「35歳で通用するはずがない」MLB挑戦の巨人・菅野智之がアンチを黙らせ「2年44億円」の価値を示す"異常データ"
プレジデントオンライン / 2024年10月17日 10時15分
■「巨人・菅野投手は下り坂、MLBでは通用しない」は本当か
巨人の菅野智之投手(35)は、昨年は右ひじのけがの影響でプロに入って最少の4勝で終わったが、今季は15勝(3敗)、防御率1.67、勝率.833。MVP級の活躍を見せチームの4年ぶりのリーグ優勝の原動力になった。
17日のDeNAとのセ・リーグCSファイナルステージ第2戦にも登板予定だ。日本シリーズに進出しパ・リーグの覇者に勝って、巨人が12年ぶりの日本一になれるかどうかは菅野にかかっている。
その菅野は来季からのMLBチャレンジを宣言している。4年前のシーズン終了後にも、巨人の生え抜き選手として初めてポスティングシステムを利用したMLB移籍を目指したが、そのときは交渉がまとまらず残留。
しかし、今回は前向きな方向で動いており、すでに今季MLBで15勝をあげ新人王候補にも挙げられている今永昇太が属する名門シカゴ・カブスが2年3000万ドル(約44億7000万円)で獲得するのではないかと現地メディアで報じられている。
今季、若手が多い巨人投手陣の「生きる教科書」としてお手本となり投手陣の大黒柱だった菅野だが、はたしてMLBで成功できるのか。
「すでに全盛期はとっくに過ぎている、通用するはずない」
SNS上ではこのような厳しい指摘も一部に見受けられる。確かにフィジカルの全盛期は2017〜2018年(2年連続の沢村賞)だったと言っていい。その後、怪我を乗り越え2020年には復活を遂げて2度目のMVPを獲得したとはいえ、2021年以降は年齢的にも下降線を辿っていた。
だが、今季は新たなピッチングスタイルにより平均球速が上がり、小林誠司とのバッテリーが復活したことも功を奏した。最適な配球や阿吽の呼吸が生まれ、打者と駆け引きする「大人のピッチング」で相手チームを翻弄した。その熟練たる技術をMLBでも発揮できれば、十分通用するにちがいない。
■剛速球がなくても打者を打ちとれる驚くべきデータ
ただ、一定程度のパフォーマンスをするとの楽観的な意見がある一方で、ネガティブな意見もある。
「MLBのボールやマウンドが大きく変わるため、故障のリスクも高まって、年間通して使えない」
「会話力や球場の移動距離などの問題は大きな壁になる」
「(外国人の)捕手との相性によって左右される」
確かに環境が大きく変わるため、最初から全開というわけにはいけないだろう。また、これまで30代でメジャー挑戦した上原浩治(巨人→オリオールズなど)や平野佳寿(オリックス→ダイヤモンドバックスなど)、斎藤隆(横浜→ドジャースなど)はいずれも先発ではなくリリーフに回った。特に、上原の場合は先発としては限界が来ていたため、MLBでの中4日のローテーションに耐えられなかった。そう考えると、ローテを守り切れるかという懸念はある。
しかし、菅野の場合、ずば抜けた適応能力の高さがある。それは、多くの専門家がすでに言っている。
例えば、ルーキーイヤーのシーズン。東海大学時代は力で押していく剛腕として知られたが、プロ入りするや制球力と多彩な球種でかわす投球スタイルに変身。シーズン途中まで最多奪三振争いを繰り広げる投球をした。
とても器用なのである。この新人の年のクライマックスシリーズでは、あの前田健太(広島東洋→ドジャースなど)、日本シリーズでは田中将大(東北楽天→ヤンキース)といった国内トップクラスの投手に投げ勝っている。
2017年のWBC出場の際も、使用球がMLBのもので滑りやすく投げにくいと苦労する日本人投手が多かった中、菅野は比較的うまく対応していた。
辛口の批評の中にはこうしたものもある。
しかし、菅野の投球スタイルを見ると、変化球も大きく曲がるスライダーと素早く曲がる変化球を上手く使い分け、縦のパワーカーブやスプリットも組み合わせるなど、クレバーな投球術が光る。大量得点を許さないといったゲームメイク力、打者や自身の投球を俯瞰的に見る冷静さなどメンタル面の強さも備えている。
これらを踏まえると、今季のようにストレートの強度を保てれば、かつての田中将大や先日、MLB地区シリーズでドジャース相手に2度の快投をしたダルビッシュ有(パドレス)のように1球1球フォームの速さを微妙に変えたり、緩急を生かしたりして強打者を抑えることができるだろう。筆者の見立てでは年間2桁勝利も可能で、入団するチームによってはエース格を張れる。その潜在能力はある。
とりわけ武器になりそうなのが、前述のスプリットである。これまでMLBでは、野茂英雄や佐々木主浩、黒田博樹、岩隈久志、田中将大、大谷翔平など打者の手前ですとんと落ちる球を決め球にした投手は多いが、菅野のそれも負けず劣らず一級品だ。
具体的な数字を見てみるとスプリットの被打率は昨年2割4分3厘だったの対し、今年は1割7分3厘。投げ方も人さし指だけ縫い目にかける握りに変え、「落ちる原理も分かった」と本人が語っているように精度がアップした。フォークの三振数は昨シーズン8(総三振54)から今シーズンは35(同111)と数も割合も大きく増えた。
さらに、今季の投球回数の合計は156回3分の2で、与えた四死球はわずか20と極めてコントロールがいい。投手の能力を示す数値に「K/BB」がある。K=奪三振数を、BB=与四球数で割ったもので、この数値が高い投手は、三振が多く、四球を与えない優秀な投手という高評価を得る。
菅野のそれは2016年で7.27、今季もこれに肉薄する6.94(セ・リーグ1位)という突出した結果を出している。指標の面から見ても完全復活と言っていいだろう。
■元レッドソックスの上原級の制球力を出せれば活躍できる
ちょっと異常なほどの制球力の今季の菅野だが、不調のシーズンでも制球力は一貫して高い水準を誇っていたことから、この水準をメジャーでも維持できれば、活躍が見込めると言っていい。
実際のところ、NPBで圧倒的な制球力を誇った上原や田中はメジャー移籍後も、ボールの変化にもうまく対応しつつ制球力の高さを活かしてMLBで活躍できたため、菅野もこの2投手のような活躍が期待される。
もし、このような水準を維持できればMLBの打者を悩ませ、目の肥えたファンをもうならせるはずだ。少なくとも、スライダー系を軸としていた全盛期と比較すると、落ちるボールを上手く活かしている今の投球スタイルのほうがMLB打者からすれば嫌だろう。その意味で渡米のタイミングは前回より今回でよかったとも言える。
年齢的な部分で体力面の課題は残るが、前述の適応能力の高さや経験を生かしつつ、ストレートの質を保ち、試合後のリカバリーをしっかりやれば数字を残せる。
とはいえ、気持ちよくMLBに挑戦をするためにも、まずは1年目の阿部監督が率いる巨人を日本一に導いて「有終の美」を飾ってほしいところである。
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これまでに『戦略で読む高校野球』(集英社新書)や『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!などメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。本書が7冊目となる。
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(野球評論家・著作家 ゴジキ(@godziki_55))
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