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「今日は早めに仕事を終えてゆっくり食事をする」人の期待に"ノー"を言える人がよく使う"2文字の言葉"

プレジデントオンライン / 2024年10月26日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

他人に振り回されず、自分を持っている人は何が違うか。精神科医の和田秀樹さんは「逃げるのが上手な人は、『自分軸』で生きているから、自分の気持ちが明確で他人にコントロールされづらい。自分軸を取り戻すには、『私は』という主語を明確にするといい。もしも、自分軸がわからなくなったら、『私はどうしたいの?』と声に出して自分自身に質問してみるのが効果的だ」という――。

※本稿は、和田秀樹『逃げる勇気』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

■「村八分」=死を意味していた江戸時代

人間はソーシャル・アニマルといわれ、個人として存在はしていても、絶えず他者との関係によって成り立っています。

夏目漱石の小説『草枕』の冒頭には、次のような一節があります。

智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角(とかく)に人の世は住みにくい。

漱石の時代に限らず、どんな時代でも人間社会でストレスなく生きていくのは難しいものです。

かつて日本には、「家」と「ムラ」という強い共同体がありました。

江戸時代は、掟や秩序を破った者に対して、「村八分」という自治的な制裁行為を科しました。地域内の住民が結束して、掟を破った者に対して、罰金・絶交・追放といった制裁を科すのが正当化されていました。

これによって水源利用ができなくなれば、孤立して、その社会では生きていけなくなります。それは死を意味します。

しかし、現代は、共同体が存在する意味が大きく変化しました。

村八分の残りの二分である葬式と火事においては、どちらも共同体の存在はもはや必要ありません。

消防は行政が取り仕切り、葬儀は民間の会社が取り仕切り、火葬は行政が行います。これがいわば「孤立」を支える集合的インフラが整ったということです。

核家族化が進み、家のしきたりはほぼ存在せず、墓じまいに困っている人の声が聞こえてきます。

■現代は逃げるための環境が整ってきている

雇用形態も大きく変わりました。年功序列や終身雇用は終わりを告げ、将来安泰と思って就職したはずの会社でも、業績が悪化すればいつリストラされるかわからない不安に脅かされています。

DV(ドメスティック・バイオレンス)においては、配偶者暴力相談支援センターがあり、「配偶者暴力防止法」(DV防止法)という法律によって守られています。

これまで泣き寝入りするしかなかった家庭内の暴力が、夫婦であっても相手にケガをさせれば傷害罪が成立します。

いわば逃げる環境が着実に整ってきているのです。

■夏目漱石もストレスを受けやすい人間だった

統合失調症とうつ病に共通するのが、

「消えたい」
「死んだほうがラク」
「死ぬしかない」
「自分はいないほうがいい」

といった感覚に支配されてしまうことがあることです。

江戸時代は、ガチガチのムラ社会でしたから、共同体からの離別は、死を意味しました。

しかし、明治以降になって、夏目漱石のような文学者らが共同体から個人を析出(せきしゅつ)するのを後押ししてくれたように感じます。

漱石は勉強熱心で、どの教科でも首席の成績で、23歳で帝国大学(のちの東京大学)の英文科に入学します。このころから悲観主義・神経衰弱に陥り始めます。夏目漱石もストレスを受けやすい性質を持っていたといわれています。

大学を卒業したのち、英語教師として働き、33歳のときに文部省から英語教育法研究のために英国留学を命じられ、単身でイギリスに渡ります。

イギリス、ヨークの通り
写真=iStock.com/Sergey Strelkov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sergey Strelkov

しかし、国からの生活費は少なく、初めての土地でのひとり暮らしで神経を衰弱させました。

そんなとき、友人の高浜虚子が勧めたのが文章を書くことでした。漱石は、筆を執ると文才を発揮し、『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『それから』『こころ』など次々に名作を生みだしました。

