「3人に1人が持っている時代が来るかもしれない」受験者数が急増…ITの基礎知識を証明できる"資格の名前"
プレジデントオンライン / 2024年10月25日 8時15分
■DXに対応できる人材が足りていない
DX、デジタルトランスフォーメーションという言葉を聞いたことがある人は多いだろう。
DXとは、もともとはスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に「ITの浸透が、ひとびとの生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念を提示したのが初出とされている。
日本では、経済産業省が2018年に策定した「DX推進ガイドライン(現:デジタルガバナンス・コード2.0)」で「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されている。
しかし、こんな複雑な説明をしなくても、シンプルに言えば、DXとは「データとITを使いこなすこと」になるだろう。
ただし、DXというバズワードに企業が飛びついても、それに対応できる人材は少なく、データサイエンティストと呼ばれる職種では20代でも1000万円以上の年収が得られることも多くなっている。
大学教育でも、そうした社会のニーズに応えるべく、2017年の滋賀大学を始め、横浜市立大学、武蔵野大学、立正大学、一橋大学など多くの大学でデータサイエンス系の学部新設が相次いでいる。
■戦後50年間は仕事のやり方は同じだった
こうした社会の大きな変化は、パソコンとインターネットと携帯電話ネットワークが大きな役割を果たしている。
スマホは、その延長にあり世界人口に対する普及率は7割程度と言われており、約80億の人口のうち56億人がスマホで繋がっていることになる。
これは人類史上でものすごい大きな変化で、ティム・オライリーが2005年に発表した「What Is Web 2.0」での「Web 2.0の本質が、集合知を利用して、ウェブを地球規模の脳に変えること」が実現しつつあるということだ。
さらに、ここにChatGPTのような生成系AIが急激な勢いで普及して、国内の利用者数も2024年末には2000万人近くになるといわれている(ICT総研「2024年度 生成AIサービス利用動向に関する調査」2024年8月30日)。
ただし、ここのような変化は実はここ20年くらいの話で、1945年の太平洋戦争終結から1995年くらいまでの50年間は、社会も仕事のやり方もあまり変化しなかった。
もちろん戦後の日本は高度経済成長で、物質的には豊かになったが、仕事といえば、計算はそろばん、書類は手書き、連絡は電話と手紙という時代が長く続いた。
だからこそ、理系の専門知識は製造業を中心に必要とされたが、文系の職業では何を学んだかはあまり重視されなかった。
■「パソコンが使える若手」と「パソコンが使えない中高年」
仕事のやり方が大きく変わり始めたのは、1995年頃からパソコンが急速に普及し始めたことが大きい。
最初は1985年くらいから徐々に普及し始めたオアシスや文豪、Rupoのようなワープロが手書き書類を駆逐し始めたが、1990年代に入ると計算はそろばんや電卓から、MultiplanやLotus1-2-3といった表計算ソフト置き換わり、ワープロもパソコンで動作する一太郎やWordが広く使われるようになった。
そうなると、パソコンが使えることが仕事では重要なスキルとなって、日本人にはなじみのなかったキーボードでの文字入力が当たり前のスキルとして要求されるようになった。
その結果、この時期のホワイトカラーは、パソコンが使える若手とパソコンが使えない中高年に分断されていった。
大学教育でもそうした状況に呼応し、1990年頃から2000年代初頭までに多くの大学で情報系学部が新設された。
今のデータサイエンスブームと同じような状況が20年前にもあったわけだ。
そして1995年頃社会に出た若手は、30年経った今では50代となり、いまやホワイトカラーでパソコンが使えない人はほとんど見なくなった。
日本社会はパソコンが使えないからといって従業員を解雇することなく(ただ再教育もあまりやらなかったが)、30年かけて情報化時代に適応してきたということになる。
■データサイエンスのスキルが必要な職種は広がっていく
2024年の今、起きていることはパソコンが使えるのは当たり前で、さらにデータサイエンスとプログラミングの能力が要求されるようになってきたことだ。
もちろん、データサイエンスやプログラミングのスキルは、パソコンのように社会人全員に必要とされるものではないが、必要とされる職種や範囲はどんどん広がっていくだろう。
