「売れないタワマン」を抱えた地方から滅んでいく…不動産バブルの後遺症から抜け出せない習近平主席の三重苦
プレジデントオンライン / 2024年10月21日 9時15分
■「住宅在庫の買い取り」を増やす方針だが…
10月12日、中国の藍仏安(らん・ふつあん)財政相は、「(中国政府)の債務拡大や財政赤字の余地がかなりある」との見解を示した。今後、中央政府は国債を発行し金融システム支援、低所得層への現金給付や学生支援の拡充などを行う。また、地方政府も債券発行を行って住宅在庫の買い取りなどを増やす。ただ、債券の発行金額は示されなかった。
今回の対策がどの程度の効果を中国経済に与えるか、主要投資家や経済の専門家の見方は色々あるようだ。見解が一致しているのは、中央・地方政府による債券発行の増加傾向が鮮明化すること。これから、中国政府は不動産市況を下支えするため、追加の金融緩和を実施するだろう。しかし、金融緩和策には限界がある。いずれ、利下げなどは下限に達し、国債や地方債などの発行額は拡大することになる。
財政出動の拡大に合わせて、中国政府が新しい産業を育成して需要を創出できればよいのだが、今のところそうした政策方針は出てきていない。国有・国営企業などの過剰生産能力をどうするかも不透明だ。中国全体で経済の債務依存は高まることになるだろう。
■共産党幹部も景気認識の厳しさを示唆
9月23日以降、中国政府は金融政策を中心とする経済対策を発表した。住宅ローン金利引き下げなどに加え、投資家の保有資産と国債の交換(スワップ)制度も発表した。それを使って投資家は国債を手に入れ、国債を売却した資金で本土株を買う。9月23日から10月8日まで、資金供給の拡大などを好感し上海総合指数など中国株は上昇した。
多くの投資家は、国慶節の連休直後にリーマンショック後の経済対策(4兆元、当時の為替レートで約57兆円)を上回る財政出動策を期待した。一部では10兆元(200兆円)規模の財政出動を期待する向きもあった。
ところが、実際には期待された大型の景気対策は出てこなかった。その代わり、連休後の8日、国家発展改革委員会の鄭柵潔(てい・さんけつ)主任が記者会見を開いた。同主任は、マクロ経済の観点から景気の減速を食い止める政策は必要と見解を示した。景気認識の厳しさを示唆する会見だったとの見方は多かった。
■中小企業の倒産と若者の失業というリスク
同日、中国財政省(わが国の財務省に相当)は期待が高まった財政出動を明示しなかった。財政政策の不安上昇から中国株を売る投資家は増え、8日の上海株は下落した。12日、藍仏安財政相は新たな財政出動案を発表した。内容は中央政府と地方政府に分かれる。中央政府は特別国債を発行して資金を調達する。公的資金を国有大手銀行に注入し、金融システムの安定性を高める。
不動産バブル崩壊以降、中国人民銀行は金融を緩和し、銀行の融資増加を目指した。しかし、住宅価格の下落により建設活動や企業の設備投資は伸び悩んだ。需要伸び悩みの一方で供給は過剰になり、銀行が利ザヤを確保することは難しくなった。
その状況が続くと中小企業の倒産は増え、若年層の雇用・所得環境の悪化懸念も高まる。中国政府はそうしたリスクを先んじて抑制しようとしている。中央政府は国債発行で調達した資金を使い、奨学金枠の倍増など学生支援、地方政府の財政支援も計画している。
■交通網の延伸、EV充電ステーションの増設…
2024年の全国人民代表大会以降、中国政府は自動車の買い替え促進策やマンション在庫の買い入れ策、金融緩和など複数の経済対策を実施した。それでも若年層の失業率は上昇し、不動産市況の悪化は止まらなかった。今後も中央政府は、経済環境の変化に合わせて国債の発行を増やし、追加の対策を打つだろう。
藍仏安財政相は、地方政府に債券発行の増加を求める方針も示した。今後、地方政府も債券の発行を増やして、高速道路や鉄道の延伸、EV(電気自動車)の充電ステーション設置などのインフラ投資を積み増すとみられる。地方政府は、マンション在庫の買い入れ、不動産バブル崩壊で需要が減少し未使用となった土地の買い戻しも実施するようだ。
今回の財政相の会見は、中国の地方政府の財政政策の転換を示唆する。2023年10~12月期以降、地方政府傘下の企業である“地方融資平台(LGFV)”の資金調達は減少した。中央政府が、財政が悪化した地方政府にインフラ投資の停止や、債務圧縮を指示したことが影響した。
■中・長期的な効果については疑問符が付く
足許、中国では不動産市況の悪化、過剰生産能力の増加など複合的な要因が重なり、工業利益は減少している。9月は、中国の生産者、消費者物価指数ともに前月から下落した。企業部門の過剰生産能力は深刻だ。モノやサービスの値段は下落すると予想され、消費を先送りする消費者も増加傾向にありデフレ懸念は高まっている。
デフレ経済の深刻化は、企業収益の減少につながり、雇用不安も上昇するだろう。そうした負の連鎖(デフレ・スパイラル)阻止のため、中国は中央・地方の債券発行を増やし追加の経済対策を打ち出さざるを得ない状況に陥っている。
経済政策に必要な資金の調達のため、中央政府は30年債などの超長期国債の発行を増やそうとしている。地方政府も地方債の発行に加え、これまで抑えてきた地方融資平台の資金調達を増やすことになるとみられる。政府の支出増加は一時的に、経済成長を下支えする要素になるだろうが、中・長期的な効果については疑問符が付く。
■このままでは国有企業の収益性も黄色信号
問題は、現在の政策運営方針が続いた場合、中国経済の成長率が上向くかだ。現時点で、先行きは楽観できない。
これまでのところ、中国政府は新しい需要創出に関する具体策を示していない。10日、政府は、民間企業の国家事業参入促進に関する法案を示した。この法案は、これまでの国有・国営企業の優遇=“国進民退”の延長線上の政策とみられる。
個人、民間企業の活力を生かした新しい産業育成策などが進まないと、経済運営の効率性は高まりづらい。不良債権問題に関しても、中国政府は大手デベロッパーの債務処理を本格的に進める姿勢を示していない。
中国がそうした問題を抱えたまま、金融と財政政策を緩和して資金を経済・金融市場に供給しても、銀行は相対的に信用力の高い政府系企業などに優先して融資を行うことになるはずだ。それは過剰生産能力の累増につながる。国有企業でさえ収益性は低下し、景況感は軟化するだろう。
■中国の信用格付けが下がるリスクも
その場合、中国が国債や地方債などの発行を増やし、経済対策を打つ必要性は増す。状況次第で、内陸部の農村地域などから先に財政不安は高まり、地方融資平台のデフォルトリスクは上昇すると考えられる。地方融資平台に資金を融通したシャドーバンクの経営不安も再燃し、信託商品など相対的に利回りの高いローン債権を組み入れた投資商品の債務不履行懸念も高まるだろう。
昨年12月、米信用格付け業者のムーディーズ、本年4月にはフィッチが中国の格下げリスクの上昇を警告した。債券発行の増加、地方政府などの財政悪化で、実際に米欧の大手信用格付け会社が中国の信用格付けを引き下げる可能性は高まっている。
中国政府にとって、財政出動の拡大は景気の安定に必要な政策だ。しかし、問題は、いかに中国が人々の自由を認め、経済のパイの拡大を目指すかだ。そうした政策発動には時間がかかる。それが難しいと、財政支出の増加とともに中国の信用リスクが上昇することは避けられない。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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