「死に至るがん」トップ3は肺、大腸、胃…「毎年、がん検診を受けていれば大丈夫」の大誤解
プレジデントオンライン / 2024年10月18日 18時15分
■がん検診の常識は「時代遅れ」になった
多様性社会と同様に、がんも患者によって罹患リスクは大きく異なる。
年齢、生活習慣、ウイルスの感染、そして遺伝子などによって各種のがんになる可能性は人によって違う。
“全員一律に毎年同じがん検診を受ける”という集団検診のスタイルは、昭和時代に始まった。現在行われているがん検診には、「死亡率減少効果」のエビデンス(研究)が存在するが、大半が数十年前に行われた研究である。医療機器が大きく進化した現在の状況に当てはまらないのだ。
つまり、「毎年がん検診を受けているのに、進行がんで発見された」という悲劇が起きる要因の一つは、“時代遅れのがん検診”にあるのだ。
■それでも続いているのは「利権」だから
がんを早期発見するという観点では、決して最適ではない検診が行われていることは、医療関係者にとって周知の事実。では、なぜ検診は変わらないのか?
最大の理由は、がんの集団検診が莫大な収益が毎年入る、事実上の「利権」となっていることだろう。発注者である自治体の幹部が、検診団体に天下りしている実態も取材で確認している。莫大な「利権」が絡んでいるために、時代遅れのがん検診は、臨床医からの指摘を受けても岩盤のように変わらないのだ。
このような裏事情があるので、がんから命を守るためには、各自にとって最適ながん検診の情報をアップデートする必要がある。そこで、がん部位別死亡数の上位5番目までの早期発見に最適な検査方法をご紹介する。
■肺がんは「低線量CT検査」一択
がん部位別死亡数1位は、肺がんである。国が推奨する肺がん検診は、40歳以上を対象に「胸部X線検査(レントゲン検査)」を年に1回行う。
50歳以上の喫煙指数(1日の本数×年数)が600以上の人には「喀痰細胞診」が加わる。ただし、検出感度は約40%なので、実際に肺がんがあっても見逃される可能性も大きい。
そもそも胸部X線画像は、肺全体の約3分の1に、肋骨や心臓などが重なって「死角」が生じてしまう。さらに画像を医師がチェックする「読影(どくえい)」は、1枚あたり最大で36秒、最も短いと7秒程度(いずれも平均値)しかないので、見逃しのヒューマンエラーが起きやすい。
肺がんになる最大のリスクは、タバコであることは言うまでもない。喫煙者のリスクは、非喫煙の約5倍(男性)、周囲のタバコの煙を吸った受動喫煙者も約1.3倍になる。
該当する人は、放射線量を抑えた「低線量CT検査」の受診が、第一選択だ。
喫煙の頻度や肺の状態によって、検査の間隔は数年おきになるケースもあるので、肺がんに詳しい呼吸器の専門医に相談してほしい。
肺がん検診については、連載第1回で詳しく検証しているので、参考にしていただきたい。
■大腸がん「便潜血法」の落とし穴
国内のがん死亡数2位は、大腸がん。進行のスピードが比較的遅く、「治りやすいがん」の代表格と言われ、ステージ1の5年生存率は約99%、ステージ3で約86%と高い。
だが、ステージ4になると、約23%まで低下してしまう。
大腸がん検診は、40歳以上を対象に「便潜血法」を年1回受けることを国は推奨している。大腸がんになると、出血して便に血が混じることから、採取した便の血液成分を測定するのだ。
ただし、「便潜血法」の感度(がんを検出する能力)は、決して高いとは言えない(※)。集団検診で「便潜血法」による死亡率減少効果のエビデンスがある、として国が推奨しているが、“見逃し”の可能性は常にあるのだ。
検診関係者は取材に対して、「大腸がんの進行が遅いので、検査で見逃されたとしても、次の検査で発見できれば治療は間に合う」という主旨の説明をしていた。だが、「便潜血法」の感度を考えると、「次の検査」でも見逃しのリスクがあり、この主張は整合性を欠いている。
※「がん情報サービス」では便潜血法の感度を30.0~92.9%としているが、研究によって差が大きい
■高感度の「下部内視鏡検査」にもリスク
「便潜血法」は安価で、検査自体のリスクはほとんどないが、だからと言って精度が低い検査によって、命を失うことになるのは本末転倒だろう。
大腸がんを早期発見する方法としては、「下部内視鏡検査」が最も確実で信頼性が高い。検査の感度は95%以上。がんになる可能性があるポリープは、内視鏡で切除することも可能だ。
検査の間隔は毎年ではなく、3年おき、5年おき、など、受診者の状態によって個人差がある。まずは、消化器内科医に相談してもらいたい。
