1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

「大阪の若い女性」が危険にさらされている…「大阪カジノ計画」の水面下で動き始めた"裏ビジネス"の中身

プレジデントオンライン / 2024年10月12日 8時15分

大阪府庁咲洲庁舎(大阪市住之江区)から見た人工島・夢洲(中央)=2023年9月28日、大阪府 - 写真=時事通信フォト

カジノを含むIR(統合型リゾート)の建設をめぐっては、大阪府・大阪市が夢洲地区に2030年秋ごろの開業を目指している。政府は「世界最高水準の規制」と強調するが、本当なのか。ジャーナリストの高野真吾さんは「昔から、『飲む・打つ・買う』は三点セットで語られてきた。ラスベガスやマカオでも売春婦を客に送り込む裏ビジネスが横行している」という――。

※本稿は、高野真吾『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

■250条もあるわりに、どんなIRになるのか見えない

『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)の第2章ではシンガポールの事例で、「IRとは何ぞや」を探ってきた。MBSやRWSの姿は、IRのイメージをつかむ一つのヒントにはなる。しかし、シンガポールと日本では当然、経済事情、文化背景、国民性、歩んできた歴史が異なる。シンガポールがシンガポール独自のIRを造っているように、日本も日本型IRを造ることになる。その大もとになるのが、IR整備法だ。

ところが二五〇条を超える大がかりな法律を細かく引用しても、日本型IRを示せない。それはいかにもな法律の文章が並んでいることによる。分かりにくいことは承知で、最初に出てくる「第一条」の「目的」を引用する。

適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ事業の収益を活用して地域の創意工夫及び民間の活力を生かした特定複合観光施設区域の整備を推進することにより、我が国において国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現するため、(中略)必要な事項を定め、もって観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資することを目的とする。

■国内で造られるIRの数は「3カ所が上限」

押さえたいポイントは次の通り。一「健全なカジノ事業の収益を活用」する。二「地域の創意工夫」と「民間の活力」を生かす。三「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現」。四「観光」と「地域経済の振興」に「寄与する」。五「財政の改善に資する」。

「そもそも〈健全なカジノ〉はあり得るのか」については後ほど、ギャンブル依存症の問題などと共に考えていく。ここではIRはカジノの収益をあてにし、民間が事業主体となることと、「滞在型観光」を実現させ、地域の観光、経済、財政にメリットをもたらす目的があることを理解しておきたい。

制度面で最初に知るべきは、国内で造られるIRの数は「上限は三」となっている点だ(同法第九条・区域整備計画の認定)。大阪IRは二〇三〇年秋頃の開業に向けて前進しているが、法律上はさらに二カ所に造れる。「東京カジノ構想」が取りざたされる根拠になっている。

ここからは再度、IR整備法の説明資料に戻り、日本型IRの姿をさらに探る。

■日本版カジノはどう規制される?

何を造るかは、同法で決められている。先に紹介したシンガポールのMBSと一部は被ってくる。「カジノ施設」「国際会議場施設」「展示等施設」「我が国の伝統、文化、芸術等を生かした公演等による観光の魅力増進施設」「送客施設」「宿泊施設」「その他観光客の来訪・滞在の促進に寄与する施設」だ。これら「一群の施設」が「民間事業者により一体として設置・運営される」。

なお、IR整備法は、この「送客施設」を国内「各地域の観光の魅力に関する情報を適切に提供し、併せて各地域への観光旅行に必要な運送、宿泊その他のサービスの手配を一元的に行うことにより、国内における観光旅行の促進に資する施設」と定めている。

IRに関し、主たる議論の対象になっているカジノはどう規制されるのだろうか。

・カジノ施設は一区域に一つのみ
・IR事業者は、政府のカジノ管理委員会(二〇二〇年一月発足)の免許(有効期間三年・更新可)を受け、カジノ事業を行える
・カジノ事業者に、業務方法書、カジノ施設利用約款、依存防止規定(本人・家族申告による利用制限を含む)と、犯罪収益移転防止規定の作成を義務づける。免許申請時にカジノ管理委員会が審査(変更は認可が必要)

■「週3回までカジノに行ける」のはゆるすぎ?

・日本人と国内在住の外国人の入場回数を、連続する七日間で三回、連続する二八日間で一〇回に制限。確認にマイナンバーカードを活用。入場料六〇〇〇円を徴収
・二〇歳未満の者、暴力団員、入場料未払い者、入場回数制限超過者はカジノ施設への入場を禁止。カジノ事業者にも、これら対象者を入場させてはならないことを義務づける

なお、カジノを行う場(ゲーミング区域)の広さは、政府がこの説明会を開いている時点では未定だったことから、参照した資料には記載がない。二〇一九年三月にIRの設置基準を定める施行令が閣議決定され、IRの総床面積の三%までに決まった。

