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「安倍・麻生体制をぶっ壊す」ことには成功したが…解散を急ぐ石破茂首相がどうしても隠したい「致命的な弱点」

プレジデントオンライン / 2024年10月4日 16時15分

記者団の取材に応じる石破茂首相=2024年10月3日午後、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

10月1日、石破内閣が発足した。これからの日本の政治はどうなるのか。ジャーナリストの宮原健太さんは「石破茂首相は総裁選での主張を曲げて、早期の解散総選挙を強行しようとしている。この変節からは、自身の『致命的な弱点』を隠そうとする意図が読みとれる」という――。

■永田町関係者も驚いた「石破氏の逆転勝利」

中央政界は石破茂政権が発足するや否や、解散総選挙になだれ込む激動の情勢になっている。

自民党は総裁選を通して結束を深めるかと思いきや、保守系議員が冷遇されて党内対立が激化。

石破首相は総裁選の主張を翻し、十分な論戦をしないまま早期解散に舵を切って野党からの猛反発を招いている。

なぜこのような事態になったのか。

その背景を探ると、石破政権の危うさが浮き彫りになってきた。

「まさか逆転して石破氏が勝利すると思わなかった」

大手マスコミ政治部で石破氏を担当した番記者の1人は、総裁選の結果を見て、驚きながら語った。

「1回目の投票で高市早苗氏が党員票でトップとなり1位通過した時点で、決選でも高市氏が勝つと思っていた。こんな結果になるとは」

高市氏は1回目の投票で党員票が石破氏をわずかに上回り、国会議員票では大きく突き放して計181票を獲得。2位の石破氏は154票と差がある中で決選に突入した。

【図表】自民党総裁選 第一回投票の結果
筆者作成

もともと、石破陣営は党員票で他候補を圧倒することで、決選投票で議員票を引き付ける戦略を描いていたため、高市氏に党員票で負けたのは大きな痛手となった。

それだけに、決選で石破氏が議員票でも都道府県票でも高市氏を上回って逆転した結果は、驚きをもって受け止められた。

【図表】自民党総裁選 決選投票の結果
筆者作成

■旧安倍派の一部が高市氏から離反した理由

自民党関係者は語る。

「もともと決選では高市氏には保守系議員の多い旧安倍派や、石破氏と距離がある麻生太郎氏が率いる麻生派、それに呼応して旧茂木派や小林鷹之陣営がつくと見られていた。一方で石破氏には菅義偉氏のグループや、政策の継続性を求める岸田文雄首相の旧岸田派、小泉進次郎陣営がつくと考えられていた。ただ、派閥やグループの合従連衡とは離れた議員も今回は多くいて、どちらが勝つかは予見しがたい状況だった」

そうした中で、石破氏が逆転した理由の1つとして語られているのが、高市氏は保守の中でもタカ派のイメージが強く、来る解散総選挙で中間層が取りにくくなると敬遠されてしまったということだ。

先に行われた立憲民主党代表選では党内保守派の野田佳彦氏が代表に選ばれ、立憲が穏健保守にウイングを広げる中、高市氏では保守の中でも狭い層しか取れないのではないかという懸念が広がっていた。

ただ、それだけではないと自民党関係者は言う。

「実は旧安倍派の一部も高市氏から離反して石破氏についたと見られている。高市氏は過去に派閥を離脱した経緯から、一部の保守系議員とは距離があったからだ」

■権勢を誇った「安倍・麻生体制」の崩壊

高市氏はもともと、解散するまでは安倍派であった党内の名門派閥、清和会に所属していたが2011年に退会。

理由は翌年の自民党総裁選で、当時の派閥会長だった町村信孝氏ではなく、安倍晋三氏を応援するためで、派閥に残るのは「不義理になる」と考えてのことだった。

一方で派閥に残って安倍氏を応援した議員も多数いたため、高市氏と清和会の一部議員との間には溝ができてしまった。

「2021年総裁選では安倍氏が高市氏の支援に動いたが、その安倍氏はもういない。さらに裏金問題を受けて清和会が解散するなか、保守系議員の票を完全にまとめることができなかったのだろう」(自民党関係者)

こうして新しく発足した石破政権では、高市氏に重職ではあるものの調整役で存在感が薄い総務会長のポストが打診された。しかし、高市氏は「私を支援した仲間を処遇してほしい」と固辞して政権と距離を取った。

一方で、高市陣営からの入閣や党役員起用は城内実・経済安保大臣くらいで、裏金議員の登用はないという前提を考慮しても保守系議員の冷遇が目立つ。

麻生太郎氏も最高顧問という名誉職に追いやられ、かつては権勢を誇った「安倍・麻生体制」が崩れ去ったことが伺われた。

権勢を誇った「安倍・麻生体制」は崩れ去った
権勢を誇った「安倍・麻生体制」は崩れ去った(写真=The White House/Executive Office of the President files/Wikimedia Commons)

