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「金利上昇でこれまでのように住宅を購入することが難しくなる」そんな未来を回避するための"唯一の方法"

プレジデントオンライン / 2024年10月10日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RRice1981

金利が上昇した場合、住宅購入にはどんな影響が出るのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「住宅ローンには大きな影響が出る。金利が1%上がれば、かなりの層がこれまでのように住宅を購入することが難しくなる」という――。

■2026年には日本の政策金利は1%を超えるだろう

この先やってくるのが円安なのか円高なのか、株高なのか株安なのか、経済の先行きが読みづらい状況になってきました。理由は本来独立性をもつべき日銀の金融政策が極めて高度な政治問題になっているからです。

先に重要なことをお話ししておきます。この先、1年先から2年後あたりに金利は確実に上がります。もうひとつ重要なことをお話ししておくと、それまでの1年間はそれほど金利は上がらないでしょう。わかりやすく表現すれば「当面は日本の政策金利は0.25%程度の状況が続くが、2026年にはおそらく1%を超えているだろう」という予測です。

そうなると住宅ローンに大きな影響が出ます。金利が1%上がればかなりの層がこれまでのように住宅を購入することが難しくなります。一方で固定金利を使えば金利が上がる前に駆け込みできる可能性があります。なにしろ政策金利が上がるまでの猶予が1年程度ありそうだからです。その影響について記事を書きたいと思います。

■「植田ショック」と「石破ショック」

先に、今、日本の金利がどのように政治問題になっているのかを簡単にまとめます。金利上昇が先送りされた事情の解説です。

日銀が今年3月にマイナス金利を解除し、7月に追加利上げを行いました。そこまでは既定路線とも言えたのですが、市場がハト派だと考えていた日銀の植田総裁が「金利0.5%を壁として意識していない」という趣旨の発言をしたことで市場が動揺します。

本格的に日本の金利が上がっていく可能性が急に出てきた。そのことによって植田ショックと呼ばれる円高と株式市場の大暴落を引き起こしました。日銀はあわてて事態収拾に動き、副総裁が当面利上げをしない方針を明言し、市場の動揺は収束します。

そしてふたたび市場が動揺したのが9月27日の自民党総裁選です。一時、アベノミクスの継承者と目された高市候補が優勢になったことで1ドル=146円台の円安になったところから、決戦投票で石破総裁が誕生した瞬間に逆の1ドル=142円台の円高が起きました。

このとき長期金利も上昇傾向を示しました。それまでの石破氏の発言から石破総裁が誕生すれば金利上昇を容認するだろうと市場が考えているからです。結果、その夜にシカゴの日経平均先物が大幅に値を下げ、週明け月曜日の株価はその流れを引き継いで日経平均が1910円安となり、石破ショックと呼ばれたのです。

この状況を見て石破新総裁は「必要であれば財政出動する」など総裁選中とは打って変わった政策を口にすることになり、それを信じる形で為替はふたたび円安方向に、株価は上昇に転じています。

■植田総裁も石破総理も、利上げに踏み出せない状況に

ひとことで状況をまとめると、日銀の植田総裁も、石破総理大臣もどちらも本当は利上げが必要だと考えている一方で、当面はそこに踏み出すことができない状況に陥ってしまったということです。ですからこの先、1年くらいの間は政策金利が大きく上がることはないでしょう。せいぜい0.5%の壁を意識しながらその直前ぐらいまでの小幅な利上げでお茶を濁すことになると考えられます。

日銀の植田総裁(左)と握手する石破首相=2024年10月2日午後、首相官邸
写真=共同通信社
日銀の植田総裁(左)と握手する石破首相=2024年10月2日午後、首相官邸 - 写真=共同通信社

問題はその後です。低金利を放置している限り、悪い円安のリスクが常につきまとい、結果として悪いインフレが起きます。賃金上昇以上に生活費が上昇して、実質賃金が下がってしまいます。ですから「選挙」や「支持率」をそれほど気にしなくてもよくなった時、具体的には来年の参院選の後、政治が落ち着いたころに、再び「金利が上がる世界」が現実になってくるというのが冒頭の予測です。

さて、ただでさえ住宅価格が高騰しているのに、それに加えて政策金利が上昇したら住宅ローンを借りる人はどうなるのでしょうか?

■金利が1%上がるごとに返済総額は1000万円強増える

一般的なモデルとして夫婦で4500万円のローンのケースを考えてみましょう。首都圏の新築マンション価格の中央値(注:平均値ではない)が6000万円強ですから、4分の1の頭金を用意し残り4分の3をローンにすれば借入額は4500万円になります。これをこの記事ではモデルケースとさせていただきます。

35年固定の住宅ローンを借りる場合、金利が1%上がるごとに元利均等方式での返済総額が1000万円強増えます。

具体的な計算はこんな感じです。今、日銀の政策金利が0.25%程度で、住宅ローンの固定金利商品のフラット35の金利が1.82%程度です。これにはまだ7月の日銀の利上げが反映されていないことを考慮して、フラット35がこの先は2%程度になるとします。4500万円のローンは35年後の返済完了時には総額で約6275万円の支払額になります。

それをベースケースとして、1年後に政策金利が1%上がってフラット35が3%の条件になったとします。そのタイミングで4500万円のローンを組んだ場合の返済総額は約7287万円、4%なら約8379万円になるという計算です。返済総額は1%の金利上昇でざっくり1000万円強増えるのです。

