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「書類の"ほう"をお送りする"形"で」…仕事ができない人と一発でバレてしまう"エセ敬語"を解説する

プレジデントオンライン / 2024年10月19日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

ビジネスの場で使われている敬語には、誤った表現が定着している場合がある。コピーライターの前田めぐるさんは「ビジネスの現場では『書類の“ほう”』や『利用できない“形”』など、丁寧なように見えて無意味な表現が多く使われている。すべてが誤用というわけではないが、遠まわしな表現ではなく言いたいことがはっきり伝わる言い方を選んだほうがいい」という――。(第3回)

※本稿は、前田めぐる『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

■「いただく」の使い方に要注意

敬って言ったつもりの言葉が、実は失礼すぎる言葉だった。「まさか」でしょうが、よくあることです。

「ご夕食はいただきましたか」
「ご夕食はいただかれましたか」

これらはいずれも誤用です。「いただく(頂く)」は「もらう」「食べる」「飲む」、また「お風呂に入る」意の謙譲語です。

Aからもらって食べたり飲んだりする動作について、Aを高めます。例えば食事をごちそうになり「では、遠慮なくいただきます」は、もてなしてくれた相手を高めている言い方です。お風呂を勧められて「お言葉に甘えて、お先にお風呂をいただきます」も勧めてくれた相手を高めている言い方です。つまり、ごちそうになったり、お風呂に入ったりしている自分側の動作を謙遜しているわけです。

しかし「ご夕食はいただきましたか」では、敬うべき相手の「食べる」という動作を謙譲語の「いただく」で低めているため、失礼です。この状態で、さらに「……れる」と尊敬表現を加えて「ご夕食はいただかれましたか」としたところで、挽回はできません。

尊敬表現にするなら「ご夕食は召し上がりましたか」が自然。「ご夕食はお召し上がりになりましたか」は、本来二重敬語ですが、許容の範囲とされています。

「ご夕食はお召し上がりになられましたか」は盛りすぎで、誤りです。なお、次のような表現は本来は誤りですが、近年は丁重語の用法として認められます。

「晩御飯ができましたよ。ご一緒にいただきましょう」「食事の後はいつもお茶をいただきます」「旅館では到着すると、すぐにお風呂をいただきます」。3つ目は人によっては違和感があるかもしれませんね。「お風呂に入ります」のほうがまだ自然だと感じる人も少なくないでしょう。

■「レシート、ご利用されますか」は誤用

「レシート、ご利用されますか」

レジ前で店の人からこう言われた私の脳内で、「はて」と一瞬ねじれ現象が起こりました。レシートを利用するのは店側か、客側か? 「ご利用されますか」は謙譲語+尊敬語なのか、それとも過剰な尊敬語なのか? そんな思いが忙しく駆け巡りました。

レジからレシートを引っ張る女性の手
写真=iStock.com/VikaValter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VikaValter

早い話が誤用です。「ご利用されます」の部分は一見すると敬語のように感じるかもしれませんが、間違いです。エセ尊敬語なのです。「ご……する」という謙譲語の型に「れる」を付けても、正しい尊敬語にはなりません。「筆記具をご持参されてください」「早めにご出発されてください」「無事ご卒業されました」なども同様に間違いです。

あまりにもよく耳にするため、正しいのかと錯覚しそうになるかもしれませんが、相手の行為に「お/ご……される」は使えません。

■「~する」の尊敬語化は「~なさる」に言い換えればOK

「利用する」「持参する」「出発する」「卒業する」のような「……する」型の動詞(サ変動詞)を尊敬語にする場合、簡単なのは以下の方法。覚えておくと便利です。

●「……する」→「……なさる」に変える
「レシートは(ご)利用なさいますか」
「筆記具を(ご)持参なさってください」
「早めに(ご)出発なさってください」
「無事(ご)卒業なさいました」

「ご」は付けてもかまいませんが、「落選する」のように「落選なさる」とは言えても、「ご落選なさる」とは言えない場合もあります。そのため、まとめて「ご」なしで「……なさる」で覚えておくほうが無難です。

■「書類のほうをお送りします」という不思議な表現

頼んだのは書類だけなのに「書類のほう」とは? 他にも何か送ってくるのかと思わせる「……のほう」。敬語ではないのに、敬語のように考えられている節があります。

「会議室のほう、ご案内します」
「お荷物のほう、お持ちしましょうか」
「連絡のほう、取ってみます」
「課長のほうに申し伝えます」
「ミルクティのほう、お持ちしました」

