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「令和のコメ騒動」は自民党政治のツケである…「ゾンビ政治家」が支配する日本が今後直面する"悲劇"

プレジデントオンライン / 2024年10月22日 16時15分

気づいた時には日本の農業はなくなっている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/west

「コメ不足」は来年も繰り返されるのだろうか。京都大学大学院の藤井聡教授とジャーナリストの堤未果さんの共著『ヤバい“食” 潰される“農” 日本人の心と体を毒す犯人の正体』(ビジネス社)より、「コメの流通・供給の仕組みが壊された理由」をお届けする――。

■気づいた時には日本の農業はなくなっている

【堤未果(以下、堤)】ナチスドイツ政権下で、ニーメラー牧師という人が書いた有名な詩があります。

〈ナチスが共産主義者を攻撃し始めたとき、私は声をあげなかった。

なぜなら私は、共産主義者ではなかったからだ。

彼らが社会民主主義者を投獄したとき、私は声をあげなかった。

なぜなら私は、社会民主主義者ではなかったから。

彼らが労働組合員を連れさったとき、私は声をあげなかった。

なぜなら私は、労働組合員ではなかったから。

次に彼らは私を攻撃し始めた。

だがもう、私のために声を上げる者は、一人も残っていなかった〉

こんな風に、見えないところからじわじわと足元が崩されてゆくパターンは、時代が変わった今も機能しているんです。

【藤井聡(以下、藤井)】このまま私たちが何も声を上げなければ、「彼らが米を取り上げた時に私たちが安心して食べられるものは何一つ残っていなかった」なんてことになってしまいます。

■かつては「米価審議会」があった

【藤井】昔の日本人は「米」と「農家」を守るために努力を積み重ねていたのですが。

かつて「米価審議会」というものがありました。1949年に設置された農林水産省の諮問機関で、米の価格を話し合い、暴落したり高騰したりしないよう、調整していたのです。

これは農家を守ると同時に、米を主食とする日本人の食生活を守るという機能を果たしていました。

僕も学校で「米価審議会で米価を決め、農家の所得を守り、日本の米を守りましょう」と、当たり前のように習っていたものです。

米は日本人の食生活の根幹にかかわる大事なものだから、「米の価格をマーケット(市場原理)で決めるなんて、アホちゃうか」という雰囲気があったわけです。

その米価審議会は、2001年に廃止されました。

要するに日本政府は米農家を守ることも、米食文化を守ることも放棄したわけです。

■「農家の補助金を打ち切れ」は誤り

【堤】今や“有識者やインフルエンサー”が口を開けば、やれ家族経営の農家を解体しろとか、補助金を打ち切れとか、そんなフレーズばかり。

YouTuberが「棚田なんて無駄、観光客用の飾りでしかないじゃん」なんて平気で言いだす始末です。生産性の面でしか見てなくて、棚田の持つ多くの価値を全くわかってない。

YouTuberが「棚田なんて無駄」と言い出す(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/mitumal
YouTuberが「棚田なんて無駄」と言い出す(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mitumal

今は多くの人が「スマホ脳」で、すぐ答えが出ないとイラっとしてしまう。インフルエンサーが断言すると、深く考えずにすぐ「そうか、棚田って無駄だな」と思い込んでしまうので厄介なんです。

【藤井】東京大学大学院特任教授の鈴木宣弘先生はこんな話をしていました。

コロナで外食需要が減った時、米が余るようになった。すると日本の政府は「米が余って値段が暴落するので、米を作るな、流通させるな」という方向に動く。

そうではなく、余った米は国が買い上げて、人道支援や生活困窮支援に回すべきなのです。

実はアメリカもそういう発想でやっている、というのが鈴木先生のお話でした。

■アメリカは農家の所得を補填している

【藤井】米の一俵当たりの値段が1万2000円から9000円に下がった場合、アメリカはその差額分を補填しています。それこそ多額の税金を使って補填しているとも聞きます。アメリカでは「米が余ったら減産しろ」とはならないのです。

これは経済学でいう、財政政策によるプライスコントロール(価格調整)政策です。アメリカはこれを徹底しているのです。

日本も同様に、国が買い上げたり、補助金を出すべきだと鈴木先生はおっしゃっている。そうすることで、農家も助かるし、人道支援、生活困窮者支援にもなる。そのために財政出動が必要なんだと力説されていて、全く同感でした。

