主演の橋本環奈さんは何も悪くない…NHK朝ドラ「おむすび」が絶不調なのは、すべて「虎に翼」のせいである
プレジデントオンライン / 2024年10月16日 17時15分
■話に乗りづらく、展開が緩い
朝ドラ「おむすび」が始まって2週間。10話をコンプリートした。けっこう大変だったが朝ドラについては著書もある身、なんとかやり遂げた。
10話で主人公・米田結(橋本環奈)の「ハギャレン(博多ギャル連合)」加盟が見えた。ここからはこんな感じでギャル話が続き、やがて栄養士になる。わかりました、これにて「おむすび」卒業――。
と、かなり真剣に思ってしまった。話に乗りづらく、展開が緩く、2004年=20年前の話なのに古臭い。つまり面白くない。しかも気の毒なことに、どうしても「とらつば」こと「虎に翼」と比べてしまう。
もっと別な、通常モードの朝ドラの後だったら、こんなにも不満は感じなかったはず。と思いもするが、還暦を過ぎた身にギャルは厳しい。
“ギャル問題”から書くならば、当初(=スタート前の情報解禁段階)は、「ヒロインの遅れてきたギャル設定、わからなくない」と思っていた。
というのもこの数年、「今どきギャル」に焦点をあて、「流行りと関係なく己の信じる道を行く、意志ある人」と解説されているのを何となく知っていたから。ヒロインの意志のありかを示す、“材料”としてのギャルなのではと解釈したのだ。
■「ギャル」に共感できない
が、10話まで終わった時点で言うなら、結を「ハギャレン」に誘うギャルたちは「意志の強い人」というよりは「イラッとさせられる人」で、背景にいろいろ大変さがあることもわかったけれど、共感できるかと聞かれれば「ノー」だ。
そもそも高校1年になったばかりの結とギャルを結びつけるのは、「伝説のギャル」だった姉・歩(仲里依紗)だ。
歩が初代総代だった頃はメンバー100人だったハギャレンも、現在は4人。現・ハギャレン総代の瑠梨(みりちゃむ)が「歩の妹を総代にすれば盛り返せる」と考え、激しくリクルーティングする。結が所属した書道部の話も少し描かれるが、これも別に面白くない。
結のハギャレン入りまでの道を簡単にまとめると、
①「無理です、すみません」と断る
↓
②メンバー・鈴音(岡本夏美)の事情(母子家庭。食費節約のためスナック菓子しか食べず、栄養失調で倒れる)を知り、「友達なら」よいと譲歩
↓
③プリクラを一緒に取る
↓
④やはりやめたいと言うと、プリクラを親に見せると瑠梨におどされる
↓
⑤瑠梨の事情(仕事人間の両親から見捨てられている)を知り、「パラパラ、教えてください」と申し出る=事実上のハギャレン入り、とあいなる。
瑠梨の話し方が「チョー上げー」「チョー下げー」とやたらと「チョー」を多用し、ギャルっぽさの強調とわかっても聞くたびにイラッとする。結はと言えば、彼女らの事情を知るたびに距離を縮める。優しいというより情にほだされやすい人に見える。
■「#反省会」の再来も無さそう
で、なんでそうなのかというと、初回に一家揃っての夕飯シーンがあり、そこで祖父(松平健)が「困っとんしゃあ人がおったら、何をおいても助けてやる。それでこそ米田家の人間だ」と口にする。
父(北村有起哉)はそれを「米田家の呪い」と言い、祖母(宮崎美子)は「米田家のたたり」と補うが、そんな説明台詞を聞くだけだからまるで腑に落ちない。
この会話になったのには、結の「海落ち」があった。帽子を落として泣いている幼い兄弟を見つけ、飛び込み帽子を拾う。助走をつけて飛び込む結(というか橋本環奈)は可愛いし達者だけれど、いかにも唐突だ。
こちらも朝ドラ歴が長いので、ヒロインが猪突猛進型だと知らせる合図だとはわかる。とはいえ、別に飛び込まなくても描けるのでは?
