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財布にコンドーム2個、風俗店VIPポイントカード…産後うつの32歳妻「死にたい、別れたい」に放った鳥肌発言

プレジデントオンライン / 2024年10月12日 10時16分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

毒親に育てられた女性が結婚した相手も実は両親から冷遇されていた。育児に疲れた女性は精神のバランスを崩し、夫に「死にたい、別れたい」と漏らすと、その後、信じられないような言葉が返ってきた。結局、女性は、自宅と現金600万円と子供1人当たり月8万円の養育費を得ることになった――。(後編/全2回)
【前編のあらすじ】中部地方在住の白柳幸美さん(仮名・30代)の両親の仲は悪く、同居している父方の祖母に母親がいじめられていても、父親も祖父も庇わない。唯一白柳さんが庇うが、なぜか母親は「余計なことをしないで」と反応する。そんな母親は、白柳さんの交友関係に口を出し、複数の習い事を白柳さんに相談することなく無理やりやらせたりやめさせたりし、学業や運動で良い成績を収めても褒めることはなかった。それどころか、「あなたは顔が良くないから、せめて勉強や運動ができないとお嫁に行けない」と蔑んだ。

前編はこちら

■青天の霹靂

大学卒業後、上京して医療系の仕事をしていた白柳さんは2年後、大学の部活で出会い、交際していた2歳上の男性と結婚。仕事を辞め、夫が暮らす街で新婚生活を始めた。

白柳さんは結婚後、すぐに試験を受けて公務員になり、28歳で長男を妊娠。産休・育休を取得して出産すると、1年後には仕事に復帰。夫は家庭よりも仕事に情熱が傾きがちな白柳さんを理解し、応援してくれた。

その4年後、白柳さんは長女を妊娠し、32歳で出産。夫は最年少課長に抜擢されながらも、長男の時も長女の時も育休を1カ月取得し、家事育児に協力。傍目にも白柳さん的にも、幸せな生活を送っていた。

ところが、長女出産から半年ほど経った頃、白柳さんは、長男の赤ちゃん返りと長女の夜泣き、帝王切開で出産した傷の痛みに悩まされていた。頼みの綱の夫は仕事が忙しいらしく、朝早くに出かけ、毎晩日付が変わるか変わらないかギリギリの時間に帰宅。大学進学以降、距離を置いている両親には頼れず、義両親との仲も良いとは言えなかったため、孤軍奮闘していた。

「散らかった部屋で長女は泣き、長男は相手にされない寂しさから泣き、私も自分の無能さに毎日泣いていました。それでも夫が帰宅するまでには涙を拭き、アイスノンで目の腫れをとって夕飯を用意していました」

どんなに部屋が散らかっていても、夫は白柳さんを責めることはなかった。しかしそのことが、白柳さん自身が自分を責めることに拍車をかけた。

さらに2カ月ほど経った頃、帰宅した夫に白柳さんは言った。

「私は変だと思うし、もう無理だから、離婚して。私は1人で死ぬから、いい人見つけて幸せになって」

夫はしばらくフリーズしたあと、これまで支えてくれた感謝の言葉と、それを伝えられなかった謝罪を口にし、

「キミのことは本当に大切に思っているんだよ。むしろ、俺がダメ人間だから、キミはもっと他の良い人と一緒になった方がいい……」

そこからはお互いに「そんなことない」と褒め合い、抱き合って泣いた。

しかし最後に夫が言った。

「でも、俺が言ったこと、ちゃんと考えておいてね」

白柳さんは鳥肌が立った。

翌朝から白柳さんは、夫のことを考えた。

長女が生まれて半年くらい経った頃から、夫は仕事が忙しそうだ。表情も暗いし、食べる量も減っている。「子どもたちを預けて、たまには2人で出かけよう」と誘っても、「子どもたちがかわいそうだから」と言って拒まれた。

白柳さんは、「夫こそうつ病なのではないか?」と思い至った。だからその週末の夜、夫から「話がある」と言われた時、「仕事を辞めたい」という相談だと信じて疑わなかった。