■「米粉の活用」農水省が頑張っている

【堤】同感ですし、本当に今、それしかないですよね。

有事で輸入小麦が高騰しパン屋さんやレストランがたくさん潰れました。私はグルテンが苦手ですが、それもあって、日本はもっと国産米粉に力を入れたらいいのにと思っています。

米粉パンは時間が経ってもパサパサしません。小麦アレルギーの子供が増えている今、お母さんたちにも大人気なんです。味も美味しいですよ。

米粉パンは時間が経ってもパサパサしない(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/FotoCuisinette
米粉パンは時間が経ってもパサパサしない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/FotoCuisinette

円安や輸送費用の高騰で輸入小麦の値段が高止まりしている今は、米粉推進の格好のチャンス。

実はこの点では農水省が地道に頑張っています。

■食料自給率が低いと「デフレ圧力」

【藤井】いま日本は農産品を輸入するために、実に8兆円ものお金を海外に支払っています。つまり、食料自給率が低いことが、イコール「デフレ圧力」になっている。

しかし、食料自給率が高まれば、この8兆円のうちのかなりの割合が、国内にとどまるわけです。

食料自給率を高める政策とは、要は「8兆円の景気対策」に等しい。日本人1億人の「胃袋」とは、いわば「強力な内需製造装置」なのです。

ところが政府にはそうした意識がない。だから、アホみたいに食料自給率を下げ、日本円を海外に流出させて、デフレ圧力を強めているわけです。

関西弁で言うところの、「アホ丸出し」な話そのものです(笑)。

■物価高騰への危機感が感じられない

【堤】2023年に小麦や燃料などいろんなものの価格が一気に高騰し、全国各地で悲鳴が上がっていたのに、政治の反応は鈍いというか、焦りを感じなかったんですよね。

いわゆる農水族議員の先生方からも、今一つ「声」が聞こえてこなくて……。

【藤井】永田町にはそういう危機感はまったくありません。脳死してるんでしょうね。

【堤】脳死!

【藤井】永田町の人たちはゾンビみたいなものです。生きているように見えますが、実際には死んでいるに等しい。

僕は内閣参与として6年間永田町にいましたが、「うわ、こいつ脳死してはるわ」と思うことがしばしばありました。

売国奴かと思うような輩がたくさんいる(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/kuppa_rock
売国奴かと思うような輩がたくさんいる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/kuppa_rock

挨拶したり、お酒飲んだり、笑ったりしていますけど、感情が伴っていない。キョロキョロとリスみたいに上の様子をうかがっているだけ。「日本のためにこういうことをしたい」という意志や、「今こういうことをしなければならない」という使命感を持っているようにまるで見えない。「ロボットちゃうか」と思っていたくらいです(笑)。

【堤】絶対背中に銀のボタンがついてますよ(笑)。

■売国奴かと思うような輩がたくさんいる

【藤井】官僚にせよ政治家にせよ、売国奴かと思うような輩がたくさんいます。TPPやEPAなどの外交交渉を見ても、日本の農業が衰退すると分かっていながら、あらゆる農作物の関税を引き下げ、輸入規制を撤廃して自由化し続けたのです。

その見返りに自動車の関税を数パーセント、下げさせてくれと願い出ている。これは文字通りの売国行為です。

【堤】実際、政府が当てにならないので、地方の中には、生き延びるために創意工夫をこらした取組みが始まっています。

日本の農業と食料安全保障を守るために「タネの自給率」は不可欠ですから、私の夫(川田龍平議員)が超党派の議員立法で成立を目指しているのが、「ローカルフード法案」です。

食料安全保障の基礎となる地域の在来種の種を「公共資産」と位置付け、公費を投入し守っていく。これをベースに、47都道府県で地域のタネから作る「循環型食システム」を張り巡らせるというものです。

今永田町ではかつての田中角栄氏のような議員がめっきり減ってしまったので、日本のために必要な議員立法だと訴えても皆さん反応が悪いと。

(注:本書刊行の翌月に参議院で提出され時間切れに。臨時国会で再提出予定)

