「ご自由にお持ちください」に飛びつく人は要注意…お金持ちになれない人が唱えている"最凶の金欠呪文"
プレジデントオンライン / 2024年10月14日 7時15分
■無料は本当にお得なのか
「これは無料です」と聞いて、心が動かない人はめったにいない。1割引きよりも半額よりも、人を惹きつけるのが「無料」という二文字だ。なぜ、私たちは無料を好むのか。理由は「損をしないから」。損ほど嫌なものはない。
それを示す例が、「松竹梅の法則」だ。
3種類の商品がメニューにあった時、最も高い「松」、最も安い「梅」ではなく、真ん中の「竹」を選ぶ人が多いのはなぜか。松だと、高いお金を払うだけの価値があるかわからない。梅では安すぎてしょぼいかもしれない。金額的にも内容的にも真ん中の「竹」を選んでおけば、大きな失敗はなく、損しないのではないかと考えるからだ。
しかし、「無料」ならば、そんな心配は消える。お金を使わない以上、損するはずがないからだ。財布の中身はマイナスにならず、メリットだけがある。だから人々は無料が大好きというわけだ。
「無料で差し上げています」「送料は無料です」「実質無料です」――気づくと、「無料」は様々な形で私たちの周囲にあふれている。無料を選ぶことで、お金を使わずにメリットだけを受けられると私たちは考える。さて、本当に「損」はしないのだろうか?
■無料にならない「実質無料」
最近よく耳にするこの無料。サービスに加入する際に、特典としてポイント還元とセットで提案されることが多い。
曰く、「今このサービスに加入すればポイント還元が○万円分付与されるので、ひと月分は実質タダです」とか、「このクレジットカードを作ると還元率が高いので、年に○万円使うなら年会費は実質無料です」など。
最初はお金を払ってもらうけど、あとからその分を補填できるので、トータルすると元は取れますよ、というわけだ。
このセールストークはかなり効くらしい。とあるクレジットカードのゴールドカードに関する調査で、保有するカードの種類を聞いたら「dカード GOLD」の割合が高かったとの結果を見た。
これは意外だった。ゴールドカードと言えば年会費もかかるし、もっと有名どころのブランドがありそうなのに、と感じたからだ。
■「年会費のかかるゴールドカード」の罠
筆者もドコモショップに行くたびにこのカードを勧められる。
「年会費はかかりますが、還元率が高いので、現在のスマホやネットの使用料ならポイント還元で年会費の元は取れますよ」と言われて。このアンケート結果を見ると、そうかと素直に切り替えた人が少なくなかったのだろう。
とはいえ、年会費の元を取るためには、一定額以上スマホやネットを使い続けなくてはならない。格安プランに変えたり、別のキャリアに乗り換えたりしたら、そのメリットは消えてしまう。通信料を節約しようとすればするほど、実は「実質無料」は遠ざかっていくのだ。
「実質無料」はスマホキャリアの契約やネットの月額サービスなどでよく見られる無料商法だ。何らかのアイテムを買っておしまいではなく、継続して使用してもらえばもらうほど、先方に利益をもたらす。
さらにポイント還元による「実質無料」には厄介な点もある。そもそもポイントとは「使うためのお金」だ。しかもポイントには利用期限がある。よく考えればサービスが無料になったのではなく、同じ金額をチャージしたポイントカードを渡され、なるべく早く使ってくださいねと念を押されたようなものだ。
お金に色はついていないといわれるが、この場合は「払ったお金」と「もらったお金」にははっきり別の色がついている。
おまけにスマホを使えば使うほど、カードで決済すればするほど、さらにポイント還元の対象になるので、利用者はそこにとどまり続ける。つまり、「実質無料」の先には、あらたな出費の種が延々と撒かれているわけだ。トクしたのは果たして誰なのだろう?
