「小2で歯磨きを本人任せ」は絶対ダメ…歯科医に聞いた「仕上げ磨きはいつまでやるか」の最終結論
プレジデントオンライン / 2024年10月15日 15時15分
※本稿は、多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■歯磨きの時間が大好きな子供にする親の対応
子どもの歯が生えてくるのは、生後6カ月くらいからです。お子さんに仕上げ磨きをこれからスタートされる方は、まずはお口の外側から「触られる」という感覚になれてもらうようにお顔の周りをやさしく触れたり、体をマッサージしたりしながら準備体操をしましょう。
そして「歯磨きって気持ちがいい! 楽しい!」と感じてもらえるように、お気に入りの歌を歌いながらお子さんの目をしっかり見つめて、スキンシップを取りながら、歯磨きタイムを作ってあげましょう。
その時のポイントとして、歯磨きする方は笑顔で楽しそうに接する。歯を磨くことだけに集中すると、歯磨きする人の顔の眉間にしわが寄ったり、怖い顔になったりするのでお子さんが不安になり、泣いてしまったりすることがあるでしょう。
1歳前くらいまでにふれあいながら歯磨きの時間を親子のコミュニケーション時間としてお子さんの安心感を得ることができれば、歯磨きの時間が大好きなお子さんになるでしょう。
しかし「うちの子は歯磨きが苦手なんです」
私の医院を訪れたご両親から、こんな声をよく聞きます。このような歯磨きの嫌いな子どもを、どのようにして虫歯から守れば良いでしょうか。
■最低1日2回、朝食後と夕食後に必ず磨く
大切なことは、ご両親が子の歯磨きを継続的にしてあげることです。当院では、子どもに歯が生えてきたタイミングで、歯磨きの方法をまずご両親に伝えます。子どもが自分で歯を磨くようになっても、磨き残しをなくすため、その後に必ず仕上げ磨きをしてあげてください。
子どもの歯を磨こうとすると、必ず抵抗されますので、床に座って両足の間に子どもを寝かせて、子どもの両腕を、親の両脚でそれぞれしっかりと抑え込みます。そして、親のお腹の辺りに子どもの頭を置き、真上から子どもの歯を観察しながら磨いてあげます。
子どもはとにかく嫌がりますから、泣かれても抵抗されてもひるまずに、しっかりと口を開けさせて、歯の汚れを落としてあげてください。歯磨きをするタイミングは毎食後が望ましいですが、最低1日2回、朝食後と夕食後に必ず磨くようにします。
それだけでも、虫歯になる確率はものすごく下がるという調査結果があります。歯ブラシはヘッドの小さい子ども用のものを使用してください。歯磨き粉は、虫歯を予防する働きのあるフッ素入りのものを使いましょう。
■小学2年生で「歯磨きを本人任せ」はやってはいけない
仕上げ磨きは、小学4年生まではしてあげてください。
小学2年生くらいになると、「もう自分でできるだろう」と歯磨きを本人任せにしてしまう親御さんもいますが、小学生のうちは、子ども自身で歯磨きを管理することはなかなかできません。
特に小学4年生までの朝・晩の歯磨きは、親が責任を持って仕上げ磨きを行ってください。そうすれば、子どもが虫歯になる可能性は限りなく少なくなるでしょう。
フッ素入りの歯磨き粉の普及や、正しい歯磨きの方法が啓蒙されてきたこともあり、虫歯がある子どもの割合は、厚生労働省の「歯科疾患実態調査(令和4年度)」によると、年々減少傾向にあります。
しかし、その一方で、虫歯のある子どもは一定数存在します。中には、口の中が虫歯だらけの子どももいます。多数の歯で同時に急速に進行する虫歯のことを「ランパントカリエス」と言います。
ランパントカリエスに特になりやすいのは、普段から糖分の入った甘い飲み物を飲んでいる子どもです。こうなってしまうのは親の怠慢であり、現在では子どもへの虐待(ネグレクト)に当たる可能性が高くなります。
10歳までの間は、子どもの虫歯予防は親の責任です。1日最低2回、フッ素入り歯磨き粉を使って仕上げ磨きをしてあげることで、子どもを虫歯から守りましょう。
