので、このハイパワーポーズを取ってみる習慣を実践するのです。
社内や外出時に、2分という時間をまわりから見えない環境で取るのはなかなか大変なので、使っていない会議室や、近くのトイレがあなたの大事な準備ルームになるかもしれません。
ポーズもいろいろととってみて、自分が一番しっくりくるハイパワーポーズを見つけてみてもいいでしょう。
このわずか2分という時間の投資、試してみる価値は十分にありそうです。
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チームダイナミクス代表取締役、人材育成・組織開発コンサルタント
大阪府立大学工学部卒業。英国立シェフィールド大学大学院修了(MSc:Master of Science理学修士)。早稲田大学オープンカレッジ講師。大手広告会社、リーバイス、ギャップなどの外資系企業を経て、「休み明けの朝、元気に仕事に向かう人をこの社会に増やす」を目的とし、人材育成・組織開発コンサルティングや企業研修プログラムを提供する株式会社チームダイナミクスを設立。アドラー心理学やコーチングの技術を駆使した手法で、リーダーシップと主体性のある人材の育成をサポートしている。「知識を能力に変える」研修プログラムの実績により、リピート率は、実に95%を超える。『相手を変える習慣力』『チームを変える習慣力』(クロスメディア・パブリッシング)、『リーダーのコミュニケーション習慣力』(三笠書房)他、著書は累計30万部を超える。
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(チームダイナミクス代表取締役、人材育成・組織開発コンサルタント 三浦 将)
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