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歯の矯正は10歳までに9割決まる…子供の一生を左右する「上顎」の成長に欠かせない"舌の位置"

プレジデントオンライン / 2024年10月12日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

子供の歯並びを良くするには何をすればいいか。日本歯科大学付属病院臨床准教授で歯科医師の多保学さんは「歯列矯正は成人期になってからではなく、子どもの成長期を利用することで、より小さな負担で歯並びを整えることができる。本来あるべき矯正は、歯並びを無理にそろえることではなく、初めから顎を大きく成長させて、歯がきれいに生えそろう環境を整えることだ」という――。

※本稿は、多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

■抜歯なしでも治せる! 矯正は10歳までに行うのが理想的

歯医者に行ったら、「永久歯が生えるまで様子見です」と言われました――。

そんな経験のある親御さんは多いかもしれません。永久歯が生えそろってから抜歯矯正を行う歯科医師は多く、世の中の矯正専門歯科医師の約9割はそのような考え方でしょう。

一般的に矯正専門医は永久歯の歯並びを治すのを仕事にしています。顎の骨ではなく、基本的に歯を動かすことに注目をしています。しかし、永久歯が生えそろうのを待つよりも、子どもの頃はもっと効果的な矯正治療の方法があります。

歯列矯正には「第1期矯正」と「第2期矯正」の2種類があります。一般的に認識されている矯正治療は第2期矯正で、永久歯が生えそろってから行う、いわゆる成人の矯正です(図表1)。

【図表1】成人矯正
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

歯並びの悪い原因は顎の大きさが足りないことが多く、結果的に永久歯がきれいに並べずにぐちゃぐちゃに生えてきてしまいます。

第2期矯正では一部の歯を抜いてスペースを作り、矯正装置を使って残りの歯をきれいに並べていきます。歯に無理やり力をかけて動かす方法と言えます。それに対して第1期矯正は、歯が乳歯から永久歯に生え替わる10歳くらいまでの間に行う小児矯正です。

子どもの成長期を利用することで、より小さな負担で歯並びを整えることができます。第1期矯正では、主に顎の成長を促すこと、悪習癖を治すことを目的とした治療を行います。

まず、顎の成長について説明していきます。顎が大きく育たないと、歯が生えそろうための十分なスペースができません。子どもの歯が乳歯から永久歯に生え替わる際に、歯が部分的に重なり合ってデコボコした「叢生(そうせい)」になる子どもは44%と半数近くに上ります(図表2)。

【図表2】叢生
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

そのうち約70%が前歯の叢生です。叢生が起こるのは、歯が並ぶスペースが確保できていない不十分な顎の成長のためです。特に小児期に大事なのが上顎です。

上顎は下顎より先に成長し、だいたい10歳までに大きさが決まってしまいます。この10歳が非常に重要なキーワードになるので覚えておいてください。その後、上顎の成長に合わせて、下の顎が13歳から18歳くらいにかけて成長していきます。

■上顎の成長により下顎の成長も影響を受けていく

例えば、上顎の小さい成長の子は下顎の成長も悪いことが多く、結果的に出っ歯になる傾向があります。また上顎の小さい成長の子は、時には下顎が上顎の成長を超えて受け口になっていく子もいます。

つまり、上顎の成長により下顎の成長も影響を受けていくわけです。そのため、人間の骨格はこの10〜12歳くらいまででほぼ決まってしまいます(図表3)。

【図表3】上下顎骨の成長曲線
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

もう一度強調しておきますが、10歳までに上顎を十分な大きさまで成長させることが非常に重要です。次に第1期矯正のもう1つの目的である、悪習癖の除去について説明します。

悪習癖とは、歯並びや噛み合わせに悪い影響を及ぼす癖のことです。口をポカンと開けている口呼吸や指しゃぶり、頬杖をつくこと、姿勢の悪さなどが代表例です。実際は悪習癖が原因で顎が正しい方向に成長しないことが多くあります。

わかりやすい例が、指しゃぶりです。指をしゃぶっているので、前歯が噛み合わない開咬という噛み合わせになってしまいます(図表4)。小児期に顎が大きく育ち、悪習癖を取り除くことができれば、あとは成長とともに歯がきれいな形で並ぶようになります。

【図表4】開咬
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

■5〜6歳くらいから矯正治療を開始するケースも

一般的な矯正治療である第2期矯正の問題は、小さな顎の中に永久歯を無理に並べようとすることです。歯が並ぶスペースを作るため、健康な歯を抜く必要が出てきますし、抜歯後の歯と歯の間のすき間を矯正して埋めることでさらに口の中が狭くなります。

