習近平政権は「日本の大失敗」から何も学んでいない…「タワマンもEVも売れない」不景気対策が自滅を招く理由
プレジデントオンライン / 2024年10月7日 9時15分
■経済の悪化に対する強い危機感の表れか
9月24日、中国政府は複数の経済対策を発表した。今回の対策の主要な役割を担うのは金融政策だ。目的は3つでわかりやすい。
1つは、主要金利を引き下げ経済全体で資金の融通を支えることだ。2つ目は株価対策だ。金融機関が本土株を買いやすくなるよう資金供給量を増やす。3つ目は不動産市況を支援することだ。具体的には、ローン金利を引き下げて家計の金利負担を軽減する。また、主要な銀行に資本を注入して経営を支える。国債などの発行も増やす。
近年の中国の経済政策と比較しても、今回の対策の規模は広範囲だ。共産党政府内で、経済・金融市場の悪化に対する危機感はかなり高まっているのだろう。24日に中国人民銀行(中央銀行)が利下げなどの対策を発表すると、その直後から、中国の本土株、香港株は急上昇した。
■本格的な景気回復をもたらすとは思えない
しかし、今回の対策の効果が本格的な景気回復をもたらすかといえば、その可能性は必ずしも高くはないだろう。現在、中国経済が抱える最大の問題は不動産と地方政府の債務問題なのだが、それらに対する直接の解決策が見当たらないからだ。不動産にかかる不良債権を解決しない限り、不動産市況の本格的な回復は見込めない。不動産市況が回復しないと、個人消費の盛り上がりも期待できない。
また、地方政府などの債務問題の深刻化により経済成長率は低下し、財政悪化の懸念も高まるだろう。それは、社会福祉や年金の問題にもつながる。中国政府が問題への直接の対応策を避けている間、中国の景気後退懸念が払拭できるとは考えがたい。
9月後半、中国政府の経済政策運営方針は大きな変化を見せた。20日、中国人民銀行は1年物と5年物のローンプライムレートを据え置いた。中国内外の主要投資家の間で金融緩和の必要性は高いが、国債利回りの過度な低下を防ぐ政府の意向もあり、時間をかけて利下げは進むとの見方が増えた。
■珍しく臨時の記者会見を開いて方針を説明
23日、中国人民銀行は種々ある誘導金利のうち、短期の金利(14日間のリバースレポ金利)を1.95%から1.85%に引き下げた。翌日、経済政策に関する記者会見を開くことも発表した。中国政府が臨時の記者会見を開いて、経済政策の運営方針などを公表することは珍しい。経済対策期待は相応の高まりを見せた。
24日、中国人民銀行の潘功勝総裁、中国証券監督管理委員会(証監会)の呉清主席、国家金融監督管理総局の李雲沢局長は記者会見を開き、一連の経済対策を発表した。まず、金融政策の先行きの指針(フォワード・ガイダンス)を示した。ローンプライムレートなどの主要な政策金利を引き下げる姿勢は明確になった。
金融緩和を進め家計、企業、地方政府などの資金繰りをサポートする。従来、中国政府は、過度な金融緩和は銀行の純金利マージンの低下につながるとしていたのが、今回、金融緩和を進めても銀行の収益力は維持可能との見解を示した。
■大手国有銀に20兆円規模の資本注入か
2点目は不動産市況の支援だ。住宅の需要者、供給者向けの対策を打つ。既存の住宅ローン金利を平均で0.5%引き下げ、2軒目住宅購入の頭金比率の下限は25%から15%に下げる。供給サイドに対して、住宅在庫の削減を進めて不動産業者の経営を支援する。今後、これまでに中国人民銀行が、地方政府の住宅在庫買い取り支援に設定した3000億元(6兆円)の資金枠の拡大などが進むだろう。
3点目は、株価維持策(PKO、プライス・キーピング・オペレーション)の拡充だ。国家隊と呼ばれる、政府系の機関投資家による本土株購入の資金供給を増やす。企業の自社株買い、M&A(合併・買収)も支援する。商業銀行に公的資金を注入し、自己資本を増強する。一説では、大手国有銀行への最大1兆元(約20兆円)の資本注入が計画中のようだ。
■EV、PHVの相次ぐ値下げも販売台数は減少傾向
今回の中国政府の景気対策の背景には、景気後退リスクの上昇懸念が深刻化していることがある。8月の主要な経済指標を見ると、不動産バブル崩壊により中国経済の停滞感は一段と高まっている。生産者物価指数は予想以上に下落した。家電など耐久財の需要は減少し、川下(最終消費者)のデフレ圧力も高まった。
