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「たまごはコレステロール値が高い」はウソである…脳をシャキシャキと動かすには「1日1個」では足りない理由

プレジデントオンライン / 2024年10月11日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuri2000

いくつになってもハツラツとしている人とそうでない人は、どこが違うのか。医師・作家の鎌田實さんは「健康な食生活にはたまごが欠かせない。たまごには脳の認知機能の低下を抑える栄養素が含まれており、『ブレインフード』と呼ばれている」という――。

※本稿は、鎌田實『長生きたまご』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■たまごは身体の「酸化」にも効く

ヒトの老化や病気の原因の1つとして「酸化」があることはよく知られるところです。呼吸で取り込んだ酸素の一部が体のなかで活性酸素になり、それが過剰になったときの悪影響が「酸化」。そのため、抗酸化力を高めることが老化や病気の予防として大切だというのも、ご存じの人が多いでしょうか。

抗酸化力を高めるにはいくつか方法がありますが、食事で抗酸化作用が高い食べ物をしっかり摂るというのは、基本的な手段の1つですね。

それで僕らはビタミンやミネラル、ファイトケミカルなど抗酸化パワーの強い栄養素を十分摂るように心がけます。そこで、「ビタミンエース(ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE)」を抗酸化ビタミンとして覚えておくと便利です。

ビタミンエースは単体で摂るより、一緒に摂ると互いの効果を高め合うはたらきをするので、“エース”と覚えておくのが◎!

このうち、たまごには、ビタミンAのほか、体内でビタミンAに変わる前駆体のプロビタミンA(βカロテン、βクリプトキサンチン)と、ビタミンEが豊富です。

■たまごにはないビタミンCは野菜から摂取しよう

「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」と「日本人の食事摂取基準(2020)」を照らし合わせてみると、たまご1個でビタミンAは1日の必要量の約24%、ビタミンEは1日の必要量の約14%摂れるようです。素晴らしいですね。

とはいえ栄養の点で超優等生のたまごにもビタミンCは含まれませんから、たまごを食べるときにはビタミンCが摂れる何かをプラスする工夫をするのが、ビタミンエースを十分に摂るコツです。

たまごは他の食品と組み合わせて調理しやすい食品ですよね。そして、野菜や果物にはビタミンCを含む食品が多く、ビタミンCは決して摂りにくい栄養素ではありません。だから、プラスの工夫もしやすいでしょう。

ただし、ビタミンCは水溶性のビタミンなので、ゆでると含有量が減少してしまいます。一方、油炒めでは若干増加するので、野菜は生か、油炒めで食べましょう。

『長生きたまご』(サンマーク出版)2章の「1 長生きたまごシェイク」の項で紹介する「長生きたまごシェイク」にはビタミンCを多く含む果汁をプラスすることをお勧めしています。よりおいしくなるので、一石二鳥ですね。

■たまごが「ブレインフード」と呼ばれるワケ

脳の重量は体の約2%にすぎませんが、脳は僕らが1日に必要とするエネルギーの約20%を消費するとされています。つまり、脳はたっぷりの栄養を要する、特別な器官というわけです。

中高年では、貯筋と同様、脳の健康もちょっと意識しますよね。できれば認知症とは無縁の人生を送るために、脳の栄養に適した「ブレインフード」を積極的に摂りたいもの。僕も気をつけていて、その意味でもたまごは王様クラスだと思っています。

なぜなら、卵黄に豊富に含まれるレシチン(リン脂質、別名フォスファチジルコリンとも)は、細胞膜の主成分で、脳神経や神経組織を構成するものだからです。これが不足すると、細胞膜と細胞のはたらきが悪くなり、脳の機能が低下します。

さらに、レシチンには「コリン」という成分が含まれ、これは脳に入ってはたらける数少ない物質の1つです。

脳や脊髄、網膜など神経組織にある血管は、血液から神経組織に必要ないものが入り込まないように管理する、言わば「関所」のような機能を備えています。これが「血液脳関門」というはたらきで、コリンはここを通過できるのです。

