100歳超が全国平均の3倍…「日本一のピンピン長寿地域」京都府京丹後の高齢者が毎日食べている"健康食材"
プレジデントオンライン / 2024年10月20日 16時15分
※本稿は、内藤裕二『健康の土台をつくる 腸内細菌の科学』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■「百寿者」がたくさん住む京丹後地域のナゾ
私たち京都府立医科大学では、2017年より国内有数の長寿地域である京丹後地域の住民を対象に長寿コホート研究(観察研究)を行っています。京丹後地域は、100歳を超える百寿者の割合が全国平均の約3倍という長寿地域です。
この地域に住む人の腸内細菌を、それ以外の地域(研究では京都市内)に住む人と比べると、やはり、寿命短縮に影響する可能性のあるプロテオバクテリア門が少なかったのです。
また、65歳以上の高齢の住民を対象に暦年齢に影響を与える腸内細菌叢の解析を実施した結果、若さを維持している人に特有の3種類の菌の存在が明らかになってきました。
ロゼブリア属、ブラウティア属、アナエロスティペス属というすべてがファーミキューテス門のラクノスピラ科に属する菌です。
■健康維持に役立つ「酪酸産生菌」
ロゼブリア属の菌は、野菜、果物、脂質の多い魚、ナッツ類、食物繊維が豊富に含まれる穀類の摂取量が多い人の腸内で多いという報告があります。
ブラウティア属は、日本人の肥満していない人に多い菌で、大麦や玄米を食べていると増えやすいとされています。中でもブラウティア・ウェクセレラエという菌では、動物試験でこの菌の摂取により肥満や糖尿病が抑制できることが報告されています。
特に注目すべきは、この3つの菌が酪酸産生菌であるという点です。ここ数年、腸内細菌がつくる酪酸をはじめとする短鎖脂肪酸が、私たちの健康維持に大きな役割を担っていると注目されるようになってきましたが、この調査はそれを裏付けると考えてもいいのではと思っています。
■ただ長生きなだけではなく、若くて元気
ちなみに、京丹後地域は、100歳を超える百寿者の割合が全国平均の約3倍という長寿地域ですが、京丹後の人の腸にもアッカーマンシア菌(※)はほとんどいません。そもそも、国内で沖縄以外のエリアではアッカーマンシア菌はほとんどいないのです。
※生活習慣病対策や長寿の研究で世界的に注目を集める菌。肥満や血糖値の高い人の腸に少ないと報告されている。
にもかかわらず、日本人の平均寿命が世界トップクラスということを考えると、日本人の長寿の理由は、アッカーマンシア菌とは別のところにある可能性が高いでしょう。
京丹後地域の人たちはただ長生きなだけではありません。インフルエンザが全国的に流行したときも、京丹後の高齢者は感染率が非常に低く、サルコペニア(加齢による骨格筋量の低下および筋力の低下)の人も10%を切っています。
しかも、大腸がんの罹患率は京都市の半分以下です。血管も若い、免疫も若い、筋肉もしっかりして、フレイルや認知症も少ないという、特異な集団です。
■野菜や全粒穀類、海藻を毎日食べている
そこで、この地域ではどのような食事が多いのか、調査を行ったところ、京丹後の高齢者は、京都市内在住の人に比べ、野菜や果物、豆やイモや根菜類、全粒穀類や海藻を食べる頻度が明らかに多かったのです。
■肉より魚が多い「伝統的な日本食」
このことからわかるのは、食物繊維の摂取量が多いこと。特に根菜類から多く食物繊維をとっていることがわかってきました。また、海が近いこともあって、魚をよく食べ、肉を食べる頻度は少ない――。いわゆる伝統的な日本食ですが、実は地中海食との類似点も多いのです。
さらに、京丹後と京都在住者各51人の腸内細菌を比較してみると、京丹後の人の腸には、京都在住の人に比べて酪酸産生菌が多く、寿命短縮の可能性のあるプロテオバクテリア門の菌は少ないことが確認されました。
酪酸産生菌といっても、菌種はさまざまです。酪酸産生菌によって腸の中でつくられた酪酸は、過剰な免疫反応を抑える抑制系の免疫細胞(Tレグ細胞)の働きを高めたり、腸の内側に広がる腸管上皮細胞のエネルギーとなって、異物の侵入を防ぐ粘液(ムチン)の分泌や正常な蠕動運動を促したりすることが知られています。
■日本人ならではの「長寿食」を研究中…
いま、私たちの研究チームは長寿につながる日本人向けの食事パターンを見つけ出そうと研究しています。先の食事調査からわかってきたように、食物繊維が重要です。
さらに日本人の健康には、ブラウティア・コッコイデスという菌とビフィズス菌が多いことも長寿と関係していると私は考えています。
そして、こうした日本人ならではの有用菌を増やすのに、「麹」がカギを握るのではないでしょうか。
■醤油や味噌といった麹発酵食品の可能性
麹には、グルコシルセラミドという成分が含まれています。これは、セラミドという脂質にグルコース(ブドウ糖)がくっついたものですが、ブラウティア・コッコイデスは麹の持つグルコシルセラミドをエサに増殖します。
発酵食品の中でも麹菌で発酵させる麹発酵食品は日本特有のもので、醤油や味噌がおなじみです。京丹後でも、味噌など麹発酵食品はよく食べられています。
ブラウティア属の菌は、ビフィズス菌同様に、代謝物として酢酸をつくります。酢酸は有害菌の増殖を抑制し、腸管上皮の傷を修復する働きがあり、大腸に酢酸があると、細菌やウイルスにくっついて粘膜からの侵入を防ぐIgA抗体の産生量が増えることも確認されています。
腸内細菌を制御するカギがIgA抗体だという説がありますが、もしかしたらそれが正解かもしれません。日本人の腸では、日本人の食生活に合う菌が、欧米では欧米の食生活に合う菌が、長寿を支えているのではないでしょうか。
※腸内細菌の分類名は新しくなっていますが、この記事では旧分類で解説しています。
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京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学教授
京都府立医科大学卒業。米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学教室准教授、および同附属病院内視鏡・超音波診療部部長などを経て、2021年4月より現職。腸内細菌学、抗加齢医学、消化器病学を専門とする。2023年、胃腸の機能低下と病気のリスクとの関連について研究する「日本ガットフレイル会議」を発足。医師向けの『すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢』(羊土社)のほか、一般向けの著書多数。
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(京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学教授 内藤 裕二)
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