見守るだけでは子どもの"社会復帰"はムリ…「学校に行かない子」「自宅に引きこもる子」が日本中に増えたワケ
プレジデントオンライン / 2024年10月13日 8時15分
※本稿は、高濱正伸、杉浦孝宣『もう悩まない!不登校・ひきこもりの9割は解決できる』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■10年以上のひきこもりでも社会復帰は可能
子どもが不登校になってしまうと、親は「誰にも言えない、知られたくない」と問題を一人で抱え込んでしまいがちです。このままひきこもりに発展してしまうのではないかと絶望してしまう人も多いです。
特にお母さんが専業主婦の場合は、ほぼ一日中家に一緒にいることになり、子どもを腫れ物のように扱って、ギリギリの精神状態になっていることが多いのです。
でも、大丈夫です。
いくらでも立ち直る方法はあります。絶望する必要はありません。現に、私は39年間で1万人以上を立ち直らせてきました。
ひきこもりから大学生になったり、公務員になって働いたり、結婚して子どもに恵まれたり、みんなそれぞれに立ち直って立派な社会人になっています。
10年以上ひきこもっていた子が社会復帰できた例もあります。中学2年生から24歳までひきこもっていた女性が、私が指導していた高卒支援会にメールで相談をしてきました。翌日には面談をし、通信制高校、サポート校に入学しました。3年かけて卒業し、短大に進学、卒業後は公務員になり、結婚もしました。こんな例もあるのです。
だから、まずは落ち着いて、お子さんがどんな状態にあるのか、客観的に判断しましょう。
■子どもの状況を把握しよう
不登校は年間30日以上登校できない状態と、文部科学省が定義しています。
一方、ひきこもりは外出しない状態(前稿で説明したとおり)が6カ月以上続いている状態と内閣府が定義しています。
ただ、私は、1カ月でも親とまったくコミュニケーションがとれていない場合は、ひきこもりだと考えています。
そして、ひきこもりの重症度を図表1のように分類しています。
ステージ①のように、学校に行っていなくても、親と一緒にご飯を食べたり、会話がたくさんあって、生活習慣が乱れていない場合は、それほど心配する必要はありません。1カ月以内ならば自然に学校に戻っていく場合も多くあります。
不登校状態が6カ月以上だとひきこもりという内閣府の定義は、ステージ③に該当しますが、私は1カ月でも親子間のコミュニケーションがまったくとれない状態で、自室にこもっている場合はステージ③になると考えています。
親と会話があるかどうか、というのが一番の大きなチェックポイントです。
学校に行かなくても、親と会話ができて、自分の好きな習いごとやフリースクールなどに通えている場合なら、いずれちゃんとやっていけるようになります。
ただ、親との会話がなくて、ひきこもりが進行すると、お風呂に入らなくなり、髪の毛やひげが伸びっぱなしになります。自室のカーテンを昼間でも閉め切っているのも特徴です。こうなるとステージ④です。自然に学校に戻るのは困難です。
■不登校の初期に絶対やってはいけないこと
不登校になったばかりのころは、たいていの親は無理やり学校に行かせようとします。
そうすると、子どもから暴力を受けるケースが多いです。親に暴力をふるうまでいかなくても、物に当たったり、壁に穴を開けたりします。
それがきっかけとなり、親とコミュニケーションをとろうとしなくなります。自室にひきこもってしまうきっかけにもなります。
ですから、学校に力ずくで行かせようとするのはやめましょう。
首尾よく行かせられたとしても、翌日にはまた行かなくなってしまいます。結局、問題の解決にはなりません。
■両親が一枚岩になること
では、不登校になったら、まずどうしたらいいかというと、お父さんとお母さんがよく話し合って、一枚岩になることです。
不登校・ひきこもりの相談に最初に来るのは、お母さん一人だけのことが多いです。
なぜなら、大事な子どものことなのに、きちんと夫婦で話し合えていないからです。お父さんにとっては、母親と子どもの問題で、自分の問題ととらえていない、という場合もあります。
たいていの家庭は夫婦で考え方がちぐはぐな状態です。それでは治そうとしてもうまくいきません。
たとえば、お母さんとスタッフで方針を話し合って実行しているのに、お父さんが「本当にその先生で大丈夫なのか」「そのやり方でいいのか」なんて言い出すと、すべてが台無しになってしまいます。
ですから、まずは、夫婦で話し合って、どんな方針で不登校を解決するのか、どの機関に相談するのか話し合いましょう。