政府はこれらをもって、「世界最高水準の規制」としている。

この中で、よく議論の対象になるのが、「連続する七日間で三回、連続する二八日間で一〇回」とする入場制限と、六〇〇〇円の入場料だ。カジノを別の施設に替えて考えてみる。例えば、地元のスナックに週三回も通っていたら、いわゆる「常連」にあたらないだろうか。となると、週三回もカジノに行けば、ギャンブル依存症の恐れはないのだろうか。

入場料六〇〇〇円は、財布のヒモが固い僕には、確かに効果がある。「(僕にとって高級となる)二〇〇〇円のフルーツパフェを三回食べたほうがお得」との思考回路となるからだ。ところが、カジノで勝てると踏むギャンブラーはそうではないだろう。「六〇〇〇円を払っても、その数倍儲かる」と考えるに違いない。

■世界一のカジノ場・マカオにいる「謎の女性たち」

本当に「世界最高水準の規制」か否かを考えていた二〇二三年冬、僕は都内の居酒屋で開かれた会合に誘われた。ここ数年来のカジノ・IR取材で知り合った数名が集まるという。五〇〇〇円以内で済むと聞いたので、いそいそと出かけた。

乾杯してからほどなく、左隣に座った中年男性のBさんが、スマートフォンの画面を差し出しながら、話しかけてきた。

「私、この前、マカオ(澳門)に視察に行ってきましたよ」

マカオとは、中国の「マカオ特別行政区」のことだ。カジノが盛んなことで知られる。「東洋のラスベガス」とも言われるが、実は二〇〇六年にはカジノの売上規模でラスベガスを抜き、世界一となっている。

マカオのウォーターフロントカジノ
写真=iStock.com/EyeEm Mobile GmbH
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EyeEm Mobile GmbH

マカオの観光名所となっている「聖ポール天主堂跡」や「セナド広場」の写真を見せてくれるのだろうか。僕は休暇を取って複数回、ポルトガル文化漂うかの地を訪問している。懐かしい風景が見られるのかと期待したら、全く違った。

Bさんの手元の画面に映し出されたのは、若い女性の顔やバストアップ写真。画面をスクロールするたびに、新しい子が出てくる。いずれも目鼻立ちの整った美人ばかりだ。見た目の雰囲気からすると、朝鮮半島系の女性たちのようだ。

■「カジノと女性はセットでしょ」

「えーとー、この写真は~」

そうつぶやきながら、脳みそをフル回転させ何の写真か当てようとした。

Bさんは男性の欲望をカネに変える「下半身ビジネス」で、事業の基礎を築いた。その後、手広くビジネスを展開し、今や複数社を経営している。その彼が見せてくれている女性たちの写真とは何か。勘良く当てられない僕に対し、Bさんが答えを教えてくれた。

「この外国人女性たちは、マカオのデートクラブのメンバーですよ。マカオに遊びに来た富裕層の相手をするわけです。カジノと女性はセットでしょ。マカオに知り合いがいたので、どんなシステム、料金でどう運営しているのか聞いてきました」

そのついでに、彼女たちの写真を資料としてもらったのだという。

Bさんやこの夜に集まったメンバーたちの名誉のために記すと、彼は非合法の商売には手を出していない。もちろん、反社会的勢力との接点もないし、半グレや注目を集めている「匿名・流動型犯罪グループ」(通称トクリュウ)とも関係ない。

■大阪カジノで“合法的に”女性をあてがう

大阪IRの開業は、最も順調に進んでも二〇三〇年秋。二〇二三年冬時点だと、まだ六年半以上も先となる。それでも、やり手のBさんは、リサーチに動いている。そこには大阪IRのカジノに来る男性に女性をあてがう商売が、うまみのあるビジネスになるとの計算が働いている。外国の富裕層、カジノで勝って懐が潤うギャンブラーは共に金払いが良い。女性たちのサービス単価が高くなる分、手配する側への〈キックバック〉も増える。

Bさんは、もちろん合法的なビジネスを目指す。非合法の場合、常に警察の目を気にしなければならず、反社との付き合いが生じる恐れがある。Bさんいわく、「それでは割に合わない商売にしかならない」。頭を使い、ギリギリの仕組みを考えてこそ、長く続けられるおいしい商売となる。だからこそ、早め早めに仕掛けるのだ。

折しも、二〇~三〇代の日本人女性が売春に手を染める事例の報告が、新型コロナウイルス感染症が五類に移行した二〇二三年春から続いている。新宿・歌舞伎町にある「大久保公園」周辺では、個人売春を行う「立ちんぼ」が多数いることが、当たり前になってしまった。また、日本を飛び出し、海外で売春行為をする女性も増えているとされる。

■「1日15万~稼げます」といった投稿が流れるが……

在ラオス日本国大使館は同年四月、「ラオス北西部ボケオ県での求人詐欺に関する注意喚起」と題する文書を出した。そこには、次のように記されている。

「最近、ミャンマー及びタイと国境を接しているボケオ県の経済特別区において、高額な報酬等の好条件を提示してラオスに渡航させた後、実際は自由を拘束し違法活動に従事させるという、外国人を被害者とする求人詐欺が多発しています」

