健康だった彼女はこうして「生ける屍」になった…医者の命令を絶対だと信じた高齢女性に起きた身体の異変
プレジデントオンライン / 2024年10月15日 16時15分
※本稿は、和田秀樹『「せん妄」を知らない医者たち』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■高血糖と低血糖では、どちらの方が死亡率が高いか
年をとればとるほど、引き算ではなく足し算医療がよいということを私は常々話しています。
「血圧もコレステロール値も血糖値も下げましょう」
そんな「引き算医療」はもうやめませんか。
中でも、私が一番脳に悪いと思っているのが「低血糖」です。
アコード試験という、北米における糖尿病の大規模調査の代表的なものを紹介したいと思います。
糖尿病のリスクを見る検査数値であるHbA1cを正常値である6.0%以下に下げようとした群と、7.0〜7.9%とした群を比較したところ、死亡率が25%も違っていました。なんと血糖値を正常値まで下げた群の方が死亡率が高かったのです。この調査は5年行う予定でしたが、3年半で中止となりました。
血糖値を6.0%まで下げたら16%もの人が、値を7.0〜7.9%にしても5%の人が、重度の低血糖を起こしていたのです。
死亡率だけを見ると7.0〜7.9%をキープする方がよいかもしれません。
しかしその状態であっても5%が低血糖状態になっていることを考えると、それでいいのだろうか? と私は思ってしまいます。
もちろん、HbA1cが非常に高い人が体に不調を感じて、ある程度下げてその人の健康を維持するという治療はよいと思います。でも、医師から言われるがまま、自分の体の声も聞かずに、無理に下げるのもどうかと思います。
■「悪玉コレステロール」は悪者ではない
ちなみに私が血糖値を9%ちょっとでコントロールしているのは、日常的に運転をしているからです。運転中に低血糖を起こすと怖いので、そのリスクを少しでも下げようとしているのです。
LDLコレステロールというのは、それが多いと動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしてしまうために敵対視されているようで「悪玉コレステロール」と呼ばれていますが、私は、そんなに悪いものと捉える必要はないと考えています。無理に下げなくてもいいと思うからです。
ある女性の例を紹介しましょう。
遠方から、私のところに相談に来たことがあります。
ある病院で、LDLコレステロール値が高く動脈硬化が進んだことで、冠動脈というのが細くなってしまい、ステントをカテーテルで入れて血の流れをよくさせる治療をしたという患者さんです。そこまではよかったのですが、そこで動脈硬化の再発予防のためにと、どうも強力なコレステロール値を下げる薬(注射)を投与されたそうです。35キロぐらいしかない体に、ですよ。
■「生ける屍」のようになってしまった
最近はそういった強力な注射があるのです。それによって彼女のLDLコレステロール値は46mg/dlにまで下がってしまいました(基準値は70〜140mg/dl)。
医者は「下げすぎたって、全然害はないから」と言って相手にしなかったそうです。
彼女がどうなったか。どんどんうつっぽくなって、元気がなくなってしまったのです。
「LDLコレステロール値を健康のために下げましょう」というのは、百歩譲ってありとしましょう。しかし問題はそこからです。下げすぎの害がどれだけあるか、現実を知らない医者がいることに、驚きです。
たとえばLDLコレステロールというものは、女性ホルモンの材料です。
これがあまりにも減ってしまえば、肌つやが悪くなったり、骨粗しょう症になりやすくなったりします。
原発性骨粗しょう症は、女性ホルモンであるエストロゲンの減少によって、骨量(骨密度)が減少して、スポンジのような海綿骨という骨の中の空洞が増えることによって起こります(一方、続発性骨粗しょう症は、特定の疾病や薬剤の影響によって二次的に起こります)。
■がんや感染症を引き起こす
しかも、LDLコレステロールには、脳にセロトニンという神経伝達物質を運ぶ働きがあります。すき焼きとか、美味しいお肉を食べていると、ハッピーな気分になることが多いですよね。実は、その理由のひとつは、セロトニンが脳に届くからと言われています。
そしてLDLコレステロールは、免疫細胞の材料でもあるのです。
