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「子育てがうまくいかない親」ほどやりがち…子供を「お金やごほうび」で釣っている親が分かっていないこと

プレジデントオンライン / 2024年10月25日 10時15分

好きだった「泥団子作り」をやらなくなった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Umkehrer

子どもの自主性を伸ばすにはどうすればいいのか。医学博士の柳澤綾子さんの書籍『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)より、子どものやる気についての解説をお届けする――。

■好きだった「泥団子作り」をやらなくなった

「長女は一人で黙々と泥団子を作ることが好きなんです。先月、幼稚園でたまたま泥団子作りが流行(はや)ったみたいで、先生がコンペティションを開いてくれて、長女に優勝の金メダルを渡してくれたんです。優勝した日は嬉(うれ)しそうにしていたんですけど、何日かしたらパタッと泥団子を作らなくなって、誰とも遊ばずにぼーっとしているようになってしまって……。なんて声をかけたらいいのでしょう……」

子どものやる気が突然なくなってしまった。心配ですよね。

泥団子への情熱が、一気に冷めてしまったこのケース。何が起こっていたかというと、「外発的動機づけによって、内発的動機づけが潰されてしまった」のです。

■「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」がある

やる気には「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の2種類があります(※1)

※1 Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2017). Self-determination theory: Basic psychological needs in motivation, development, and wellness. The Guilford Press.

・内発的動機づけ

「とにかく好き」「やりたい!」と思う強い動機づけ。自分が好きで、やりたいと思っているのですから、そこに理由はありません。

・外発的動機づけ

やること自体に何らかの報酬や理由がある動機づけ。褒めてもらえる、お小遣いがもらえる、欲しいおもちゃを買ってもらえるなど、いい成績を取ったときに得られる「ご褒美」を期待して、やる気を出しています。

今回のケースでは、もともと長女は泥団子を作ること自体が楽しくて仕方ありませんでした。これこそが「内発的動機づけ」だったのです。

しかし、幼稚園で泥団子作りが流行り、コンペティションが開催されてしまいます。

ずっと泥団子を作ってきた長女は、誰よりも技術を持っています。そのため金メダルをもらえたのですが、ここで自分が泥団子を作ってきた目的が、「好きだから(内発的動機づけ)」だったのか、「金メダルが欲しいから(外発的動機づけ)」だったのかがわからなくなってしまいました。

■「金銭的報酬がもらえないグループ」のほうが好成績だった

これまでの研究において、このような場合の心理的影響が解明されています。ロチェスター大学の心理学教授であるエドワード・L・デシ博士によって提唱されたもので、大学生に対するパズルと金銭的報酬の実験によって研究が行われました(※2)

※2 Deci, E. L. (1971). Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 18(1), 105-115.

実験に参加した大学生を2つのグループに分けて、1つのグループには「パズルを解くと1ドルの報酬がもらえる」と教え、もう1つのグループにはパズルを解く理由は教えませんでした。

しばらく試験官はその場から立ち去ります。興味深いことに試験官が立ち去った後にも、報酬がもらえると伝えられなかったグループの方がパズルを続けた人が明らかに多かったのです。

つまり報酬のためにパズルをした場合よりも、純粋にパズルを楽しんだグループの方が長く続けられたということです。

■報酬を与えるとやらなくなってしまう

同様に、スタンフォード大学の心理学部教授のマーク・レッパー博士による未就学児に対する興味深い実験結果があります。

お絵描きをよくする未就学児に、お絵描きをすることに対して報酬を与えるという研究です(※3)

※3 Lepper, M. R., Greene, D., & Nisbett, R. E. (1973). Undermining children’s intrinsic interest with extrinsic reward: A test of the “overjusti¬cation” hypothesis. Journal of Personality and Social Psychology, 28(1), 129-137.

もともとお絵描きが大好きという内発的動機がある子どもに対して、報酬を与えた場合、報酬を与えない場合よりもお絵描きをしなくなってしまうことが明らかになりました。この現象を「アンダーマイニング効果」と呼びます。

つまり、「ただ好きでやっていることに勝るものはない」ということ。

数枚の1万円札を持つ子ども
写真=iStock.com/mapo
報酬を与えるとやらなくなってしまう(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mapo

■「話しかけない」のがベスト

例えば、お絵描きをしているときは話しかけないのがベストです。

途中で「すごーい」や「えらいね」などと言わないのがおすすめで、「これ何?」「何描いてるの?」といった質問もいらないのです。

クレヨンでお絵描きをする子どもの手
写真=iStock.com/flyingv43
「話しかけない」のがベスト(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/flyingv43

