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「アンチ安倍」発言がここへきて裏目に…「石破茂首相と新大統領の首脳会談」が成功しそうにない残念な理由

プレジデントオンライン / 2024年10月18日 7時15分

党首討論会に臨む石破茂首相(自民党総裁)=2024年10月12日、東京・内幸町の日本記者クラブ[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

■「アジア版NATO構想」は却下された?

アメリカより一足早く、日本に新たなリーダーが誕生した。

その石破茂新首相が相対することになる米大統領を決める選挙は、11月5日に迫っている。

果たして石破政権と相性がいいのは、カマラ・ハリス氏の民主党政権か、はたまたドナルド・トランプ氏の共和党政権なのか? 主に外交と経済に関して比較・考察してみたい。

石破氏が新首相に選ばれた直後、アメリカの報道で最も多く取り上げられたのは、対米外交の目玉として石破氏が掲げていた「アジア版NATOの創設」だった。ただし、どの報道もネガティブな反応を示している。

まずロイター通信は「石破新首相のアジア版NATOは、アメリカ外交を試すテストになる」という見出しで報じた。その中で、米政府の東アジア・太平洋担当国務次官補のダニエル・クリテンブリンク氏は、「性急すぎる」としてアジア版NATO案をすでに却下していたと伝えている。

■トランプ氏では軋轢が生まれかねない

また記事では、石破氏がアジア版NATOを必要とする根拠として、アメリカの国力の低下を挙げているとしている。日本を庇護下に置く米国からすれば、そんな理由を掲げられてしまってはたまらないという戸惑いと、ある種の反感も伝わってくる。

現バイデン政権が拒否反応を示しているということは、ハリス政権になった場合も基本的にその方針を引き継ぐとみられる。

ではトランプ政権になればどうか? トランプ氏は前政権時代、アメリカ軍が日本や韓国を庇護しなければならないことに対し、「日本などの同盟国が自国防衛のために自らの役割を果たしてない」と不満を示していた。

ニューヨークタイムスは、「トランプ氏の新政権でもその主張が再燃する可能性はある」としている。そして、日米2人の指導者はいずれも同盟は不公平だと考えているが、その理由はそれぞれ違うとして、トランプ氏と石破氏の間に軋轢が生まれかねないことを示唆している。

■「アンチ安倍」的言動がここへきて裏目に

一方、ウォール・ストリート・ジャーナルの見出しはもっと明確だ。

「米軍同盟の再構築を目指す新指導者が誕生。石破茂元防衛相は安保条約が不平等と批判」

本文では、トランプ政権時の2018年に同紙が行った石破氏へのインタビュー内容を紹介している。

「ワシントンに全面的な忠誠を誓うだけなら、日本は無視され続ける」
「トランプ大統領とゴルフをしたり、トランプ・タワーに行ったりする必要はない。日本は手ごわいと思わせることが重要で、取引のためのカードを用意する必要がある」

これらの石破氏の発言は当時の安倍晋三首相を意識したコメントと思われるが、いずれにせよ記事には、石破氏が首相になったことで、日米の緊張が高まる恐れがあると書かれている。

アジア版NATOを提唱したために、石破氏は早々にアメリカにネガティブなイメージを与えてしまったといえるだろう。

では経済に関しては、どちらの大統領候補が日本にとって、そして石破政権にとってベターなのだろうか? 両者の経済対策へのアプローチは大きく異なっている。まずトランプ氏からみていこう。

■「立て直すことができるのはトランプだけ」

排外主義的な言動がよく炎上するため目立たないが、実は「経済」こそトランプ氏の最大のセールスポイントであり、この部分でハリス氏を大きくリードしている。

「ビリオネアの実業家出身だから、お金の扱い方を熟知している」という世間のイメージに加え、自身も「アメリカ経済はバイデン政権によって崩壊寸前で、それを救えるのは自分しかいない」というメッセージを繰り返し発信している。

「経済を立て直すことができるのはトランプだけだと思う」

筆者が出演するTOKYO FMのニュース番組「TOKYO NEWS RADIO~LIFE 」のためにニューヨークの街頭でインタビューした人の中で、トランプに投票すると答えた全員が、その理由として挙げたのが経済対策だった。

アメリカは日本以上にパンデミックによるロックダウンの打撃を受け、失業者が溢れた。それをバイデン氏主導による超党派が大型予算を投入し、労働市場を活性化させた。労働省が発表した9月の雇用統計によると、市場予想を大きく上回るペースで就業者が増加しており、歴史的に低い失業率を維持するまでに復興を果たしている。

