地方から百貨店も総合スーパーも消えていく…それでもイオンが"時代遅れのGMS事業"を続ける意外な理由【2024編集部セレクション】
プレジデントオンライン / 2024年10月16日 8時15分
■地方の大衆消費の受け皿となっているイオン
活況を呈する富裕層消費とインバウンド需要の回復によって、基幹店の売上が過去最高となる店もあるなど、業績好調な大手百貨店とは異なり、地方では百貨店閉店のニュースが続いている。最近では島根県、岐阜県で県内最後の百貨店が閉店(閉店を決定)となり、今年、全国で百貨店のない県は、山形県、徳島県、島根県、岐阜県の4県となる。
富裕層やインバウンドの盛り上がりを享受しがたい地方においては、大衆消費から離れつつある百貨店の存在感は希薄化しつつあるのだが、こうした地方の大衆消費の受け皿として存在感を示しているのは、イオン・グループをおいて他にないだろう。総合スーパーとして全国展開しつつ、スーパー、ドラッグストア、様々な専門店を自社グループ内に擁し、様々な規模のショッピングモールを全国展開している小売業は、今やイオン以外ないのである。
■小売業売上トップはセブン&アイだが…
小売業売上トップ企業と言えば、セブン&アイ・ホールディングスということになるのだが、その事業の構成をみれば、この会社がグローバルコンビニ企業であることは明らかであろう。売上の8割超、営業利益の9割超を国内、海外合わせたコンビニ事業が稼ぎ出す構造であり、祖業であるスーパーストア事業は売上の12%ちょっと、利益貢献はほとんどない。一部株主から不採算事業として指摘を受けていた百貨店事業は手放し、スーパーストア事業は、アパレルから撤退して首都圏中心に食品特化で再構築を図っているという途上であり、とても総合小売業とは言い難い(図表1)。
■イオンにとってのGMSは「集客エンジン」
イオンのセグメント構成はセブンとは全く異なる。総合スーパー(以下、GMS)33%、食品スーパー(SM)27%、ドラッグストア(ヘルス&ウエルネス)12%、総合金融、ディベロッパー各5%弱といった売上構成だ。営業利益の構成ではディベロッパー26%、ドラッグストア23%、総合金融20%、食品スーパー17%弱、専門店9%、となり、多様な業態を抱えた事業構成となっている。
ただ、ここでもGMSは利益貢献していないことはセブン&アイと同様なのであるが、イオンの場合、収益の軸であるディベロッパー事業、総合金融事業にとって、GMSが集客エンジンとして機能しているところが、ちょっと違う。コンビニにとってGMSのシナジーは薄いが、イオンのGMSやSMは、イオンモール、イオンタウンなど複合商業施設の核店舗としての機能を担っており、専門店事業、金融事業もこの構造の上に成立している。収益性では貢献していないGMSが、これらの事業の「縁の下の力持ち」として果たす役割は大きいのである(図表2)。
■かつて一世風靡したGMSは次々に姿を消した
イオンの展開する総合小売業の構造は、地域における小売マーケットを、可能な限り総取りしようという貪欲な理想を追い求めているという見方もできる。昭和の時代、百貨店やGMSがそうした地域消費の総取りを目指して、ワンストップショッピングとして街の中心地に、食品、衣料品、雑貨、家具、家電等、あらゆる商品を自社で取りそろえた店舗を展開し、大いに賑わった時代もあったことを知っている人もいるだろう。しかし、2000年代以降、各商品ジャンルに特化した専門店チェーンが成長したことで、百貨店やGMSはいわば時代遅れになり、スーパーと専門店チェーンが組み合わさった複合商業施設が主流となった。
そうした中で、かつて一世風靡(ふうび)したGMSは次々に姿を消していった。ダイエー、ニチイは早期に経営が行き詰まりイオン傘下に、西友は外資に、ユニー、長崎屋はPPIH(パン・パシフィック・インターナショナル ホールディングス/旧ドン・キホーテHD)に飲み込まれた。セブン&アイのイトーヨーカ堂でさえ首都圏特化し、総合小売であることも放棄した。そして、全国展開するGMSは、グループ商業施設の核店舗という任務を担うイオンだけになった。
■地域一番の巨大な商業施設を投入しトップシェアを確保
イオンの大型商業施設は、ざっくり言えば、時代遅れとなったGMSの周囲に、成長しつつあった専門店群を配置することで、ワンストップショッピング機能を補うためにできたものだ。ただ、イオンのやることは徹底していた。不動産コストの安い地方において、多様な専門店を集めた地域一番の巨大な商業施設を次々に新設で投入し、地方エリアでトップシェアを確保することに成功した。
