ディーラーが勧める車の防犯グッズは「秒」で無効化される…本当に効果がある「愛車盗難防止アイテム」
プレジデントオンライン / 2024年10月23日 17時15分
■ランクル盗難が前年2倍ペースで急増
日本における自動車の盗難認知件数は2003年の6万4223件をピークに毎年減り続けており、近年は約10分の1以下にまで減少した。しかし、コロナ禍によって外国との人と荷物の行き来が不自由になった2020~2021年を底に2022年、2023年とじわじわと増加傾向にある。
警察庁が出した2024年1~9月までの統計では4461件で、前年同期が4319件であるのに対して142件増えている。とくに増えているのはトヨタ・アルファード、同ランドクルーザー、レクサスのSUVなどいわゆる国産高級車といわれる車種である。
図表1は2024年上半期の車名別盗難台数である。注目すべきはランドクルーザーの台数で、上半期ですでに前年の約2倍に増えている。
そして、ランドクルーザーの中でも多いのがランドクルーザープラド、そしてランドクルーザー300というランクルシリーズのフラッグシップモデルである。
■被害減はレクサスLX、日産スカイライン
逆にランドクルーザー300をベースにしたレクサスLXは、前年同期に比べると152台から112台と40台も減少している。また2022年と2023年を比べても344台から261台と、こちらも同様のペースで減少している。
また、別の理由で大幅に減っている車種がある。それは、旧車スポーツカーの代表的存在、日産スカイラインだ。
2022年は116台、2023年は71台、そしてついに2024年上半期では「圏外」となった。スカイラインだけではなく、1980~90年代の国産スポーツカー(スープラ、シビック、インテグラ等)の盗難報告もぐっと減少している。その理由は、主にアメリカの輸入ルールが変わったことに関わっているとみられる。
■安いハンドル・タイヤロックは役に立たない
実は、盗難された車両のほとんどは有効な防犯対策がされていない。
自動車盗難情報局のデータには、盗まれた車両の「盗難対策の有無」を記す欄があるが、ここに有効な社外セキュリティが記されていることはほとんどない。
・盗難対策なし、ほぼなし
・施錠のみ
・ハンドルロック
・タイヤロック
・GPS(エアタグ等含む)
といった言葉が並んでいる。
ハンドルロックやタイヤロックは警察やディーラーが勧めている2万~3万円以下の安価で簡易的なものはほとんど役立たずである。
ハンドルロックは秒で切断されるし、最近ではハンドルそのものを切断してロックが外される例が後を絶たない。また、タイヤロックは有名メーカーの商品でも、装着したまま車を動かしてタイヤを1回転すれば破壊されて外れてしまう。
YouTubeには安価な防犯装置を実際に破壊して検証する動画も多数出ているので興味のある方は探してみてほしい。これを見たらいかにタイヤロックやハンドルロックが無意味で視覚的な抑止効果もないことがお分かりいただけると思う。ただし、詳しくは後述するが、ごくわずかだが防盗効果の高いタイヤ・ハンドルロックも存在する。
■窃盗団はガレージの防犯対策を嫌がる
筆者はこれまで何度か、間接的ではあるが窃盗団に質問をして回答を受け取っている。
「盗難防止対策にお金をかけるとしたら、何にかけるべきか?」という質問に対する答えは、「ガレージにお金をかけるべき」ということだった。
車両保険がつけにくくなる旧車の場合も、ガレージがしっかり(壁で囲まれており施錠できるなど)していれば市場取引額相当の保険がつけられる。例えばスカイラインR32GT-Rは1989年発売の車だが、保険会社によって掛けられる車両保険の額は50万~800万円と大きな違いが出てくる。
しかし、そうはいってもガレージを整えるには多額のお金がかかるし、物理的に難しい場合も多々あるので、今回は本当に効果のある防止対策を4つご紹介したい。
■盗難防御率99.6%の「タイヤガード」
①頑丈なタイヤロック
タイヤロックは防盗効果が低いものが多いが、中には有効なタイヤロックも存在する。そのうちの一つが「タイヤガード」(錠商)という製品だ。
発売から約20年、破壊されて盗まれた報告はゼロとのこと。盗まれたケースは、クレーンで吊られて持っていかれた、オーナーが鍵をかけ忘れた、オーナーがカギを付けたまま外すのを忘れていた……といった理由である。
値段は対象車種やオプションの内容によって異なるが大体10万円以下で収まる。ただし現在は急激な需要増加で長納期となっており、10月中旬に錠商の清水治三郎社長に確認したところ、今から頼んで納品まで3~4カ月待ちとのことであった。
■切断されにくいハンドルロックとは…
②頑丈なハンドルロック
ハンドルロックもタイヤロックと同様、安価なものは即、破壊される。ハンドルロックを切断されるか、ハンドルそのものを切断されるか、ハンドル自体を外されて盗まれていく。
このような中、バイク用品でおなじみのキタコのハンドルロックはかなり防盗効果が高い。
実際にハンドルを切断して検証している動画も公開されているが、盗難は困難のようである。
キタコでは近々、「最強のハンドルロック」が発売されるそうだ。どのような製品なのか、同社に聞いてみた。
「新製品のSHL-02シリーズは、従来品の最も防盗能力の高いKML-SS(レクサスLX、ランクル300、アルファード等用13万2000円~)では装着できなかった、ランクル250に対応させ、使い勝手と所有感を高めた製品です。価格はベースモデルが4万9500円~、アブロイ社製の強固なカギと各部グレードアップさせたプレミアムモデルは6万9300円です」