株価も絶好調だ。14日にはS&P500種株価指数とダウ工業株30種平均が過去最高値を更新しており、世界で一人勝ちの状況になっている。

■「トランプ氏=経済に強い」はいまだに根強い

にもかかわらず、バイデン氏の政策が不評な背景には、復興に伴って発生した激しいインフレがある。40年ぶりの上昇水準に達したインフレを抑えようと連邦準備制度理事会(FRB)が金利を引き上げたことで、家計のクレジットカード負債が増えた。そのため多くの庶民は、物価上昇に賃金が追いつかない状態で、生活はかなり厳しくなった。

現在はインフレも落ち着いたが、高止まりした物価はほとんど下がっておらず、庶民の生活は依然逼迫している。トランプ氏と支持者はそれがバイデン政権の責任であるとし、強く責め立てているのだ。

ある共和党支持者はこう言う。

「トランプ政権の4年間、失業率は史上最低で、株価は最高値だった。彼が大統領だったからだ」

見てきた通り、これは事実ではない。それなのに「トランプ氏=経済に強い」という確固たるイメージがいまだにあるのは、なぜだろうか?

最大の理由は、トランプ氏が前政権で行った大規模な減税にある。2017年、法人税が35%から21%へ大幅に引き下げられたことで大企業の業績は劇的に上がり、株価も上昇した。だから支持者たちは口を揃えて「トランプ時代のほうがよかった」と断言する。

2016年8月31日、アリゾナ州フェニックスでの移民政策演説に臨むドナルド・トランプ氏
2016年8月31日、アリゾナ州フェニックスでの移民政策演説に臨むドナルド・トランプ氏(写真=Gage Skidmore/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

■法外な「対中関税案」が支持されているが…

しかし民主党支持者はこう反論する。

「トランプ減税で恩恵を受けたのは、大企業と富裕層だけ。特に大企業は利益の大幅アップで株価が上昇したが、潤ったのは株を持っているような中間層以上の富裕層のみ。それ以下の人は何もメリットを得ていない。さらにこの減税で財政赤字も膨れ上がった」

さらに、興味深い一言もあった。

「みんなパンデミック前の、インフレもなく希望があった時代を懐かしんでいるだけなんだ」

トランプ氏は第2次政権では、米国内で生産する企業を対象に、法人税率を現行の21%から15%へさらに引き下げると明言している。同時に、外国製品に対する高い関税も公約に掲げた。特に中国製品に対しては60~100%の高い関税、それ以外に対しても10~20%を課すとしている。

「安い外国製品の流入が、アメリカの職を奪っている」というトランプ氏の主張を信じている支持者はこれを歓迎しているが、経済学者は頭から否定的だ。

「関税というのは、輸入する側、つまり最終的には消費者が負担するものだ」。これまでよりも高い関税を払わなければならない場合、輸出する側はそれを売価に転嫁する。つまり関税とは回りまわって消費者が支払うものなのだ。

■米国版「100均」が成り立たなくなる

例えば今、アメリカの庶民が1セントでも安い商品を求めて通うダラーストア(日本でいう100均)の多くは中国製品だ。関税が上がれば価格も上がり、高くなりすぎればビジネスとして成り立たなくなるかもしれない。逆に関税が高すぎるからと輸入を減らした場合でも、代わりとなる国内製品の価格が上がるため「いずれにせよ高度なインフレが起こる可能性が高い」と専門家は指摘する。

しかし、ほとんどの人はそこまで考えていないだろう。トランプ氏が「関税はわれわれの仕事を奪った中国への罰則」という言い方でアピールしているからだ。実際には自分たちを罰することになってしまうのに。

そしてもうひとつ、経済政策としてトランプ氏が掲げているのが、化石燃料への徹底的な回帰だ。

「掘れベイビー、もっと掘れ」は支持者の間で最も人気なキャッチフレーズのひとつ。フラッキング(水圧破砕)で一時は世界一のエネルギー産出国の座に君臨したアメリカをもう一度、という夢が込められている。

■ハリス氏は富裕層・大企業に歩み寄り

それだけではない。高い関税によるインフレを防ぐためには、国内でのエネルギー生産が不可欠になる。トランプ氏は脱炭素政策に懐疑的で、バイデン政権が進めた大規模な再エネ推進を撤回し、化石燃料を積極的に開発することでガソリンなどの燃料価格を引き下げる方針だ。そうなれば再エネへの切り替えが遅れ、環境汚染と温暖化もさらに進む。ここ数年全米でも進行している夏の異常高温や、猛烈なハリケーン、竜巻による死者も増える一方になるだろう。

一方、ハリス氏はどんな経済政策を打ち出しているのだろうか?

