虫歯をすぐに「銀歯やセラミックで治療する」は絶対ダメ…初診時にわかる「本当にいい歯医者」の対応
プレジデントオンライン / 2024年10月16日 15時15分
※本稿は、多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■なぜ良い歯医者は虫歯治療までに2カ月かけるのか
虫歯が痛くて歯科医院に行った場合、すぐに患部を削って銀歯やセラミックなどの詰め物や被せ物をする治療が行われるのが一般的です。こうした治療は1〜2回程度の通院で済むため、患者さんにとってはありがたいかもしれません。
しかし、長い目で見た場合、すぐに治療することは推奨できません。もちろん虫歯があれば、まず痛みを取って虫歯が進行しないようにするための応急処置は必要です。
しかし、詰め物や被せ物をするなどの本格的な治療をして歯を長持ちさせるためには、口の中が清潔で、歯肉が健康な状態である必要があります。
例えば、歯周病で歯茎がブヨブヨしていたり、歯茎から血が出たりするような状態では、銀歯やセラミックなどの正確な型を取ることはできません。そのため当院では、初診時に応急処置を行った上で、口腔内の写真撮影、口全体のレントゲン撮影、虫歯と歯周病の検査をして、歯と口の中の状態を確認します。
そして次の診療の際に、検査結果をもとに患者さんごとにカスタマイズした虫歯と歯周病の予防プログラムを提案します。また、口の中をきれいにするため、歯石の除去を行い、さらに患者さん自身が歯磨きなど口腔内のケアを正しくできるように指導します。
口の中を清潔に保つには、患者さん自身によるケアが欠かせないためです。一定期間、患者さんにきちんと歯磨きをしてもらい、口の中の状態が改善し、歯茎の炎症が治まるのを待って、それから本格的な虫歯の治療を開始します。
■せっかくの虫歯治療がムダになるケースも
そのため、虫歯治療を開始するまでに、長い人では初診から2カ月くらいかかることがあります。治療が済んだら、一人ひとりに沿った口の中のメンテナンス(プロフェッショナルケア)を継続的に行います。
口の中を清潔に保つには、日常的な歯磨きなどのセルフケアに加えて、プロによる定期的なケアが欠かせません。虫歯と歯周病はどちらも「バイオフィルム」の中の細菌に感染して起こります。
バイオフィルムとは、表面に付着した細菌の集合体のことで歯垢(プラーク)もその1つです。セルフケアだけで歯に付着した全てのバイオフィルムを除去することはできません。そのため、定期的に歯科医院に通い、バイオフィルムの除去や、口の中の状態をチェックするリスクアセスメントが必要なのです。
口腔内環境がきれいではない状態で虫歯治療をすると、せっかく治しても再び虫歯になってしまう可能性があります。健康な歯を長く維持するためには、すぐに治療するのではなく、なぜ虫歯や歯周病になったのかを考え、個々の患者さんの環境に合わせた治療とメンテナンスが大切なのです。
しっかりとした予防医療の概念がある歯科医院ではすぐに虫歯を削ることはありません。治療に入るまでにある一定の検査やケアを行ってくれるような歯科医院が、長期的に患者さんのことを考えている医院と言えると思います。
■自分の唾液は虫歯を治す特効薬
虫歯の原因となるミュータンス菌は、口の中で食べ物や飲み物に含まれる糖分を餌にして増殖します。その過程で酸を作り出すため、口の中が中性から酸性に傾きます。すると、歯の表面のエナメル質からカルシウムやリンが溶け出します。この状態を「脱灰」と言います。
脱灰は虫歯の始まりですが、唾液には、この脱灰を食い止める働きがあります。唾液とはつばのことを指します。これが「再石灰化」です。酸性に傾いた口の中を中性に戻し、溶け出したカルシウムやリンを再び結晶化させて、歯を修復します。この働きによって虫歯の進行が抑制されます。こうした唾液の力を「緩衝能」と言います。
また、唾液には、口の中の食べカスや細菌などの汚れを洗い流す自浄作用があります。川の流れと同じで、唾液の量が多いほど汚れを洗い流してくれます。したがって唾液量が多いほど口内の自浄作用が高くなるため、虫歯や歯周病になりにくく、口臭を抑えることもできます。
