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「男子高校生のキス経験率22%、性交経験率12%」自慰経験率だけが上昇する"性離れ"が暗示する日本の行く末

プレジデントオンライン / 2024年10月25日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/joka2000

日本性教育協会が1974年から6年ごとに行っている「青少年の性行動全国調査」(速報)によると、高校生のキスや性交の経験率は下がっていることがわかった。コラムニストの河崎環さんは「日本での性行動に対する“免疫”の付け方は、『実践型』ではなく『予防接種型』だ。子どもたちは性教育で、ポジティブな性についてのメッセージよりも先に、ネガティブなメッセージを受け取っているのではないか」という――。

■データに表れた高校生の“性離れ”

日本の高校生が、“性離れ”をしているという。日本性教育協会が2023年に行った調査(速報)によると、キスをしたことのある男子は22.8%、女子は27.5%。35年以上前、1987年の水準に戻ったそうだ。性交経験率は男子12.0%、女子14.8%で、20年近く減少傾向が続く。一方で自慰経験率は増加。これを報じる朝日新聞は「相手がある性行動は減少する一方、相手のいない性行動は増加していることになる」と、なかなか鋭い。

「性に関心が芽生える時期にコロナ禍で接触が制限されたことが影響した可能性もある」と研究者が指摘しているとのこと。1974年からほぼ6年ごとに行われてきたこの調査では、これまで日本の子どもたちには「早い人は早く、遅い人は遅く」という二極分化が共通傾向として見られていたというが、その定説が”コロナ時代”の出現で崩れ、一律の性離れを見せた格好だ。

10代という性的にアクティブになるのが当たり前の時期にリアルな体温のある性行動から離れてしまい、代わりにひとりでコンテンツを見るという引きこもり傾向を強めてしまったと読めるわけだが、いわばまさに“これからの人”である10代がこの様子では、将来の出生率低下が改善する兆しは微塵も見えない。

決して驚く話ではなく「さもありなん」と思ってしまうところが、イーロン・マスクに「いずれ消滅する」と予言された日本らしいところではある。

■清潔な環境で育つ日本の「いい子」たち

高校生なんて、人生でいちばん好奇心旺盛でバカをやる季節、いやバカの季節だ。バカをやるなら今だ、というくらいバカに適した季節であるので、バカでいいのだ。

遠慮もなくバカバカ連呼しているが、バカをやるにも適齢期というのがある。人間の体とは知力も体力も18〜20歳くらいがピーク。しかしながら現代日本では成年年齢が18歳に引き下げられて選挙権も与えられ、一方で飲酒・喫煙・ギャンブルは20歳からにステイし、大人が耽溺してお金を溶かし人生を台無しにしている各種ワルイコトには「いけません。もうちょっと待ってね」とお許しが出ない。

つまり日本の若者は20歳までカラダとアタマに悪い影響を与えそうなことは取り上げられたまま、18から突然「本日より諸君を大人とみなす。自分に責任を持ちたまえ」と成熟を求められるわけだ。

欧州なんかでは、早い国では16歳から飲酒喫煙が許可されて(そもそも許可されなくても社会がだいぶおおらかなので)、子どもたちはまず高校生時点で恋愛やらパーティーやら現実世界でバカをたくさんやって先生にもたっぷり怒られて(勉強は物好きしかしない)、ある程度ヤケドのヒリヒリした痛みも治し方も知ってから、免疫をつけて勉強をしに大学へ行く。大人たちが子どものために「大人になるための修行期間」を用意している、そんな印象がある。

日本はノンアル・ノンスモーキング(かつコロナ禍ではリアルな接触も回避)という清潔な環境でまずはじめに責任を持たされ、失敗しないから免疫もないまま整った「いい子」になる。ヤケドも打ち身も骨折も負わず無傷でいい子に育った報酬として、修行も免疫もなしに20歳からようやく大人の世界をちょっと覗かせてもらえる、という仕組み。早くいい子にならないと大人に褒めてもらえないプレッシャーが強くて、日本の子どもはちょっと気の毒な状況なのである。

■“予防接種型”性教育で教えられる「ネガティブなメッセージ」

日本での性行動に対する「免疫」の付け方は、例えるなら一度は痛い目を見て自分で学んで自己免疫をつけようという「実践型」ではなく、事前に学校の性教育で正しい知識を身に付けてからしくじらずに実践に移しましょうという「予防接種型」だ。

高校生が学校で習う性教育とは、性の仕組みはもちろんだが、「性感染症」や「性の多様性」「男女平等の問題」「性の不安や悩みについての相談窓口」「デートDV」「セクハラ、性暴力の問題」など、近年らしい社会性の部分や「してはいけないこと」にも重きが置かれている。

