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独身者の「FIREして早期リタイヤ」はズルいのか…「自分の死後はどうでもいい世代」を生み出した日本の末路

プレジデントオンライン / 2024年10月16日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masamasa3

ロスジェネ世代が高齢者層になると、日本はどうなるのか。文筆家の御田寺圭さんは「生涯未婚の単身高齢者層が急増することになる。リタイアに必要な資金的ハードルが低いため、FIRE志向を持つ者も増えるかもしれない。それは日本社会にとってはリスクだが、この世代を責めることもできない」という――。

■匿名掲示板で広まった「伝説のコピペ」がリバイバル

今までニートとか、派遣とか馬鹿にして笑い者にして、自己責任だの、甘えだの、クズだのゴミだのと叩いて、勝手に飢え死にさせとけとか残酷なことばかり吐き捨ててたけど、それらの行為の報いは全部自国、ひいては自分の企業、自分の生活に跳ね返ってくるんだよね。それに国民はおろか、為政者すら気付いてない。

本来なら、「お願いしてでも」20~40代なんて安定雇用で「全員」が働いて「頂いて」、結婚してもらって子供最低2人以上、出来れば3人、4人と産んでもらわないと困るのに、その現役世代が、最初の就職ごときですら悲壮感漂わせながら必死に求職活動しないといけなくて、つまずくような社会にしてしまった。
そして一度つまずいたら二度と戻れない社会を、弱者を馬鹿にしてそのまま放置してきた。
現役世代に金の不安を与えたら、それが非婚化・少子化に直結するのは当たり前のこと。本当にバカだよ。

社会全体でニートだ派遣だと弱い男性を笑い者にして、クズ扱いして、
「こんな人間誰が採るよw」とかいって余裕ぶっこいてた会社員様が、
超少子高齢化・人口減少による内需の縮小で自分の所属してる企業が大赤字で潰れる。そして年金も破たんし国ごと崩壊。
今自分がこの日本と言う豊かな国で、豊かなインフラで、幸せに生活で来てるのは、「どこかの他人が子供を作ってくれて、その国力によって維持されてる」ものなのに。昔の為政者はそれが分かってた。
「全員揃って豊かにならないと、国は決して繁栄しない」ことを知ってた。だから底辺を見捨てなかった。

「自分だけ金持ちでいられる」なんてそんな虫のいい話はないんだよね。

いまの世相をリアルに物語っているような文章だが、しかし私が書いたわけではない。これは匿名掲示板2ch(現:5ch)で、名もなき書き手によって投稿された長文である。論旨明解でそれでいて読む人の心を打つ文章は、最初に書き込まれたのが少なくとも10年以上前であると推定されるにもかかわらず新鮮味をいっさい失わず、令和の時代まで「コピペ」として愛され各所で張り付けられている。

■「就職氷河期」世代が日本の社会経済やインフラに与える打撃

先日のX上でもこのコピペを紹介した人がいて、多くの共感を呼んでいた。

この国のシステムでは一度雇った人を解雇することは容易ではないため、不況期に入ったときの一時的な雇用調整(人件費削減)としては、どうしても新規採用を大幅に絞るほかなくなる。その結果として、不況期には必ず低所得かつ不安定な雇用の若年層が大量に発生する構造がある。これがいわゆる「就職氷河期」である。

「就職氷河期」が直撃した世代は結婚や消費に得てして消極的であり、それが中長期的にはこの国の社会経済やインフラ、いわば「国力」に大きな打撃を与えることになる――というのは、たしかにこの「予言」の述べるとおりで、いま実際にそうなりつつある。

■単身世帯の増加とFIRE願望が「インフレリスク」になる

この「予言」が大きな波紋を呼んでいたちょうどそのころ、ネット上では別のレポートが話題を集めていた。

みずほリサーチ&テクノロジーズから出されたレポートで、日本で急増する単身(非婚)世帯の増加と、かれらの間で盛り上がる「FIRE(早期リタイア)」願望の拡大は、この国にとって深刻な人手不足型インフレリスクになりうるというものだ。

・非婚化を背景に単身世帯が増加している。遺産動機や子育て費用のない未婚単身者はそれほど多くのカネを稼ぐ必要がないため、労働市場からの離脱が比較的早い

・単身世帯化がFIRE願望と結びつく場合には、人口減少+高齢化による構造的な人手不足がさらに加速する要因となりうる

・こうした人手不足の加速は日本経済に構造的なインフレ圧力をもたらす可能性がある。単身世帯化(≒非婚化)の原因について、より踏み込んだ分析・議論が必要かもしれない

みずほリサーチ&テクノロジーズ「単身世帯化の日本経済への影響」(2024年8月28日)より引用

先述したとおりだが、ロスジェネ世代が誕生したバブル崩壊以降から日本の未婚率は急激に上昇している。なおかつ所得水準が非婚率とは負の相関性を持っていることから、ロスジェネ世代の置かれた厳しい経済状況がかれらの結婚意欲を削いでしまったことは想像に難くない。

■子どもを持たない高齢者はリタイアへの資金的ハードルが低い

ロスジェネ世代はいま先頭が50代に入り、十数年後には立派に高齢者層の仲間入りを果たす。現在の高齢者層は基本的に皆婚時代を生きた人びとであるためその多くが結婚し子どもを持っているが、ロスジェネ世代はそうではない。かれらはこの国において「生涯未婚・子無し単身高齢者」が多く含まれる初めての世代となる。