SNS上ではラオスでの売春話が散見されている。「噂されているような人身売買や薬漬けになるとか絶対ないので安心してお仕事できます 一日一五万~稼げます」。こんな投稿が流れたこともあった。

しかし、誰か分からない匿名アカウントがつぶやく「安心」「稼げます」より、日本国大使館の「注意喚起」を信じるべきだ。僕もとあるルートから、日本人女性がアジアで巻き込まれた海外売春のトラブルを聞いたことがある。間違いなくリスクが高く、やめたほうが無難だ。

とはいえ、各種状況を総合的に鑑みると、Bさんが女性を集めることに苦労はなさそうだ。そして、うまいことビジネスをしている近未来が予想できる。

■出稼ぎ女性は「マカオの名物」だった

朝鮮半島系の女性たちの写真を見た翌日、僕は二〇一〇年代に訪問したマカオを改めて思い出していた。かの地の有名スポットの一つに、「ホテル・リスボア」がある。二〇二〇年五月に死去した「マカオのカジノ王」ことスタンレー・ホー氏がオーナーだったカジノホテルだ。訪澳した際、ふらりと訪ねたことがあった。

カジノエリアに入る前、建物内をうろうろしていると、その一画で奇妙な光景に出くわした。化粧バッチリで、いずれもスカート姿のおしゃれな若い女性たちが、フロアをぐるぐると歩き回っている。彼女たちを主に大陸系と見られる中国人男性たちが、少し遠くから眺めていた。女性たちが醸し出す妖艶な雰囲気と、いやらしさが混じる彼らの熱視線からピンと来るものがあった。

カジノのルーレットテーブル
写真=iStock.com/Alina555
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alina555

帰国後にネット検索すると、すぐに引っ掛かった。彼女たちは予想通り、売春婦。ホテル・リスボアの特定エリアを闊歩しながら、男性客から声をかけられるのを待っている。ネット情報によると、休まずに動く様子から、「リスボア回遊魚」「回遊魚」と名付けられていた。彼女たちは、中国大陸からの出稼ぎ女性とのこと。海外での風俗に関心が高い男性の間では、マカオの名物的存在として知られていた。

■「リスボア回遊魚」ときれいにリンクする

今回、本書を出すにあたり改めて調べると、彼女たちはすでに〈絶滅〉していた。二〇一五年一月に大規模な摘発があったとするネット記事も見つかった。今となっては貴重な目撃となった。なお、僕は偶然にも、日本人の知人男性から彼女たちの接客ぶりを聞く機会があった。「極めてビジネスライク」とのことだ。

Bさんから聞いた「カジノと女性はセット」という言葉は、「リスボア回遊魚」ときれいにリンクする。スカートから伸びた女性たちのすらりとした生足の記憶は、Bさんの言葉に極めて説得力を持たせた。

カジノに触れたことがない読者は、戸惑うかもしれない。しかし、こうした知られざる実態を告白する男性は他にもいる。二〇二〇年一月二七日、「神奈川新聞」は「米国内で三〇近くのカジノのデザインを手掛けてきた」「日本人建築デザイナー」のインタビュー記事を載せた。そこには、次のような言葉があった。

■「日本女性は世界中で人気がある」

「一番怖いと思うのは、ラスベガスやマカオでも『飲む、打つ、買う』が一セット。客が宿泊するホテルに売春婦がいないといけない。そこで(売春のあっせんをする)ポン引きは二〇部屋ほど借りている。外国から女性が観光ビザで入って宿泊客となっている。ホテル側は(売春婦に)客の友達と言われると、どうしようもない。こうしたシステムが裏でできてしまっている。日本女性は世界中で人気がある。地元の女性にも声がかかることが怖い」

高野真吾『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)
高野真吾『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)

さすがに日本の場合だと、IR敷地内のホテルでは、こうした「ポン引き」や「リスボア回遊魚」が誕生することは避けられるに違いない。行政がホテル経営者に注意喚起し、警察も適宜、摘発に乗り出すだろう。しかし、Bさんが狙っているように、IR敷地外で新たな下半身ビジネスが誕生する可能性は高い。

昔から、「飲む・打つ・買う」は三点セットで語られてきた。IR内では、レストランやバーで「飲む」=お酒=の提供がある。「打つ」=博打=は、カジノエリアで合法化されている。残る「買う」=買春=だけが、なしのままでいられるだろうか。マカオも含め生々しい現場を経験してきた僕は、かなり厳しいと認識する。

----------

高野 真吾(たかの・しんご)
ジャーナリスト
1976年生まれ。埼玉県川越市出身。早稲田大学政治経済学部在学中に、早稲田マスコミ塾に入って文章を書く面白さに目覚め、1998年に報道機関に入社。社会、経済、国際ニュースに幅広く携わりながら、次第にネットニュースにも活動の幅を広げる。20代からマカオ、韓国、ベトナムなどの海外でカジノを経験してきた。

----------

(ジャーナリスト 高野 真吾)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください