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「とにかく1本でも多く歯を残すことが大事」は大間違い…専門医が指南「歯周病になったときの最適解」

プレジデントオンライン / 2024年10月17日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dore art

歯周病になったら、どんな治療をすればいいか。日本歯科大学付属病院臨床准教授で歯科医師の多保学さんは「歯周病の治療で歯を残すことだけを考えるのは大きな間違いだ。歯を残すことを優先することで歯周病菌や炎症を放置してしまい、隣の歯にも歯周病が広がってしまう可能性がある」という――。

※本稿は、多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

■歯周病になった際の最善の治療法

「え! 歯周病専門医なのに歯を抜くのですか?」

そんな疑問を抱く方がいますが、これはよくある患者さんの勘違いです。歯周病では、歯を残すことが最善の治療法とは限りません。

歯肉炎の段階であれば、歯垢(プラーク)や歯石を除去することで歯茎は元に戻せますが、歯周炎に進み、顎の骨が溶けてしまっている場合、骨を元に戻すことはできません。

例外として、一定の条件下であれば、骨を移植して増やす「歯周組織再生療法」によって骨を再生できる可能性はあります。この歯周組織再生療法は熟練した歯科医師が行う外科処置になります。手術前や手術後の管理、手術中の臨床的判断、使う材料など非常にシビアな手術です。

手術を行う歯科医師の熟練度が成否を大きく左右しますので、まさに歯周病専門医にのみできる処置だと確信しています。軽度・中度の歯周炎の場合は、まず炎症を取り除き、正しく歯磨きができるように指導します。

その上で、バイオフィルムや歯石を除去し、歯周病菌を減らして歯周組織の環境を整えます。このように、それ以上歯周炎が悪化しないよう、いかにメンテナンスしやすい環境にできるかが、歯周病専門医が治療において最も重視する点です。

歯周ポケットが深すぎて、歯科衛生士によるクリーニングでは歯垢(プラーク)や歯石を除去しきれない場合には、歯周外科処置を行い、歯茎を切開して目視できる状態にして、縁下歯石を全て除去します。また、重度の歯周炎の場合は、抜歯を選択することもあります。

■1つの歯を抜くことで、残りの歯を守る

歯科医師の中には、歯を残すことだけが歯周病の治療だと考えている人もいます。しかし、それは大きな間違いです。歯を残すことを優先することで歯周病菌や炎症を放置させてしまい、隣の歯にも歯周病が広がってしまう可能性があるためです。

それを防ぐため、残せない歯は抜いて、残った歯の環境をいかに改善させてメンテナンスに移行できるかが重要になります。残せない歯とは、重度の歯周炎にかかってグラグラしてしまっているような状態の歯です。

このような状態の場合、歯周病専門医は「もう残せない」という判定をします。たとえ患者さんが「残してほしい」と希望しても、残すべきではない状態であれば、残すことのデメリットをしっかりと説明します。

「この歯を残すことで、隣の歯までダメになってしまいます」と説明すると、多くの患者さんは抜歯を納得されます。歯を失った部分は、インプラントや入れ歯などで修復することになります。重度の歯周炎の場合、抜歯に躊躇なく踏み切れるかが治療の成否を分けます。

別のクリニックで、残せない歯をなんとか残そうとメンテナンスを続けた結果、歯周病が一向に治らず、当院に来られる患者さんは非常に多いです。歯周病の場合、1つの歯を抜くことで、残りの歯を守ることができるケースもあるのです。

■高度な歯周治療は歯周病専門医に任せるべき理由

「ほとんどの歯科医院で歯周病の治療はやってますよね?」

これは当院に来る患者さんからよく聞くお言葉です。歯科医院のホームページで歯周病治療をうたっていたとしても中身が全く違います。そのため、歯周病治療はどの歯科医師でも同じ、ではありません。

歯科医師であれば、誰でも歯周病の治療をすることは可能です。しかし、歯周病を確実に治療するには専門的な知識と技術が求められます。そのため、日本歯周病学会が認定する歯周病専門医の治療を受けることをおすすめします。

歯科医院でチェックする若い女性
写真=iStock.com/anon-tae
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anon-tae

日本歯周病学会は、「認定医」「専門医」「指導医」という3つの資格を認定しています。認定医は、日本歯周病学会が認めた研修施設で3年以上研修を受け、歯周病治療の基本的な知識と技能を習得し、認定医試験に合格すると認定されます。試験は、学科試験の他、歯周病手術の1症例を提示すれば合格できます。

1症例の提示だけなので、この資格はかなり簡単に取得できます。学会がこの入り口の資格のハードルを下げている理由は、学会への参加率を上げるためと更新料です。認定医は全国に約1300名です(2024年現在)。

資格を保有すると数年単位で資格の更新が必要になります。更新するには更新料がかかります。この更新料が学会の収入になります。また資格を更新するためには年2回ある年次大会に一定数参加することが義務づけされています。これで学会参加率も上がるわけです。

