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最盛期は100万部→今は10万部に激減した週刊誌の記者が、後輩のマンガ編集者にかけられた「心ない言葉」

プレジデントオンライン / 2024年10月23日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

雑誌の廃刊・休刊が相次いでいる。その中で、週刊誌は部数を大幅に減らしながらも発行を続けている。なぜか。『MINKABU』編集長の鈴木聖也さんの著書『最近のウェブ、広告で読みにくくないですか?』(星海社新書)より、一部を紹介する――。

■「老人ホーム」と化しているウェブメディア

ウェブメディアが一般化し、出版社などで収益源として認められるようになっても、傍流という性質は本質的には変わらなかった。たしかに部署はできても、各部署のエースと呼ばれるような人はなかなか来なかった。とにかく人材がいないのである。

日本の大企業なんてそんなもんだろう。新規事業なんてくそくらえである。会社の未来のことを考えたら新規事業に人材を投入するべきだとしても、現状収益を上げている部署のリソースを簡単に明け渡すわけにはいかない。それが会社員というものであり、イノベーションのジレンマだ。

そんなこんなで、会社からやる気、実績、元気があるような人材はもらえず、「老人ホーム」と化しているウェブメディアは存在している。もしくはさまざまな事情でフルパワーで働けなくなってしまった「療養所」となっているところもある。

日本の大企業にはそういった部署はどこにでもある。追い出し部屋と化す会社もあるのだろうが、緩い風土の出版社などではそんなことはしない。しかしなぜあえてウェブメディアの部署で……。

■いまだに「一太郎」を使う編集者

出版社や新聞社のコンテンツのIT化がこれほどまでに遅かった理由について、経済誌『プレジデント』の元編集長で作家の小倉健一氏は「一つは、ITに対する強烈な苦手意識が業界幹部にあったことだ」と指摘する。

フリーで活躍するライターは何歳になっても最新ITツールを使いこなす人が多い。若い編集者はどんどん新しいツールを活用していくので、それにキャッチアップしていかないと仕事を得られないからだ。一方で出版社の社員には、未だに「一太郎」を使っている編集者や記者が存在している。

私も数年前、定年間際の大手出版社社員に、現在多くのビジネスシーンで使われているグーグルの「スプレッドシート」の概念を説明するのに苦労したことがあった。クラウドの概念も校正機能も、意味がわからなかったようだ。

■竹中平蔵が愕然としたテレビ局幹部の勉強不足

さて、小倉健一氏の指摘に、以前経済学者の竹中平蔵氏に取材したときのことを思い出した。竹中氏は小泉純一郎政権下の2005年~2006年に総務大臣を務めていた。竹中氏はテレビ局社長の「放送と通信の融合」に対する理解度の低さに愕然としたという。竹中氏はこう語る。「これからは放送と通信の融合の時代だと考え、キー局の社長全員と1対1で会いました。しかし、会ってみてわかったのは、放送と通信の融合についてちゃんと理解できている人は、ある一人の社長を除いて誰もいませんでした。後から考えると、それもそうだなと思います。キー局の社長とは新聞社出身の方が務めるものだったのですね。当然放送に対する理解度も十分ではないのです」

「そもそも放送の強みとは1対多数に対して情報を送ることです。かつては、それができるのは電波しかなかったのです。一方で通信は1対1で情報交換するものでしたが、インターネット技術の発展により1対多数というのができるようになりました。

これに対する対応が早かったのがアメリカで、だからこそネットフリックスなどが誕生したのです。私も総務大臣当時、NHKにネットでの配信を提案しましたが、『私たちには公共性があるんだ』と全部拒まれました。

だからこそ今のテレビ局の惨状には『自業自得』な部分が大きいと感じています」(竹中平蔵「テレビ局から電波を取り上げてもいい」私の提言を完全無視したNHK・民放…「国民のニーズにあった電波の利用方法を」2024年6月24日『みんかぶマガジン』)

■100万部→10万部程度になった週刊誌

テレビ局も出版・新聞と様子が似ていたのかもしれない。

しかし、ウェブを自ら希望して配属された若手社員もいる。彼らは行き場を失った社員たちの管理も任された。ただ、デジタル部署にいる中高年人材にはPVを稼ぐ能力はないことの方が多かったようだ。もともと問題を抱えていたためにデジタル部署に送られた社員がデジタル部署でも問題を起こし、「もう行かせられる部署がない」と困っているという話を、とあるウェブメディアの編集長から聞いたことがある。やる気・自信を失った年配社員にどう接すればいいのか、色々と悩みは尽きないようだ。

仕事中に頭を抱える男性
写真=iStock.com/koumaru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koumaru

一方で、ウェブメディアの数字を稼ぐ業務は、転職組や業務委託など「傭兵部隊」に頼っている。

繰り返しになるが、出版社における全てのウェブメディアが二線級の扱いというわけではない。だが、大きな出版社ほど幹部が紙の可能性を最後まで信じている、紙至上主義なのは事実だ。

大手週刊誌などはかつて、発行部数で100万部を軽く超えていた。だがそこから発行部数は下がり続けている。現在の実売は10~12万部という感じだ。

■なぜ赤字の週刊誌を潰さないのか

とある週刊誌のベテラン社員は「『あーついに底が抜けたかぁ』と思ったらまた底が抜けた。もうそれを繰り返している」と話す。現場も出版すればするだけ部署としての赤字額を増やしていく週刊誌の作成になかなかモチベーションを保てなくなってきているという。