子どもたちが寝静まった夜、夫は重い沈黙の後、口を開いた。

「実は俺、不倫してる」

夫は涙ぐみながら、「ごめん」と何度も繰り返した。

■夫という人間の正体

夫から不倫を告白された後、白柳さんは数日間の記憶がない。今まで疑いもしなかった事実を突きつけられ、夫の言ったことが信じられずにいた。そして告白から2日ほど経った後、再び夫に話を聞く。すると、

・相手は会社の人
・2人で会うのは週1回もないくらい
・肉体関係がある

「あとは言えない」という。

ベッドのふちに腰掛けて、いちゃついている男女
写真=iStock.com/ShaneKato
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ShaneKato

白柳さんが相手の名前と連絡先を聞くと、「迷惑がかかる。彼女のことが大事なんだ。俺が全部悪い」と言って断られる。

翌日から白柳さんは、夫の不倫の事実集めを始めた。夫が不倫をしているということがいまだに信じられなかったからだった。

家族が寝静まった後に財布やカバンを漁ると、コンドーム2個、風俗店のポイントカード3枚(1枚はVIP)、口臭スプレー3本、可愛い飾りのついたヘアピン、そしてキーケースには、どこかのアパートの鍵がついていた。さらにクローゼットの夫のリュックからは大量のAVと風俗店関連品……。

白柳さんは、夫が結婚前から風俗店にたびたび通っていたことは知っていた。

「風俗は浮気か否かという論争には決着がつかないと思います。が、結婚前、私は夫の『正式なパートナーがいても他の人とセックスできてしまう』性質をもっと真剣に考えるべきでした。結婚直前で『物わかりの良い妻』を演じたくてスルーしてしまったのが悔やまれます」

白柳さん夫婦は、長女を緊急帝王切開で出産してから、医師が「もう大丈夫ですよ」と許可しても、夫が「傷が開いたら怖い」と言い、セックスレスになっていた。

白柳さんは産後に夜に自分から夫を求めたこともあった。だが夫からは手を振り払われたり、怒声をあげられたりして拒絶された。出産後も自分磨きを怠らなかった白柳さんは、深く傷ついていた。

不倫の物的証拠や夫という人間を美化しすぎていた現実を目の当たりにした白柳さんは、前へ進むことを決意。ボイスレコーダーを購入し、自治体主催の「無料弁護士相談会」に申し込む。弁護士に相談し、探偵・興信所に依頼することを勧められると、費用が高額なため悩んだ。そこで調べた探偵事務所に連絡し、とりあえず会って話を聞いてみることにした。

■決意までのプロセス

朝、夫を送り出し、長男を保育園に預け、探偵に会う。探偵は、紳士的な男性に見えた。不倫の告白から10日後、ようやく夫は不倫相手の名前を吐いた。Sという26歳の女性だった。人事担当である夫は、彼女を採用後、時々サポートをしているうちに彼女から告白され、2人で会うようになっていったという。

その後、夫の出張用カバンから、不倫相手の名前と一致する女性社員の履歴書が見つかったため、コピーをとっておいた。これまでの経緯を話し、証拠品見せると、探偵は作戦を提示した。

・夫の車にGPSをつける
・不倫相手の誕生日に夫を尾行し、不倫の証拠写真を押さえる
・離婚は裁判や弁護士なしでも可能。示談ならば交渉次第で、慰謝料よりも高い示談金を請求できる可能性がある

「夫が自ら不倫を告白してきたので、不倫はほぼ確実です。ほぼ確実なのに、高いお金を払って探偵に調査依頼した上に裁判にかけたら、慰謝料は良くて300万。夫の場合は不倫期間が短いため、もっと低くなります。それなら、探偵さんの言う通り、1回20万円の調査で不倫相手の情報を掴んで、相手とコンタクトをとって示談に持ち込めば、素晴らしく効率的ではないかと思いました」

離婚は弁護士や裁判を通さないとできないと思っていた白柳さんは、示談という方法があることを知り、気持ちが明るくなった。不倫相手を特定し、相手から直接話を聞きたいと考えていた白柳さんは、契約書にサインした。

