口を出さずにカネを出す「やさしい父親」がいちばん危険…「学校に行かない子ども」が育つ家庭の共通点
プレジデントオンライン / 2024年10月12日 8時15分
※本稿は、高濱正伸、杉浦孝宣『もう悩まない!不登校・ひきこもりの9割は解決できる』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■コロナ禍で急増した不登校
2020年3月に当時の安倍晋三首相は、新型コロナウイルス感染症への対策として小中高の一斉休校を実施しました。その後も延長され、5月の下旬から6月ごろまで各学校で休校の措置がとられたのです。
夏休みよりも長い約3カ月もの間、強制的に日本全国の小中高校生が、「不登校・ひきこもり状態」にされてしまったわけです。
ただでさえ、夏休みやゴールデンウイークなどの長期休みの後は、不登校になりやすいのです。
長期休みで学校に行かなくてもいい日が続くと、朝早く起きる必要がなくなり、深夜までゲームや動画にのめり込んでしまって、生活リズムが崩れてしまいます。
休みが終わっていざ学校が始まっても、この狂った生活リズムを立て直すことができなくなることが、不登校につながるのです。
休み期間が前代未聞の3カ月も続いたわけですから、大きな影響を及ぼさないわけがありません。
私は何度もその危険性を新聞やテレビなどで指摘してきましたが、結局そのとおりになってしまいました。不登校もひきこもりも大きく増加したのです。
実際のデータでも、ひきこもりになったきっかけが新型コロナウイルスの流行にあるという調査結果が出ています。
内閣府の「こども・若者の意識と生活に関する調査」(令和5年3月)によると、ひきこもりの人(※)にその状態になった最も大きな理由をたずねると、「新型コロナウイルス感染症が流行したこと」と答えた割合は、10~14歳では36.1%で1位、15~39歳では25.7%で1位、40~69歳では23.1%で、1位の「退職したこと」に次いで2位と、有意に高くなっています。コロナがひきこもりを急増させたのです。
※ひきこもりの人とは、内閣府の「こども・若者の意識と生活に関する調査」(令和5年3月)の報告書のなかで、「ふだんは家にいるが、自分の趣味などの用事のときだけ外に出かける」「ふだんは家にいるが、近くのコンビニなどにはでかける」「自分の部屋からは出るが、家からは出ない」「自分の部屋からほどんと出ない」と回答した人のうち、現在の外出状況になってからの期間が6カ月以上である人のことを指す。
■中学受験で不登校になる子どもたち
39年間の長い指導経験から、不登校になる子たちに一定の傾向があることがわかってきました。
まず、早期教育や習いごと、中学受験などを子どもの意思を無視してやらせている場合です。
私のところに相談に来た不登校・ひきこもりの生徒に、「人生で一番がんばったことは何か」と聞くと、ほとんどの子が「中学受験」と答えます。
小学生のうちはまだ親に反抗できませんから、自分でも気づかないうちに親の期待に応えようとしていて、無理をして勉強や習いごとをがんばるのです。
「小学校時代はほぼ毎日、塾や習いごとがあった」と話す子も少なくありません。
でも、中学生になって自我が強くなってくると、親の言うとおりにすることに反発し始めます。
中学受験が終わると燃え尽き症候群のようになってしまうこともよくあります。入学してすぐ、4月や5月のゴールデンウイーク明けから不登校になってしまうのです。
もしくは、1学期中はなんとかがんばっていても、夏休みで緊張の糸が切れると、もう2学期からは行けなくなってしまいます。
■「子どもに甘い親」は要注意
もう一つの傾向は、親が子どもに甘すぎる対応をしてきた場合です。
特にお父さんが子育てにあまり関わってこなかった、お父さんが甘い、という場合が多く見られます。
たとえば、家で朝起きてきても、「おはよう」の挨拶もせず、お手伝いもせず、食べたら食べっぱなし、服は脱ぎっぱなし、すべて親がやってくれるのが当然という態度に育ててしまっている場合です。