小さな顎に小さな歯並びを人工的に作るので、舌のスペースが狭まって滑舌が悪くなる場合もあります。また悪習癖が治されないまま矯正を終了しますので、後戻りが著しくなります。つまり、歯並びは一旦きれいになったが、口呼吸自体は一切治っていないということがよく起こります。

第1期矯正をしない歯科医師が多い理由は、第2期矯正の方が効率的に治療ができるからだと考えられます。第1期矯正の場合、上顎の骨の成長のコントロールや、悪習癖の除去のためにトレーニングが必要になるため、時間や労力が非常にかかります。悪習癖を治すためのトレーニングにはさまざまなメニューがあり、保護者の方や患者さんの協力が不可欠です。

協力いただけないご家族の場合は、治療効果が著しく下がる場合もあります。そのような不確定要素を考慮して治療するよりも、歯科医師主導で一部の歯を抜いて半ば強制的に歯を動かし歯並びを治した方が時間はかかりません。

私の考える本来あるべき矯正は、歯並びを無理にそろえることではなく、初めから顎を大きく成長させて、歯がきれいに生えそろう環境を整えることです。そして、悪習癖をしっかり治し、安定した状態で矯正治療を終えることです。

そのためには、治療は早ければ早いほど望ましいでしょう。我々のクリニックでは意思疎通のできる5〜6歳くらいから矯正治療を開始する子どももいます。

■舌の位置が適切でないと上顎が育たず歯並びに影響する

子どもの歯並びや噛み合わせをよくするには、前述した通り歯並びの土台となる顎、特に上顎を成長させることが重要になります。では、上顎はどうすれば成長するのでしょうか? 上顎は、舌から押される刺激によって成長します(図表5)。

【図表5】舌の動き
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

そのためには、舌が上顎の前歯の裏の少しへこんだ部分(「スポット」)に常に当たっている必要があります(図表6)。

【図表6】スポット
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

上顎には中央部分に骨の継ぎ目があり、この継ぎ目が開くことによって徐々に成長していきます。舌には強い力があり、常にスポットに当たっていることで、上顎が徐々に開いていくのです。しかし、中には舌がスポットに届かない子どももいます。

この場合は、舌の裏側にある「舌小帯」と呼ばれるヒダが短い可能性があります。この症状を「舌小帯強直症」と言います。舌小帯強直症の子どもは約20人に1人の割合でいます。子どもが「べー」と舌を出した時に、先端がへこんでハート型になれば、舌小帯強直症の可能性があります(図表7)。

【図表7】舌小帯強直症
出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

舌小帯強直症を放っておくと、上顎が育たず、歯並びに影響します。そのため当院では0歳の時に歯科検診を受けていただき、舌小帯強直症の場合は舌小帯をカットすることをすすめています。

一般的なメスを使用する舌小帯切除では、すぐ後戻りしてしまう可能性があります。そこで当院では、「ウォーターレーザー」という治療用器具を使い、症例によっては筋肉の層までカットします。

一般的なメスでの手術は表面のヒダだけカットするので、すぐに後戻りします。また局所麻酔も行わないといけないため、0歳児の場合、アナフィラキシーショックの可能性が出てきます。そのため、0歳の子どもに局所麻酔は一般的には使用しません。

局所麻酔が使えないので、0歳へのメスでの一般的な舌小帯切除術は、大学病院に行き、全身麻酔での処置が必要になります。ウォーターレーザーのメリットは、熱による痛みが少なく、治りが早い創面でカットできることです。

■0歳ですぐに歯科医院を受診し、舌や粘膜に異常がないかを診る

また、レーザーは出血がほとんどないため、患部をしっかり確認しながら手術ができます。なお、当院での舌小帯切除術は後戻りが少ない筋肉層ギリギリまでレーザーで切開をしていきます。

そのため、舌の裏には動脈や神経などが通っているため、熟練した外科技術が求められます。一般開業医ではかなりのリスクを伴うため難しい処置になります。

我々のクリニックでは歯科医師が数十名いますが、この処置を執刀できる技術と正しい知識をもった歯科医師は口腔外科専門医や歯周病専門医の数名です。

ちなみに、私はアメリカの耳鼻科で舌小帯切除術の世界的権威であるDr. Zaghiというスペシャリストに色々と教えて頂きました。彼のクリニックは私の留学していた大学院でもあるカリフォルニア州にあります。