■自らは粗末な服を着た仁徳天皇

【藤井】第16代天皇である仁徳天皇の「民のかまど」の逸話を思い出します。

仁徳天皇が高い山に登って、すそ野に広がる村々を見下ろしたところ、炊事の煙が上がっていないことに気づきました。仁徳天皇は「民は食べるものにも困っているのではないか」と考え、租税を免除して、民の負担を軽減し、生活が豊かになるまでお金を徴収しないことを約束したといいます。

仁徳天皇自身は、服も粗末なものを着て、宮殿の屋根さえ葺き替えなかったと伝えられています。

民への愛情、治世者の役割、さらには租税と経済の関係性まで、今の政治家よりずっと理解されていたことがわかります。

■山田孝之・松山ケンイチが田植えをする理由

【藤井】先日あるサイトで、俳優の山田孝之さんと松山ケンイチさんが田植えをしている様子を見ました。山田さんが主宰する「原点回帰」という団体が水田を持っていて、二人で泥だらけになって田植えをしながら、農業や自然の恵みへの感謝について語っていました。

藤井聡、堤未果『ヤバい“食” 潰される“農” 日本人の心と体を毒す犯人の正体』(ビジネス社)
藤井聡、堤未果『ヤバい“食” 潰される“農” 日本人の心と体を毒す犯人の正体』(ビジネス社)

「田植えをすることで、土と繋がっている、一体になった感じがする」「農作物を輸入に頼っているだけだと絶対無理だし、農は絶対になくならない、なくしちゃいけないものだと思う」「昔からの固定種だったり、農薬肥料に頼らなくても作物ができるっていうことがちょっとずつ浸透していけば、食料難だとか、何か災害があったときの焦りとかが減ってくることに繋がっていくと思う」とお二人とも語っていて、農についての問題意識を共有していただいていると感じました。

世代で言うと、彼らは30代後半から40代前半くらい。この世代は、それより前の世代とは違って、農業に対してダサいとか、古い、カッコ悪いといった間違った先入観を持っていないのでしょう。

■若い世代はより自然に近い農業に入ってくる

【堤】山田孝之さんが実践しているのは、「菌ちゃん先生」こと、長崎の吉田俊道さんが指導している「菌ちゃん農法」。実はこの「菌ちゃん先生」は私の著書『ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?』(文春新書)で取材し、その考え方にとても感動した方の一人なんです。

山田孝之さんが農法を伝承してもらっているもう一人の師匠が、在来種のタネを守っている「野口のタネ」の野口さんです。

若い世代は、変に新自由主義や効率主義に脳が染まっていない分、お金が全てという世界の息苦しさ、生きづらさをストレートに感じて、その外に出ようとしていると思います。

放牧した牛のミルクでお菓子を作る北海道の企業の社長さんを取材した時も、今高齢者が次々に畜産をやめる一方で、より自然に近い「放牧」に若い新規農業者が入ってくるとおっしゃっていました。

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藤井 聡(ふじい・さとし)
京都大学大学院工学研究科教授
元内閣官房参与。京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年、奈良県生まれ。京都大学卒業、同大学院修了後、同大学助教授、東京工業大学教授等を経て現職。2012年より2018年まで安倍内閣・内閣官房参与にて防災減災ニューディール政策を担当。専門は経済財政政策・インフラ政策等の公共政策論。文部科学大臣表彰・若手科学者賞、日本学術振興会賞等受賞多数。著書に『MMTによる令和「新」経済論』(晶文社)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)など。「正義のミカタ」(朝日放送)、「東京ホンマもん教室」(東京MXテレビ)等のレギュラー解説者。2018年より「表現者クライテリオン」編集長。

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堤 未果(つつみ・みか)
国際ジャーナリスト
東京生まれ。NY市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連、アムネスティ・インターナショナルNY支局員、米国野村証券を経て現職。日米を行き来し、各種メディアで発言、執筆・講演活動を続ける。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞、『貧困大国アメリカ』(3部作、岩波新書)で日本エッセイストクラブ賞、新書大賞受賞。多数の著書は海外でも翻訳されている。近著に『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書)がある。

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(京都大学大学院工学研究科教授 藤井 聡、国際ジャーナリスト 堤 未果)

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