■赤ちゃんは2歳半頃までには全ての乳歯が生えそろう
虫歯は、虫歯の原因となる細菌と飲食回数、ブラッシング、フッ化物の利用これらのバランスが崩れると起こります。したがって、虫歯のある人の口の中には多かれ少なかれ虫歯菌が存在します。
そして最近の研究では、歯面表層に定着するとされているミュータンス菌が、歯が生えていない乳児の舌からも同菌のDNAが見つかり、粘膜表面にも定着する可能性があるということがわかりました。
一般的には「歯がない時期だから、虫歯の原因菌が定着することはない」と考えられますので、あまり神経質になる必要はありません。しかし、歯が生え始めると歯の表面が虫歯菌の「巣」となり細菌が棲みつきやすくなります。
そのため、これからお話する「感染の窓」についてはよく理解しておきましょう。赤ちゃんは生後5〜6カ月頃から歯が生え始め、2歳半頃までには全ての乳歯が生えそろいます。全て生えそろうと合計20本になります。
この時期のうち、生後19カ月(1歳7カ月)〜31カ月(2歳7カ月)の時期は、「感染の窓」が開く時期と言われています。この頃の赤ちゃんの口の中は、乳歯が生えそろう前の不安定な状態で、虫歯菌が定着しやすい時期と考えられています。
虫歯菌が定着する割合は、生後19カ月で25%、31カ月で75%というデータがあります(Coufield.P.W1993)。自治体で行われる1歳半健診や3歳児健診でも、「感染の窓」が開く時期に虫歯菌への感染を防ぐために歯科検診が行われています。
口の中の細菌のバランスは、3歳までに決まります。そのため、それまでに虫歯菌に感染すると、虫歯菌の生息しやすい口内環境となり、虫歯になりやすい子どもに育ってしまいます。逆に、3歳まで虫歯菌の感染を防ぐことで、口の中の細菌バランスを整えることができ、その結果、虫歯菌が生息しにくい環境にすることができます。
■3歳まで虫歯に感染しなければ、成長過程で虫歯になる可能性は4分の1
実際に、3歳までに虫歯が1本でもあった子どもと虫歯がなかった子どもとで、その後の虫歯になる可能性を比較調査したデータでは、3歳までに虫歯がなかった子どもが虫歯になる可能性は、虫歯があった子どものわずか4分の1でした。
したがって、3歳までは、虫歯に感染させないようにすることが重要です。元々虫歯菌のない子どもは、どうやって虫歯菌に感染するのでしょうか。
一般的には、両親や祖父母などがスキンシップをしたり食べ物や飲み物を与えたりする際に、唾液を介して菌が移ることが多いと言われています。
しかし、虫歯予防のための対策をしっかり取れば、菌が子どもに定着することは避けられます。それよりも、3歳までに虫歯になる子どもは、食生活に問題があることが多いです。
例えば、常にお菓子を食べていたり、スポーツドリンクやジュースなど糖分の入った飲み物を飲んでいたりする「ながら食べ」は、虫歯菌の繁殖を促します。このようなながら食べをさせず、朝・晩の歯磨きを徹底することで、虫歯を予防することができます。
なお、「感染の窓」はさらにもう2段階あります。「6歳臼歯(第一大臼歯)」が生えてくる時期と、6歳臼歯よりもさらに奥に「12歳臼歯(第二大臼歯)」が生えてくる時期です。いずれの歯も、きちんと生えてくるまでは歯ブラシが届きにくいため、注意が必要です。
■乳歯で虫歯になっても安心、永久歯で虫歯にならなければ結果OK
前節で「虫歯予防は3歳までが肝心」という話をしました。もし既に虫歯になってしまった子どもの両親が読んだら、「3歳までに虫歯になってしまったら、もう手遅れでしょうか?」といった質問が聞こえてきそうですが、安心してください。
もし3歳までに虫歯になってしまったとしても、決して手遅れではありません。なぜなら、3歳までの歯は、まだ乳歯だからです。乳歯は6歳から7歳くらいにかけて抜け始め、永久歯に生え替わります。
