だから20代男性の4割が「デート経験ゼロ」に…「恋愛は嫌だが、男友達とのBBQなら行く」日本の若者の生きづらさ
プレジデントオンライン / 2024年11月3日 17時15分
※本稿は、御田寺圭『フォールン・ブリッジ 橋渡し不可能な分断社会を生きるために』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■恋をしなくなった若者たち
4月、暖かな春がやってきた。春といえば、新しい出会いの季節である。寒い季節が終わり、街に繰りだした人びとが新しく交わり、そこで恋がうまれる。それは近年の日本でも、どこにでもある、当たり前の光景だった。この文章を読んでいる皆さんにも、そうした淡い思い出があるかもしれない。
……だが、現代社会の若者たちは、もう恋をしない。
令和4年版の『男女共同参画白書』によれば、20代男性のおよそ7割、女性のおよそ5割が「配偶者・恋人はいない」と回答し、さらに驚くべきことに、20代男性のおよそ4割が「これまでデートした人数」についてゼロと答えた。
この国ではお見合いを利用した結婚がほとんどなくなり、恋愛結婚が基本となっている。そのため、当然ながら恋愛がなくなってしまえばそれに連動する形で婚姻数も減少してしまう。また日本は婚姻関係が出生にも強く結びついている(婚外子がきわめて少ない)ため、婚姻数の減少はそのまま出生数の減少にもダイレクトに影響する。
国としては少子化対策のため、若者たちにどうにか恋愛への積極的参加を促そうと頭を悩ませているようだが、いまのところ具体的な解決策はおろか、なぜ若者たちが恋愛しなくなったのか、その原因すら突き止められていないようだ。
■異性へのアプローチが「加害的な実践」に
若者たちは恋愛をしなくなった。恋愛したいとも考えなくなった。
ただしそれは、お金がないからとか、忙しいからとか、そういうことではない。恋愛をすること、あるいはだれかとの恋愛関係が成就する確率を高めようと努力することそれ自体が、とくに男性にとって不道徳的で非倫理的な営みとなってしまっているからだ。
よりわかりやすくいえば、女性との恋愛関係が成就するまでのプロセスに「女の子からキモいと思われるかもしれないアプローチをしなければならない」とか「自分が好意を向けてしまうことで不快感や恐怖感を与えてしまうかもしれない」といった倫理的ジレンマが不可避的に存在しており、いまどきの若い男性はそれに耐えられなくなっているということだ。
女の子にとって「キモい」と感じられるかもしれないふるまいをすること、女の子の意に反してグイグイと押しつけがましく好意をアプローチしなければならないこと――それは現代社会の「女性が日常で味わう小さな被害にもしっかり気を配ろう」という社会的風潮に真っ向から対立する加害的な実践である。そのような行為になんらやましさを感じない、よほど神経の図太い人間でなければ恋愛に踏み出すことができないがんじがらめの状況になってしまっている。
よしんば社会の風潮や自らの良識にあえて逆らって加害的な実践をやりとげたところで、相手との関係が成就するかどうかもわからない。こうしたダブルバインドによる認知的ストレスがある一定のラインを超えたとき、若者たちにとって「恋愛はコスパが悪いからもういいや」となってしまったのである。
■「モテそう」な男子も恋愛市場から撤退
若い男性が恋愛をせず、デートもしない状況について、「どうせモテない人が騒いでいるだけだろう」といった批判の声も根強くある。たしかに、2000年代後半から2010年代にかけて20代だったゆとり世代まではどちらかといえば「女性からの要求水準に応じることができずに振られまくった結果としての恋愛離れ」という説明も可能だった。
しかしながら現在の状況はそんな生易しいものではない。ルックスにしてもコミュニケーション能力にしても社会的ステータスにしても十分に魅力的な資質を持つ、傍から見れば間違いなく女性からの好意を集めそうな、いうなれば潜在的な「恋愛強者」に見える人びとでさえ、恋愛という土俵に最初からエントリーしなくなっているのだ。
■「いい子」として暮らすことを内面化した結果
若い男性にとって女性との「恋愛関係」を目指すことによるうまみが減りしんどさが増す一方で、男同士の遊びの関係は昔と変わらない姿のままであることも、恋愛離れに拍車をかけた。男同士の遊びのなかでは、異性との恋愛のような倫理的葛藤を感じる必要がなく、リラックスしたコミュニケーションを楽しめる。結果として、男同士のホモソーシャルな絆にコミットすることで得られる“楽しさ”が相対的にますます大きくなっていった。女性との積極的なかかわりを避ける男性も、気が置けない同性の友人同士で開催するバーベキューになら積極的に参加する。