子どもを持たない高齢者の急激な増加は、すなわち「資産(≒遺産)を増やして次世代に残さなければならない」という時間的な連続性の意識を持たない人びとの増加を意味する。みずほリサーチ&テクノロジーズのレポートで示すように、これから増える単身高齢者層は独り身であるがゆえに生活コストがかからず次世代に継承する資産形成の動機を持たないため(≒リタイアに必要な資金的ハードルも低くなり)労働市場からの離脱も早くなる。

スマートフォンで財務情報をチェック
写真=iStock.com/tdub303
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tdub303

結婚せず子どもを持たないから将来の消費者(購買層)や社会保障の担い手をつくらず、また自身の生活コストが低いからそこまで貯金や資産形成をする必要にも迫られず労働市場のメインストリームから早々に撤退する「FIRE志向」を持つ者が増加する――というのは、社会経済にとって大きなリスクになる。

■FIREは若いうちから「自分を老人に擬態する」方法論

たとえば、自分ひとりが生きていくには困らない程度のストック資産を形成して「FIRE」を達成した者は、現在の社会制度上は所得が乏しい「経済的弱者」としてカウントされ、公的支援の対象者として捕捉される。冗談のような話だが、これは現在の社会支援の対象として引退世代(高齢者)を想定しているから生じる一種のバグである。

言ってしまえば「FIRE(志向)」とは若いうちから自分を老人に擬態して税や社会保障の負担から逃れつつ、あわよくば給付を受けることさえ可能にしてしまう、社会制度の抜け穴をつく、一種の「裏技」的な方法論なのである。

コインと退職メッセージで満たされたガラス瓶
写真=iStock.com/CatLane
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CatLane

上掲レポートで示されているように、これからバリバリと世のため人のために汗を流してもらうことが期待されている働き盛りの世代の「FIRE志向」の増加は、人手不足をさらに加速させることにもなるし、購買力の低下つまりインフレの要因ともなる。「志向」されるだけでも大変なのに、本当に「FIRE」に成功して早々に隠居すなわち給与所得者を辞めてしまえば名実ともに住民税非課税世帯となって社会保障や生活インフラに実質的にフリーライドする側へと回ることになる。これは社会にとって痛手である。

身も蓋もないことを言えば、「産んだ側」の人びとの労働生産性や人口再生産性に依存しながら、独り身の老後生活を送ることになる。ロスジェネ世代は経済的に厳しい状況に置かれている人が多い世代ではあるが、かといって統計的に見れば「ひとりで暮らしていく分」の余裕資金を持てないほどではない。かれらには「老人になるまで頑張って働いて財産を増やす」という動機がそもそもない。ほどほどに仕事をしながらスローライフを続けていく動機のほうがずっと大きいのだ。

■「自分が死んだ後はどうでもいい」ライフスタイルを内面化

伝説のコピペが指摘するように、因果は巡ってくるのである。

当たり前に得られていたはずのライフイベントが根こそぎ奪われたロスジェネ世代は、「自分のコンパクトな暮らしを死ぬまで続けられればあとのことはどうでもいい」という刹那的というか、現世利益主義的なライフスタイルを内面化するようになった。皮肉にもそれは、かれらが世間から散々に言われてきた「自己責任」にアジャストした結果ともいえるだろう。

結婚して、家庭をもって、次世代へとバトンをつないでいく――という共同体の歴史的連続性から切り離されてしまった者は、「個人最適化」を図るようになる。それは至極当然のことだ。歴史的連続性から切り捨てられているのに、「日本の歴史的連続性を保つために奉仕しろ」と言われても鼻白むばかりだろう。

■未来のことがどうでもよくなるのは「当たり前」

かれらからすれば、この国の行く末とか、将来世代の暮らしとか、そういう「未来の課題」のことなど、どうでもよいのである。なぜならそこに自分が「関与」できなかったからだ。繰り返し断っておくが非難しているわけではなく、そうなるのが当たり前だ。

このレポートに対してのSNS上の反応を眺めていると「『こどおじFIRE』とでもいうべき状況をどうにか阻止しなければヤバい」といった意見も多かった。「産んだ側(次世代を生んだからこそ、国の社会経済の成長やインフラの拡大に精力的にコミットする動機を持っている層)」にフリーライドするような生き方をやめさせる議論が必要というのは一理ある。しかしながら、「結婚」や「子育て」が普遍的なものではなく、じわりじわりと「勝ち組のシンボル」となってきている現代においては、そのような議論や合意形成自体が難しくなっている。

赤ちゃんを高く抱いている両親
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

「結婚できたり子どもを持てたりしているということはイコール恵まれている側なのだから、そんな人たちが単身世帯の社会保障やインフラのために余分に稼ぐのは“公平性”の観点から見ても妥当だろう」という主張には一定の説得力が出てきてしまってすらいる。

■「歴史的連続性」から切断された人を増やした結果である

「自分の老後どころか、死んだその先の未来のことを考える」というのが、その国に生きる者として呼吸するのと同じくらい当たり前の営みでなくなり、ある種の“贅沢な思想”になってしまったら、その国はきっと滅びる。

だれもかれもが、顔も名前も知らない未来の人びとのためではなく、いま自分が生きている間の繁栄や快適を望むからだ。未来のために残しておいた貯えも、いまの快適さを守るために必要なら、残さず食べつくしてしまう。

責めているわけではない。私たちの社会が選んで「歴史的連続性」から切断された人を増やしてしまったからそうなったのだ。

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御田寺 圭(みたてら・けい)
文筆家・ラジオパーソナリティー
会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。「note」での連載をまとめた初の著作『矛盾社会序説』(イースト・プレス)を2018年11月に刊行。近著に『ただしさに殺されないために』(大和書房)。「白饅頭note」はこちら。

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(文筆家・ラジオパーソナリティー 御田寺 圭)

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