そして不倫相手の誕生日。探偵の提案通り、夫が相手のアパートに行っていたという証拠を掴み、白柳さんは不倫相手と会う約束を取り付ける。

探偵を交えて会ってみると、不倫相手はどこにでもいそうな普通の女性だった。白柳さんが質問し、それに相手が答えていくが、

・最初に告白したのは夫
・不倫が始まったのは昨年の12月(長女出産から5カ月後)
・会っているのはほぼ平日毎日

ということがわかり、不倫相手は「自分が悪いことをしていることはわかっているが、愛しているから別れたくない」と言い張った。

呆れながらも憤り、「自分の親は不倫していることを知っているのか? 知らないなら言ってその結果を報告して」と言って別れた。

後日、不倫相手から親に話した結果がLINEで届いたが、「親に人の道を外れたことをしていると言われてショックだったが、やっぱり別れたくない」という内容に愕然。

一方、夫にもどうしたいのかを訊ねるが、「キミのこともSのことも両方愛したい」と繰り返し、Sを庇い続ける。

喧嘩している男女
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

その頃、夫が不倫を告白して4カ月が過ぎていた。夫とSの話から推測するに、不倫が始まってからは約9カ月が過ぎていた。

白柳さんは決断した。

「再構築したとしても、これまで私の知らないところで素知らぬ顔して不倫していたのは事実。私はそれを一生忘れないだろうし、ちょっとした事で『もしかして、また……』と不安になり、疑い続けるでしょう。今思えば、夫自ら不倫を自白してきたのは、罪悪感に苛まれてではなく、Sと一緒になりたくてではななかったか? 言葉ではどっちも愛したいと言いつつ、どう見てももう私の事は愛していません。今までどんな事をされても極力離婚に進もうとしなかったのは、子どもたちのことがあったからですが、もう限界でした……」

■離婚後の後始末

最終的に白柳さんは、不倫相手と夫から300万円ずつ慰謝料を受け取り、夫からは子ども1人当たり8万円の養育費を払われ、月2回の面会交流を約束して離婚。購入して5年の家には白柳さんと子どもたちが暮らし、夫は不倫相手のアパートに転がり込んだ。

夫の不倫や離婚についての両親への報告は、白柳さんにとっては気が重い作業でしかなかった。

「世間体を気にする母は、『離婚なんて恥ずかしいからやめなさい』『あなたが悪かったから不倫されたんじゃない?』父からは、『1度の不倫くらい我慢しろ!』なんて言われるのかなと想像していました」

しかし違っていた。

「そんな大変なことになっていたのにどうして相談してくれなかったの⁈ 1人で戦うことないでしょ! まぁ、あなたは昔から大事なことは1人で決めちゃうからあなたらしいけどさ」

と母親はため息混じりに言い、

「お前、慰謝料の請求はするのか? 徹底的にやれ。お前はお金に無欲だからそこが心配だ。お前だけじゃなく、子どもたちにも関わるんだから、慰謝料も養育費も財産分与も取れるだけ取れ」

と父親からは冷静に指示され、肩透かしを食らう。思わず、

「不倫を許せとか離婚するなとか、そういうことは言わないんだね?」

と訊ねると、

「何言ってる!」

と両親の声が揃い、

「たくさん考えて決めたことでしょ? 反対なんてしないよ。これからは助けるから!」

と母親が言った。

白柳さんは今さらながら、家族の温かさを再認識できて良かったと思った。

一人暮らしの食卓
写真=iStock.com/Hanafujikan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanafujikan

■白柳家のタブー

筆者は家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つが揃うと考えている。

白柳さんの育った家庭には、父方の祖父母との同居が始まって以降、険悪なムードが漂っていた。その頃の白柳家の大人たちは、皆自分のことしか考えておらず、余裕がなく、思考停止し、「短絡的思考」に陥っていたと想像する。そんな家庭から早く離れたいと思っていた白柳さんは、「この家庭はおかしい」という羞恥心にも近い感情を抱いていたのではなかったか。

