麻生太郎氏の失脚を心から喜んでいる…「名誉会長の弔い選挙」に前のめりになる巨大宗教団体の本音
プレジデントオンライン / 2024年10月10日 17時15分
■石井新代表への交代はスムーズではなかった
9月28日、公明党は党大会を開いて、山口那津男代表の後任となる新代表に、衆議院議員の石井啓一幹事長を選出した。同党の代表が交代するのは、実に15年ぶりの出来事である。
公明党の代表は、一応党内で「代表選挙」を開いて選出する決まりになっている。しかし同党が結党されて以来、この代表選挙に2人以上の立候補者が立ったことは一度もなく、結果としてすべて無投票で代表の顔が決まってきた。つまりは事前に党内での入念な調整が行われ、その人事決定に、例えば一般党員がもの申せるような雰囲気の組織ではないということなのだろう。
ただ、今回の石井新代表の選出をめぐるその「党内調整」は、必ずしもすんなりいったわけではないらしい。公明党内には、このタイミングでの代表交代に慎重な意見を唱える向きもあり、「山口続投論」もそれなりに支持されていたらしいのだ。
それは、公明党の代表人事について報じた一般マスコミの記事などにも表れている。例えばNHKは8月29日に公明党代表選について触れた報道のなかで、「(山口氏の)続投を求める声があり」としているし、ようやく党内の意見が「石井新代表選出」でまとまったらしい9月上旬、その状況を報じた朝日新聞の記事には、「(石井氏へ)二転三転の末に交代へ」(9月6日付、同紙)との表現がある。どうも党外からは見えないところで、相当のすったもんだがあったことは事実のようだ。
■「公明党幹部はがん」と発言した麻生氏
関係者らへ取材してみると、この混迷ぶりの原因は、同時期に行われていた自民党総裁選で誰が勝ち上がるのかが、当初あまり見通せなかったところにあるようだ。
確かに、各派閥が解消された上に、史上最多となる9人もの立候補者が出た今回の自民党総裁選は、最終盤になるまで果たしてどのような展開になるのか、容易に読めない混戦だった。そして公明党サイドとして最も警戒していたのが、自民党副総裁だった麻生太郎氏の影響下にある候補が、総裁選を勝ち上がることだったという。
実は2021年10月から始まった岸田文雄政権の期間、連立与党を組む自民党と公明党は、かなりギクシャクした関係に陥っていた。麻生氏は岸田首相の後見人とも見られていた政権の重鎮で、その麻生氏と密接な関係にあった茂木敏充氏は、自民党幹事長の座にあった。そして、この麻生・茂木両氏こそは、自民党のなかでも「公明党嫌い」として名の通った存在であったからだ。
実際に茂木氏は幹事長就任後、それまで定期的に行われていた公明党幹事長との会合を中止したと報じられている。麻生氏も2023年9月に行った講演で、公明党について「がん」だと名指しで批判するなどし、マスコミには「自公の間にすきま風が」などといった記事が相次いで載った。自民党が、維新や国民新党を連立に新しく参画させようとしているといった憶測報道が多々出回ったのも、岸田政権の期間中のことだった。
■「山口代表の続投」もあり得た
2022年末から始まった、次期衆院選での選挙区の区割り再編、いわゆる「10増10減」の問題に関しても、自公はそれぞれの都合から新しい選挙区の取り合いのようなことを演じ、ちょっとした紛争状態に。
この流れのなかで23年5月、今回公明の新代表についた石井啓一氏(当時幹事長)がマスコミの前で「(自民党との)信頼関係は地に落ちた」と発言し、騒ぎになったことも、記憶に新しい。ゆえに、自民党総裁選で麻生氏カラーの強い人物が選出される可能性について、公明党は神経をとがらせていたというのである。
一方で山口那津男氏は、非常に穏やかで物静かな性格の人物として知られ、与野党問わずさまざまな政界関係者に聞いても、少なくともその人柄の面で批判する声をほとんど聞かない「人格者」だ。
自民党新総裁に麻生カラーの強い人物が就くという、公明党サイドにとってよくない展開となっても、「山口代表」を温存することで、その安定感をもって何とか自公の関係を維持したいという考えが、公明党内の一部にはあったらしい。