マナーや礼儀、生活習慣をきちんとしつけていないのです。生活習慣がきちんとしていない状態で不登校になれば、あっという間に昼夜逆転してしまいます。
そして、一番よくないのは、金銭面で甘い親です。
親が子どもの言いなりになって、ゲームで何十万円もの課金を許したり、アニメグッズを何十万円も買ってあげていたりします。
「ゲームの課金をさせてくれたら、都立高校を受験する」と親に要求するひきこもりの子もいました。お父さん、お母さんに要求を拒否するように伝えましたが、結局、要求をのんでしまいました。合格したものの、その子はその後もひきこもったままです。
そもそもお金は働いて得るものです。
それなのに、高校生以上にもなって、家で何もしないで親がお金をくれるのでは、外に出て働こうという気もなくなってしまいます。親自ら、子どもが立ち直る機会を奪っているのです。
■子どもに向き合えない親が増えている
お父さんが本気を出して向き合わないと、子どもの不登校・ひきこもりを治すことはできません。
「仕事で忙しい」「子育ては妻に任せている」という人がいますが、なんのために働いているのでしょうか。子どもを育てるためではないのですか。
子どもが不登校やひきこもりになったら、それは一大事です。そこに全力で向き合わなければなりません。
子どもが部屋でバリケードを作って出てこないというケースで、「お父さんがバリケードを破壊してください」とお願いすると、「え!それ、ぼくがやるんですか」と答えたお父さんもいました。
「もうちょっと見守ったほうがいいのではないですか」と消極的なお父さんもいます。子どもに対峙(たいじ)できないお父さんが増えていると感じます。
お父さんにいわゆるエリートが多いのも特徴です。東京大学などの国公立大や有名私大など一流大学を出た人、医師や大学教授など社会的地位の高い職に就いている人の子どもが、不登校・ひきこもりになってしまうことが多いのです。
お父さんに話を聞くと、たいていは地方の公立高校出身で、自分の力で大学受験を突破してエリートになっています。
私から見ると、自分の子どもも同じように育てればいいのに、なぜ早期教育や中学受験をさせるのかと不思議に思います。
■なりやすいタイミング①中学1年生
不登校やひきこもりになりやすい最初のタイミングは、中1のとき、いわゆる「中1ギャップ」です。
小学生のときと違って、部活動や委員会など縦の関係が重視されるようになります。これまで「〇〇君、△△ちゃん」と呼んでいた近所のお兄さんやお姉さんを、急に「先輩」と呼んで、敬語で話さなければなりません。
勉強も、中間テストや期末テストという形式になって、学年での成績順位が出て、他人と比べられるようになります。こうした変化に対応できないのです。
さらに、中学受験をしてきた子たちは、受験科目に英語がない学校がほとんどですから、小学校では英語を本格的に勉強していません。
中学に入ると、本格的にやってきたクラスメートもいるなかで、英語でつまずいてしまうのです。不登校になった原因に「英語が嫌で学校に行かなくなった」と話した子どもを何人も見てきました。
英語に限った話ではありませんが、特に私立の進学校ではものすごいスピードで授業が進みます。
中1から高2までの5年間で中高6年分のカリキュラムを終わらせて、高3の1年間は大学受験対策に充(あ)てるためです。そのスピードについていけず、挫折してしまうのです。
中学受験で燃え尽き症候群のようになってしまい、もう勉強する気がなくなってしまう場合もあります。
地元の小学校では上位の成績でも、進学した中学校では成績が下のほうになってショックを受けてしまう場合もあります。
これらの原因が重なって、中1は不登校になりやすいのです。
■なりやすいタイミング②高校1年生
次のタイミングは高1のとき、いわゆる「高1クライシス」です。
一番の原因は、制度の違いです。中学までは義務教育なので、いくら成績が悪くても、欠席が多くても、全員が在籍したままで、進級も卒業もできる中学校がほとんどです。
しかし、高校は義務教育ではないので、赤点が3教科以上あると進級できないなど、各学校によって成績の規定があります。
