朝ドラ史上まれにみる「第1週で脱落」現象…橋本環奈の「おむすび」が「これから面白くなる気がしない」辛辣理由
プレジデントオンライン / 2024年10月7日 18時15分
伊藤沙莉主演「虎に翼」の後を受け、橋本環奈「おむすび」の第1週が放送された。
ネット上では後者の初回が前者を上回ったことが大きく取り上げられたが、「おむすび」は第1週後半で失速、「虎に翼」第1週平均と比べると1割近く下がってしまった。
直前の「虎に翼」最終週からも下がっている。
つまり視聴者離れが起き始めているのだが、SNSでも「おもんない」「新鮮味に欠ける」「今週で脱落」など批判の声が多い。女優人気トップクラスの橋本環奈を起用しながら、なぜ「おむすび」は第1週で躓いたのか。視聴データやSNS上の声から考えてみた。
■若年層は「おむすび」だが…
まず「おむすび」の視聴率を、「虎に翼」と比べてみよう。
第1週の個人視聴率平均は、6.8%対7.4%。
1割近くの下落となったが、直前週(「虎に翼」最終週)からも0.4%以上数字を落とした。要は朝ドラからの視聴者脱落が起こっている(スイッチメディア「TVAL」データ)。
では誰が見るのをやめたのか。
実は若年層は「おむすび」に軍配を上げている。1層(男女20~34歳)では1割以上も上回った。特に「虎に翼」最終週からは2割以上も数字を押し上げた。またコア層(男女13~49歳)やZ世代(男女十代後半から二十代後半)でも上を行った。
“1000年に1人の逸材”として注目を集め、その後トップ女優に上り詰めたハシカン人気は、NHKの朝ドラでも健在だったようだ。
ところが年齢が上がると事情が異なる。
2層(男女35~49歳)では互角、3層(男女50~64歳)でやや後れをとり、4層(男女65歳以上)で1~2%ほど逆転されていた。
日本初の女性弁護士・判事として昭和を生きた女性の物語に対する平成のギャルを描く物語は、中高年にはいまひとつだったようだ。
■視聴者の判断は早い
ただし「まだ始まったばかりで判断は早い」の声も聞こえてきそうだが、それでもタイパ時代の今、判断の早い視聴者は少なくない。
例えばF1(女性20~34歳)の第1週の視聴率推移。
月曜の初回では、「虎に翼」の1.5倍超あったが、木曜の4話までに肉薄され、金曜の5話では逆転されている。4分の1が逃げてしまった格好だ。「虎に翼」が5日間で右肩上がりとなったのと対照的だ。
中高年でも傾向は同じだ。
例えばF4(女性65歳以上)では、「虎に翼」は2~3話でやや数字を落としたが、4~5話では初回を超えた。評判を聞いて見始めた人が少なくなかったようだ。
一方「おむすび」は停滞した。
週の後半は前半より数字を下げた。この傾向は2~3層でも同様で、やはり最初の2~3話で脱落してしまった視聴者が少なくなかったようだ。
■SNSに表れた視聴者の判断
では厳しい評価はどこから来るのか。
SNSには具体的な指摘が幾つもある。まず「つまらない」という声の数々。
「テンポが悪いしありきたりだし安っぽい」
「これから面白くなる気がしない」
連続ドラマでは、初回を試しに見る人が多い。
ただし視聴し続けるか否かをそこで判断し、結果として2話目で1~2割数字が下がることも珍しくない。
ドラマの序盤は、物語の設定や登場人物の紹介など説明的なシーンが多くなりがちだ。ところが視聴者には「展開が遅い」「駄作の予感」と受け取られ、離脱増につながってしまう。
実際に脱落を表明した声も少なくない。
「1週見たけど脱落です」
「軽さに耐えられなくて脱落しますわ」
「ストーリーにあまり奥行きを感じないので見続けるモチベーションを保つのが難しい」
視聴データを裏付ける声の数々だ。
「初回からいきなり朝ドラあるあるで海に飛び込むし」
「嫌いだったトマトがいきなり好きになったり、海に飛び込んだのにすぐに服が乾いてたり」
「初めましての人たちの中で家族のあまり知られたくない過去を平気で話す脚本に初回から不安しかない」
■「全身濡れたはずが、直後に服が乾いている」安っぽい展開
ドラマを見る視聴者の目は厳しい。
確かに歴代の朝ドラでは、「木に登る」「海に落ちる」など、“女の子にあり得ない”ようなシーンが多用されてきた。ところが今の視聴者は、繰り返されるパターンに「ありきたり」「新鮮味に欠ける」と感じてしまう。
ご都合主義もNGだ。
「嫌いだったトマトをいきなり美味しいと感じる」「全身濡れたはずが、直後に服が乾いている」などは安っぽい展開と映り、“興ざめ”となり「今後も見たいと思わない」という思いにつながる。
もう一つ要注意なのが倫理観。
初対面なのに主人公の姉(仲里依紗)のネガティブ情報をばらしてしまう学校の先生を登場させるセンスが、「見たくない」と思わせる側面もある。他にも自分はゲームセンターでサボっていながらギャルをクズ呼ばわりするなど、「あり得ない」とがっかりした視聴者がいたようだ。
■両ドラマの落差
「おむすび」の不幸は、両朝ドラの並びにあるのかもしれない。
昭和の女性が社会を相手に自分らしく生きるようとした大きな物語の後に、“平成の自分らしさ”を描こうとする現代劇を置いたが、序盤で欠点が目立ってしまった。
やはりSNSで比較する声も辛辣だ。
「虎に翼の後だとおむすびの安っぽさが際立って悲しくなる」
「虎に翼ほど毎朝頭を明瞭にして観なきゃ! てほどの魅力は感じない」
特定の視聴者層で分析すると、こうした声が裏付けられる。
働く女性の中では、非管理職だと「おむすび」第1週の視聴率が、「虎に翼」より高い。ところが企業の役員や管理職の女性たちでは、「虎に翼」だと第1週から最終週にかけて大幅上昇したが、「おむすび」第1週で急落してしまった。
実はこの傾向は、「こだわりがある」「政治に関心あり」という女性たちでも同様だった。
社会の中での女性の位置づけや自分の生き方を考えることの多い女性たちにとって、男社会の法曹界に挑んだ女性の物語は心に刺さった人が少なくない。ところが社会や制度とは限らない“自分探し”に重点をおく物語には食指が動かなかったようだ。
逆に“自分探し”が切実な若者や、社会や制度を意識することの少ない人々には、「おむすび」が等身大の物語として心に響くのかもしれない。
いわば朝ドラ史上稀なギャップが、両ドラマの視聴率や評価につながった。
法律を軸に社会問題に真正面から向き合うと同時に、弱い立場の人々への配慮も忘れなかった「虎に翼」は、これまでにない朝ドラとして新たな視聴者を獲得した。
ところが普通の人の普通のお話から入った「おむすび」は、新たな視聴者を含め多くの人々に逃げられ始めている。
これをどう食い止めるのか。
まだ序盤なので、ドラマとして優劣は簡単につけられるものではない。それでも脱落した視聴者を、「おむすび」はどう取り戻すのか。
2週目以降でどんな新境地が飛び出すのか。主人公の姉(仲里依紗)登場でどんな新展開が出てくるのか。第1週の劣勢を挽回するお手並みを拝見したいものだ。
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次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。
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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)
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