■なぜ石破首相は解散総選挙を急ぐのか

そんな石破政権だが、石破首相が総裁選では「野党と十分な論戦をしてから衆議院を解散すべき」と主張していたにもかかわらず、10月9日解散、15日公示、27日投開票という超短縮日程を強行しようとしている。

急な変節に野党からは「論戦から逃げた」(立憲民主党の野田代表)、「自民党を変える前に、石破さんが変わってしまった」(国民民主党の玉木雄一郎代表)と批判が相次いでいるが、なぜ石破首相はここまで解散総選挙を急ぐことになったのか。

新総理が誕生した勢いで解散総選挙に臨んだほうが自民党にとって有利となることや、10月27日に予定されている参院岩手選挙区補選で不戦敗となる前に選挙をしたほうが良いという考えなどが報じられているが、自民党関係者は「一番の理由は予算委員会での論戦をやらないためだ」と語る。

■大臣の「つるし上げ」をなんとしても避けたい…

予算委員会は首相だけでなく全閣僚が出席するのが習わしになっており、大臣の失言やスキャンダルが飛び出して政権が窮地に追い込まれる舞台にもなってきた。

答弁に慣れていない大臣の発言ひとつで内閣支持率が転落する可能性もある。

そうした事態を恐れて、予算委員会が開けないような超短縮日程を敷いたわけだ。

「石破首相は自身の論戦力には自信を持っている。そのため、与党は党首討論の開催を求めており、野党各党と十分な論戦ができるよう、通常の45分間から時間を延長する案も挙がっている。しかし、予算委員会では答弁能力に不安がある大臣や、過去に問題発言をしている大臣がつるし上げられる可能性があるため、開催を拒否しているのだ」(自民党関係者)

しかし、石破氏は総裁選で「国民が判断する材料を提供するのは政府、新しい総理の責任だ」と述べたほか、「(与野党の)本当のやりとりは予算委員会だ」とも明言している。

党首討論の時間を延ばしただけでは、変節との批判は免れないだろう。

立憲議員の1人は「総選挙で問われるのは石破首相1人ではなく、石破政権全体だ。すでに資質が問われている大臣もおり、首相だけでなく全閣僚が出席する予算委員会が開かなければ意味がない」と怒りをあらわにした。

石破茂首相と閣僚たち
石破茂首相と閣僚たち(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■「チームワークが苦手」という致命的な弱点

石破首相の態度が豹変してしまった実態について、番記者の1人は「石破氏の人間性の問題だ」とも語る。

「石破氏はこれまで十分に仲間づくりをしてこなかった。議員との飲み会が嫌いで、『そんなことより読むべき本があるのだ』と言って部屋に引きこもるのが日常となっていた。一時は自身の派閥、水月会を立ち上げたが、積極的に仲間を作ろうとしない石破氏に愛想を尽かして1人また1人と離脱、2021年にはグループに格落ちした」

そのうえで、今回の予算委員会の開催拒否について「要はチームワークが苦手なわけだ。党首討論であれば、石破氏本人の単独プレーで乗り切ることができるが、予算委員会は大臣と互いに連携して答弁を乗り切らないといけない。これまでは『自民党内野党』として与党議員でありながら政権に対して好き勝手に批判をしてきたが、いざ自分が政権のトップに立つと、チーム戦の戦い方がわからず防戦一方になってしまったのだろう」と分析した。

■早くも疑問符がついた「納得と共感」

そのように考えると、予算委員会を避けて党首討論に臨もうとするのは、仲間づくりやチームプレーが苦手で、単独プレーが得意な石破首相らしい選択とも言える。

しかし、そもそも政権運営自体が内閣や政府与党というチームで臨まなければならないものであるはずだ。

石破首相の単独プレーだけでは、日本を取り巻くさまざまな問題に対応しきれないだろう。

そのため、この石破首相の弱点は、政権にとって大きな致命傷だと言える。

その致命傷が露呈しないうちに、早期の解散総選挙に突入しようとしているわけだが、その強引な手法によって猛反発を食らっているのだから元も子もない。

石破首相は就任後の記者会見で「私が長い間、政治家として大切にしてきたのは、国民の皆様の『納得と共感』だ」と語ったが、総裁選での主張を曲げて、自身の弱点を隠すことに必死になっていては、国民からの納得も共感も下がっていくばかりだ。

そんな石破首相がこれからの日本を引っ張っていくリーダーに本当にふさわしいのか。

来る総選挙で、国民は厳しい目で判断する必要がある。

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宮原 健太(みやはら・けんた)
ジャーナリスト
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で官邸や国会、政党や省庁などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしてニュースに関する配信もしている。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。

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(ジャーナリスト 宮原 健太)

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