するとちゃんと大人の言うことを聞く真面目な子どもたちは、「性は生き物として当たり前のことで、誰かを好きになることの延長上にある素敵なものだ、目的は生殖だけじゃなくて、温かくて気持ちがよくてお互いを承認し合う幸せな行為だ、だから自分も相手も同じように大事にして楽しみたいね」というポジティブなメッセージより前に、「セックスをするとこんなことになるから気をつけろ、安易にするな、なんならするな」という負のメッセージを受け取ってしまうかもしれない。「リアルなセックスなんて不潔だし傷つくし面倒しか起こさない、そんなの要らない」と思ってしまうかもしれない。

黒板には数式。誰もいない夕方の教室
写真=iStock.com/tiero
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tiero

■「地面師たち」の“下着を外さないセックスシーン”

表現の場が“コンプラ”によって萎縮している時代だ。特に性表現に関しては大きな変化が生まれ、テレビも広告もコミックスもゲームも、10年前とはかなり風景が変わっている。

これが、なにが責められ、問われているのかという作り手の分析や内省を経た「修正」や「方向転換」であるならばいい。だがいま表現世界に見られるのは、怒られないためにふわっとサラッと表面的なだけの、減点主義によるリスク絶対回避の姿勢でもある。

コロナ禍の前後、広告表現やマスコミの表現に、SNSを主たる手段とした一般ユーザの批判が殺到する現象が起き、炎上や訴訟リスク回避のための逆ギレに近い「全削除」なども横行した。その結果、もはや生々しい性に関しては触れない、見せない、語らない傾向が強くなり、副産物として不自然なセックスが描かれる。

最近、劇中の表現として非常に印象的だったのは、Netflixドラマシリーズ「地面師たち」の、役者が絶対に下着を外さない不思議なセックスシーンだった。Netflixの予算規模の大きさに製作陣の実力が存分に発揮され、ストーリー展開上、エロもグロも正当に必要な作品。無駄に扇情的なシーンが挟まれるような品質のドラマじゃない。

細部にこだわりと気配り目配りが利く作品なだけに、役者が下着をつけたままのセックスシーンを見たとき、「なるほど、制作はこの不自然さ、非現実みを現代の表現ルールとして受け入れたのだな」と感じたのだ。これは「地面師たち」に限った話ではなく、Netflixなどの配信系プラットフォームに載るハリウッドメイドの映画にも最近(一律で)よく見られることだ。

役者の権利を守り、幅広い視聴者の目にふれる作品であるために、不自然であっても表現を丸める。その功罪は今はまだわからない。だが、「本当の性」を潔癖にエンタメの表面からウォッシュしていけば、それは裏側に深く潜ってただ過激化し先鋭化し、やはり結局「本当の性」から離れていくだけのような気もしている。

■子どもたちは「触れ方」をどう学ぶのか

エンタメの表面たるメジャー作で本当の性が描かれない。だが日本はそもそも文化的に人と人の物理的接触が少なく、挨拶がわりのキスやハグなどの習慣がない。街中や公共の場でカップルがスキンシップしている姿もまれで、せいぜい手を繋ぐのが社会的に許容されている程度だ。

じゃあ、子どもたちはどこでどうやって「他者に触れる」方法を学ぶんだろう。ふとそんな疑問が湧く。

先日、AbemaPrimeという番組にコメンテーター出演した折、痴漢の再犯を繰り返してしまい正常な社会生活が送れないことから「痴漢外来」なる精神科に通う男性と、痴漢の精神療法を研究する大学教授の話をうかがう機会があった。

痴漢はWHOの国際疾病分類にも記載されており、治療の必要な性依存症であるという世界共通の公式見解がある。すでに治療法は確立されており、治療による効果も統計で証明されている、という話だった。

それにしても日本の痴漢件数だけが世界的に異常な突出を見せているのだ。何がその原因なのか、社会的なものか民族的(?)な身体特性でもあるのか、と聞いたところ、その答えは「痴漢が犯罪行為に及ぶようになるのは、満員電車が圧倒的なトリガー(きっかけ)」だったのだ。

他者に日常的に触れる習慣がなく物理的距離を保つ日本。突然他者と密着する状況におかれた時にそれを悪用し、ましてや依存的に犯罪を繰り返す者が多数現れる。

「距離を保つ」か「痴漢」か、ひとたび他者に触れる話になると両極端な様相を呈する社会で、子どもたちに性をポジティブに教えるのはなかなか難しそうである。

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河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。

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(コラムニスト 河崎 環)

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