この商品には、ハンドルを切断させないための頑丈なプレートが付いていて、切断しようとすると数時間はかかるという。
■セキュリティは「取り付けたら終わり」ではない
③社外セキュリティ
有効な社外セキュリティの代表格といえば、30万~40万円と高額なユピテル製のパンテーラ、ゴルゴシリーズだ。10万円前後で購入できるArgus D1アルゴスもGAME BOY(車に触れずにスペアキーを複製する)対策としては非常に効果が高い。バイパー、クリフォードなどの海外ブランドの有名セキュリティも、誤報に注意して使用すれば高い防盗効果が期待できる。
ただし、これらの社外セキュリティは「買って付ければいい」というものではない。セキュリティのプロショップで丁寧に説明を受けながら取り付けることに加え、年に1度のメンテナンスも重要だ。
例えば、車に乗る機会がなく駐車場に放置したような状態だと、およそ2~3週間でバッテリー保護のためにセキュリティの電源が切れることがある。筆者は、これが理由で盗まれた被害者をこれまで3名ほど知っている。
社外セキュリティを付ける時に時間をかけて説明してくれるショップを探すことが賢明だ。とはいえ、実はこれらのショップはいま、セキュリティの取り付け依頼が殺到しており、中には施工まで半年以上待つ人気店もある。購入を決めると同時に予約するくらいでちょうどいいだろう。
また、独自制御でエンジン始動を困難にする「KaKaRUNneo」という製品も今、注目を集めている。
定価は「商品代+基本工賃」で約10万円。最新型の40アルファードなどハイブリッド車にも対応しており、そもそもエンジンが始動できないので車を動かすことができず、リレーアタック、CANインベーダー、GAME BOYなどの最新盗難ツールにも対応する。また、トラックなど24V車もOKだ。
④トヨタ純正「トヨタ/レクサスセキュリティシステム」
40系アルファードやランドクルーザー250など新しい車種には標準装備されているが、標準装備されていないモデルもトヨタ/レクサスディーラーで取り付けができる。
ただし、あくまでもこちらはCANインベーダー対策用なので、GAME BOYには対応していない。価格は1万7050円(トヨタ車)/1万8700円(レクサス車)と安価。製品だけの購入はできず、ディーラーでの対面販売と取り付けが必須となる。
■ディーラーや警察は「無知」なのか?
全部がそうとは言わないが、新車ディーラーや警察は「防犯対策をまともに知っているのか?」と思うほど適当なことを言う場合がある。その中の一つが、タイヤロックとハンドルロックの推奨だ。
警察の防犯サイトには「タイヤロックやハンドルロックは視覚的な抑止効果もあります。複数の盗難防止グッズを組み合わせることで時間稼ぎにもなります」などと書かれていることが多いが、これは決定的に間違っている。
まず、「視覚的な抑止効果」については、逆に窃盗団が下見をした際、対策品を用意するスキを与えてしまう。
「○○社のハンドルロックならこのカッターで切断できる」「××社製ならハンドルごと外せるので代わりのハンドルを用意する」「▲▲社のタイヤロックは1回転すれば外れる」などの対策で盗まれるということだ。
首都圏にあるトヨタ販売店はランドクルーザー250の防犯対策として、窃盗を茶化すような動画を作成して視聴者から大ヒンシュクを買っている。そして動画の最後に勧めたのは、破壊例も多く、ほぼ効果がないであろう簡易的なハンドルロックであった。
盗難対策に頭を悩ませているオーナーも多い中、これは本当に罪深い行為だと筆者は思う。
■ディーラーを信じたレクサスオーナーの悲劇
また、今年6月にレクサスLXを盗まれた首都圏在住のオーナーは、納車の際、レクサスの担当者に「LXは盗まれやすいと聞いているが、社外セキュリティは付けたほうがいいのか」と問いかけた。担当営業からは「このモデルは最新の自動車盗に対応しているので社外セキュリティを付ける必要はありません」ときっぱり言われたという。
ディーラーの言葉を信じた結果、丸腰状態の2000万円近いLXはあっさりと窃盗団に持っていかれてしまった。
本当に盗まれたくなければディーラーや警察の言うことは真に受けてはいけない。2~3万円以下で簡単に取り付けができるものは簡単に破壊されると思っていい。
また、万が一愛車を盗まれた時は、できるだけ早くSNS等で拡散することをお勧めする。その際、XやインスタグラムのDM(ダイレクトメッセージ)は開放すること。
発見時の連絡先に警察署の電話番号を書いている被害者も多いが、警察がすぐに動いてくれるとは限らない。最も効果的なのは、盗まれた車のオーナーに直接連絡をすることだ。これも誰もが見られるコメント欄ではなくDMで連絡をするのがベスト。DMでオーナーに直接、目撃情報が届き発見、返還に至った例もある。
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自動車生活ジャーナリスト
山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。「クルマで悲しい目にあった人の声を伝えたい」という思いから、盗難・詐欺・横領・交通事故など物騒なテーマの執筆が近年は急増中。現在の愛車は27万km走行、1998年登録のアルファ・ロメオ916スパイダー。
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(自動車生活ジャーナリスト 加藤 久美子)
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