注意したいのは「下部内視鏡検査」のリスク。合併症などが起きる頻度は0.069%、また腸に孔を開ける事故や心不全、麻酔薬などで死亡する頻度は、0.00088%という報告もある(1998~2002年:日本消化器内視鏡学会)。
■死亡事故も起きているバリウム検査
かつて、日本で最も死亡数が高かったのが、胃がんである。その後、昭和30年代をピークに、大きく減少傾向に転じて、現在では3位になった。
国は、50歳以上に胃X線検査(バリウム検査)、または上部内視鏡検査を2年に一度の間隔で推奨している。
胃がんの治療を専門にする消化器内科医の大半は、バリウム検査には否定的だ。
バリウム検査は、画像に写る凹凸などの変化から、がんを発見するのだが、早期の小さな胃がんや、凹凸のあまりないタイプのがんを発見することは難しいからだ。
バリウム液を誤嚥して肺に入ってしまうと除去が難しい。また、大腸などにバリウムの塊が固着して孔が開き(大腸穿孔)、死亡するケースがたびたび起きているのだ。
胃がんの原因は、ヘリコバクター・ピロリ菌なので、まずその検査を受けることが重要だ。ピロリ菌の有無と胃粘膜の状態を組み合わせて、胃がんになるリスクを判定して、内視鏡検査に繋げる検査もある(ABC検診、または胃がんリスク検査)。
一部の自治体や企業は、この検査を導入して、胃がんの早期発見に成果を上げている。
■「スキルス性胃がん」も内視鏡検査が最適
「胃カメラ」と呼ばれる「上部内視鏡検査」は、胃がんを早期発見する最適な方法だ。
ただし、医師の経験やスキルによって、検査の結果は大きく変わる。“誰がやっても同じ結果”にはならないので、検査を受ける医療機関や医師は慎重に選びたい。
致死性が高いことで知られるスキルス性胃がんについて、「バリウム検査のほうがよく見つかる」という言説には注意が必要だ。バリウム検査でよく見つかるのは、あくまで“進行した状態のスキルス性胃がん”であり、その時点で見つかっても予後は厳しい。
治せる段階の“早期スキルス性胃がん”を発見するには、内視鏡検査が必要になる。胃粘膜の色の変化や、硬さなどから、スキルス性胃がんを発見するアルゴリズムは確立されているが、残念ながら理解していない医師もいるのだ。
■“沈黙の臓器”の異常を見つける「尾道方式」
がん死亡数4位の膵臓がんは、進行が極めて早く、治療が難しいがんとして知られる。
早期のステージ1で発見して外科手術を受けると、半数近くは完治できる可能性があるが、これまでは有効な検査方法がなく、国が推奨する検診方法もない。
この状況を変えようと、JA尾道総合病院(広島県)の花田敬士医師は、新たな取り組みを始めた。膵臓がんを治すには、超早期の「0期」や「1期」で発見して、外科手術につなげる必要がある。
膵臓がんの主なリスクは、親族に膵臓がん患者がいる、肥満、慢性膵炎、糖尿病、喫煙、大量飲酒など。
花田医師は、人口14万人の尾道市の医師会に協力を仰いで、膵臓がんのリスクが高い人を紹介してもらった。そして、超音波検査などを行い、異常があれば超音波内視鏡(EUS)、CT、MRIなどの精密検査を実施した。
膵臓がんを早期発見する試みは「尾道方式」と呼ばれ、10年間で555人から膵臓がんを発見。このうち0期と1期に手術を実施したところ、5年生存率が国内平均の7%の約3倍となる20%となった。
「尾道方式」は2022年から「膵臓がん早期診断プロジェクト」として、全国各地でスタートしている。上記に挙げた膵臓がんのリスクに該当する場合は、同プロジェクトを実施している病院に相談してもらいたい。
■肝臓がんを調べるなら、まずウイルス検査を
がん死亡数では5位の肝臓がんも、国が推奨するがん検診はない。
肝臓がんの9割以上が、B型肝炎ウイルス、およびC型肝炎ウイルスの感染によるものだ。慢性肝炎や肝硬変に進行して、最終的に肝臓がんとなる。
自分が、この2つのウイルスに感染しているか否かを把握していない場合は、まず検査を受けてほしい。大半の自治体が、肝炎ウイルス検査を実施しているはずだ。
B型肝炎、またはC型肝炎のウイルスに感染しているとしても、一生発症しない場合もあるが、超音波検査によって経過観察を行うなどして、早期発見することも大切になる。
「過度な飲酒が原因で肝臓がんになる」と思っている人がいるが、それは誤解だ。実は、アルコールで肝硬変になるケースはあっても、肝臓がんはあまり多くない。逆に、NASH (ナッシュ)と呼ばれる、アルコールをほとんど飲めない人の、脂肪肝が原因で肝臓がんになるケースが問題になっている。
■マンモで早期発見が難しい「日本人の乳がん」
乳がんは、女性のがんで最も罹患数が多く、4番目に死亡数が多い(2022年)。年間で約1万6000人が、乳がんで亡くなっているが、その検診方法については医療関係者の間で長年にわたる議論となっている。