■トラップだらけの「条件無料」
無料は無料でも、適用される条件を付けているのがこの「無料」だ。代表はネットショッピングでの「あと○円買えば送料無用」だろう。ネットで買うのはリアル店舗より安いからであって、送料を払ったら意味がない。とにかく、余計なお金は払いたくない――ざっとそんな心理だろう。
しかし、財布から出ていくお金は同じお金のはず。無理やり欲しくもないモノを検索までして買って送料をゼロにしたところで、トクしたと言えるだろうか。わざわざ探した余計なモノの代金の方が送料より高いことだってある。
あと3000円買えば――と言われたら、では実際に送料がいくらなのかを確かめたほうがいい。それが1000円で済むなら潔く払ったほうが安く済むのだから。
条件付きで「無料でもらえる」のは、コンビニで見かけるパターン。「対象商品を買うとペット飲料が無料」というキャンペーンは人気らしい。お金を払わず、もう一品もらえるのだ、これ以上のオトクはない。
かくして無料の恩恵を受けるために出かけては、決められた「対象商品」にお金を払い、それだけだとあからさまなので、ついでに他の商品も買って帰る。まさに店側が期待した通りのお客様となって。
飲食店の「次回のご来店でワンドリンク無料」も、集客効果を狙っている。会計の際にそう書かれたクーポンを渡されたとしよう。人は手元に「半額になる」と書かれたクーポンがあると、なかなか無視できない。それを使わないのはもったいないからだ。
半額ですらそうなのに、無料で差し上げますと言われてきっぱり断れるだろうか。しかも、有効期限が書いてあり、どんどんカウントダウンが始まる。無料の誘惑に負けて再度店に行くか、それとも強い気持ちで目を背けるか……。どっちにしても店側には何の損もない。たとえビール一杯500円程度をサービスしたとしても、料理を頼んでもらえばその数倍の売り上げは確保できるのだから。
無料を得るために、余計なお金を払うことほど空しいことはない。しかし、なぜか私たちはその間違いを犯してしまう。それほどに無料という二文字の輝きは眩しい。
■わかっているのに引っかかる「初月無料」「初年度無料」
人間には現状維持バイアスというものがある。自分の今の環境をなるべく変えたくないと思ってしまう心理だ。変化はリスクを伴う。現在のまあまあ快適な暮らしが、変えることで不便になったりストレスがかかることを恐れるからだ。
変えたほうがメリットがあるかもしれない、でも踏み切れないという人は多いもの。逆に言えば、売り手は自社のサービスを消費者が生活に取り入れてくれさえすれば、そのまま継続してくれるのではと期待する。
その「最初の一歩」によく使われるのが「初月は利用料無料」「初年度は年会費無料」という、いわば入り口は無料にするという手法だ。
携帯キャリアが契約者に対しAmazonプライムやYouTubeプレミアムの1年無料サービスを行ったことがあったが、これも巧妙だ。もちろん無料期間が終わった時点で解約することは可能だが、これまで使えたサービスが使えなくなると思うと惜しくなる。
すでに日常になっていた快適さを失いたくないと感じてしまうもの。最初から「1年たったら解約すればいい」と思っていたとしてもだ。最初から分かっていたはずなのに、まんまと引っかかり、翌年も自動継続してしまう人は少なくないはずだ。
やっかいなのは、月額課金サービスの場合「入りは簡単、出口は大変」になっていることも多い。加入するときは親切なのに、解約の手続きが分かりにくいとか、なかなか解約までたどり着かないとか、クレームになることも多いと聞く。現状維持バイアスに逆らうのが難しい人や、面倒くさがりの人は、最初から「入口無料」のサービスには近づかない方が無難だ。
■「ご自由にお持ちください」に飛びつく人は要注意
なんの問題もなさそうに見える無料がある。例えば「ご自由にお持ちください」と配られているサンプル、ホテルのアメニティグッズ、ノベルティグッズのおもちゃなど。タダならもらっておこうかなと手が伸びる。
確かに、それがトラップとなってお金を使わせることはないかもしれない。しかし、お金が貯まらない人に多いのが、無料のものをすぐにもらうタイプなのだ。
いるかいらないかを最初に考えない。無料ならいいかと必要でないものも家に入れる。結局使わずにしまい込んだまま、ストック庫がどんどん塞がっていく。
代金を払っていないモノなのだから使わなければ捨てればいいのだが、せっかくタダで手に入れたのに、と逆に惜しくなり、なかなか捨てられない。あちこちの引き出しに無料サンプルや試供品が詰まっている家は、不要なモノでスペースを浪費しているといえるだろう。
やたらにモノが多い家は貯まらない家だということは、今や常識になりつつある。モノの管理が適切にできない人はお金の管理もそうだからだ。たとえ無料でも、我が家に必要のないモノは持ち込まないほうがいい。
■不要な出費をさせる“最凶の呪文”
お金は本当に必要なもの、価値があると感じたものに使ってこそ満足を味わえる。しかし、「無料」は、その判断を惑わせて不要な出費をさせてしまう最凶の呪文だ。
このご時世、何の対価も払わずに価値があるものが手に入るはずはない。必ずその裏には無料のもとを取る仕掛けが隠されている。
賢い消費者は、「無料」の二文字を見たら、こちらも対抗して別の呪文を唱えるといい。そう、先人が残したあの教訓だ、「タダより高いものはない」と。
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消費経済ジャーナリスト
『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。
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(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)
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