幼い白柳さんにとって最も近い存在だった母親は、外に働きにいきながらも、父親からは子どもたちの教育を丸投げされ、同居している義両親の手前、家事の手抜きもできずにいた。世間体を気にしすぎる性格の母親は、誰かに相談することもなく、1人で苦しんでいたのではないだろうか。結果、長女である白柳さんにストレスをぶつけてしまい、白柳さん自身も、父親をはじめ、家の中の大人を頼ることができず、かといって学校の教師や友人に相談することもなく、自分で考え自分で答えを出す癖がついていたのだろう。そんな一見精神的に強く自立した女性である白柳さんに、弱く依存気質の元夫が惹かれるのも無理もない。

壁に手をついてうつむいている男性のシルエット
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

元夫の父親は、男尊女卑の考えに凝り固まっており、仕事はするが毎晩のように飲み歩くため、飲み代が家計を圧迫。母親はパートに出るが、すぐに「合わない」と言って長続きしないため、生活にゆとりはなかった。両親は毎日のように激しい夫婦喧嘩をし、元夫と3歳上の兄と2歳下の妹はいつも怯えていたという。

そんな3人きょうだいの中でも、白柳さんの元夫は両親から冷遇されていた。他の2人は歯科矯正を受けさせてもらえたが、元夫だけされない。他の2人は親が奨学金の返済をしてくれたが、元夫だけは自分で返済。他の2人は両親への仕送りなど強要されていないのに、元夫だけされていた。元夫はいわゆる「搾取子」だった。大人になり、白柳さんとの家庭を築いた後も、自分を冷遇し続ける両親との関係を断ち切れず、言いなりになり続けていた元夫は、両親と共依存関係に陥っていた。

一方、白柳さんは育った過程で培われた自己肯定感の低さから、夫を過大評価し続けてしまった。過大評価は2人の間にある問題を見えなくし、放置し続けてしまったことで大きく成長し、不倫という最悪の形で噴出したのだろう。

不倫は「短絡的思考」から発生し、「断絶・孤立」を招く最たる行為だ。残酷なことに、白柳さんは、自分で築いた家庭でもタブーを発生させてしまった。

だが、現在の白柳さんは、新しい家庭を築き、前向きに暮らしている。

「離婚した後、シングルマザー生活に加え、職場復帰した途端の異動先でパワハラに遭い、うつになって休職しました。その時に心理カウンセリングを受け、母が毒であったこと、その根っこには父の問題があったことに気づきました。少しずつ『私は悪くない、よくがんばっていた』と思えるようになると、自己肯定感が回復し始め、元夫には言えなかった『こういうところを直してほしい』という自分の意見や要望を伝えることや夫婦喧嘩などが、今の夫にはできるようになっていました」

白柳さんは元夫と離婚後、結婚相談所に登録。3年間の交際を経て、2024年1月に入籍した。仕事面では、2022年9月に公務員を退職し、心理学を学び、2023年10月に不妊や夫婦関係を専門とする心理カウンセラーとして起業。夫婦関係に悩んでいた頃、同じように悩む女性のブログを読んで気づきを得たり、救われたりした経験から、2021年からブログを始めている。

「母の影響を強く受けて、私は自己肯定感が低く、自分軸ではなく他人軸で生きるようになっていました。世間体を気にしすぎるところも母の影響だと思います。また、過去の私が母にされていたように、他の人に対するイライラを、その人に言えない代わりに子どもにぶつける……ということを私もやってしまったことがあります。でも、今は母と適切な距離を置くことで、母の支配的なものから逃れ始め、子どもにイライラをぶつけることもなくなりました。しかし、母の影響から完全に逃げきるのは、まだまだ時間がかかると思います」

白柳さんは母親の支配や影響から少しずつ逃れ、抗いながら、自分の人生を歩きはじめている。

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。2023年12月に『毒母は連鎖する〜子どもを「所有物扱い」する母親たち〜』(光文社新書)刊行。

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(ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

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