夫婦の考え方がそろっていることが、不登校を解決する最初の一歩です。私のところに相談に来る場合にも、最初に夫婦そろって来てもらうようにしています。
特にお父さんが本気を出さないと、不登校やひきこもりは治りません。お父さんが仕事を休んでまで相談に来る、そのくらい本気を出さなければ、治らないのです。
■「見守る期限」を決める
ステージ①でしたら、自然に学校に戻ることもありますが、ステージ②以上でしたら、なるべく早く専門家に相談することです。親子でコミュニケーションがとれない状況では、第三者の介入が必要になります。
最初のうちは様子を見てもいいですが、期限を決めましょう。
1カ月様子を見て、それを過ぎたらスクールカウンセラーに相談する、3カ月経っても学校に戻らないようなら、民間の専門の機関に相談する、といったように、期限と方針をあらかじめ夫婦で決めることです。
不登校やひきこもりでいる期間が短ければ、元に戻るのも早くなります。1カ月から数カ月なら、割とスムーズに戻すことができます。
逆に、時間が長引けば長引くほど、元に戻すのは難しくなります。年単位になってくると、さらに難しくなります。早めの対処が肝心なのです。
■不登校を解決するための3ステップ
中学生から高校生、それより上の20歳くらいまでの子どもの不登校・ひきこもりは、3つのステップで立ち直ることができます。ここからは、高卒支援会、不登校・引きこもり予防協会のやり方で説明していきます。
ステップ2 自律して自信をつける
ステップ3 社会貢献をする
順番を守って、時間をかけて、ていねいにステップを踏んでいけば、私の経験上、9割が立ち直ることができます。年齢が違っても、つまり13歳でも15歳でも18歳でも基本的には同じです。
■いわゆる「引き出し屋」は絶対NG
不登校やひきこもりの相談に乗っている機関はたくさんありますが、絶対に相談してはいけないのが、暴力的な行為を働く業者です。自立支援をうたういわゆる「引き出し屋」です。
法外な料金を取って、立ち直らせると称して本人の意思を無視して強引に外に連れ出したり、監禁したりする危険な業者です。裁判沙汰になり敗訴した業者もありました。
こういった業者ではないか、よくよく情報収集をして見定めましょう。厚生労働省のウェブサイトでは、すべての都道府県・指定都市にある「ひきこもり地域支援センター」、全国のひきこもり支援機関の情報を掲載していますから、参考にしてみましょう(高卒支援会も自治体と連携しています)。
自治体の教育委員会が運営する教育支援センター(適応指導教室)に相談すると、中学生の場合は在籍している学校に戻すことを目標に話が進められます。また、中3の場合は、卒業後は公立の定時制高校や通信制高校に入学することを念頭に復帰をはかっていきます。
■同じ悩みを持つ親同士が交流できる場が大切
高校生の場合も、公立の定時制高校、通信制高校に入学することを勧められがちです。
一方、私立の広域通信制高校やそこと連携するサポート校に相談すると、その通信制高校に入学することを前提に話が進められます。
このように、中立的な立場で相談を受けてくれるところがなかなかないのが現実であり、問題です。できるだけ、どちらの事情にも詳しい相談機関を見つけて相談するのが望ましいです。
保護者会などがあって、同じ悩みを持つ親同士が交流できる場を持っているところはおすすめです。なお、高卒支援会では毎月保護者会を行っています。
悩みを話して共有することで、親も「自分だけじゃない」と思えて、前向きになることができます。立ち直った生徒が発表する様子を見たり、先輩お父さん、お母さんたちの話を聞いたりしていくうちに、自分の子どもが立ち直る道筋が見えてきます。
■外出できない場合の「家庭訪問支援」
不登校・ひきこもりの相談で最初の難関は、子どもをその相談機関に連れていくことです。ひきこもっているから相談に来ているのに、「連れてきてください」と言う相談機関もあります。これでは話になりません。
家庭訪問支援は自宅を訪問をして、子どもと徐々に信頼関係を築いて、少しずつ外に出るのを促し、フリースクールやサポート校などの居場所に毎日通えるように導いていく支援です。
家庭訪問支援をしてくれる相談機関は少しずつ増えていますが、まだまだ少ない状態です。
家庭訪問支援は、基本は週1回、同じ曜日の同じ時間に訪問します。保護者の要望によって、週2~3回にする場合もあります。
家庭訪問支援でキーパーソンになるのが、斜め上の関係の若者です。
