年金を増やす方法は「繰下げ受給」以外にもある…最低限の仕事で「もらえる年金を最大化」させる方法をご存じか
プレジデントオンライン / 2024年10月13日 7時15分
■「ねんきん定期便」を見ても“本当の年金額”はわからない
あなたが想定している年金額は、ねんきん定期便に記載されている見込額だと思います。実は、その額をそのままもらうとは限りません。年金の額は増やすことができるのです。ただし、何もしないとそのままです。では、どうすればいいのか。
その方法を、これから具体的に紹介します。
政府が整えている制度をフル活用するため、まったくリスクはありません。投資のように、増えるかもしれないが、減るかもしれないという方法ではありません。むしろ、政府が整えている制度を知らない方がリスクともいえます。知らないことで、もらう権利のあるはずのお金をもらえない可能性があるのです。
その方法を、まずは知ること。そして、実践することです。それでは、一つずつ紹介しましょう。
最初にご紹介するのは、「繰下げ受給」です。
繰下げ受給とは、年金をもらい始める年齢を遅らせる方法です。年金をもらい始める年齢は、原則65歳です。まだかまだかと待っている人もいるかもしれません。けれど、もらう時期を少し後ろにずらすだけで、もらえる年金額が増えるのです。
■1年受給を遅らせるだけで8.4%増やせる
少し後ろにずらすとはどのくらいでしょうか? それは、65歳から1年間です。66歳以降は、好きなタイミングで、1カ月単位で遅らせることができます。繰下げると年金が増える、という話を聞いたことがある人もいるでしょう。しかし、実際のところどれくらい増えるかご存じでしょうか。
実は、1カ月遅らせるだけで、0.7%の上乗せになるのです。
「え、たったの0.7%?」と思うかもしれませんが、仮に1年遅らせると0.7の12倍ですから、8.4%増えるということです。
上乗せ率は66歳以降、1カ月単位で加算されていくため、5年遅らせて70歳からもらい始めると42%、10年遅らせて75歳からもらい始めると84%も上乗せされます。例えば、65歳で年間150万円の年金を受け取る予定だった人が、70歳まで繰下げると213万円、75歳まで繰下げると276万円に増額されるということです。
そして、その年金額を死ぬまでもらい続けられます。もちろん、75歳まで繰下げて年金額が増えたとしても、人生が80年で終わるとちょっと残念です。それに、繰下げのメリットを最大限享受するならば、75歳まで年金なしで暮らせることが前提になります。
■「年金繰下げ」で得をするのは“受給年齢プラス11歳”
「さすがに、それはきつい」という方もいるでしょう。しかし、1年繰下げればその後の年金収入が65歳時点より8.4%も増やせるわけですから、できる範囲で1年でも2年でも繰下げれば、その後の暮らしがかなり楽になります。
65歳を過ぎても年金以外の収入がある人や、当面は蓄えで生活できる人、大きな病気をしていない人などは繰下げ受給を検討してみてはいかがでしょうか。
特に、将来受け取る年金額が少なく、老後のお金に不安を感じている人や、平均寿命が長い女性は繰下げ受給がお勧めです。
1カ月でも、2カ月でも遅らせると、それだけ増えるのですから、もらい始めるぎりぎりまで考えていいと思います。
繰下げ受給の話をすると、「長生きしなければ、結局は損することになりませんか」と、よく聞かれます。たしかに、年金が増えても、思っていたより長生きできなければ損になります。
それでは、どれくらい長生きすると、「繰下げ受給してよかった」となるかというと、分岐点となるのは、もらい始める年齢プラス11歳です。66歳なら77歳以上、70歳なら81歳以上、75歳なら86歳以上長生きできると、得することになります。
■「繰上げ受給」は長生きするほど損
年金は、もらい始める時期を遅らせることもできますが、逆に、65歳より早めることもできます。具体的には、60歳からもらうことができます。これが、「繰上げ受給」です。
年金をうまく使うためには、覚えておいて損はありません。もちろん、早くからもらえるという大きなメリットがある反面、もらえる年金が少なくなるというデメリットがあります。
繰上げたときの減額率は、1カ月で0.4%。1年早めると、0.4×12カ月で、4.8%の減額です。60歳からもらい始めると、なんと24%の減額になります。しかも、その年金額が一生続きます。
例えば、年額150万円の年金をもらえる予定だった人が60歳からもらうようにすると、年額114万円になってしまうということです。
0.4%という減額率は、2015年度簡易生命表による平均余命をもとに算出されたものです。平均余命とは、各年齢に達した人たちがその後平均して何年生きられるかを示したもので、65歳時点の平均余命は男性19.44歳、女性は24.3歳です。
この数字をどう受け取るかは人それぞれですが、減額率の設定は、いつから受給しても87歳まで生きると同じくらいの年金総額になるように設定されているといわれています。
それでは、どのくらいまで長生きすると、「繰上げは損だった」ということになるのでしょうか。
長生きして損というのも変ですが、繰下げ受給とは逆の見方ですね。そもそも、年金は高齢で働けなくなった時のための所得保障であり、損得で考えるべきではないのですが、この点に関心を持たれている方がすごく多いので説明します。
■平均寿命まで生きられるかどうかが問題
年額200万円の年金をもらうはずだった人の例で考えてみましょう。60歳から年金をもらい始めると、80歳時点でトータル3040万円(年額152万円)もらうことになります。
65歳からもらい始めていたとしたら、80歳でトータル3000万円です。この時点では、まだ得です。繰上げしなかった場合のトータル金額が上回るのは、80歳10カ月。つまり、そこまで長生きすると、ようやく「繰上げは損だった」ということになります。
これは、年金額が100万円でも、300万円でもほとんど同じです。つまり、年金額にかかわらず、損益分岐点は決まっています。