■「歯周病医認定」という広告は医療広告ガイドライン違反

専門医は、認定医資格を取得後、2年以上研鑽を積み、所定のカリキュラムを履修の上、専門医試験に合格すると認定されます。試験では、歯周病学会の専門委員会において、歯周病手術の10症例をプレゼンテーションする必要があるため、難易度が高くなります。

専門医であれば、歯周病治療に関する一定の専門的な知識と技能が担保されていると言っていいでしょう。専門医は全国に約1200名。全国の歯科医師約10万人のうち、わずか1%ほどと希少な存在です。

国がホームページや看板などで広告して良いとしているのが専門医からです。よく歯周病医認定と堂々と広告をしている歯医者さんがいますが、あれは厳密には医療広告ガイドライン違反になるので法律違反です。

指導医は、専門医資格を取得後、7年以上学会や地域で指導を行い、指導医試験に合格することで認定されます。指導医になると、専門医や認定医を教育できる立場になります。指導医は大学の教授・准教授クラスに匹敵し、全国に約300名しかいません。

私は日本歯周病学会の指導医を保有しているので、たぼ歯科医院は日本歯周病学会の認定教育施設になっています。日本歯周病学会認定教育施設とは歯周病指導医の指導のもと専門医や認定医、認定歯科衛生士を育てることが日本歯周病学会から許されている施設になります。

■土台となる骨が溶けたらインプラントができない

施設の認定資格を取得するためには学会の基準値をクリアしないと認定されません。日本歯周病学会認定教育施設は主に大学病院で、一般歯科医院では非常に稀です。そのため、私のクリニックでは、歯周病を勉強し資格を取得したい若手歯科医師が多く集まります。

歯周病を治療するのであれば、最初から専門医や指導医の診療を受けた方が、時間も費用も無駄にせずに済むでしょう。当院に来院される歯周病患者さんの中には、他のクリニックで長い間メンテナンスに通ったものの「なかなか治らない」と言って来られる方が数多くいます。

そういう患者さんを診察すると、もはや抜歯するしかないケースが非常に多いです。もっと早く当院に来ていれば、適切な治療を受けることで歯を失わずに済んでいたかもしれません。歯周炎は顎の骨の病気です。

抜歯後にインプラントをしたくても、土台となる骨が溶けてしまっているためにインプラントができないというケースは少なくありません。歯周病専門医は、言ってみれば骨(bone)のプロ、言い換えるとボーンドクターです。

インプラント
写真=iStock.com/piyaset
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piyaset
多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)
多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

骨の状態を整え、場合によっては増やすことによって、歯周組織を治すことができます。私の場合は、アメリカのインプラント科大学院に3年間留学をしてアメリカインプラント学会の専門医と日本口腔インプラント学会専門医を取得しています。

アメリカでの専門医教育を受けているので、インプラントをするために骨が失われた部分に骨を再生する知識と技術を持っています。インプラント治療をするためには費用もかかりますし、痛い思いをしなければなりません。

本来はそこまで悪くしてしまう前に、早めに歯周病専門医の診察を受けることが、治療への近道です。

■インプラント治療を行わなくて済む世界を

話は少しそれますが、私は心から歯周病が原因で失った歯のインプラント治療を行わなくて済む世界を作りたいと思っています。

交通事故などの外傷でインプラントが必要な方や、生まれた時から歯がない患者さんなど、インプラントで人生を変えることのできる本当に必要な患者さんにだけ治療ができる世界を望んでいます。

そのため、みなさんには早期に歯周病を予防し、一生涯ご自身の歯で食事を取ってもらいたいと思っています。

もちろん、資格がなくても一流のスキルをもった歯科医師も中にはいますが、探し出すのは容易ではありません。最初から歯周病専門医を選んだ方が確実な治療を受けられるでしょう。

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多保 学(たぼ・まなぶ)
歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授
医療法人社団幸誠会 たぼ歯科医院 理事長、日本歯周病学会指導医、歯科博士。埼玉県浦和駅徒歩1分圏内に3店舗の歯科医院を経営し、スタッフは100名。日本歯科大学附属病院で教鞭をとり、国内外の学会での講演多数。予防と再生医療の知識・技術セミナーを毎月開催し、講師を務める。日本で数少ない日本歯周病学会指導医として歯周病専門医の育成に尽力。日本の8割が歯周病に罹患している事実を知り歯周病専門医資格を取得。「歯周病で歯を失い、物を噛めない」と訴える悩みを解決したく、米国ロマリンダ大学大学院へ留学。帰国後、2015年に生まれ育った浦和にて日本歯周病学会認定研修施設でもある「たぼ歯科医院」を開業。2022年「さいたま・こども矯正歯科」を開院。子どもが通いたくなる環境づくりと最新機器を導入し、0歳からの予防に力を入れる。著作は歯周病・インプラントについて20編以上。DVD4本。

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(歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授 多保 学)

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