ほうほう、最近は教育が行き届いて……と感心されることはまずない「……のほう」の大盛り。「お方(かた)」という語もあるように、かつて「方」の字は貴人を直接指すことを避ける意味で使われていました。しかし、だからといって、何でも盛ればよいというものでもありません。適切に使われてこそ、言葉は「効く」のです。

■「~のほう」を使うのが適切な場面もある

例えば、次の使い方は適切です。

●右のほうへお進みください(道案内で方角を示す場面)
●私のほうからご連絡いたします(電話をかけた相手に自分からかけ直す場面)
●平田さんのほうを推薦します(複数の中から1名を推薦するよう言われて)
●医療関係のほうに勤めています(仕事は何かと聞かれて)
●お体のほうはいかがですか(退院した人へのごきげん伺いをするとき)

実際に方角を示したり、複数の中から選んだりするほか、仕事や病気のことなどではっきり聞きにくかったりする場面で「……のほう」を使うのは適切です。

対して前半で挙げた例文の「……のほう」は過剰です。「会議室へご案内します」「お荷物をお持ちしましょうか」「連絡を取ってみます」「課長に申し伝えます」「ミルクティをお持ちしました」のほうが適切。ないほうが、よほど「ほうほう」と感心されるのではないでしょうか。

■複数の業界で多用されている「ファミコン用語」

「こちらが焼き魚定食になります」

斜め上からこう聞こえて「生魚がくるんかい?」と思ったのも束の間、テーブルに置かれたのはすでにグリルで焼かれた魚。安堵しました。

「こちらが本日の内見資料になります」(不動産会社で)
「今私が立っている場所が○○の入り口になります」(報道で)

一時期「ファミコン(ファミリーレストラン・コンビニ)用語」と話題になった「……になります」は、あっさりと業界の枠を超え、不動産業界や放送業界などにまで勢力を広げています。

カフェで働く女性店員
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

とはいえ、「……になります」という用法の全てが間違いとは限りません。正しいケースもあれば、そうでないケースもあるのです。なぜなら、「なる(成る・為る)」は、「多義語」だからです。「変化して別の事物に至る」という意味以外にも多くの意味があります。

一部を挙げると左のような使い方は間違いではありません。(カッコ内は意味)

●雪が溶けると水になります(変化して別の事物に至る)
●脱税は犯罪になります(順当に考えると、それに相当する)
●お会計は880円になります(ある数量に達する)
●ここからの眺めは実に絵になります(ふさわしい価値が成立する)

例外もあります。ある時、テーブルに運ばれた生のハンバーグを自分で焼く店に行きました。「変化して美味しいハンバーグに至る」「順当に考えると確かにそれがハンバーグに相当する」、両方の意味で「こちらがハンバーグになります」が奇しくも当てはまるケースを体験したのです。

対して、冒頭の三つは「……になります」を使う必然性がありません。傍線部の「になります」は「です(でございます)」のほうが自然です。誤用例があると聞くと一様に間違いだと決めつけがちです。意味や場面に合っているかどうかをその都度、判断するようにしたいですね。

■文字数稼ぎにしかならない「国会用語」

「できるだけ早くと思って、今しばらくお時間をいただければと思っていますが、鋭意作業をして、できるだけ早くというふうに考えてございます」

もしもビジネスの場面で、営業担当者が得意先にこう発言したら、成約は一気に遠のいてしまうでしょう。内容もさることながら「……というふうに」「……てございます」が気になります。国会では、文字数をかせぐだけのような言葉が多すぎるのです。

「……についてご質問をいただいたというふうに考えてございます」
「実施することが可能であるというふうに認識してございます」
「しっかりと検討してまいりたいというふうに考えてございます」

特定の人物の言葉癖というよりも、伝統的な国会用語のようなものだと見受けられます。もしそうだとしたら、流されすぎです。

国会議事堂
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

「国語に関する世論調査」(令和元年度/文化庁)で「規則でそうなってございます」という表現について「気になる」という回答は81.5%でした。国民の大半が違和感を持っていることが分かります。「ございます」は「あります」の丁寧語です。つまり、「規則でそうなってございます」の敬語を省くと「規則でそうなってあります」に戻ってしまうわけです。

正しくは「います」の丁寧語「おります」を使い、「規則でそうなっております」とすべきです。

また、冒頭の「考えてございます」の前にある「というふうに」も国会で多用される表現のひとつ。バリエーションで「と、こういうふうに」もあります。「と」で済むところを「というふうに」とすれば、発言に時間もかかる上、焦点がぼやけます。

ちなみに冒頭の発言を口にしてみると13秒。要約し「できるだけ早くと考えております」とつぶやいてみたら、3秒もかかりませんでした。言葉は思考をつくるもの。まだるっこしい表現や誤用、ぼかす表現が、国の政策をつくる場にふさわしいとは到底思えないのです。シンプルに言葉を使うほうが思考もクリアになり、議論も尽くせるに違いありません。