■「アセチルコリン」が減少すると認知機能の低下に

コリンは脳のなかに入ると「アセチルコリン」という神経伝達物質になります。アルツハイマー型認知症の患者の脳では、このアセチルコリンの量が減少するほど、認知機能の低下がみられます。

また、必須アミノ酸の1つ、メチオニンも神経伝達物質の材料となるもので、同様にアミノ酸スコア100の牛乳や大豆と比べてもたまごは含有率が高いです。このメチオニンは、抑うつなど精神症状の改善に役立つといわれています。つまり、たまごを食べることは、多角的に脳の機能低下を防ぐことになるわけです。

なお、レシチンには水と油を混ぜ合わせる乳化作用、酸化防止作用、保水作用などのはたらきもあり、たとえば、その乳化作用のおかげで血液中のコレステロールが血管壁に溜まりにくくなり、血中コレステロール量がコントロールされます。この乳化作用は、油に溶ける性質をもつビタミン(脂溶性ビタミン)のビタミンA、D、E、Kなどの吸収にも役立ってくれます。

■「コレステロールが多いから…」の大誤解

たまごの栄養は王様クラスなどと話すと、いまもよく「でもコレステロールが多いから、そんなに食べちゃダメでしょう」などと返されます。

コレステロールが豊富な食品を食べると、血中コレステロール値が上がる。かたくなにそう信じている人が多いようです。

しかし、2015年に「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)では「コレステロールの摂取制限」がなくなっています。それは、食事で摂るコレステロール量を控えると、それを補うべく肝臓がコレステロールを合成して、血中に放出して一定量を保とうとし、逆に食べるコレステロール量が増えると、肝臓がコレステロールの合成を休むという仕組みが僕らの体に備わっていると明らかになったからです。

つまり、食べて摂るコレステロール量と、血中コレステロール値の上昇の因果関係は明らかではないと判断されたのです。

日本で人気の自家製卵サンドイッチを食べる男の手
写真=iStock.com/kazoka30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

■1日3~4個食べても悪玉コレステロールに影響なし

たまごを1日3~4個も食べる僕ですが、2024年の定期検査で善玉と呼ばれるHDLコレステロール値は59mg/dl(日本動脈硬化学会での正常値は40mg/dl未満)、悪玉と呼ばれるLDLコレステロール値は122mg/dl(同学会での正常値は140mg/dl未満)、中性脂肪値143mg/dl(同学会での正常値は150mg/dl未満)、ヘモグロビンA1c値5.2%(日本糖尿病学会では6.0%未満を目標値)でした。

たまごを食べても、悪玉と呼ばれるLDLコレステロール値に影響はないことを毎年の検査結果が教えてくれます。僕の場合、糖尿病家系ですが、ヘモグロビンA1c値も正常、何も問題がない数値です。

なかには、遺伝的な問題や、極端な食べ方で血中コレステロール値のコントロールがうまくいかない人もいますが、ドクターストップなどが出ていない人なら、1日3、4個食べてもOK。1日1個までに制限しても、高コレステロール血症や動脈硬化、心臓病の予防になるわけではないのです。

■コレステロールは健康を保つために欠かせない成分

ただの悪者のように認識されていることもあるコレステロールですが、実際には僕らが健康を保つために欠かせない細胞の成分。正しく知っておくことが大事です。

コレステロールは脳や肝臓、神経組織などに多く存在するもので、脂質の1種に分類されます。細胞膜の主成分であり、体内で合成される各種ホルモンや、胆汁酸、ビタミンDの原料でもあります。

僕らは必要量の約7~8割を肝臓などで糖や脂肪を使って合成していて、残りの約2~3割を食事から摂ります。

脂質に分類されているのは、水に溶けない性質をもっているため。ですから、血液中を流れるとき、コレステロールはたんぱく質と結合した「リポタンパク質」の状態で移動しています。

