これを与える親は「創造性」を奪っている…最新研究で判明した「社会で成功する子どもが育つ」理想のおもちゃ
プレジデントオンライン / 2024年10月26日 10時15分
■「好きなことに邁進する人」が社会的に成功する
アメリカの臨床心理学者ジョセフ・バーゴ博士は、著書『Why Do I Do That?: Psychological Defense Mechanisms and the Hidden Ways They Shape Our Lives』の中で、社会的に「成功者」と呼ばれる人たちを研究した結果、名声や富を熱望している場合よりも、ただひたすら純粋に好きなことに邁進(まいしん)している人の方が社会的成功の確率がはるかに高いと述べています。
また、ハーバード大学でテクノロジー&起業センター初代革新教育フェローを務めたトニー・ワグナー博士が、2012年に次のように語った書籍と動画が話題となりました(※1)。
「これからの社会において必要な能力はイノベーターになる力である。与えられた仕事や事柄をこなす能力ではなく、社会・経済の環境が変化し、社会構造がどんどん変化する時代において、新しい状況に対応して生きていく力を持つことだ」
※1 Wagner, T., & Graham, H. (2014). Creating innovators: The making of young people who will change the world. Unabridged. Prince Frederick, Recorded Books, Inc.
■「失敗する機会を与えること」が必要
「新しい状況に対応して生きていく力」はどうすれば身につくのか。ワグナー博士は、「失敗する機会を与えること」だと言っています。
早めに「小さな失敗」ができる機会を与えられると、考えることの大切さを学べます。
逆に先回りして失敗しそうなポイントを一つ残らず取り払おうとする「ヘリコプターペアレント」として子どもと接してしまうと、この「小さな失敗をできる機会」を失ってしまうのです。
子どもも大人も失敗からは多くのことを学びます。難しいのは、「失敗に価値がある」と頭ではわかっていても、親としては失敗よりも成功を評価したくなったり、失敗して傷つかないように環境を整えてあげたくなってしまうことです。
そこで、「失敗」を「もう一度挑戦できるチャンスを得る機会」ととらえてみるようにしましょう。
■わが子をイノベーターにする「3つのP」
トニー・ワグナー博士は、遊び(Play)→情熱(Passion)→目的(Purpose)の3つのPがイノベーターになる力を身につけるためには重要と述べています。
また、3つのPは前述した遊び→情熱→目的の順番を辿(たど)ることが大事です。
遊び→情熱→目的の順を追う過程は次のようなイメージです。
②遊びの中から自分の好きなものが見つかり、情熱が生まれる
③やがて自分の好きなことで社会に貢献したいという目的が生まれる
■「おもちゃは多いほうがいい」は本当か?
「義理の両親が、頻繁に新しいおもちゃを持って遊びに来るので、リビングがおもちゃで埋め尽くされてしまいそうです。おもちゃって、こんなにたくさん与えていいのでしょうか?」
発達や知育を考えて、どんなおもちゃを与えたらいいだろうかと日頃から考えている方も多いですよね。そんな方にとっては、おもちゃを持って遊びに来てくれる義理のご両親の気持ちはありがたいけれど、どんどん新しいおもちゃを買い与えられてしまうと、モヤモヤしてしまう。その気持ち、よくわかります。
「おもちゃの数」には、興味深い研究結果があります。
トレド大学のアレクサ・E・メッツ博士らの研究チームが2017年に発表した論文によると、子どもたちがおもちゃで遊ぶときには、おもちゃの数が少ない方がより創造的にふるまう傾向があるそうです(※2)。
※2 Dauch C, Imwalle M, Ocasio B, Metz A.E. The in_uence of the number of toys in the environment on toddlers’ play. Infant Behav Dev. 2018 Feb;50:78-87. doi: 10.1016/j.infbeh.2017.11.005. Epub 2017 Nov 27. PMID: 29190457.