消費意欲の減退は、8月の輸入が前年同月比0.5%増となったことからもわかる。相次ぐ値下げで電気自動車(EV)やPHVの販売は増えたが、新車販売台数は前年同月の実績を下回った。政府は旧型車からEVなどへの買い替え補助策(以旧換新)を実施し、購入補助金を積み増した。それにもかかわらず、需要は期待されたほど増えない。自動車市場の競争激化=レッドオーシャン化は深刻だ。住宅価格の下落にも歯止めがかかっていない。
2024年春の全国人民代表大会(全人代)で、中国政府は経済成長率目標を5%前後に設定した。8月のデータを見る限り、5%成長の実現は難しくなりつつある。中国経済の見通しを下方修正する欧米の金融機関も増えた。先行き不安の高まりで、年初から9月半ばまで本土株の下落も鮮明だった。
■日本の“ゼロ金利政策”を参考にしたようだが…
中国政府は金融政策を緩和し、不動産バブル崩壊の負の影響の払拭を図っている。中国政府は、金利を引き下げて資金供給を増やせば住宅価格や企業業績は上向き、労働市場の悪化を食い止めることが可能と期待しているのかもしれない。
主に金融緩和を進め景気浮揚を図る経済政策は、1990年代のわが国でも実施された。1999年、日本銀行は“ゼロ金利政策”を導入した。企業や家計の借り入れを支援して、需要を喚起しようとした。2001年から日本銀行は“量的緩和政策”を開始し、デフレ経済からの脱却に取り組んだ。それを参考に、中国は金融緩和で内需を下支えしようとの意図があるのかもしれない。しかし、金融政策だけで大規模なバブルの後始末は難しい。
一方、24日の発表では、成長分野での企業増加に関する構造改革などの施策は見当たらなかった。“国進民退”を進め輸出競争力を高めて外需を取り込み、景気の持ち直しを目指す。そうした中国政府の政策方針に、大きな修正はないとみられる。
■「中国への期待」が長続きするかは疑問
24日の一連の経済対策の発表後、中国の本土株は反発した。外国為替市場では、ドルの軟調さに支えられた側面もあるが、人民元は上昇した。中国と経済的な関係性の高いアジアや南米などの新興国の通貨も底堅さを保った。主要投資家にとって、中国人民銀行が主に進めた緩和措置は期待以上の規模だったといえる。
しかし、そうした反応が長続きするかについては疑問符が付く。今回の対策の中で、中国政府は不良債権処理を進める方針を示さなかった。中国経済の成長率鈍化の根本的な要因は、不動産、地方政府(特に、隠れ債務である地方融資平台)の不良債権増加にある。両者は土地の使用権譲渡益を通して相互に依存している。
本来なら、不動産・地方政府両セクターの債務問題の同時解決に向けた抜本策が必要だが、実際はその難易度は高い。地方政府の財政問題は、戸籍制度に紐づいた年金、医療など社会保障制度の悪化にもつながるだろう。現実的な策として、まず、不動産分野の不良債権処理を迅速に進める。その上で中央政府は財政支出を進めて景気を支えつつ、地方政府などの構造改革を慎重に進めることが必要だ。
■中国で「失われた30年」が起きる可能性も
わが国の教訓として、不良債権処理が進まないまま金融を緩和しても、政策の効果は長続きしない。市場参加者は、追加の金融緩和を期待し金利低下に拍車がかかる。いずれ、金融緩和の余地はなくなり、銀行の収益性も低下する。中小の銀行の経営体力は低下し、金融システム不安が発生する恐れも高まる。貸し渋りや貸しはがしも増え、デフレ環境は長期化する。
中国経済が、そうした状況に向かう懸念はむしろ高まっている。デフレ圧力が高まると経済成長率は低下し、中国は財政支出を増やすことが必要になる。税収の減少などで財政赤字と公的債務残高の拡大懸念は高まるだろう。
それに伴い、中国国債の格下げリスクは高まり、海外の投資家が国債など中国関連の資産を保有し続けることは難しくなる。“中国売り”に動くファンドなどは増えるだろう。今回の経済対策での本土株などの反発は、一時的なものにとどまる可能性は低くはないだろう。中国経済の下げ止まりを論じるのはやや早計だ。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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