また、たいていの高校では年間授業日数の3分の1以上欠席すると、進級できません。9割の学校で年間授業日数を190~209日の間に設定しているので、1年に60~70日休むと進級が難しくなってきます。
たとえば、ゴールデンウイーク明けから学校に行かなくなった場合、9月ごろには進級が難しくなってしまいます。
成績不振や出席日数が足りなくて進級できなくなると、留年か退学のどちらかです。
留年して1学年下の後輩たちと同じクラスで勉強するのは苦痛なので、退学するケースがほとんどです。
そのため、高校の退学者は高1が一番多くなっています。多くは通信制高校に転校しますが、そのままひきこもりになってしまうこともあります。
■なりやすいタイミング③高校卒業直後
3度目のタイミングは高校卒業直後です。
大学に入ると、高校までのように毎日担任の先生が出欠を確認しませんし、欠席が続いても誰も何も言ってきません。大学になじめないままでいると、だんだん行かなくなり、ついには中退してしまうのです。
実際、大学や短大などの中退率は増える傾向にあります。2022年度の中退者は6万3098人で全学生の2.09%です。50人に1人が中退しています。
大学受験に失敗して浪人する場合も、予備校では授業に出てこない生徒にいちいち出席を促しませんから、だんだん行かなくなり、予備校不登校の状態になってしまうのです。
■なりやすいタイミング④就職
4度目のタイミングは就職です。
就職活動がうまくいかないで、就職先が決まらないまま卒業すると、そのままひきこもりになってしまいます。
就職できた場合でも、最近の若者はすぐに職場の人間関係や仕事そのものが「合わないから」と言ってやめてしまいます。
■専門家が考える「ひきこもり」の定義
不登校は30日以上、ひきこもりは6カ月以上と定義されていますが、私は1カ月でも、親とコミュニケーションがとれていない“鎖国状態”の場合は、ひきこもりだと考えています。
中学生や高校生のケースでは、実際に、親と口をきかない、昼夜逆転している、お風呂に入らないで、髪の毛やひげがボーボーに生えたままになっている、という状態で相談に来ることが多くあります。
こういった状況になると、自分一人で立ち直るのは困難です。なるべく早く相談機関に相談して、第三者が介入することが重要です。
一方、学校に行っていなくても、親とコミュニケーションをとっていて、アルバイトをしたり、友だちと遊んだりしている場合は、ひきこもりではありません。学校に行かないという選択肢もありますから、自然と自分の道を見つけて立ち直っていきます。
こうみてくると、現代はどんな子どもでも不登校になる可能性があるわけです。
今は小学生や中学生で元気に学校に通っていても、あるとき急に不登校になり、居場所がなければそのままひきこもりになってしまう可能性があるのです。
そうならないように、この後、どのような態度で子どもを育てればいいか、本書でお話ししていきます。
また、すでに不登校になってしまった場合でも、20歳くらいまでの年代でしたら、いくらでも立ち直れます。その方法もこれからご紹介していきます。
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一般社団法人 不登校・引きこもり予防協会理事長
1960年生まれ。小学3年生で保健室登校を経験するも、養護学園に半年間通い克服。カリフォルニア州立大学ロングビーチ校卒業後、不登校や高校中退、ひきこもりの支援活動を36年以上行っている。2020年、新たに「一般社団法人 不登校・引きこもり予防協会」を設立し、AIによる無料での不登校・ひきこもりステージ判定などにも取り組む。著書に『不登校・ひきこもり急増』、『不登校・ひきこもりの9割は治せる』(光文社新書)など。
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(一般社団法人 不登校・引きこもり予防協会理事長 杉浦 孝宣)
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