■「形になります」はどんな意味で使われているのか

「お取り寄せができない形になっております」
「後日あらためてご案内をさしあげる形になります」

こんなふうに「……できない形になっております」「形になります」と聞くと、思わず「それ、どんな形? 丸いの? 四角いの?」と言いたくなります。商品を取り寄せられないこと、何かをできないことを客に伝えるときなどによく使われている表現ですが、なぜこのような言い方なのか、不思議でなりません。

「形」とは、「形式やルール」という意味なのでしょう。仮にそうだとすれば、一つ目は「お取り寄せができない決まりになっている」という意味になります。言葉自体は丁寧ですが、客に対して有無を言わせぬ強さがあります。まるで言葉の防護服のよう。鎧を脱ぎ捨てて、客に伝わる真摯(しんし)な表現にするにはどうすればよいでしょう。

■できないことははっきり伝えるのもサービス

その商品だけが取り寄せられないのか、お店として取り寄せを行っていないのかによって言い方が変わります。

「こちらは、お取り寄せが難しいお品です」
「あいにく私どもではお取り寄せを承っておりません」

「後日あらためてご案内をさしあげる形になります」も「後日あらためてご案内をさしあげます」で十分です。また、即日配達ができないとしたら「即日配達できない形になっております」でなく「即日配達はできません」「即日配達は承っておりません」「即日配達は難しいです」などいくらでも無理のない答え方はあります。できないことをはっきり分かりやすく伝えることもサービスの一環なのです。

「こちらの商品はアトリエでも完売しており、お取り寄せできない商品でございます。申し訳ございませんが、どうぞご理解のほどよろしくお願いいたします」冒頭に「恐れ入りますが」とクッション言葉を使ったり、「申し訳ございません」を最後に加えたりなどして、重い鎧を脱ぎ捨てましょう。

■「マニュアル敬語」では現場の声も共有してこそ

飲食店で注文した料理が全てテーブルに運ばれたとき、よく耳にする言葉があります。

「ご注文の品はお揃いになりましたでしょうか」

こう聞かれて「はい」と笑顔で答える客の中には、もしかしたら次のように答えたい人もいるかもしれません。「はい、お揃いになっていますとも。お料理の皆様、とてもお行儀よく、素敵にドレスアップしていらっしゃいます」。なぜそんなイメージが浮かぶかというと、冒頭の言葉と似たフレーズをどこかで聞いたような気がするからです。

「ご親族の皆様、お揃いになりましたでしょうか」そう、これと似ています。「お揃いになる」は「揃う」の尊敬語。このように人を立てるのに使うならよいのですが、冒頭の言い方では、料理を立てているのです。

「ご注文の品は揃いましたでしょうか」「ご注文の品は、以上でよろしいでしょうか」などが無理のない言い方です。飲食店やコンビニでの接客用語はマニュアル敬語として問題になったことがありました。マニュアル自体が悪いわけではありません。問題があるとしたら、指導する側が「これ以外の言葉を使わないように」と強いる点です。

前田めぐる『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)
前田めぐる『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)

コンビニでアルバイトする学生に「マニュアル敬語をどう思う?」と尋ねたことがあります。「助かります。その通りに話せばいいわけだから心強い」と返ってきました。敬語の使用に十分な自信がないとき、マニュアルは実に頼りになる味方なのです。

しかし、実際の場面はマニュアル以上に多様です。限られた言葉だけで乗り切れないことも起きるはず。となれば、指導する側は、過剰な制約を課すよりも「あくまで基本」とし、スタッフが持った違和感や疑問、改善案をまず共有すべきでしょう。

そして見直しと更新です。現場の声を聞き、より時代に即した表現となるよう、頼りとされるマニュアルの精度を高めていくことが大切ですね。何事も、流されすぎは禁物です。

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前田 めぐる(まえだ・めぐる)
コピーライター、文章術講師
長年コピーライターとして生活者と企業のコミュニケーションにおける言葉を発想し続ける。近年は自治体・学校・団体向けのSNS活用・文章術講師として活動。危機管理士としても、言葉のリスクコミュニケーションについて伝える。敬語マニアでもあり、敬語の違和感についてまとめたブログ『ほどよい敬語』が好評。マイナビ系の情報サイトで執筆。京都在住。著書に『前田さん、主婦の私もフリーランスになれますか?』(日経BP)、『この一冊で面白いほど人が集まるSNS文章術』(青春出版社)、『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)などがある。

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(コピーライター、文章術講師 前田 めぐる)

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