データサイエンスのスキルが必要とされているのには、インターネットの普及で扱えるデータが増えた、ということがある。たとえば、自社のウェブサイトにどこからアクセスがあり、どの画面がどのくらい見られたか、といったいわゆるビックデータと呼ばれるログデータが容易に取得できるようになり、分析が必要とされている。
さらに、基幹システムに蓄積されている顧客データや商品データ、売上データといった古くから存在していたデータを分析する要求も高まっている。
そうした背景には、DXへの取り組みが多くの企業でなされていることがある。
DXとは、簡単に言えば、「データとITを使いこなす」ことだから、これまであまりやってこなかったデータ分析に多くの企業が積極的に取り組み始めた、ということだ。
■必ずしも難しい数式を覚える必要はない
そしてデータサイエンスの素養があれば、世の中の様々な言説に対して慎重な態度を保つことができる。例えば、有名大学を出ても仕事ができない人がいる一方で、無名大学出身者でも仕事ができる人がいる、だからどこの大学を出たかは関係がない、という言説がある。これに対して、平均と分布の知識があれば、ある母集団の最大値が、別の母集団の最小値を上回ることはあり得るが、その確率はさまざまで、安易に一般化することはできない、と判断することができる。
データサイエンス以外でも最近では、生成系AIが普及してきているが、パソコンのように特別な操作方法を覚える必要はない。生成系AIを使いこなすにはちょっとしたコツもいるが、一番大切なのは、生成系AIに対して適切な命令(プロンプト)を与えることで、そのためには適切な日本語の運用能力が必要だ。
データサイエンスでも、実は、必ずしも難しい数式を覚える必要はあまりなく、データサイエンスに関連する様々な概念を日本語としてきちんと理解できていれば十分だ。
■ITに関する基礎的能力を証明する「ITパスポート」
DXの時代だ、と言われて、じゃあどうすればいいのか。
その一つの答えが、「ITパスポートくらい取っておこうよ」ということだ。
ITパスポートとは、情報処理推進機構が運営している試験制度にある資格の一つで、ホームページには「iパスは、ITを利活用するすべての社会人・これから社会人となる学生が備えておくべき、ITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験です」と説明されている。
具体的内容としては、「新しい技術(AI、ビッグデータ、IoTなど)や新しい手法(アジャイルなど)の概要に関する知識をはじめ、経営全般(経営戦略、マーケティング、財務、法務など)の知識、IT(セキュリティ、ネットワークなど)の知識、プロジェクトマネジメントの知識など幅広い分野の総合的知識を問う試験です」と説明されている。
この説明の通り、パソコンの使い方やコンピュータの知識だけが問われる資格ではなく、マーケティングやプロジェクトマネジメントなどの経営全般の基礎知識も問われるのが特徴になっている。
■3人に1人が「ITパスポート」を持つ時代になるかもしれない
ITパスポートは2010年に始まった比較的新しい資格で、初年度の受験者数はわずか1万7000人程度だったが、2023年の受験者数は約30万人と劇的に増えている。
特にこの3年の受験者数の伸びはすさまじく、2018年の10.7万人、2019年の11.8万人、2020年の14.7万人、2021年の24.4万人、2022年の25.3万人、2023年が29.8万人となっている。
そして特徴的なのは、社会人受験者数のうち82%が非IT系企業に在籍していることだ。
30万人の受験が10年続けば300万人、20年で600万人、30年で900万人になり、実は既に累計の受験者数は約170万人になっている。
日本の就業者は約7000万人で、そのうち約4割の2800万人がホワイトカラーと言われており、いずれホワイトカラーの3人に1人以上がITパスポートを保有している時代が来るかもしれない。
合格率は50%前後と簡単な資格ではないが、これからの社会を考えれば、ITパスポートくらい取っておこうよ、というのが私からの提案だ。
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麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。
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(麗澤大学工学部教授 宗 健)
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