「昔は週刊誌は花形部署でした。新卒入社の中でもトップの人材が週刊誌の編集部に配属された。それが今や新卒の配属がゼロの年もあります。われわれ週刊誌に残された最後の役目とは、会社の『お侍さん』としていざとなったら会社を守ることです。週刊誌の言論機能は国など権力に対する抑止力にもなるし、交渉材料にもなります」

たとえば、週刊誌にスキャンダルを書かれたくないアイドルは、週刊誌を持つような大きな出版社で写真集を出版する傾向にある。

そういえば2022年9月14日、東京五輪のスポンサー選定をめぐる汚職事件で大手出版社KADOKAWAの角川歴彦元会長は東京地検特捜部に逮捕されたが、KADOKAWAに週刊誌はない。当時、講談社もスポンサー候補だったが、最終的に辞退した。森喜朗氏は講談社、とくに『週刊現代』をよく思っていなかったようで、「講談社だけは絶対、私は相容れないんですよ」などと当時不満を漏らしていたそうだ。

だが、そういう部数に表れない役割を持っていたとしても、会社内でも週刊誌編集部に対する風当たりは厳しくなってきている。

■マンガ編集者に言われたひと言

別の週刊誌の元記者は「別部署で漫画編集をしている後輩に『少なくとも自分の給料分くらい稼ぎましょうよ』と言われるんです。『じゃあお前、この環境で週刊誌売ってみろよ』そう言いたくても、ぐっと我慢しました」

そして「もう紙は、次の編集長に引き継いだらそこで最後かな」とぼやく。それが現場の感覚だ。

それでもなぜ出版社は週刊誌をやめられないのか。正確にいえばさまざまな週刊誌がこれまで廃刊してきているわけだが、なぜ一部の週刊誌は赤字がひどくなってもなかなかやめられないのか。

先述の小倉健一氏は「大きな週刊誌ほど、ぶら下がっている関係会社や部署が多すぎる」と解説する。

「たとえば、デザイン会社や印刷会社を子会社として持っていれば週刊誌がなくなることで子会社の仕事がなくなります。親会社は漫画という別の食いぶちがあるかもしれませんが、子会社にとっては死活問題です。社内にもさまざまな関連部署があり、週刊誌をなくすことで大きなハレーションが起きることを嫌がっています」

■それでも紙ファーストを続ける

そして小倉氏はもう1点、指摘する。「出版社で今出世している幹部はほぼ紙の編集部しか経験しておらず、デジタルのことが正直よくわかっていないのです。だからこそ、紙からデジタルにシフトすることにいつまでも拒否感を覚えています。それが紙はジリ貧状態が続いていても、『デジタルは若手任せ』という状況を引き起こしていると考えます」

週刊誌編集長とウェブ編集長は社内的にどっちが偉いかというと、基本的には週刊誌編集長の方が偉い。たとえ、利益的にはオンラインの方が「上」でもだ。紙の方が偉いのは現場レベルでも一緒だ。基本的に有望な社員の配置は紙ファーストだ。

たしかに、オンライン記事の主な供給源の1つが紙雑誌であり、そこに関してはオンライン編集部として頭が上がらない側面はあるだろう。しかし紙で売れる記事とオンラインで読まれる記事は根本的に違う。量を確保するという意味では重要だが、結局オンライン編集部は人材を外部から採用したり、先述の通り行き場を失ったような社員が来たりする。

■「いい迷惑です」

また有名雑誌の書店営業担当は「定期的に発行され、ある程度売上目処が立つことはデカイ」とも解説する。

鈴木聖也『最近のウェブ、広告で読みにくくないですか?』(星海社新書)
鈴木聖也『最近のウェブ、広告で読みにくくないですか?』(星海社新書)

「売れ行きが読めない不定期刊行の書籍に比べて、たとえ今のような大きく売れない市況であっても雑誌にはキャッシュフロー上利点があります。出版の再販制度の関係で、実売が確定する前にドカンとキャッシュが入る。実売が確定した後計算されるが、それでもそれが毎週繰り返されるため、フロー上は手元にキャッシュがあるのです。それを使って新しいビジネスだって考えられなくもない」

一方でこうも言及する。「経営陣からはいつまでも、週刊誌は『明るく元気で愉快な子』でいてほしいという淡い期待を感じます。出版社の幹部は週刊誌出身がどこも多いです。だからこそ、思い入れも強い。モーレツ社員時代の辛い記憶がほとんどかもしれませんが、それもいつしかセピア色に染まるのでしょう。ある意味サバイバーバイアスで『この苦難を君たちにも乗り越えてほしい』ということなのかもしれません。いい迷惑です」

紙をやめられない事情は複雑なのだ。

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鈴木 聖也(すずき・せいや)
『MINKABU』編集長
1988年前橋市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、共同通信社で記者、プレジデント社で編集者・デスクなどを経て2022年から『MINKABU』編集長。2019年、編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム大賞デジタル賞受賞。

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(『MINKABU』編集長 鈴木 聖也)

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