唾液には抗菌物質が含まれているため、細菌の侵入や増殖を防ぐ作用もあります。このように重要な働きをする唾液ですが、その力や量には個人差があります。そのため、歯磨きをしていない人でも、虫歯にならない人もいれば、虫歯になってしまう人もいます。
虫歯のリスクは一人ひとり異なるということです。そこで重要なのが、自分の唾液の力や量を知ることです。それによって、その人に合った予防が可能になります。つまりこの唾液が図表1の受け皿の部分に当たります。
この受け皿が大きい人は唾液の緩衝能力が強く唾液量が多い人になり、この受け皿が小さい人は唾液の緩衝能力が弱く唾液量が少ない人になります。自分の唾液の力や量を明らかにするのが唾液検査です。
■個々の患者のリスクを踏まえた上での最新の虫歯予防
検査では、唾液の緩衝能や分泌速度(量)を調べ、患者さん個々の受け皿の大きさを確認します。また、唾液に含まれる虫歯菌の培養もします。虫歯菌を培養することで、患者さん個々の虫歯菌の数がわかります。
この虫歯菌の数が図表1の1本の蛇口(虫歯菌)の量に当たります。虫歯は、こうした唾液の力・量や虫歯菌の数に加え食事などの生活習慣などさまざまな要素が絡み合って発生します。
そこで当院では、唾液検査、虫歯菌の培養による数の検査に加え歯垢(プラーク)の量、歯磨きの頻度・回数やフッ素の使用状況、飲食の回数などのデータを採取します。
それらのデータ全てをスウェーデンで開発された「カリオグラム」というソフトに入れ分析することによって、その人が1年後に虫歯になるリスクが何%あるかが統計学的に判断できます。カリオグラムは(図表2)のように円グラフで5つの領域が色分けされて示されます。
緑色は虫歯を避けることができる可能性を表しており、その面積が広いほど虫歯リスクが小さいということです。その他の4つは、虫歯のリスクとなる因子を表しています。
青色は食事(食事内容と飲食回数)、赤色は細菌の数、水色は感受性(唾液の力・量など)、黄色は環境(虫歯の本数や関連する全身疾患など)を示しており、どの因子がその人の虫歯リスクになっているかがわかります。
このカリオグラムの結果を踏まえて、1年後の虫歯リスクを減らすために適切な生活習慣や口腔ケアなどを提案します。これが患者さん個々のリスクを踏まえた上での最新の虫歯予防医療になります。
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歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授
医療法人社団幸誠会 たぼ歯科医院 理事長、日本歯周病学会指導医、歯科博士。埼玉県浦和駅徒歩1分圏内に3店舗の歯科医院を経営し、スタッフは100名。日本歯科大学附属病院で教鞭をとり、国内外の学会での講演多数。予防と再生医療の知識・技術セミナーを毎月開催し、講師を務める。日本で数少ない日本歯周病学会指導医として歯周病専門医の育成に尽力。日本の8割が歯周病に罹患している事実を知り歯周病専門医資格を取得。「歯周病で歯を失い、物を噛めない」と訴える悩みを解決したく、米国ロマリンダ大学大学院へ留学。帰国後、2015年に生まれ育った浦和にて日本歯周病学会認定研修施設でもある「たぼ歯科医院」を開業。2022年「さいたま・こども矯正歯科」を開院。子どもが通いたくなる環境づくりと最新機器を導入し、0歳からの予防に力を入れる。著作は歯周病・インプラントについて20編以上。DVD4本。
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(歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授 多保 学)
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