「親の介護」のために仕事を辞めるのはNG…申請すれば"給料の6割"がもらえる「利用率1%の神制度」とは
プレジデントオンライン / 2024年10月14日 7時15分
■老後の医療費は年平均6万円ほどで済む
年金生活で気になるのは、病気や介護にかかるお金でしょう。それでは、老後の医療費はどのくらいをイメージしておけばいいのでしょうか。
2021年度の厚生労働省の推計によると、日本人の生涯医療費の平均は、1人当たり約2815万円です。そのうち、65~99歳までの医療費は1604万円。つまり、生涯医療費の半分以上が65歳以降に使われるということです。
「そんなにかかるの?」と思った人もいるでしょうね。
65歳からこんなに医療費がかかったら、年金だけではとても暮らせそうにありません。しかし、安心してください。この数字は医療費10割負担で支払った場合の金額です。実際の自己負担割合は1~3割なので、あなたが病院の窓口などで支払う金額はもっと少なくなります。
一般的な年金受給者であれば、69歳までは3割負担、70~74歳は2割負担、75歳以上になると1割負担になります。この自己負担割合に当てはめて再計算すると次のような数字になります。
65~69歳までの5年間は、61万5000円。
70~74歳までの5年間は、41万円。
75~99歳までの25年間は、102万5000円。
合計すると、65~99歳までの医療費は約205万円になります。平均すると1年あたり6万円とちょっとです。ありがたいことに、日本の医療制度は、65歳以降の医療費をかなり低く抑えてくれているといえます。
ただし、老後も現役並みの収入を得ている人は自己負担割合が2割あるいは3割になるので、その分だけ医療費は高くなります。
■1カ月で支払う医療費には上限がある
思ったよりも医療費が安くてちょっと安心ですが、さらにうれしいことに、日本の医療制度では1カ月間の医療費の上限額が設けられています。その上限額を超えたら、どんなに医療費がかかっても払わなくていいという制度です。
これを高額療養費制度といいます。この上限額は、70歳以上になると現役世代よりもっと優遇されます。
病院の窓口で高額な医療費を請求されても課税所得145万円未満(年収でいえば370万円以下)の人であれば、窓口で1万8000円、年間の上限も14万4000円です。
住民税非課税世帯の夫婦は、窓口での上限額は8000円です。対象となるのは65歳以上の年金受給者の夫婦世帯だと年金受給額211万円以下、単身世帯だと155万円以下になります。この年金の壁は地域により異なり、地方はこれよりも低くなります。
外来と入院を合わせた世帯ごとの上限額も決まっています。課税所得が145万円未満の場合は、上限5万7600円(多数回であれば、4万4400円)、住民税非課税世帯は2万4600円、年金収入80万円以下の住民税非課税世帯であれば1万5000円です。
通院でも入院でも金銭面で不安になりますが、どれだけ利用しても1カ月の上限額が決まっていれば医療費に関してかなり安心できると思います。ただし、安いとはいえ、高齢になると一度病気になったり、ケガをしたりすると、回復に時間がかかります。まずは、健康を維持することが大切です。
■認知症になったらいくらかかるのか
高齢になると病気も気になりますが、認知症も気になります。認知症に効く新薬が開発されたと話題になりましたが、残念ながら、現段階では治るのではなく、進行を遅らせる薬です。
できれば認知症になりたくはありませんが、今後のためにも知識だけは身につけておきましょう。
2020年時点で、日本の65歳以上の認知症患者数は約600万人とされています。65歳以上の高齢者の約16%です。厚生労働省によると、認知症患者数はさらに増加すると予測されていて、2030年には約700万人、2040年には約800万人に達する可能性があるといいます。
認知症のことで気になるのは、やはりお金のことでしょう。2015年に実施された認知症の医療費に関する調査によると、1カ月の外来の治療費は1人当たり約4万円、入院の場合は約34万円になります。
認知症は進行する病気のため、発症すると医療費が発生する期間が長くなります。負担する医療費の上限が決められているとはいえ、ずっと続くと考えると大きな出費です。
さらに認知症には、お世話をする費用がかかります。24時間365日付き添うことはできないので、訪問介護やデイサービス、ショートステイなど、多かれ少なかれ介護サービスを利用することになります。
■介護保険という強い味方がいる
また、自宅で介護するとなると、認知症患者の安全を確保するために家の改装が必要になることがあります。バリアフリーにしたり、手すりを設置したり、浴室やトイレを改造したりなど、内容にもよりますが大きな出費になります。
公的助成制度が利用できる場合もありますが、自己負担が発生することもあります。細かいところでいえば、通院や介護サービスを利用するための交通費もあります。公共交通機関を利用できるならいいですが、専門の送迎サービスがついたタクシーを利用すると、出費は一気に大きくなります。
自宅で介護できなくなったら専門の介護施設への入所という選択肢も出てきますが、自宅で介護するよりもお金がかかります。
施設の種類やサービス内容によって異なりますが、月額20~30万円以上する施設もあります。「そんなお金ないよ」と頭を抱えるかもしれませんが、そんな時の強い味方が、介護保険です。
■在宅・施設サービス、福祉用具のレンタルまで…
介護保険とは、要介護状態にある65歳以上の者または要介護状態にある40~64歳の特定疾患病による者を社会全体で支える仕組みです。
40歳になると加入が義務付けられています。介護保険を使って利用できるサービスは次のようなものです。
掃除や洗濯、お買い物から入浴や排泄のお手伝いをしてくれたり、健康をチェックしたり、リハビリの指導をしてくれたりする訪問型、施設や病院のサービスを日帰りで受けられるデイサービスやデイケアなどの通所型、短期間宿泊して受けられるショートステイなどの短期滞在型などがあります。