入学初日に制服が塩水につかった。大変だ。見ている人はみんな思うに違いないが、結は翌日もパリッとした制服で元気に登校。
こういう緩さというか、つっこんでくれと言わんばかりの描写、「#反省会」で盛り上がった「ちむどんどん」(2022年度前期)の線を狙っているのかとも思ったが、そういうわけでもなさそうだ。「おむすび」、なんともスッキリしない。
■「虎に翼」は上質なエンタテインメントだった
などとついつい辛口になったのは、「虎に翼」のせいだ。初回から何を目指すのかがわかり、エンタテインメントとしても上質だとわかった。
まずは日本国憲法が掲載された新聞を読み、泣いているモンペ姿の寅子(伊藤沙莉)から始め、ナレーションで憲法14条を読み、そこに寅子の司法試験合格(女性初だとわかる)の新聞の切り抜きを映す。
このドラマが「日本初の女性裁判所長」三淵嘉子という人をモデルにしているということを知っていてもいなくても「法の下の平等」がテーマであり、そこに挑んだ人物がヒロインだとわかる。
司法省人事課長(のちに最高裁判所長官になる男、とナレーションが補う)をはさみ巧みに時計を戻し、女学生・寅子のお見合いシーンになる。
寅子はふてくされていて、その事情がまた少し時計を戻して描かれる。父母、兄、弟、のちの夫となる書生、すべての関係性が笑いと共に理解できる。
初回の最後、寅子は「私は女の人の一番の幸せが結婚って決めつけられるのがどうしても納得できないのかもしれない」と語る。「寅子は私だ」の始まりだった。以後、すべてが「今」であり、すべてが「私だ」だった。この“とらつばビーム”を浴びまくった後で見る「おむすび」は、「今」感はもとより全体に薄いと感じてしまう。とは言え、唯一「今っぽい」シーンがあったので紹介する。
■「おまえ」はダメ、を描けたのに他が古い
8話、父と母(麻生久美子)との会話だった。父は博多に行った結が心配で駅に迎えに行き、結に反発される。それに対し、母が「お父さん、バカなの?」と言う。
「心配しただけだ」と言い訳する父に「だからって駅で待ち伏せする? バカっていうか、怖い。引く」と母。そこで祖父が口をはさんでくるが、「おじいちゃんは黙ってて、今、夫婦で話してんの」と母が返す。
義父に「黙っていろ」という態度も含め、麻生さんという俳優の今どき感が心地よいシーンだった。娘への態度を「度を越してんのよ、あんたは」と母が言い、「おまえが甘すぎるんだ」と父が返す。そこから「おまえ論争」になる。
母が「今、おまえって言ったね」と言い、「そっちが先にあんたと言った」と父。「あんたはいいの。おまえはだめ」と母。このテンポと視点で描けるのに、他がどうにも古いのは作戦? だとしたら何の?
さて、そんなこんなの「おむすび」なのだが、見るたびに思い出すのが、「ごちそうさん」(2013年後期)だ。
■「あまちゃん」から「ごちそうさん」の流れに似ている
この朝ドラ、ヒロインが杏さんでその夫役は東出昌大さん。2人は放送終了から1年も経たずに結婚、いろいろを経て離婚した。という有名エピソードのほかにも、知っていただきたいことが。それは「おむすび」との共通点の多さだ。
共通点その1は、前作が超話題作という点だ。「とらつば」→「おむすび」に対し、「あまちゃん」→「ごちそうさん」。宮藤官九郎脚本で、「じぇじぇじぇ」が新語・流行語大賞(ユーキャン主催)の「年間大賞(2013年)」に選ばれた「あまちゃん」からの「ごちそうさん」だったから「大変だよなー」と見ていたことを思い出す。
その2は、テーマ=食。「ごちそうさん」のヒロインは料理好きの専業主婦、「おむすび」は栄養士。「食ですよー」というわかりやすいタイトルもそっくりだ。
そしてその3は、どちらも「ヒロインが水に落ちる」だ。「おむすび」が自ら海に飛び込んだのに対し、「ごちそうさん」は足を滑らせ川に飛び込む。少し違うけど、どちらも水落ち。偶然だろうけど。
ところで「ごちそうさん」だが、実は「あまちゃん」より人気だった。「あまちゃん」の視聴率は期間平均で20.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)、対する「ごちそうさん」は22.3%だったのだ。
■「自分らしさを大切にする」は視聴者に伝わるか
朝ドラ視聴率が普通に20%を超えていた11年前の話ではある。が、そこから読み取れるのは、朝ドラ視聴者は「いつもの朝ドラ」を求めているのかも、ということだ。
「おむすび」のギャルが「いつもの朝ドラ」か、という疑問はある。だけど安室(奈美恵)ちゃん世代が40歳をたっぷり超え、50歳間近になっている。
「おむすび」制作陣は彼女らが朝ドラ視聴世代になりつつあると読んでいるのか、はたまた彼女らを新規開拓しようとしているのか。
「おむすび」の公式サイトを見ると、「どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に、主人公・米田結が、激動の平成・令和を思いきり楽しく、時に悩みながらもパワフルに突き進みます!」とある。
ギャル=自分らしさを大切にする人、という規定が、どこまで視聴者に伝わるだろう。“朝ドラ好き魂”を総動員し、もう少し見ることにしよう。
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コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。
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(コラムニスト 矢部 万紀子)
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