変動金利の場合はというと5年ルールがあって、金利が上昇しても見直すのは5年後になります。一見有利に見えますが、金利が安いうちに借りたとしても日本の長期金利が上がってしまえば、5年より先の支払額は上がり続けます。

6年目から住宅ローンの変動金利が1%上昇すれば、35年間の完済までの支払総額は650万円ほど増えてしまう計算です。上昇が1%で済むとは限らないので、まだ金利が上がる前の今なら思い切って長期固定金利に変更したほうがこの先はいいかもしれない。難しいところです。

■この先の住宅価格は「今の水準と同じ」か「それ以上」

そしてもうひとつ大きな問題が、果たして4500万円程度のローンで今後も住宅が買える状況が続くのかという話です。そこで未来の住宅価格がどうなるのかを考えましょう。

この先の住宅価格については予測に諸説があります。金利が上がると需要が減るから住宅価格が下がるという楽観論もあるのですが、状況はそれほど簡単ではありません。なにしろ最近は資材費の値上げに加えて、建設に関わる人件費が高騰しています。

この建設に関わる原価上昇のトレンドは変わらないと予想されるため、この先の住宅価格は、中央値あたりの普通の物件でも今の水準と同じかそれよりも上に高止まりすることを前提に考えたほうがいいのではないかと私は予測しています。

2024年上期の首都圏の新築分譲マンションの平均価格(さきほどの中央値ではなく平均の価格)は7677万円です。この平均値は都心部の超高額物件にひっぱられた数字です。たとえば東京23区の平均は1億円を超えていて、中でも最高額の千代田区の平均は2億7000万円近くになるのですが、逆に最低額の墨田区の平均が4000万円強だったという具合です。

■結局のところ「金利」が重要になる

そもそも東京中心部の千代田区、中央区、港区、渋谷区といったエリアはもはや富裕層ないしは外国人向けの新規物件しか販売されないようになるでしょう。そのような需要がある以上、デベロッパーは高級物件を開発するのが経済合理性として正解だからです。

一方で東京の中心部やタワーマンションを一旦あきらめて、首都圏全体で考えれば、住宅価格はコストと需要に見合った水準に落ち着いています。さきほど首都圏の新築マンション価格の中央値が6000万円強だと申し上げたように、新築マンションや戸建て住宅で5500万~6500万円ぐらいの物件は今後も売れ筋の中心になるはずです。

ただしここにもうひとつ落とし穴があります。結局のところやはり金利が重要だということです。

住宅ローンを組むにあたって、適正な収入水準の目安があります。これまではよく「年収の7.5倍」という目安が使われていました。実はここに落とし穴があります。これまでの目安は金利が変わらない世界を想定していたのですが、金利が上がる世界ではこの常識が変わります。

具体的には、金利がある世界ではもうひとつのよく使われる目安である「返済額が年収の30%」という上限の目安の方が意味を持つようになります。ちなみにこれらの目安では収入は手取りではなく総支給額で計算します。

家のカギと電卓
写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk

■昔のように安く新築マンションを作ることはできない

「返済額が年収の30%」を基準に計算してみると4500万円のローンを余裕をもって組めるのはフラット35が2%の時代であれば夫婦合計で年収600万円以上の世帯なのですが、住宅ローン金利が3%に上がれば年収700万円、ローン金利が4%なら800万円が世帯年収の下限になります。

モデルケースの借り入れでは、金利が1%上がるごとに住宅ローンを組める年収が100万円上がってしまう。ないしは夫婦の合計年収が600万円の世帯では余裕をもって組めるローンが1%の金利上昇で4500万円から3900万円へと減ってしまいます。

だとしたら、住宅の未来は結局どういうことになるのでしょうか?

最近の住宅価格の高騰は東京の都心部に関しては富裕層向け需要が原因ですが、それ以外の首都圏全般では原材料費や人件費高騰が主因です。首都圏以外でもこの事情は同じです。ですから住宅ローン金利が上昇して、ローンを組める需要が減った場合、起きることは新築物件の下落ではなく、新築物件自体の新規販売戸数が減少することになるでしょう。マンションを昔のように安くは新築できないのです。

■「金利が上がる前に住宅ローンを固定金利で組む」という選択肢

とはいえ、少子高齢化が進むことで今後は中古物件が豊富に市場に出回るでしょうから、庶民が住宅が買えなくなるという事態までは想定する必要はないと私は思います。住宅ローンでマイホームというのは、今後も日本人の基本的なライフスタイルであり続けるでしょう。

明るいリビングルーム
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

これまで日本は長期にわたってゼロ金利ないしはマイナス金利でしたから住宅ローンも借りやすい時代が続いていました。これから訪れるであろう「金利がある世界」では、それに応じて経済も発展して実質賃金が上昇することも期待したいところです。ただし1%の金利上昇に対して年収が600万円から700万円へと17%上がらなければ同じローンが組めないというのは高いハードルでしょう。

結論としては金利上昇で、これまでのような広さや立地のマイホームは手に入らなくなるというのがこれからの未来に起きることです。

その未来を避ける唯一の方法は、金利が上がる前に住宅ローンを固定金利で組むことかもしれません。政策金利を日銀や政府が上げにくくなったこの先一年間の猶予は、若い世代の方の人生にとって重要な決断のタイミングなのかもしれないのです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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