それが学校の成績や将来の進路につながるかつながらないかは、その時点では誰にもわかりません。それでも、費やした時間や集中力は後々必ず大切な財産になります。「好き」を見守ることこそが、自己肯定感を伸ばすことにつながるのです。

■「お手伝いにお小遣い」実はNG

「お手伝いが子どもの発達にいいって聞いたから、食事の前に家族のお箸を並べることから任せてみました。何日か続けてくれたから、もっとやる気を出してもらえるように1回につき10円のお小遣いをあげたら、しばらくは喜んでやってくれるようになったんだけど……。今朝になって洗濯物をカゴに入れるように伝えたら、『それも10円くれる?』と言うようになってしまって……。どうしたらいいのかな?」

先日こんな相談を受けました。これ、すごくよくある相談内容なんです。

「小さな成功体験を積むことは自己肯定感を育むのに大事」、本やネットではしばしばこのような説明がされます。

日本には昔から、「新聞を取ってきたら10円もらえる」のような小さなお手伝いとお小遣いの文化がありました。

私自身は、「なごみ系のほっこり文化」として、肯定的に感じることもあるのですが、この小さなお手伝いに対するお小遣いは、自己肯定感の観点からはおすすめできる行為ではないといわれ始めています。

■続ける理由が「10円をもらうため」に変わってしまう

これは、先述した「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」とも関わります。今回のケースで考えられる子どもの思考回路を見てみましょう。

初めは、箸を並べる仕事を任されて純粋な嬉しさを感じていました。お小遣いももらえて、さらにやる気がアップしますが、この段階で「外発的動機づけ」が発生してしまいます。

やがて続けているうちに、「お箸を並べて役に立てて嬉しかった」という気持ちは薄れ、続ける理由が「10円をもらうため」に変わります。

すると、お手伝いという小さな成功体験の記憶ではなく、10円の効果に動機づけが置き換わってしまい、モチベーションが保てないという経過を辿(たど)ったと推察されます。

■「これができたら○○を買ってあげるよ」で不安感や抑うつ症状も

子どもに達成感を味わってもらうために、小さなステップの成功体験を積む。これ自体はいいことだといわれています。

ただ、この方法を使う際に気をつけないといけないことは、ステップが小さいがゆえに、ご褒美をあげたり、大げさに褒めたりするといった付属の方法が期せずしてついてきてしまうことなのです。

大げさな褒め方やご褒美は、瞬間的にはモチベーションを上げ、自分を肯定する気持ちを高める効果を発揮します。ただ、効果は持続しませんし、長期的にはむしろ悪影響を及ぼすという研究結果がいくつも出ています。

実は「これができたら○○を買ってあげるよ」といった報酬を長期的に続けていた場合、将来的に予測される悪影響には、不安感や抑うつ症状といったメンタルに関わるものだけでなく、身体や人間関係においても良くない影響をもたらすことを示唆する研究結果が出てきています(※4、5)

※4 Kasser, T., & Ryan, R. M. (1996). Further examining the American dream: Differential correlates of intrinsic and extrinsic goals. Personality and Social Psychology Bulletin, 22(3), 280-287.
※5 Williams, G. C., Cox, E. M., Hedberg, V. A., & Deci, E. L. (2000). Extrinsic life goals and health-risk behaviors in adolescents. Journal of Applied Social Psychology, 30(8), 1756-1771.

それでは、今回のケースのように子どもにお手伝いを促したいときにできることはなんでしょうか。

柳澤綾子『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)
柳澤綾子『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)

まず、「小さな家事」に興味を持ってもらうところから始めましょう。

洗濯物の中から靴下の組み合わせを探す、片付けの時間を測って前回の記録と競争するタイムアタックをするなど、ゲーム要素を取り入れ、楽しみながら一緒にできるものがいいですね。

また、小さな家事をしてくれると親としてはとても嬉しいと丁寧に伝えましょう。ただし、簡単すぎるものを過剰に褒めることはおすすめできません。ただにっこりと、「ありがとう、助かるよ」と言ってあげる。子どもはこれだけで十分幸せな気持ちになれるのです。

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柳澤 綾子(やなぎさわ・あやこ)
医師、医学博士
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。公衆衛生学を専攻し、社会疫学、医療経済学およびデータサイエンスを専門としている。東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員。集中治療・麻酔科専門医指導医。また株式会社Global Evidence Japan代表取締役として、母親目線からの健康と教育への啓発活動などを精力的に行なう予定。『VERY』をはじめ多数の雑誌で連載記事執筆、ラジオ出演などメディア出演も多数。著書に『身体を壊す健康法』(Gakken)、『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)。

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(医師、医学博士 柳澤 綾子)

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