②施設サービス
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護医療院。
③その他のサービス
介護ベッド、車イスなどの福祉用具のレンタルサービス、自宅のバリアフリー化や手すりの設置などの住宅改修(支給限度額20万円。利用者は1~3割負担)。
けっこう、多岐にわたって利用できます。例えば、先ほどご紹介した介護タクシーも介護保険が適用されます。ただし、介護保険の利用には条件があります。
介護保険を利用するには、市区町村の窓口で申請を行ない、要介護認定を受ける必要があります。そして、認定を受けた後、ケアマネージャーと相談して利用するサービスを選びます。
注意したいのは、介護保険には利用できる上限額があることです、限度額は、介護度が高いほど大きくなります。もっとも軽い要支援1で月に5万320円、もっとも重い要介護5で月に36万2170円です。
限度額を超えてもサービスは受けられますが、その場合は自己負担になります。
介護する立場になったときに活用してほしいのが、雇用保険の加入者であれば利用できる介護休業制度です。
■ほとんど知られていない「介護休業制度」
介護休業は希望したら使える制度ですが、2022年度の厚生労働省による調査では、利用率は1%以下。ほとんど使われていません。本当に、もったいないですよね。その理由として「制度自体を知らない」「活用方法がわからない」という意見が聞かれます。
それに加えて、個人的な理由だけではなく「会社で介護休業や介護休暇を使った前例がなく、適切な対応ができなかった」という理由もあるようです。
もし、介護する立場になったら、介護休業制度の活用をお勧めします。
というのは、介護離職すると収入が途絶えるからです。介護で仕事を辞める背景には、親が施設に入りたくないと嫌がり、「私が介護しなければ親がかわいそうだ」という義務感が生まれることなどがあります。心情的には正解なのかもしれませんが、仕事を辞めると、復帰するのは簡単ではありません。高齢ならなおさらです。
また、仕事を辞めると社会的なつながりが薄れ、孤立しやすい状況が生まれます。介護生活が中心になると、心も体も疲弊してしまいます。そうした負のループに陥らないためにも、介護休業制度を活用したほうがいいのです。
■手元にお金がなくても安心できる「限度額適用認定証」
病気の種類や、症状によっては一度に大きな金額が必要になるときがあります。
例えば、がんが発覚したとすると、治療のために1年間で100~500万円の費用がかかることがあります。高額療養費制度で、ひと月で(月の初めから終わりまで)上限額を超えたお金は戻ってきますが、いったん医療機関に払う必要があります。
高額療養費制度を利用する場合は、事前に「限度額適用認定証」を発行してもらっておくと、初めから高額療養費制度が適用された自己負担分だけ支払えばよいことになります。
お持ちの保険証に記載されている保険者(会社の健康保険組合や自治体の国民健康保険組合など)に申請してください。マイナンバーカードを健康保険証として利用できる医療機関では、「限度額適用認定証」がなくても、限度額を超える支払いが免除されます。
通常の高額療養費制度では、申請から3~4カ月後に払い戻しされますが、「限度額適用認定証」を病院の窓口に出せば、医療費の支払い金額が自己負担限度額までになります。
■介護費と医療費の“ダブル負担”は軽減できる
介護サービスを利用する高齢の親が入院した場合など、介護費と医療費が重なり、それが長期になると大きな負担となるケースがあります。
現在、医療保険と介護保険にはそれぞれ負担を軽減するための高額療養費制度や高額介護(予防)サービス費制度があります。しかし、医療と介護の両方を必要とする世帯においては、これらの制度を利用してもなお負担が大きい場合があります。
そこで、高額医療・高額介護合算療養費制度が役立ちます。
この制度では、1年間の医療費と介護費の自己負担分を合算し、設定された限度額を超えた分が払い戻されます。これにより、医療費と介護費用の負担がさらに軽減されます。わかりやすいので、福島県いわき市を例に考えてみます。
70歳以上(一般世帯)の場合の計算例
夫(73歳)世帯主:夫の自己負担額:医療費40万円、介護費5万円
妻(72歳):妻の自己負担額:医療費20万円、介護費30万円
世帯の負担額:医療費60万円、介護費35万円
医療費と介護サービス費を合算するので、
世帯の負担合計額は60万円+35万円=95万円
限度額は56万円なので、
95万円-56万円=39万円
が医療保険と介護保険から比率に応じて支給されます。
2年以内ならさかのぼって請求できるため、過去の医療費、介護費についてもチェックしておきましょう。
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社会保険労務士 YouTuber
年金をはじめとする「老後のお金」をテーマに情報発信を続ける社労士YouTuber。知識や経験のないまま投資を始めて失敗する高齢者が多い現状を変えるべく、「年金最大化生活」を提唱している。かつては大手銀行に勤務し、資産運用のアドバイスを行っていた。自身も20代から資産運用を始め、その運用歴は30年になる。50代に入って子育てが落ち着いたことをきっかけに、社会保険労務士として開業。開業社労士として活動しながら、主婦の経験も生かした生活者目線で専門的な知識をわかりやすく解説する動画も配信。FP2級も保有。
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(社会保険労務士 YouTuber 社労士みなみ)
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