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胃がん検査では「バリウム」と「胃カメラ」のどちらを選べばいいのか…男女8万人への研究結果が示唆すること

プレジデントオンライン / 2024年10月11日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Casanowe

健康診断を最大限活用するためのポイントは何か。産業医の池井佑丞さんは「気にしてほしい項目は5つある。また、企業によってはオプション検査でがんの検査を追加できる。男女ともに、年齢に合わせて胃がんや大腸がんの検査を検討したほうがいい。胃がん検査の方法を選べるなら、胃内視鏡検査がおすすめだ」という――。

■特に気にしてほしい5つの項目

年末にかけて、健康診断を受けていないことにハッと気づき、急いで健康診断を予約する方も多いのではないでしょうか。現代社会において、健康診断は私たちの健康を守るために大切なものです。特に生活習慣病やがんの早期発見と予防において、その重要性はますます高まっています。私自身も産業医として、多くの就労者の健康を見守る中で、健康診断の重要性を痛感しています。今回は、健康診断とその活用方法についてお話しします。

健康診断では、身体計測や血圧、また視力・聴力測定などの生理学的検査、血液・尿検査と胸部のレントゲン検査が一般的です。検査結果を見ると、異常値が示されていたり、A/B/C/Dの4段階で評価されていることがあるかと思います。検査結果のうち異常があった場合、特に気にしていただきたい項目は、①血圧、②BMI、③脂質(総コレステロール・中性脂肪・HDL-コレステロール・LDL-コレステロール)、④肝機能[AST(GOT)・ALT(GPT)・γGTP]、⑤糖代謝(HbA1c・空腹時血糖)の5つです。

■40代以降の女性は脂質の変化に要注意

①血圧
高血圧は、心筋梗塞や脳卒中を招く動脈硬化や、腎臓病の発症に関わります。高血圧は自覚症状がないことも多いため、健康診断で血圧が高いと指摘されたら、まずは家庭での血圧測定と受診をおすすめします。

②BMI
BMIが高いと、糖尿病や高血圧などの生活習慣病のリスクが高まるため、健康管理の指標として非常に重要です。

③脂質
脂質異常症は、それ自体に自覚症状がほとんどなく放置されがちですが、動脈硬化を進行させ、狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳出血や脳梗塞のリスクを高めます。
特に40代以降の女性は脂質の変化に注意が必要です。閉経後はエストロゲン(女性ホルモン)の分泌が減少し、LDL(悪玉)コレステロールの抑制作用が弱まるため、数値が高くなりやすい傾向があります。

④肝機能
肝臓には痛みを感じる神経がないため、障害を受けても自覚症状が出にくく、症状が現れた時には病状が進行していることが多いです。原因としてはアルコールや薬物の過剰摂取、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、脂肪肝などが挙げられます。特に「アルコール性肝障害」や「脂肪肝」といった生活習慣病に起因する肝臓病には注意が必要です。

⑤糖代謝
日本では4人に1人が糖尿病またはその予備軍と言われています。糖尿病自体は直接命に関わる病気ではありませんが、自覚症状がなく進行することが多く、合併症が大きな問題となります。

■血圧コントロール率の低い日本

健康診断の基本的な検査項目によって、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を発見できる可能性が高いです。これらの病気は自覚症状が少ないため、日常生活の中で異常を感じることは少ないかもしれませんが、放置すると生命に関わるリスクが高まります。

例えば、近年高血圧の治療戦略は「より早く、より厳格な24時間にわたる降圧」と言われていますが、日本での治療率は約53%、血圧コントロール率は30%程度にとどまっています。これは台湾や韓国と比較しても低い数値です。台湾では治療率89.4%、コントロール率70.2%、韓国では治療率61.1%、コントロール率69.3%に及びます。健康診断で指摘を受ける場合にはコントロールが不十分である事が多いため、早期に対応することが重要です(苅尾七臣「高血圧の最新治療2021 ガイドラインからデジタルハイパーテンションへ」第118回日本内科学会講演会 教育講演)。

また、糖尿病においては軽症の耐糖能異常であっても、累積死亡率は健常者の2倍以上と言われており、異常が指摘された際は早めに受診することが大切です。

■胃がん・大腸がんの検査も追加したほうがいい

また、がんの検査についても考慮が必要です。企業によっては、健康診断のオプション検査を追加できます。基本的な検査項目でがんを発見することは難しいため、生活習慣や遺伝、年齢などを考慮して、リスクが高いがんの検査を追加すると良いでしょう。