LDL(低比重リポタンパク質)と一体化するとコレステロール運搬ではたらき、HDL(高比重リポタンパク質)と一体化すると血管からコレステロールを除去するはたらきをします。そのためLDLコレステロールが過剰になると動脈硬化の原因となってしまうのです。

■65歳以上はコレステロール高めのほうが長生きする

そこでLDLコレステロールは「悪玉」と呼ばれ、HDLコレステロールは「善玉」と区別されて、主に「悪玉」のおかげでコレステロールが目の敵にされるようになったわけです。

しかし、コレステロールが欠乏すると、細胞膜や血管が弱くなったり、免疫力が低下したり、脳出血なども起こりやすくなります。運搬役のLDLコレステロールも、掃除役のHDLコレステロールも、どちらも必要なのです。

ヒト細胞または胚性幹細胞のイメージ
写真=iStock.com/anusorn nakdee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anusorn nakdee

現代の一般的な食生活でコレステロールが著しく不足することはほとんどないものの、極端なダイエットや慢性的な栄養不良などから不足することもあります。

また、「コレステロールパラドックス」という言葉があって、65歳を超えると、コレステロールが少し高い人のほうが長生きするというエビデンスが出始めていて、薬でのコントロールを見直す動きも出てきています。

日本の医療では、コレステロール値が高いと動脈硬化を防ぐための服薬治療が行われることが多いのですが、アメリカでは70歳以上の人には服薬治療をしない傾向にあるようです。僕の内科外来でも、70歳以上の人の場合は、服薬治療をやめるように努めています。

■たまごは善玉コレステロールを増やしてくれる

健康診断などでLDLコレステロール値の正常範囲は140mg/dl未満とされていますが、僕は40~65歳以下の人でLDLコレステロール値180mg/dl未満の場合にも、すぐに服薬治療を行うのではなく、食生活改善と運動を勧め、薬に頼らないでコントロールしていくよう指導しています。

一方で、コレステロールを下げる薬(スタチン系薬)には、体の炎症を抑えたり、肝臓の線維化を防いだりする効果があり、服薬している人は脂肪肝の発症リスクが15%も低いことがわかりました。これはつまり肝臓ガンの予防になるということです。そこで、お酒を飲む習慣のある人や、脂肪肝のある高脂血症の人には、場合により、スタチン系薬を続けるようにしています。

たまごの場合、コレステロールが豊富なだけでなく、血中コレステロール値を調整して、HDLコレステロールを増やすはたらきをもつ栄養素もあわせもっています。

■肉料理が多い人はたまごや青魚を加えて

それが、レシチンです。ブレインフードと呼ぶゆえんとして先にも紹介した、卵黄に豊富に含まれるこのレシチンには、LDLコレステロールを溶かして減らし、HDLコレステロールを増やすはたらきがあります。たまごは善玉コレステロールを増やすのです。すごいですよね。

鎌田實『長生きたまご』(サンマーク出版)
鎌田實『長生きたまご』(サンマーク出版)

さらにたまごには、LDLコレステロールを減らす効果のあるオレイン酸や、血中コレステロール値を上げにくくするリノール酸が豊富に含まれます。

つまり健康維持に必要な「脂質(コレステロール)」を食べていくうえで、たまごは体内のコレステロールのバランスを適正に保ちやすい、中庸的な食べ物なのです。現代の食生活では、どちらかといえばLDLコレステロールを多く含む肉類などの動物性脂質を摂りすぎる傾向にあります。

肉料理を多く食べている人は、1日3食のおかずにたまご料理や、青魚料理(魚油に含まれるDHAとEPAはHDLコレステロールを増やす効果が高い)を積極的に加えて、バランスを整えましょう。

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鎌田 實(かまた・みのる)
医師・作家
1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』『だまされない』ほか多数。

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(医師・作家 鎌田 實)

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