「つらい」「大変だ」「もう無理」という言葉を我慢してはいけない…和田秀樹「逃げる勇気」を妨げる5つの要因
プレジデントオンライン / 2024年10月26日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『逃げる勇気』(自由国民社)の一部を再編集したものです。
■周囲の「がんばれ」に隠された意図
「もっとがんばらなきゃ」と思っている人に、周囲の「がんばれ」という言葉はとても残酷です。「いまよりもっと、がんばらなければ」という考えに支配されてしまいます。
期待してくれている人を悲しませたくない、がっかりさせたくないという思いから、無理して気丈にふるまうようになります。
「がんばれ」という側の深層心理には、「あなたががんばってくれないと、私が困る」という隠された意図が存在することがあります。
そして、その意図に本人自身も気づいていないこともあります。
親や教師、上司、会社の人事部の人など、「あなたのため」というのはあくまでも建前であって、ただ単に「自分本位」であることも少なくありません。
自分本位とは、自分のことしか考えないこと。自分に都合が良いこと。
いくつか自分本位の例をあげてみましょう。
・途中で投げだすのを許してしまうと、相手に怠け癖・逃げ癖がついてしまうのではないか。
・逃げるのを止めないと、のちのち自分の責任になるかもしれない恐怖。
・「継続は力なり」という言葉があるように、継続すれば身につけられる力があるという誤解。
・最後まであきらめない“グリット”を身につければ、将来的に叶えたい目標を達成することができる。
・安易にあきらめを許して、甘やかしてはいけない。
・親の育て方が悪い、指導の仕方が悪いと、周りから責められたくない。
■「勇気をくじく行為」は日常にあふれている
これらは「あなたのため」ではなく、「自分のため」の考えです。
あなたの「逃げる勇気」は、簡単にくじかれます。
なかには心の底からあなたを応援したいと思っている人もいるでしょう。しかし、その応援の言葉がかえって凶器となり、あなたを追い詰めます。
「グリット」とは、困難にあってもくじけない闘志、気概や気骨などを表す英語です。社会的に成功している人たちが共通して持つ心理特性といわれています。
でも、「社会的に成功する」というのは、どういうことでしょうか。
世の中には、勇気がくじかれることが日常的にたくさん起こります。
「くじけちゃいけない」のではなく、「くじけてもいい」のです。
世の中には、勇気をくじく行為があふれているのですから。
■言葉と行動が一致しないと矛盾してしまう
アドラー心理学では、困難を克服する活力を与える「勇気づけ」があり、5つの基本理論を提唱しています。
その5つを紹介しましょう。
①自己決定性
自分がどうしたいかは、自分で選択できる。
②目的論
人間は目的に向かって生きている。人の行動には目的がある。目的次第で人生は変えることができる。
③認知論
自分の受け取りたいように、目の前のことを自分だけのメガネを通して主観的に意味づけている。
客観的に物事を見る力(共通感覚)を身につけ、自分の物差しだけでなく、さまざまな視点で物事を見たり考えたりすることで、誤った思いこみに気づいて建設的に物事をとらえ直すことができる。
ただし、他人の目を気にしすぎていると、判断力と行動力が弱る。
④対人関係論
人間のあらゆる行動には、相手役がいる。
⑤全体論
理性と感情、心と体は、すべてつながったひとつのものと考える。「やめたいけどやめられない」のは、やめられないのではなく、「本当はやめたくない」という心理がある。
本来は人の心に矛盾はなく、言葉と行動が一致しない人は、自分で矛盾を作り出している。
心は「もう逃げたい」のに、「周りの期待に応えるためにがんばる」「親を悲しませたくないから、弱音は吐いちゃいけない」という矛盾を抱えていないでしょうか。
■「つらい」「大変だ」「もう無理」という言葉を吐き出す
アドラー心理学では、逃げたいのに逃げられない周囲の同調圧力が煩わしければ、いますぐにでも関係性を切りなさいと教えています。
「せっかくこの会社に入ったのだから、辞めるのはもったいない」
「せっかくつき合い始めたパートナーと別れるのは怖い」
という気持ちを捨てて、その場から逃げるのは勇気の要ることです。
ひとりで抱えこまず、上司や親、友人、飼い猫、カウンセラーなど、だれでもいいので、「つらい」「大変だ」「もう無理」という言葉を吐き出してください。
つらいのに、「私は大丈夫」「私は平気」と大丈夫なふりをして矛盾を抱えていてはいけません。
弱音を吐くことは、負けではないのです。
■逃げるのを阻止する5つの要因
あなたが逃げることを阻止している要因があります。
何が逃げることを阻止しているのか、5つあげます。
1 恐怖による脅し
罰や脅しで相手に行動を起こさせない方法です。
「逃げたら、みんなに非難されるよ」「ここから逃げられると思うな」「会社にバラす」「SNSで拡散する」
これらは恐怖を植えつけるやり方です。これは脅迫罪になります。
一方で「良い脅し」もあります。
強要するのではなく、本人の行動変容につながるように、行動をそっと後押しする方法です。それが「ナッジ理論」(nudge)といい、「軽くつつく、行動をそっと後押しする」という意味です。
選択を強制せず(選択の自由を確保する)、あなたがより良い方向に行動できるように誘導するものです。
2 同調効果
みんなと行動を合わせておくとひとまず安心です。それは意識的な行動でもあり、無意識の行動でもあります。
社会で生きていくためには、守らなければならない社会規範があります。「逃げてはいけない」という暗黙のルールが同調圧力となって、そこから逸脱しないように行動するようになります。
■自分が自分にいちばん厳しくダメ出しをしているケースも
3 マイナス思考とダメ出し思考
ダメ出しばかりする人がいます。相談しても自分の話にすりかえて、「私のときはこうだった」「それでも自分はがんばって乗り越えた」といった話をする人がいます。
また、「~だからダメ」「そういうところが悪い癖だ」と言ってくる人もいます。あなたは、自分で自分の欠点や、できていないところを十分すぎるほど認識しています。
あなたにダメ出しをするのは他人ばかりではありません。自分が自分にいちばん厳しくダメ出しをしているケースも多々あります。自分への期待値を下げ、あるがままの自分を許すことも逃げることにつながります。
4 現状維持バイアスと損失回避バイアス
逃げだしたほうが望ましい状況でも、現状維持を好む傾向があります。それが現状維持バイアス、または正常性バイアスです。
人は、現状を変えることを損失ととらえる傾向があります。
また、得る喜びよりも失う痛みを強く感じる傾向があります。
インセンティブがあると、それに沿った意思決定をしますが、利益を得ることよりも損をするほうにより敏感で、小さな損失でも嫌う傾向があります。これを損失回避バイアスといいます。
逃げることを避けるのは、まさに損失回避バイアスによるものです。
■人は初期設定の変更を先延ばしにしがち
5 初期設定から変えたくない
あらかじめ設定された標準の状態を「初期設定」または「デフォルト」といいます。
人は、そのままの状態を維持したがる傾向があります。
たとえば、ある商品を購入する際、初期設定からそのまま注文しがちです。変更するのは面倒くさいという心理が働いて、先延ばしにする「現状維持バイアス」が働くからです。
その心理を利用して、定期購入コースをデフォルトにしている場合があります。
ところが、「私は定期コースではなく1回お試しで注文しているはずだ」という思いこみがあるので、それを崩すのは難しいのです。
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精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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