■自己決定が神経症を克服した

『それから』で、漱石は次のように綴っています。

最初から客観的にある目的を拵(こし)らえて、それを人間に附着するのは、その人間の自由な活動を、既に生れる時に奪ったと同じ事になる。だから人間の目的は、生れた本人が、本人自身に作ったものでなければならない。

「本人自身に作ったものでなければならない」というのは、いわゆる自己決定です。

物事を自分で決められる人は幸福度が高いというデータも示されています。

漱石は帝国大学に入るくらい優秀だった人ですから、人一倍がんばり屋で、真面目で、努力家だったことでしょう。

また、世間からの大きなプレッシャーにも強く、周囲の期待に応えることで、自分の存在意義を実感できたのかもしれません。

しかし、周りの期待に合わせてばかりでは自分を見失ってしまいます。責任感が強いと逃げることもできません。

でも、他人が求めることと、自分が本当に求めていることは異なりました。漱石は、小説の中で、人間の目的は、生まれた本人が、本人自身に作ったものでなければならないと主張したのです。

逃げるには、「相手がどう思うか」「相手は自分に何を期待しているか」を考えすぎないことです。

「他人軸」で物事をとらえて行動していると、心底疲れ果ててしまいます。

■上手に逃げるための武器は「自分軸」

逃げるのが上手な人は、「自分軸」で生きています。

さまざまな判断を「私はどう思うか」「私は何をしたいか」を軸に行動します。

これをワガママという人もいますが、そんなことを気にする必要はありません。無視してください。

自分軸を取り戻すコツは、「私は」という主語を明確にすることです。

ベンチに座って瞑想するビジネスウーマン
写真=iStock.com/Liubomyr Vorona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liubomyr Vorona

「私は、会社に行く」
「私は、今日この業務を終わらせる」
「私は、今日は早めに仕事を切り上げてゆっくり食事をする」

自分軸を明確にすると、だれかの期待に応え続けて生きてきた人は、自分の気持ちが明確になります。

いままでだれかの期待に「イエス」と応えてきたけれど、本当は「ノー」だったことに気づきます。

意外にも周りはあなたの「ノー」を尊重してくれることに気づきます。

もしも、自分軸がわからなくなったら、「私はどうしたいの?」と声に出して自分自身に質問してみるのが効果的です。

意地もプライドも捨てるのです。

「私はすごい」「私はできる」と、自分の力を証明しようとする背景には、自信のなさや競争心、虚栄心、承認欲求があります。

自立心は強いのですが、自分の感情よりも、思考が優位になりがちです。

これは感情を無視していることに他なりません。

■「私はどう思うか」がないと他からコントロールされやすい

感情は、ちゃんと感じてちゃんと受けとめると、「解放される」という性質があります。

感情は麻痺させたり抑圧するものではなく、解放する必要があるのです。

現代を生きる私たちは、昔とは比べものにならないほどの情報量の中で生きています。気づかないうちに、メディアの意見や有識者やインフルエンサーの発言に同調してしまい、「自分はどう思うか」を見失いがちです。

つまり自分軸がない人のほうが、他からコントロールされやすいのです。

自分軸は「自己本位」のことです。自己本位は自己中心的とは少し異なります。

自己中心は、他人の存在を無視して、自分中心に物事を考えることです。

自己本位は、他者の存在を尊重しながらも、「私はどう思うか」「私は何をしたいか」を問う態度です。

和田秀樹『逃げる勇気』(自由国民社)
和田秀樹『逃げる勇気』(自由国民社)

逃げられない人は、他人にふり回されて、自分を見失わされています。いわば洗脳とさえ言えることです。

他人をふり回すのがうまい人は、他人をコントロールする術に長けていますから、社会経験が少ない人は、彼らにすぐに飲みこまれてしまいます。

逃げるには、相手と真正面からは戦ってはいけません。相手の攻撃をうまくかわしながら逃げるのです。

「もうがんばりたくない!」と言ってください。

「私は大丈夫じゃない!」と言ってください。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)

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