社会的望ましさ、道徳的ただしさ、人権感覚のアップデートなどを絶えず求められ、つねに「いい子」として暮らすことを内面化している大半の健全な一般男子にとっての恋愛は、政府が考えているよりもずっと「よくないこと」になってしまっている。
■「トライ&エラー」の余地が失われた
これまで述べてきたように、恋愛することそれ自体が不道徳的で反倫理的な営為となり、認知的にもストレスフルなのに、成功が十分に保証されているわけでもないという、若者たちにとってはきわめて「コスパ」の悪い営みになってしまっている。
わが国では2023年7月からの刑法改正により、旧来の「強制性交罪」から「不同意性交罪」に改められた。「望ましくない性的関係」に対する制裁を重くする流れもまた、若者たちにとっての恋愛の「コスパの悪さ」に拍車をかけている。
女性に対して侵襲的でも加害的でもなく、キモさや不快感も惹起しないようなスマートなコミュニケーションは、一朝一夕で手に入れられるものではない。数えきれないほどのトライ&エラーによってしか獲得しえない。
だが「エラー」がひとたび起こってしまったときに生じる法的・社会的な制裁を致命的なまでに高めてしまえば、当然だれもトライしなくなる。なにをもって「同意」とするのか、その線引きや基準がきわめて不明瞭なまま議論が進む不同意性交罪は、まさに「エラー」を致死的にする施策に他ならない。
■あまりにもリスクが高すぎる
不同意性交罪の基準のあいまいさについての懸念に対して、寺田静参議院議員は「後から何か言われたらどうしようという懸念が残るうちは行為に及ばなければいいだけです」とコメントしているが、恋愛関係になって性交することができても、それすら(あとから両者の関係がのちに悪化してしまうなどによって)事後的に「あれはじつは不同意だった」と言われれば極大の法的・社会的リスクになってしまうような状況になれば、いったいだれがそんなハイリスクな営みにコミットするだろうか。男性は性欲でときに損得勘定がわからなくなるといっても、さすがに限度というものがある。
■いちいち「これはセーフ?」と聞く男は魅力的か
さらに根本的なことを言えば、「ありとあらゆるリスクを排除して、女性に対して加害的にならないよう細心の注意を払いながら、おそるおそる恋愛にコミットする細々とした態度の繊細な男性」に対して女性が好意を抱くかどうかはまったく別問題である。
……はっきり言ってしまえば、あまり好意を抱かないだろう。あえて言葉を選ばずいえば、そんなみみっちい男のことを、女性は魅力に感じないはずだ。
「いちおう確認だけど、これはセーフだよね?」「後でトラブルにならないために尋ねるけど、これは合意だよね?」「念のために訊いておきたいんだけど、これって嫌じゃないよね?」など、いちいち言質を取るような男性のことを喜ばず、それこそかえって「キモく」感じてしまうこと請け合いだ。これは女性にとって、男性との恋愛関係で得られる「楽しさ」を減らすことになり、結果的に男性との恋愛に対して魅力を感じなくなってしまう。
■「倫理的孤立」を選ぶ私たち
戦後日本に輸入されてきたリベラリズムは「イエ」を批判しながら、妙齢の男女には自由で解放的な機運のもとで自由恋愛を推奨し、結果として自由恋愛ではパートナーをきっと見つけられないであろう人びとのための受け皿として機能していたお見合い婚を潰した。
お見合い結婚を潰して自由恋愛を推奨し、世のなかの妙齢男女を全員「恋愛結婚(≒恋愛関係を婚姻の前段階の手続きとした結婚)」の市場競争に参加させておきながら、今度はその自由恋愛さえも「異性(とくに女性)に対して加害的にふるまうことは許されない社会悪である」という倫理的ハードルを高めて潰してしまおうとしている。こんな愚かなことがあるだろうか。
私たちはいま、ただしくあろうとするがゆえにだれともつながりあえない、倫理的な無縁社会をつくろうとしている。
春の暖かさに誘われて街に繰りだしても、人びとは視線を合わさず、言葉も交わさない。何十、何百、何千、何万もの孤立した個がそこにいるだけだ。
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文筆家・ラジオパーソナリティー
会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。「note」での連載をまとめた初の著作『矛盾社会序説』(イースト・プレス)を2018年11月に刊行。近著に『ただしさに殺されないために』(大和書房)。「白饅頭note」はこちら。
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(文筆家・ラジオパーソナリティー 御田寺 圭)
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