だから日本は世界一の長寿国になった…管理栄養士が「とりすぎ」くらいが丁度いいと話す"栄養素の種類"
プレジデントオンライン / 2024年10月25日 15時15分
※本稿は、マリー秋沢『受験メシ! 子どもの「成績を上げる」簡単で確実な方法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■日本が世界一の長寿国になった理由
現在、日本人のたんぱく質の摂取量が、「戦後レベル」にまで減っていることを、みなさんはご存じですか。飽食の時代にありながら、多くの人が、戦後の食糧難の時代と同程度しかたんぱく質をとれていないのです。そのことは、次のグラフを見るとよくわかります。
たんぱく質は、脳と心身の健康に直結する栄養素です。日本は世界一の長寿国です。平均寿命を大きく伸ばした最大の理由に、たんぱく質があると私は考えています。
日本が世界一の長寿国になったのは1978年。この年、戦後増え続けてきた動物性たんぱく質の摂取量と、日本人が昔から栄養源としてきた植物性たんぱく質の摂取量が同じになりました。
日本人は、昔から納豆や豆腐など大豆製品を日常的に食べていました。魚介類も頻繁にとってきました。加えて高度経済成長期、肉を食べるようになりました。
日本人は、大豆、魚介類、肉という3つからたんぱく質を日常的にとるようになったのです。これが、日本人の寿命を大きく延ばしたのではないでしょうか。
たんぱく質を動物性と植物性の食品の両方からとることは、子どもの心身、そして脳の健全な成長においても大事なポイントです。
なぜ、たんぱく質がそれほどまでに重要なのでしょうか?
体を構成するたんぱく質は、日々つくり替えられています。合成と分解がくり返されているのです。脳などの臓器や筋肉のたんぱく質は、古くなると分解され、再利用されるか体外へ排出されます。
一方で、体内に貯蔵されたたんぱく質の一部と、食事から摂取した新しいたんぱく質が、アミノ酸に分解されたあとに必要な場所へ届けられ、新たにつくられる細胞の材料になっていきます。
■たんぱく質は「とりすぎ」くらいが、ちょうどいい
では、たんぱく質の摂取量が少ない日が続くと、どうなるか。
まず筋肉量が減ります。筋肉のたんぱく質が、新たな細胞を生み出すための材料として、真っ先に分解されてしまうからです。たんぱく質不足の状況では、脳細胞の再生もうまくいかず、機能の低下が起こってくるでしょう。
すると、気分の不安定や集中力の低下、精神的な疲れなどが引き起こされます。さらに、免疫力が低下し、風邪などの感染症にかかりやすくなるでしょう。
なお、口からとったたんぱく質は、体内にためておけない、という性質があります。吸収されなかったものは、排出されてしまうのです。よって、「夕食に肉を食べるから、朝と昼はたんぱく質がなくても大丈夫」ということにはなりません。
朝・昼・晩の1日3食、たんぱく質はそれぞれの食事でしっかりとること。
現在、栄養士の合い言葉は「たんぱく質」といわれるほど、その不足に危機感が高まっています。日本人の食事摂取基準でも、たんぱく質には上限が設けられていません。
たんぱく質は腎臓に問題がない限り、とりすぎたところで健康を害するリスクはなく、むしろ、もっととる必要があるとして、下限が引き上げられているほどです。
健康な人の場合、たんぱく質は「とりすぎかな」と感じる程度がちょうどいいです。
■勉強に効果的な、脳内ホルモンをつくるには
受験生にはたんぱく質がとくに大事。それは、たんぱく質が「脳内ホルモン」の材料にもなるためでもあります。
脳内ホルモンとは、脳のなかで働く神経伝達物質のこと。神経伝達物質とは、脳やせき髄などを構成する神経細胞の間で情報を伝える役割を担っている物質のことです。
脳のなかには、1000億個以上もの神経細胞があるとされています。その膨大な神経細胞の間で、さまざまな脳内ホルモンが働いています。
人の感情も、脳内ホルモンがつくり出しています。
たとえば、好きと嫌い、うれしいと悲しい、楽しいとつまらない、「すごい!」と「こわい」、期待と不安など。これらの感情はすべて、脳内ホルモンの働きによって引き起こされています。
では、どんな脳内ホルモンの分泌量を増やすと、勉強に効果的でしょうか?
答えは明らかですね。ポジティブな感情を生み出せる脳内ホルモンです。それらを増やすことができれば、勉強にも前向きになれます。受験を恐れ、不安になるのではなく、「よし! やってやろう」と自身を鼓舞できるようなメンタル。それは、どんな脳内ホルモンが多く分泌されているかで決まってくるのです。
そこで大事になってくるのが、たんぱく質です。脳内ホルモンの材料は、私たちが毎日とっているたんぱく質だからです。
たんぱく質をとると、腸のなかで約20種類のアミノ酸に分解されてから、体に吸収されます。そのアミノ酸から脳内ホルモンはつくり出されます。このうち、体内で合成できず、食事から必ずとらなければいけない9種類を必須アミノ酸と呼びます。
では、どんな脳内ホルモンが、受験生の脳には重要なのでしょうか?