そのため、もし乳歯が虫歯になってしまったとしても、その歯は抜けてしまいます。虫歯菌は口の中に残りますが、永久歯に生え替わるタイミングで、フッ素入り歯磨き粉を使ってしっかりと歯磨きをすれば、虫歯菌の酸によって歯が溶ける「脱灰」よりも、溶けた歯を修復する「再石灰化」が優位な状況を作ることができ、虫歯にならない永久歯が生えてきます。
たとえ口の中が虫歯だらけの「ランパントカリエス」のような状態であっても、永久歯に生え替わるタイミングでしっかり歯磨きをして虫歯菌をコントロールできれば、永久歯が虫歯になることはありません。永久歯が虫歯にならなければ、問題はありません。
乳歯の虫歯には、知っておきたいポイントがいくつかあります。乳歯の虫歯は黒くならずに白いことが多く、やわらかいため進行が早くなります。また、子どもは痛みの感覚が十分に発達していないため、痛みがあっても気づきにくい傾向があります。
■奥歯の歯と歯の間の磨き残しに要注意
乳歯に虫歯ができやすいのは、奥歯の歯と歯の間です。磨き残しが生じやすく、見えにくいため虫歯ができても気づきにくい部分です。もし乳歯が虫歯になってしまった場合、治療方法は2つあります。
1つは、虫歯を削ってプラスチックや銀歯などの詰め物をする外科的処置。もう1つは、虫歯の進行を遅らせる薬を塗る予防的処置です。乳幼児は治療を嫌がってなかなかじっとしていられず、外科的処置が難しい場合が多くあります。
無理に治療しようとすれば、子どもに恐怖心を与えてしまいます。このような場合は予防的処置を取り、「サホライド」という薬を患部に塗り、虫歯の進行を抑制します。サホライドの主成分はフッ素と銀の化合物(フッ化ジアンミン銀)で、歯の修復を促すとともに殺菌する作用があります。
ただしサホライドには、塗ると銀の成分が酸化するため歯が黒く変色する(図表1)、味が苦いといったデメリットがあります。また、サホライドを塗ったからといって虫歯が完全に進行しなくなるわけではありません。
サホライドはあくまでも虫歯の進行を遅らせるという使い方で、定期的な塗布も必要になります。サホライドで進行を遅らせた虫歯は子どもがきちんと上手に歯科医院のチェアに座れるようになったタイミングで虫歯を削って詰める外科処置へ移行すると良いでしょう。
または乳歯と永久歯の交換期であれば抜けて永久歯に生え替わるのを待つのも手です。乳歯が虫歯になった時は、歯科医師と相談し、外科処置か予防的処置のいずれかを行った上で、フッ素入りの歯磨き粉で歯磨きをして虫歯の進行を防ぎます。
また、定期的に歯科医院で虫歯の状態を診てもらいながら、永久歯に生え替わるのを待ちます。
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歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授
医療法人社団幸誠会 たぼ歯科医院 理事長、日本歯周病学会指導医、歯科博士。埼玉県浦和駅徒歩1分圏内に3店舗の歯科医院を経営し、スタッフは100名。日本歯科大学附属病院で教鞭をとり、国内外の学会での講演多数。予防と再生医療の知識・技術セミナーを毎月開催し、講師を務める。日本で数少ない日本歯周病学会指導医として歯周病専門医の育成に尽力。日本の8割が歯周病に罹患している事実を知り歯周病専門医資格を取得。「歯周病で歯を失い、物を噛めない」と訴える悩みを解決したく、米国ロマリンダ大学大学院へ留学。帰国後、2015年に生まれ育った浦和にて日本歯周病学会認定研修施設でもある「たぼ歯科医院」を開業。2022年「さいたま・こども矯正歯科」を開院。子どもが通いたくなる環境づくりと最新機器を導入し、0歳からの予防に力を入れる。著作は歯周病・インプラントについて20編以上。DVD4本。
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(歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授 多保 学)
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