ロサンゼルスの彼のクリニックで数日間、舌小帯切除術の講義とオペの解説を受けてトレーニングしました。当院で舌小帯切除術ができるのは、生後1歳程度までのお子さんです。そのため、重要なのが、0歳ですぐに歯科医院を受診してもらうことです。我々のクリニックでは0歳は歯ではなく舌や粘膜に異常がないかを診ています。

■マイナス0歳からの予防

よく「歯が生えていないのに歯医者さんに行って良いのですか?」と患者さんに聞かれます。もちろん歯が生えていなくても歯科医院を受診するべきです。強調しますが、0歳は舌を見ることが重要だからです。

我々の法人内で妊娠の報告があった患者さんや、妊婦健診にいらっしゃった患者さんには必ず「生まれたらすぐに小児歯科に連れてきてください」とお声がけをしています。これがいわゆるマイナス0歳からの予防です。

残念ながら、日本で一般的に舌小帯強直症が発見されるのは、公的な検診である1歳半検診になります。しかし1歳を過ぎると、子どもは治療中にじっとしていられなくなります。押さえつけて無理に治療すると、子どもの記憶に残り、トラウマになる可能性もあります。

もし1歳までに舌小帯強直症を見逃してしまった場合は、5歳以降にカットすることをすすめています。5歳以降で手術する場合は、舌の筋肉を指示通り動かせるようにトレーニングを受ける必要があります。

このトレーニングをしっかりできれば、発達した筋肉までしっかりと確認しながら手術ができます。トレーニングが不十分だと、筋肉が見えにくく、どこを切っているのかわからない状態で手術を行うことになります。

■母親が乳腺炎になった場合は、子どもの舌小帯強直症を疑う

つまり危険な状態で手術を行うことになるので、トレーニングができることが手術適応の条件になります。舌小帯強直症は、母親が乳腺炎になる原因の1つでもあります。赤ちゃんは舌を使って母乳を飲みます。この「吸啜運動」によって顎や口腔周囲の筋肉が成長します。

舌小帯強直症がある新生児の場合、舌がうまく動かせないため、母乳を上手に吸うことができません。その結果、お母さんの乳房が張って乳腺炎になります。このような症状をお持ちのお母さんは、乳腺炎を治すために桶谷式などのマッサージに行かれます。

結果的にお母さんの母乳が出やすくなり、赤ちゃんは舌や口腔周囲筋を使わなくても母乳を飲めるようになります。新生児の舌や口腔周囲筋が十分に運動できず、顎の発達に影響が出る可能性があります。

多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)
多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

もし乳腺炎になった場合は、子どもの舌小帯強直症を疑い、歯科医院で検査することをおすすめします。また、母乳育児を行うのは、舌や口腔周囲筋を育て、免疫力を高めるためにも重要になります。

まずは周囲にお子さんやお孫さん、そして家族や大切な知人に適応年齢の子がいた場合、歯が生えていなくても歯科医院に行って舌を診てもらいましょう。発見が遅れ手遅れになるのは、子どもの将来にとって良いことは何1つありません。

どうかこの本を手に取っていただいた方は、このことを多くの人に広めていってあげてください。日本の将来の子どもたちのために。

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多保 学(たぼ・まなぶ)
歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授
医療法人社団幸誠会 たぼ歯科医院 理事長、日本歯周病学会指導医、歯科博士。埼玉県浦和駅徒歩1分圏内に3店舗の歯科医院を経営し、スタッフは100名。日本歯科大学附属病院で教鞭をとり、国内外の学会での講演多数。予防と再生医療の知識・技術セミナーを毎月開催し、講師を務める。日本で数少ない日本歯周病学会指導医として歯周病専門医の育成に尽力。日本の8割が歯周病に罹患している事実を知り歯周病専門医資格を取得。「歯周病で歯を失い、物を噛めない」と訴える悩みを解決したく、米国ロマリンダ大学大学院へ留学。帰国後、2015年に生まれ育った浦和にて日本歯周病学会認定研修施設でもある「たぼ歯科医院」を開業。2022年「さいたま・こども矯正歯科」を開院。子どもが通いたくなる環境づくりと最新機器を導入し、0歳からの予防に力を入れる。著作は歯周病・インプラントについて20編以上。DVD4本。

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(歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授 多保 学)

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