もう少し細かく分析して、年金から税金や社会保険料を差し引いた手取りベースで見ると、もう少し後ろに下がって82歳あたりになります。
日本人の平均寿命は、男性は約81・41歳、女性は約87.45歳。要するに男性の平均寿命あたりが、損するか、得するかの分岐点ということです。
男性なら、平均寿命まで生きられたら繰上げの選択はうまくいったことになります。一方、女性はもう少し長生きするので、繰上げ受給をすると損をする人が多いといえます。もちろん、結果として、得するのか、損するのかは誰にもわかりませんが。
■「健康寿命」を考慮して悔いのない選択をする
年金を早くもらっている人のなかには、「元気なうちに楽しみたいから」という理由を挙げる人もいます。
そういう人たちが意識しているのが、健康寿命です。健康寿命とは、誰かのお世話になることなく自力で日常生活を送れる期間のことで、平均寿命と比べるとぐっと短くなります。男性は72.68歳、女性は75.38歳といわれています。
「体が元気なうちに趣味や旅行などを楽しみたいから、年金は早めにもらう」。
それも、ひとつの選択肢なのかもしれません。
確実に年金を受け取ることを重視するのか、長生きリスクを重視するのか。自分自身のライフプランと合わせて総合的に判断・選択する必要がありますが、私は自分が決めた受給年齢が正解だと思っています。
繰上げ受給は、年金が少なくなるとはいえ、60~65歳の5年間で働かなくても入ってくるお金が増えるのは事実です。そこをどう考えるかだと思います。
ここまでお話してきた内容でお分かりのように、年金を最大化できる年齢は人によって異なります。どんな老後を送りたいのか、自身の人生プランや健康状態と照らし合わせて、後悔のない方法を選んでください。
■年金はもらい始めた後でも金額を増やせる
意外と知られていませんが、厚生年金は70歳まで加入することができます。年金は65歳からもらい始めるため、厚生年金はそこまでしか入れない、というふうに勘違いしている方が多いようです。
65歳以降も引き続き厚生年金保険料を払い続ければ、年金をもらい始めた後も、年金の額を増やすことができるのです。
65歳以降は、納めた厚生年金保険料が毎年再計算され、年金額に反映されます。これを「在職定時改定」といいます。例えば、65~70歳まで、月額20万円で5年間働いたとしたら年金はいくら増えると思いますか?
1年間で増える年金は、約1万3000円です。5年間働けば、70歳以降1年でもらえる額が約6万5000円増えることになります。この金額は厚生年金の「報酬比例部分」といいます。多く納めるとたくさんもらえます。なお、国民年金は60歳以後増えません。
このことを知らない人が意外と多いのです。日本マーケティングリサーチ機構が2022年1月に日本全国の10~70代の男女を対象に年金制度に関するインターネットを活用した一般調査を行なった結果を見るとよくわかります。
「年金制度が改正されて、65歳以上の労働者の年金が増えることを知っていましたか?」の問いに対して、「知っていた」と答えた人は約33.7%、「知らなかった」と答えた人は約66.3%でした。
■専業主婦の期間が長かった人もOK
さらに、60歳以降、年金を増やせる制度があります。経過的加算という制度です。難しそうに聞こえますが、シンプルに説明すると厚生年金の加入期間40年、つまり480月になるまで別の形で加算される年金です。
給与が、社会保険に加入できる最低金額の月8万8000円以上などの条件に当てはまれば、給与の額にかかわらず年間約2万円上乗せされます。
ただし、全ての人がもらえるわけではありません。どんな人が対象になるかというと、60歳時点で厚生年金の加入期間40年(480カ月)に満たない人です。
厚生年金加入期間が480月に満たない人は、60歳以降も引き続き働くことで、この経過的加算がつきます。
70歳までの間、厚生年金加入期間が480月になるまで、経過的加算がつくのです。
すぐに思い浮かぶのは、専業主婦の期間が長かった人たちでしょう。例えば、20歳から10年間会社員として働いた女性がいます。30歳で結婚して、子育てのために仕事を辞め、夫の扶養に入っていました。そして子育てが一段落した頃にパートタイマーで10年間働きました。
この女性の60歳までの厚生年金加入期間は20年です。経過的加算は厚生年金の加入期間が40年になるまでつくので、この女性がさらに60歳から10年間働くと経過的加算がつきます。
■最低限働いて在職定時改定や経過的加算をつけたほうがずっとお得
経過的加算は給与額に関係なくつくので、この女性が月額8万8000円で社会保険に加入しながら1年間働くと、報酬比例部分も含め年金を約2万5500円増やせることになります。
60歳から5年間働くと年12万7500円、10年間働くとざっくりとした計算ですが、年25万5000円も増えるということです。
年金最大化のためには、特段の事情がない限り、最低限働いて在職定時改定や経過的加算をつけた方がずっとお得です。
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社会保険労務士 YouTuber
年金をはじめとする「老後のお金」をテーマに情報発信を続ける社労士YouTuber。知識や経験のないまま投資を始めて失敗する高齢者が多い現状を変えるべく、「年金最大化生活」を提唱している。かつては大手銀行に勤務し、資産運用のアドバイスを行っていた。自身も20代から資産運用を始め、その運用歴は30年になる。50代に入って子育てが落ち着いたことをきっかけに、社会保険労務士として開業。開業社労士として活動しながら、主婦の経験も生かした生活者目線で専門的な知識をわかりやすく解説する動画も配信。FP2級も保有。
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(社会保険労務士 YouTuber 社労士みなみ)
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