しかしながら、もし山口氏が今回も党代表続投となれば、実に9選。それはさすがに長すぎるし、また自民党のみならず立憲民主党や共産党の代表、さらにはアメリカ大統領までその顔触れが変わるという「刷新感」のなかで山口氏続投となり、公明党の存在が埋没してしまうのではないかという危惧も、同時に根強くあったようだ。
■「菅・二階」の復権を公明党は歓迎
結果として、自民党総裁選をめぐる「風」は、公明党に有利に吹いた。茂木氏や河野太郎氏など、麻生氏に近いとされた候補が総裁選を勝ちあがる可能性は低いと早期のうちに判断され、これによって公明党内でも「山口氏続投論」は小さくなっていった模様である。
また、自民党新総裁となり、新首相となった石破茂氏の内閣や自民党人事の陣容を見てもわかるが、これまでの岸田政権下で自民党内の傍流に追いやられていた、菅義偉元首相や二階俊博元幹事長系統の人材が、石破体制では存在感を増している。
菅氏は創価学会の政界担当と呼ばれた佐藤浩副会長と親しく、安倍政権時代は官邸の菅官房長官と創価学会の佐藤副会長が、自民党、公明党という政党組織を飛び越えて、いわば「政教合体」型の連立運営をしていたことはつとに有名だ。
また二階氏も昔から公明党とは親密で、2009~12年の民主党政権期に自公の協力関係が崩れなかったのは、二階氏が自公間のパイプ役として丁寧な調整を重ねていたからだというのも、政界では割とよく知られた話である。その両氏およびそこに連なる人々が石破政権誕生に大きく手を貸し、実際に人事などを見てもそれなりの待遇をされている。そうした部分を見ても、公明党にとって石破政権はありがたい存在ではあろう。
■自民党内の「公明党嫌い」は力を失った
自民党内では、石破氏に総裁選で敗れた高市早苗氏や小林鷹之氏らが、露骨に「次」を狙う姿勢を見せ、岸田前首相もその政治的影響力を特に落としているわけではないとの見方が多々語られている。しかし、同時に多くの識者がほぼ一致して言っているのが「麻生氏の退潮」で、これはほとんど「自民党内の反公明派の退潮」と同義である。
さらに自民支持層のなかのいわゆる「岩盤保守層」、今回の総裁選では高市早苗氏を応援したような人々は、憲法改正に難色を示し、中国とも親密な姿勢を取る創価学会、公明党について、露骨な嫌悪感を示す向きが強い。石破政権にはそうした色彩の保守色が薄いことも、公明党にとっては悪い話ではないだろう。
もちろん、石破首相が近く行われる解散総選挙をどう戦い抜き、その後の政権運営をいかに行っていくのかは、まだよくわからない。しかし、公明党にとっては自民党との間に吹き荒れた「すきま風」が、かなり弱まる方向に向かったこの秋の政局状況だったと言っていいのではないだろうか。
そもそも自民党のなかに一定の「公明党嫌い」が現れた最大の原因の一つは、近年の選挙において公明党の集票力が弱まっていて、「連立相手として頼りにならない」という不安感が、自民党内に広まっていたことである。
そういう意味では、昨年11月に死去した創価学会名誉会長・池田大作氏の「弔い選挙」とも位置づけられる次期衆院選で、石井公明党はどれだけの存在感を見せつけることができるのか。多くの政界関係者が、固唾(かたず)をのんで見守っている。
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『宗教問題』編集長
1979年、熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て、2014年、宗教専門誌『宗教問題』編集委員、15年、同誌編集長に就任。著書に『池田大作と創価学会 カリスマ亡き後の巨大宗教のゆくえ』(文春新書)、『南北戦争 アメリカを二つに裂いた内戦』(中央公論新社)など。
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(『宗教問題』編集長 小川 寛大)
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