とくに必要とされるのは、次の4つです。ただし、脳内ホルモンは、たんぱく質だけあっても合成できません。
アミノ酸から脳内ホルモンになるまで、いくつかのステップを経ることになりますが、その際、特定のビタミンとミネラルが必要になります。それについてもあわせてご紹介します。
■モニター画面から発せられるブルーライトに要注意
「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンは、脳の興奮を抑え、心身をリラックスさせます。セロトニンの分泌量が脳内で増えると幸福感が高まり、集中力、記憶力も向上します。反対に、分泌量が減ると憂うつ感や不安感が強くなります。
セロトニンは、「トリプトファン」という必須アミノ酸が、直接の材料になります。
トリプトファンからセロトニンが合成されていくには、
「葉酸・ナイアシン・ビタミンB6・鉄」
が使われます。
ちなみに、セロトニンの分泌には、朝日を浴びることも重要です。朝食後には屋外に出て、日差しを浴びることから1日をスタートさせると、セロトニンの分泌量をさらに増やすことができます。
メラトニンは、「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。日中に学習した情報は、睡眠中に整理されます。学んだことを脳に定着させるには、睡眠の質を上げることが大事。その働きをしているのが、メラトニンです。
このメラトニンの材料となるのがセロトニンです。朝日を浴びるとセロトニンがスムーズに分泌され、太陽が沈むとセロトニンをもとにメラトニンがつくり出されます。メラトニンを増やすには、セロトニンの分泌量を増やすことが大切です。
メラトニンが、セロトニンを材料に合成されるために必要なのは、
「マグネシウム」
です。マグネシウムがあってこそ、メラトニンの分泌量を増やせます。
なお、メラトニンは繊細な脳内ホルモンであり、神経を興奮させるようなことがあると分泌が抑えられてしまいます。とくに問題になるのが、強い光です。
現代人は、スマートフォンやパソコンの画面を夜間も見続けます。受験勉強で使うことも多いでしょう。けれども、モニター画面から発せられるブルーライトは、メラトニンの合成を抑えてしまうので要注意です。現代人に不眠症が多い一因に、このブルーライトの害があると考えられています。
なお、部屋の照明も、青っぽい光には覚醒作用があるとされます。安らかな眠りのためには、夜間の部屋の明かりは、オレンジ色の電球色が望ましいでしょう。
■メンタルを安定させて、勉強に集中できる脳内ホルモン
「やる気ホルモン」と呼ばれているドーパミンは、意欲やワクワク感を生み出す脳内ホルモンで、この分泌量が増えると思考力も高まります。
ドーパミンは「フェニルアラニン」という必須アミノ酸が直接の材料です。フェニルアラニンから「チロシン」というアミノ酸ができ、最終的にドーパミンになります。
たんぱく質からドーパミンが合成されていく過程では、セロトニンと同じく、
「葉酸・ナイアシン・ビタミンB6・鉄」
が使われます。やる気や思考力を高めるには、フェニルアラニンやチロシンを含むたんぱく質と、これらのビタミン、ミネラルを積極的にとっていくことが重要です。
メンタルを穏やかにしてくれるGABAは、「リラックスホルモン」とも呼ばれます。イライラ感を抑えて、穏やかな精神状態をつくってくれるホルモンです。
勉強に集中するには、メンタルの安定が大事。イライラしていたり、不安感が強くなっていたりすると、そのことで頭がいっぱいになり、集中できません。
そこで大事になるのが「グルタミン」というアミノ酸の摂取です。グルタミンから「グルタミン酸」というアミノ酸ができ、最終的にGABAになります。
たんぱく質からGABAが合成されていく過程では、
「ナイアシン、ビタミンB6」
という2つのビタミンが使われます。
「最近、ちょっと怒りっぽくなっているな」「不安感が強そうだな」と感じるときには、グルタミンやグルタミン酸、ナイアシン、ビタミンB6が豊富なものを食べさせてあげましょう。
では、どんなものを食べると、以上の4つの脳内ホルモンを分泌していけるでしょうか? それについては、本書(『受験メシ!』)で具体的に紹介しています。
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管理栄養士、調理師、健康料理研究家
一般社団法人日本ニュートリションフーズ協会代表理事。有限会社ビューティーニーズ代表。アメリカ・ミシガン州生まれ。上智大学国際教養学部卒業。元ミスユニバース近畿代表。健康、免疫力維持、生活習慣病予防、アンチエイジング、長寿などをテーマに活動し、充実した食と栄養、ライフスタイルを提案する機関として、2019年に日本ニュートリションフーズ協会を設立、現在に至る。子どもの食育にも熱心で、2022年アメリカの出版社Rowman & Littlefieldから『Eating The Shokuiku Way』を出版。アメリカの子どもの肥満率が40パーセントを超すことに危機感を抱き、日本の食育をアメリカに広げる活動も行なっている。簡単でおいしい糖質オフレシピには定評があり、各地で料理教室や講演会を開催。メディア出演など多方面で活躍中。
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(管理栄養士、調理師、健康料理研究家 マリー秋沢)
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