男性は30歳以上、女性は40歳以上で、胃がんや大腸がんの死亡率や発症リスクが高まります。定期健康診断の必須検査項目には胃の検査や便潜血検査が含まれていないため、年齢に応じて腹部超音波・便潜血検査・胃内視鏡検査(特に30代以降の受けたことがない方、前回受けてから2年以上経過している方、胃腸に不調を感じている方、飲酒習慣がある方)や、ピロリ菌抗体検査(血液検査で調べたことがない方)を追加することをおすすめします。

聴診器を持った女医が手に模擬胃を握っている
写真=iStock.com/unomat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/unomat

胃透視検査(バリウム検査)と胃内視鏡検査(胃カメラ)の選択について、よく質問される事があります。胃透視検査(バリウム検査)は、胃内視鏡検査と比較して検査時間が短く、全体像や動きを観察することができます。そのため、全周性に収縮している像を持つスキルス性胃がんの発見には、内視鏡よりも向いていると言われています。一方で胃内視鏡検査は、胃の粘膜を直接見ることができます。侵襲性は高くなるかもしれませんが、病変そのものを色まで確認し、必要に応じて細胞を採取することもできます。

■「胃内視鏡検査」の方が死亡リスクを減らす研究結果

がんの既往がなかった男女8万272人を、20年程度追跡し、胃内視鏡検査による胃がん検診と胃がん死亡・罹患との関連を調べた多目的コホート研究があります。追跡期間中(中央値;13.0年)に、1977例が胃がんと診断され、さらにそのうち783例が胃がんにより死亡しています。解析の結果、胃透視検査または胃内視鏡検査を受けた人では、未受診の人と比較して、胃がんによる死亡リスクがそれぞれ37%、61%減少していました。

また、胃透視検査を受けた人または胃内視鏡検査を受けた人では、未受診の人と比較して、進行胃がん罹患リスクがそれぞれ12%、22%減少していました。このように胃内視鏡検査は胃透視検査と比較して、胃がん死亡を抑制する効果が示唆されています[Nobuhiro Narii et.al “Effectiveness of endoscopic screening for gastric cancer: The Japan Public Health Center-based Prospective Study” Cancer Sci. 2022 Nov;113(11):3922-3931.]。検査のキャパシティの問題から選択できる機会はそう多くはないかもしれませんが、胃透視検査か胃内視鏡検査のどちらかを選択することができる場合には、胃内視鏡をおすすめしたいと思います。

医療従事者の手に内視鏡
写真=iStock.com/Andrey Shevchuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrey Shevchuk

■女性は乳がん・子宮頸がん、男性は前立腺がんの検査も

また、女性は乳がんや子宮頸がんに関する検査も定期的に行えると良いでしょう。乳がんの罹患率は20代後半から増え始め、40代後半に最初のピークを迎えます。乳がんは乳房検査(乳腺エコー、マンモグラフィ)にて確認する事ができます。また、子宮頸がんの罹患率は20代前半から増え始め30代後半から40代にピークを迎えますが、特に生理痛が重い方や不正出血等の症状がある方は経膣超音波検査追加を検討すると良いでしょう。

男性では前立腺がんは今や男性の部位別がんで最も多く、50歳ごろから急増します。特に早期発見の観点から、40歳以降の健康診断には前立腺腫瘍マーカー(PSA)の測定を追加することを推奨します。

■健康診断の目的は「早期発見」だけではない

健康診断は病気の早期発見だけでなく、健康面から「働いて問題ない」ことを確認するための目的もあります。

企業には労働者の健康を守るために必要な措置を講じる法律上の義務があり、労働者には労働者自身が自らの健康状態に注意し管理し、安全に働くことができるよう主体的に行動する義務が課せられています。

また企業には、異常所見があると診断された者に対し、労働者の健康を保持するために必要な措置(就業区分、作業環境管理、作業管理)について、意見聴取を行わなければならないという法令上の義務があります。時には、医師の診断に基づいて、労働時間の短縮や出張の制限など負担軽減を行ったり、作業内容や就業場所の変更を行ったりします。療養が必要な場合には、一定期間の休業の提案など、適切な措置を講じることが求められます。

健康診断を受けることは労働者の義務です。異常が見つかった場合には、二次検査を積極的に受け、生活習慣の見直しや早期治療に繋げることが大切です。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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