専門スタッフが数回訪問した後、子どもの警戒心がなくなってきたら、学生インターンを投入します。
年配の先生や相談員がいくら訪問したところで、子どもは心を閉ざしていますから、そう簡単に信頼関係は築けません。
子どもが心を開くのは、自分と同じか少し上くらいの年代の若者です。しかも、当会の学生インターンのように、ひきこもっていた経験があると、「ひきこもっていても、こんなふうに立ち直れるんだ」と大きな衝撃を受けます。
初めは子どもの好きなこと、ゲームやマンガ、アニメなど、興味を持っていることについて話したり、一緒にゲームをしたりして、交流します。
私はゲームやアニメなどを知らないので、そのような話ができないのですが、高校生や大学生のインターンと一緒にゲームをしたり、アニメの話をしたりすると、数回の訪問で仲良くなることができます。
■いかに生活リズムを正すか
高卒支援会、不登校・引きこもり予防協会が行っている、立ち直りのための「3つのステップ」のうち、ステップ1を詳しくご紹介します。ステップ1は、次の順番で立ち直りを実行していきます。
最初はベテランスタッフと二人で訪問、その後一人で訪問
↓
身なりを整える
お風呂、歯磨き、ヘアカットなど
↓
外出を促す
週1回でも家から出るようにする
↓
大人とコミュニケーションをとる
今後の通学先となる居場所の大人と信頼関係を築く
↓
規則正しい生活
通学を週1回から5回へ増やしていく
■最初の訪問は拒否反応を覚悟する
訪問の前に、両親に十分に聞き取りをして、子どもの成育歴から趣味、家の間取りまで調べます。間取りを調べるのは、子どもが嫌がって脱走することや、万一の危険な場合に備えて避難経路を確認するためです。
聞き取った内容を総合して、その子どもと相性のよさそうなスタッフとインターンを決め、作戦を練ります。
訪問することは両親から子どもに事前に伝えてもらいますが、ケースによっては伝えないで行くこともあります。
最初の訪問は、ベテランのスタッフが行きます。
初回の訪問では、挨拶や趣味の話などが中心です。焦って学校の話や進路の話などをしてはいけません。コミュニケーションを深めることだけにとどめておきます。
最初から口をきいてくれる子どもばかりではありません。
ドアを開けてくれない、トイレに閉じこもる、脱走する、部屋に入れてもずっと布団をかぶったまま、などさまざまなケースがあります。
本人と話せない場合は、部屋のドア越しや布団越しに話しかけたり、手紙を置いていったりします。
訪問が終わった後、特に事前に伝えていない場合は、たいてい子どもが親に怒ったり、暴力をふるったりする拒否反応が見られます。これも織り込み済みです。
そもそも一直線によくなっていくことはありません。
よくなったと思ったら、また悪くなって、その後にまたよくなる、というように、上がったり下がったりしながら、徐々によくなっていきます。一喜一憂しないで、ご両親は冷静に構えていましょう。
■ひきこもって8カ月のCくんのケース
C君の例です。
C君は中学受験を経て私立の進学校に入学したものの、中1の3学期から徐々に欠席が増え、中2の4月からは完全に行かなくなりました。部屋にひきこもって、「フォートナイト」というゲームを1日中やっていたそうです。
在籍していた私立中から退学勧告を受け、公立中に転校したものの、1日も行きませんでした。
ご両親が私のところに相談に来たのは中2の11月です。すでにひきこもって8カ月が経ち、ステージ③でした。
ご両親と話し合い、スタッフとも職員会議をして、11月下旬に初回の家庭訪問支援を行いました。訪問することをご両親から伝えてもらうと、「会いたくない」と言ったものの、大きな抵抗は見られず、そわそわした様子でした。
訪問予定時間の30分前までゲームをしていましたが、スタッフが訪問すると、部屋で布団をかぶって出てきません。少し動いたりする様子から、こちらの話は聞いているようでした。
布団越しにスタッフが自己紹介をしたり雑談をしたりしてこの日は終了しました。
スタッフが帰ると、「勝手に人を呼んで話を進めるな」とご両親に怒鳴り、大荒れでした。ご両親には拒否反応はよくあることと伝えていたので、冷静に対処してくれました。
C君はこの後、家庭訪問支援を受け続け、最初の訪問から8カ月後の中3の7月には当会の教室に初めて登校。その年の冬からは毎日通うようになり、当会の生徒会長を務めたり、インターンをしたりして、大活躍するようになりました。
一方、この拒否反応を恐れて、踏み出せないと、ひきこもりが長期化してしまいます。
■支援機関のアドバイスに従い、「見守り」を続けた家庭の末路