国が推奨する乳がん検診は、40歳以上にマンモグラフィ検査を2年に1回行うものだ。これは乳房を挟むように圧迫してから、X線で撮影する。乳房を強く挟まれるために、痛みを強く感じる人もいるという。
検診の根拠となっているのは、欧米でマンモグラフィ検査によって死亡率が減少したという臨床研究である。
しかし、「マンモグラフィ検査で、日本人女性の乳がんを早期発見するのは難しい」という臨床医からの指摘があるのだ。
乳房の組織は主に脂肪と乳腺で、欧米の女性は脂肪の割合が多い。マンモグラフィ検査の画像で脂肪は“黒く”写り、がんは“白く”写るので発見が容易だ。
一方、日本人女性の4割以上は、乳腺の割合が多い「高濃度乳房」(7割以上という報告もある)。乳腺はマンモグラフィ検査で白く写るため、「高濃度乳房」の人は、がんが存在していても、乳腺に紛れてしまって発見が難しい。
■エコー検査やMRI検査も選択肢に
厚生労働省研究班の報告書の画像を見ると、「高濃度乳房」は、乳房全体が白く写ることがよく分かる。
「高濃度乳房」の早期がんを発見する方法としては、「エコー(超音波)検査」や、「MRI(磁気共鳴画像法)検査」がある。
特にMRI検査はマンモグラフィやエコーと比較して、乳がんを見つける能力(感度)が高い。ただし、偽陽性(精密検査で、がんではなかったと判明すること)も多いという研究もあることも知る必要がある。
まずは自分が「高濃度乳房」であるかを確認した上で、検査方法は乳腺外科医など専門性の高い医師に相談することをお勧めしたい。
■保険非適用「PET-CT検診」の本当の実力
「全身のがんを一度にスクリーニングできる、PETがん検診を受診しませんか」
このように呼びかけるクリニックや人間ドックが増えている。
がん検診として行うPET検査費用は全額自費で、10万円前後の設定が多い。
PET-CT検査は、Positron Emission Tomography(陽電子放出断層撮影)の略称で、がん細胞が通常細胞よりもブドウ糖を多く取り込む性質を利用する。
FDG(放射性フッ素を付加したブドウ糖)という薬剤を注射して、全身を輪切り状に撮影、画像にFDGが集積して光った部分があれば、がんの疑いがあるとされる。
PET-CT検査では、頭頸部がん、肺がんなどの早期発見を得意にする一方、苦手とするがんもある。胃がんには、FDGが集積しにくい性質があるし、大腸がんは相当に大きいサイズにならないと反応しない。FDGが尿に取り込まれるため、泌尿器系(膀胱、前立腺)もPET-CT検査で早期発見は難しいという。
■発見が遅れれば、治療費も死亡リスクも高くなる
日本核医学会による「FDG-PETがん検診ガイドライン」には、「PETがほとんど役に立たない種類のがんもあるために、がん検診にPETを用いる場合は他の検査を併用する『総合がん検診』が望ましい」と記されている。
約40年間、がん患者の診療にあたってきた、北海道がんセンター名誉院長・西尾正道氏はこう述べる。
「適切ながん検診を受けてステージ1で見つかれば、95%が完治できて治療費の負担も少なく、短期間で社会復帰できます。一方、症状が出てから受診する人の多くは、ステージ3程度まで進行しているので、副作用が厳しい抗がん剤治療が必要になり、半数は命を奪われます。治療費の負担も大きい。がん検診の内容を見直すべきでしょう」
時代遅れとなった検査方法で集団検診を受け続けても、がんの早期発見は難しい。
それに、がんのリスクは個人によって大きく違う。自分にとって何がリスクなのかを把握して、必要な検査を適切な間隔で受けることが重要なのだ。
どのような検査にもメリットとリスクがあるので、信頼できる専門医に相談するなどして、後悔のない選択をしてもらいたい。
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ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家
1966年生まれ。フジテレビの報道番組ディレクターとして「血液製剤のC型肝炎ウイルス混入」スクープで新聞協会賞、米・ピーボディ賞。著書に『やってはいけない がん治療』(世界文化社)、『バリウム検査は危ない』(小学館)、『やってはいけない歯科治療』(小学館)など。
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(ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家 岩澤 倫彦)
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