■少ないおもちゃで遊ぶほうが創造的
実験では36人の幼児が2パターンの遊び場に分けられます。一つは、おもちゃが4個ある遊び場。もう一つは、おもちゃが16個ある遊び場です。そこで子どもたちは、一人で30分間遊ぶように伝えられるのです。
研究者たちは、実験に参加した36人の幼児たちの遊びにおける活動内容の数と創造性を計測しました。
その結果、16個のおもちゃで遊んだ子どもよりも、4個のおもちゃで遊んだ子どもの方が創造的要素が高く、1個ずつのおもちゃで長く遊び続けることがわかりました。
つまり、子どもたちは与えられたおもちゃの数が少ない場合は、一つのおもちゃであっても別の遊び方を見つけ、新しいおもちゃであるかのように長時間遊ぶことができたのです。
■もともと自分で作り出す能力をもっている
この結果を踏まえて、今回のケースを見てみましょう。
自分から何かを創造する力を育むためには、おもちゃの数は少ない方が良さそうです。子どもはもともと自分で何かを作り出す能力を持っています。それを「そっと手助けしてあげる」くらいのシンプルなおもちゃが少しあればいいのではないかと思います。
また前述の通り、好きを見つけて追求する力を発揮できるようになるためにおすすめなのは「3つのP」です。
3つのPとは、遊び(Play)→情熱(Passion)→目的(Purpose)でしたね。おもちゃの数と創造性は、最初のPである「遊び(Play)」に関わります。遊びの中から次の情熱を見つけるためには、おもちゃを用いて想像力を呼び覚ますことが最初のステップになります。
まずはシンプルなおもちゃを4つ程度吟味することから始めてみるのがおすすめです。
ただし、先の研究結果を解釈する際に注意してほしいことがあります。
この研究結果は「少ないおもちゃで遊ぶべきである」と言っているわけではなく、「子どもたちは少ないおもちゃで遊ぶ状況の方が、より創造的に遊びを行う可能性が高い」ということを示しているだけなので、注意してください。
創造力を持って遊べること、これが後に好きに突き進む情熱力になる可能性があるのです。
■「積み木」と「キャラクターもの」どちらがいいのか?
「おもちゃの種類で悩んでいます。知育にいいと聞いて、シンプルな積み木や装飾のないブロックなどを子どもに買い与えてあげようかと思ったのですが、おもちゃ屋さんには色とりどりのキャラクターもののセットのおもちゃが並んでいて、こっちの方が子どもは喜ぶかと迷ってしまいます」
最近のおもちゃって、すごくよくできていますよね。アイスクリーム屋さんセットであれば、コーンやカップ、ショーケースまで小物が精巧に作り込まれていて、完璧なごっこ遊びを体験できます。
私たちが子どもの頃のおもちゃは今ほど精巧にはできていませんでした。それでも、私たちはごっこ遊びに夢中になっていたはずです。
一方、知育にいいといわれる木のおもちゃや装飾のないブロックなどは、こうした立派なおもちゃと対極にあるように思えます。子どもの想像力と創造力を伸ばす上では、どちらがいいのでしょうか?
■「キャラクターもののおもちゃ」は飽きられる
日本知育玩具協会では、知育玩具とは「①長く遊べる良質な玩具であって、②遊びを通して自然の法則を学び、③生涯必要となる集中力、意欲、社会性、創造力、やり抜く力を身につける、文化的価値のある玩具」と定義しています(番号は筆者による)。
この定義に則(のっと)って玩具について考えてみましょう。
おもちゃにキャラクターがついていたりすると、短期的には子どもは大喜びします。
しかし、子どもが気に入るキャラクターは、多くの場合発達段階によって変化します。おもちゃそのものではなく、「キャラクターが好きじゃなくなった」という理由で飽きてしまう可能性があるのです。長く遊べるおもちゃという観点からは、キャラクターものでは条件を満たすことができません。
■「遊び方が決まっているおもちゃ」は創造性を発揮する余地がない
また、量販店に並んでいるおもちゃの多くは、遊び方が決まっています。
先ほど例に挙げたアイスクリーム屋さんセットであれば、ケーキ屋さんごっこやパン屋さんごっこはできないようになっており、用途に合わせたおもちゃを買い足す必要があります。
このタイプのおもちゃは、遊びの準備段階でショーケースの中に並べるものの配置まできっちりと説明書に書いてあるため、子どもの創造性や自主性を発揮する余地が全くないのです。
これらを踏まえると、おもちゃは使用用途の限られていない、想像力によって何にでも見えるもの、創造力によって何にでもなるものがおすすめです。
大きさも種類も揃(そろ)っていない葉っぱが目の前に並べられた光景をイメージしてみてください。きっと子どもたちは思い思いに遊び始めるはずです。大きな葉っぱをお皿に見立て、細長い葉っぱを細かく千切って「これはラーメン」と言い、子ども同士で小さな葉っぱをお金に見立ててラーメン屋さんごっこを始めるでしょう。これが3つのPの遊び(Play)から情熱(Passion)に続く矢印にあたると考えればわかりやすいでしょうか。
子どもたちにはもともと豊かな創造力も想像力も備わっているのです。
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医師、医学博士
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。公衆衛生学を専攻し、社会疫学、医療経済学およびデータサイエンスを専門としている。東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員。集中治療・麻酔科専門医指導医。また株式会社Global Evidence Japan代表取締役として、母親目線からの健康と教育への啓発活動などを精力的に行なう予定。『VERY』をはじめ多数の雑誌で連載記事執筆、ラジオ出演などメディア出演も多数。著書に『身体を壊す健康法』(Gakken)、『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)。
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(医師、医学博士 柳澤 綾子)
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