D君は高1の1学期から不登校になって、ご両親が当会に相談に来ました。6月から当会に通い始めましたが、すぐに来なくなりました。
そこで、家庭訪問支援をしたほうがいいと私から説明しましたが、ご両親は「うちは見守ります。子どもの意思を尊重したいから」と断りました。
それから6年、22歳になった今も、ひきこもったままです。
寝たいときに寝て、起きたいときだけ起きて、お供えのように3食を食べて、ゲーム三昧です。ご両親は家業をしているので、手伝いなどさせればいいのですが、それもやらせないで、ひきこもりの生活を続けさせています。
不登校・ひきこもりを支援しているさまざまな機関、さまざまな団体がありますが、一定数の人たちが言うのが、「見守りましょう」です。
お察しのとおり、見守るほうが楽なのです。拒否反応もありませんから。
しかし、私に言わせると、それは「放置」で、ひきこもりの長期化を助長していると言わざるを得ません。
「見守る」というのは、宗教に近いものがあります。
ある宗教から別の宗教に改宗するのが難しいように、一度「見守る」派のカウンセリングなどを受けて信じてしまうと、なかなか考えが変わりません。すると、ひきこもりが何年にもわたって長期化してしまうのです。
「見守る」派の機関では、見守っているだけなので、不登校やひきこもりから立ち直らせた実績がありません。ノウハウがないのです。
今から15年くらい前までは、ネット社会ではありませんでしたから、家にひきこもっているのに飽きて、外に出始める子もいました。実際に私も、家にいるのが飽きたから高校を再受験するという子を多く指導してきました。
しかし、iPhoneが登場したのに象徴されるように、15年くらい前からは、ネット、スマホがあって、家にいても楽しく過ごせるようになりました。すると、外に出ようという気にならないのです。
ひきこもりになるリスクを考えて不登校のケアをするのならいいですが、リスクを考えずに「見守っていましょう」というのは危険です。少なくともはっきりとした期限を決めるべきでしょう。
特に自治体の相談機関や学校は「見守りましょう」の傾向があります。ひきこもっているから相談に来ているのに、「子どもが来てくれないと対応できません」と言われることもあります。来られないから相談に来ているのに、まったく解決できないのです。
■ひきこもっていた期間と同じくらい時間がかかる
私は39年の経験、のべ1万人を立ち直らせてきた実績がありますから、この状況ならこの方法が適切だ、というのがわかります。
もっとも、何か一つの法則があるわけではありません。100人いれば100通りのやり方があるということなのです。
親の年収や住んでいる場所、成育歴など、詳細がわからなければ、こうしたほうがいい、とは言えません。
39年の活動中には、自殺や父親殺しに至ったケースもありました。そうしたつらい経験をしているからこそ、そうなる前になるべく早く手を打つ必要があると確信しているのです。
ひきこもりから脱するには、ひきこもっていた期間と同じくらいの期間が必要です。
先ほどのC君も完全にひきこもってから8カ月経った時点で家庭訪問支援を始めましたが、教室に初めて登校できるまでに、やはり8カ月かかっています。
なるべく早く子どもを立ち直らせたいのなら、今すぐ相談して家庭訪問支援を始めることです。
それをしないで「見守りましょう」とずるずるしていると、3年から5年くらい、あっという間に過ぎていきます。
長期化すればするほど、立ち直らせるのに時間がかかりますし、難しくなります。だからこそ、初動が肝心なのです。
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一般社団法人 不登校・引きこもり予防協会理事長
1960年生まれ。小学3年生で保健室登校を経験するも、養護学園に半年間通い克服。カリフォルニア州立大学ロングビーチ校卒業後、不登校や高校中退、ひきこもりの支援活動を36年以上行っている。2020年、新たに「一般社団法人 不登校・引きこもり予防協会」を設立し、AIによる無料での不登校・ひきこもりステージ判定などにも取り組む。著書に『不登校・ひきこもり急増』、『不登校・ひきこもりの9割は治せる』(光文社新書)など。
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(一般社団法人 不登校・引きこもり予防協会理事長 杉浦 孝宣)
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