要するに、LDLコレステロールは高すぎるのも問題ですが、総じて低い人より高めの人の方が免疫機能も高く元気で、ホルモン効果で肌つやもよく、うつにもなりにくい。
どちらを取るかというのがこれからの医療で大事なところで、そこには議論の余地があると思います。日本での(世界的にもそうですが)医学調査では、高めの人の方が死亡率が低いこともわかっています。
少なくとも下げすぎることのデメリットは、知っておいていただきたい。
免疫機能の低下は、がんや感染症を引き起こしやすくなりますから。
先に述べた通り、高齢者は、血糖値も血圧も高い人の方が一般に元気です。
諏訪中央病院名誉院長の鎌田實先生も、高齢者(65歳以上)には、コレステロール値を下げる薬を出すのを基本的にやめる方向で診ているそうです。
■わがままな患者でいい
鎌田先生は言います。
「多くの患者さんは善玉コレステロールも、悪玉コレステロールもそれほど大きな変化がなく、薬をやめても安全ということを確認しています」
「コレステロール値は高めの人の方がむしろ長生きしているし、その方ががんにもなりにくいというのが、ある種の調査でわかっている」
(『医者の話を鵜吞みにするな わがままな患者でいいんです』の鎌田實先生の発言より)
繰り返しになりますが、高齢者の体には、「足りない」という害の方が、より悪い影響を及ぼすのです。足し算の医療が理想なのです。
亜鉛というミネラルが欠乏しても、若い頃はそう影響は大きく出ません。
しかし高齢になって亜鉛不足が強くなると、味がわからなくなったり、男性ホルモン不足が起きたり、新陳代謝にも影響を及ぼして大変です。
とにかく食べ物の種類も増やすなどして、いろんな栄養素を「足す」、数値も下げていくのではなく、上げて結構。糖分も足し、ナトリウムも足し、さらには、運動も足し、ホルモンも足す。
■臓器別診断の弊害
数値を下げることを勧める「引き算の医療」で本当に寿命が延びるかどうかについては、残念ながら日本人に関しての大規模比較調査がないのでわかりません。
ではどちらを選ぶべきか。これはもう皆さんの判断に任せますが「足し算の医療」の方が、特に高齢者は、今より元気になることは間違いないと思っています。足すことの医療で長生きできる保証はありませんが、元気でいられることの方が絶対いいと思いませんか。
今を楽しく生きましょうよ。
たぶんこういった矛盾が生じるのは、これまでお話ししてきた通り、今の医療が臓器別診断によって行われて「木を見て森を見ず」みたいになっているからでしょう。
私のような思考は、とんがりすぎているかもしれませんが、自分に正直に生きて医療も医者の言いなりにならずに、「受ける必要がない検査は受けませんし、飲んで害が大きい(と自分で感じる)薬は飲みません」と主張するのはまったく問題ないと思います。
むしろ、「わがままな患者のススメ」をしたいぐらいです。
■あなたらしい生き方がベスト
自分の体のことは、自分が一番よくわかりますし、心だって、自分のものです。
医療に限りませんが、すべて自己決定で進めるということが、本来の自分らしい生き方だと思います。
そうしてこそ、自分らしい健康の作り方、導き方だと思うのですが、違いますでしょうか?
「医者の命令が絶対」と考えず「自分の感性、感覚を最優先」にするのがよいと思っています。要するに、もっともっと、皆さんわがままな患者になっていいのです。
以前、鎌田實先生と対談した時、「和田秀樹的生き方は、日本の医療を変えるかもしれません」と言われました。医療や介護を受ける時に、「私はこう生きたいから」と自分の人生観をしっかりと伝えることができて、さらには、医療職や介護職もそれらを受け止めていくようになれば、介護や医療のあり方が変わっていくのではないか、ということだと私は思っています。
医療も介護も一方通行ではなく、双方の考えや情報を共有して、何度もやり取りを重ねていくことで、一緒に「生きやすい体、老いても暮らしやすい生活」を作っていくのだと思います。「わがまま患者」の代表的存在なのが私です。
鎌田先生からは「元気で長生きをしてもらいたい」と言われています(笑)。長く生きる、ということにはこだわりませんが、日々楽しく、元気で過ごせるようにこれからも頑張っていきますよ。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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