最大の特徴は、一般庶民の生活救済策だ。子供のいる家庭への支援の延長、初めて家を買う人への資金援助、医薬品価格の制定、企業による便乗値上げの規制など生活コストの削減がメインの政策が中心で、有権者から支持されている。

しかしそれ以上に驚きを与えたのが、新たに発表された税制政策だ。これまでバイデン氏が掲げていた最高所得者への大幅な増税を緩和し、富裕層や大企業に対して歩み寄りを見せたのである。

2020年8月11日、デラウェア州ウィルミントンで出馬表明したハリス副大統領
2020年8月11日、デラウェア州ウィルミントンで出馬表明したハリス副大統領(写真=The White House/Executive Office of the President files/Wikimedia Commons)

■日本にとっては「トランプ大統領」がよさそうだが…

まず、有価証券などの売却時に課される「キャピタルゲイン税」の引き上げ率をバイデン政権よりも下げた。また法人税は、現行税率よりは引き上げるものの、当初目標より下げて28%にとどめている。

一方で、中小企業やスタートアップへの税控除やインセンティブを強化。イノベーションを推進し、ハリス氏の地元でもあるシリコンバレーを味方につける作戦だ。この新税制では年収40万ドル(約6000万円)以下の庶民の税は上がらないか、むしろ下がるとしている。

自らを「私はキャピタリスト(資本主義者)」とアピールするハリス氏の政策は経済界にも好評だ。金融最大手のゴールドマン・サックスは、ハリス氏が当選した場合はアメリカの経済成長は期待できるが、トランプ氏なら成長に翳(かげ)りが出るという見解を発表している。

では、日本と石破政権にとってはどちらが当選したほうがいいのだろうか?

答えは一見トランプ氏に見える。トランプ氏が公約する法人税のさらなる引き下げで株価が上がれば、日本の投資家やアメリカと取引のある金融事業者、大企業にとってはメリットになるだろう。石破氏が打ち出している「賃上げと投資が牽引する成長型経済」との相性も良さそうだ。また中国製品への高い関税により米中の関係が悪化すれば、日本製品の競争力が上がるかもしれない。

■関税が日本の輸出産業を鈍化させる恐れ

しかし、前述した通り中国に対する高い関税は、インフレをもたらす可能性があり、その影響が日本に及ぶ可能性は無視できない。自動車、半導体、農業といった輸出産業の収益力を強化したい石破政権の目論みを妨げる恐れがある。

高い関税で世界の貿易が滞れば、サプライチェーンが混乱し、物価が押し上げられることによってさらなるインフレが起こるだろう。結局はすべての国を苦しめることになると、前出のニューヨークタイムスの記事は指摘している。

加えてトランプ氏の経済対策は、再エネ投資の見直しなどで地球環境にマイナスの影響を与えるだけでなく、低所得者やマイノリティを切り捨てるものという批判もある。長期的に見て、世界的にもマイナスという意見が強い。

かといって、対するハリス氏が自由貿易を全面的に支持しているかというと、そういうわけでもない。

■「就任前の首脳会談」で泣きを見る?

先日日本でも報道されたが、日本製鉄が買収を計画している大手鉄鋼メーカー、USスチールについて、ハリス氏は「アメリカ国内で所有され続けるべきだ」と述べ、買収に否定的な考えを明らかにした。これはペンシルバニア州での選挙運動中の発言だが、鉄鋼産業が強い同州は、ハリス氏が絶対に勝たなければならない激戦州のひとつでもある。つまり、勝利に不可欠な労働組合の票を得るための政治的な発言で、トランプ氏も同様の見解を示している。

アメリカは過去数十年にわたり、グローバル経済推進で自由貿易を謳(うた)ってきたが、今後は民主党、共和党どちらの政権になっても、ある程度の国内産業保護政策が行われるという警戒感が諸外国から出ている。石破首相は次期大統領が決まれば、来年1月の就任前に首脳会談を実施する意向を示しているが、冒頭でも指摘したように、石破氏に対して新大統領がどこまで日本の利益に配慮してくれるかはかなり不透明だ。

ホワイトハウス
写真=iStock.com/lucky-photographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lucky-photographer

では、当のアメリカ人はどちらを選ぶのだろうか?

確かに経済対策は、勝利が分かれ目となる大きな要素だ。しかし、今回の選挙は、人工妊娠中絶問題、医療問題、移民問題など多くの案件が山積みとなっている。さらにはトランプ氏の人格や民主主義を否定するような言動に対する批判、女性でマイノリティのハリス氏への懸念などが渦巻いている。そんな中で国民が、長期的な経済対策をどれほど重要視しているのか。いずれにせよ今回の大統領選に、アメリカという世界一の経済大国の未来がかかっているのは間違いない。

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。

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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ、NY Future Lab ミレニアル・Z世代研究所)

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