ライバルである大手商業ディベロッパーは、基本的に大都市圏郊外を中心に展開しており、地方エリアにはあまり出ない。三井不動産グループのららぽーとは、大型ショッピングモールとしてはよく知られているが、ららぽーとは3大都市圏+福岡エリアにしかない。地方中堅スーパーを相手に、規模で圧倒するという手法で、ほぼ連戦連勝することに成功したイオンは、地方における大型商業施設としては、圧倒的な存在となった(一部地域では例外もあり、中四国九州においては、地方スーパー、イズミのゆめタウンがライバルとしてガチンコ戦を続けている)。
■株式市場の評価は「意外なほど低い」
大型施設運営を軸に地方エリアで複合的に展開するイオンは、地方における小売業界地図をほぼイオンVS地域有力小売という構図に塗り替えた。イオンのシェアが高まると、そこを起点とした業界再編(イオン傘下に入るか、地場有力企業と組むか)が起こるという構造である。しかし、ここまでの影響力を持っているイオンなのだが、株式市場の評価は高いとはいえず、時価総額では業界1位ファストリの4分の1、2位セブン&アイの6割ほどであり、事業規模でははるかに小さいニトリ、PPIH(ドンキ)の1.4倍強ほどでしかない。投資収益率が低いためなのであるが、業界での存在感に比べると、意外なほど評価が低いという印象ではある(図表3)。
こうした評価の要因としては、人口減少高齢化が著しい地方において、大型商業施設を多数運営していることが、懸念されている面もある。また、将来的にECの拡大が進むことで、大型施設の持続可能性が失われるという懸念もあるのだろう。実際、コロナ禍の前から米国において、ショッピングモールの閉店や企業破綻が相次いでいるという事情もあり、イオンに対する懸念の背景のように思われる。
ただ、個人的にはイオンの地方大型商業施設の持続可能性は低くはない、と思っている。単純に言えば、ライバルのいない地方マーケットでは、地域一番店は市場縮小の中でも最後まで残ることが可能だから、である。それどころか、国内唯一の全国展開型の総合小売業となったイオンは、将来的に圧倒的競争力を持つ可能性さえある、とも考えている。それは、ビッグデータ時代における圧倒的な顧客接点なのだが、少し説明したい。
■リアル店舗はマーケティングデータの宝庫
コロナ禍も後押しして、いまや買物の決済手段のデジタル化は着実に進んでいる。また、ポイントカード(アプリ)の利用も併せて考えてみると、我々の買物における購買履歴はかなりデータとして蓄積されるようになった。
こうしたデジタル化、ビッグデータ蓄積はなんのために行われているのか、といえば、事業者が消費者の購買行動データをビッグデータとして蓄積することで、マーケティングに反映していく、というのが主目的となる。さらには、リアル店舗内のカメラによる画像データ、買い物かごの中の管理ができるスマートカートなどの店内での行動データも含めた様々なデータの取得が可能になりつつある今、リアル店舗はマーケティングデータの宝庫と考えられるようになっている。
そんな時代に、最有力なデータホルダーは誰かと言えば、全国展開型総合小売イオンであろう。
■アマゾンも把握できないデータを収集できる
アマゾンが、利幅の薄い物販や様々なサービスを厭わずに提供しているのは、消費者ビッグデータ収集のためだ、ということはよく知られている。極端なことを言えば、アマゾンにとっての物販やサービスは、データ収集活動を拡張しつつ、持続可能にするためのものであり、顧客接点を可能な限り拡大することが目的だ、とも解釈できる。そんなアマゾンでも、ネット環境を介していない時間帯の消費者の行動を把握することはできない。
そこに関して、総合小売業のリアル店舗、金融を通した顧客接点は、かなり価値の高いデータの源泉となる。ファストリやセブン&アイの顧客基盤も相当なものではあるが、アパレル、弁当・総菜、飲料などに偏った接点では消費者生活の全容に迫ることは難しい、のである。多様な接点で多様なデータを収集するイオンが、日本のローカルビッグデータにおける、メインプレイヤーに一番近い場所にいる。一見アナログっぽい、リアル総合小売イオンが、実はデジタル時代でのローカルビッグデータ王者への布石を打っている。これも無形資産の一種だと思っているのだが、みなさんはどう評価されるであろうか。
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流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部を経て、nakaja lab代表取締役。執筆、講演活動を中心に、ベンチャー支援、地方活性化支援なども手掛ける。著書『図解即戦力 小売業界』(技術評論社)。東洋経済オンラインアワード2023ニューウエーヴ賞受賞。
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(流通アナリスト 中井 彰人)
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