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「国立大学」を国が管理するのは先進国で日本だけ…橋爪大三郎「じり貧研究者を量産する文科省は解体すべき」

プレジデントオンライン / 2024年10月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SakuraIkkyo

日本の研究力低下が問題視されている。原因はどこにあるのか。社会学者の橋爪大三郎さんは「教育改革が進まない元凶は文科省にある。そもそも国が大学を設置し、国が教育を管理するという考え方は先進国と真逆の発想だ」という――。

※本稿は、橋爪大三郎『上司がAIになりました 10年後の世界が見える未来社会学』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■文科省はいらない

日本の教育は、硬直している。柔軟な改革が進まない。

その元凶は、文部科学省(旧文部省)である。

文科省は、日本中の学校を管理している(同じ教育機関でも、塾や予備校は、学校教育法上の学校ではないので、経済産業省の所管になっている)。さまざまな省令や通達で、現場をがんじがらめにしている。そのやり方をみると、教育のことをまるでわかっていない役人のやり方だと思わざるをえない。

日本の大学はその昔、文部省が設置した。小中高校も、文部省が設置した。文科省は、教育は国が仕切るものだと思っている。

大学はそもそも、国が設置するものではない。大学の起こりは国よりずっと古い。ヨーロッパの大学は、法学や神学や医学や……の教員のギルド(組合)だった。アメリカでは、ハーバードもイェールもプリンストンもコロンビアも……、牧師養成の神学校から始まっている。教会の信徒が資金を持ち寄ってつくった。大学が牧師や政治家や指導者を育て、彼らが国(合衆国)をつくった。順序が逆なのだ。

■国が大学を管理するのは後進国の特徴

だからアメリカの大学は、ほとんどが私立大学だ(あと、ほんの少し、州立大学がある)。国は、大学を管理したりしない。大学は、財政的に自立し、自分で自分を管理している。連邦政府は何も口を出さない。文科省「高等教育局」みたいなものは存在しない。それでも、いや、それだからこそ、うまく行っている。

大学を国が設置し、国が管理するのは、大学など存在しなかった後進国の特徴である。日本がそうだ。

中国では、儒学を教える書院や、西洋風の教育をする学堂が、多く存在していた。中華人民共和国が成立すると、学校はすべて国が管理することになった。

こういうやり方を、当然だと考えてはいけない。

■日本の研究がじり貧になった根本問題

日本の大学は高度成長の時期、新増設で忙しかった。それが落ち着くと、「改革」が始まった。まず「大綱化」。一般教育が、人文科学/社会科学/自然科学が各八単位で合計二四単位、などと決まっていたのが、ゆるめられた。社会の役に立たない一般教育は大学の判断でスリムにしなさい。

つぎに「法人化」。国立大学は政府機関だったのが、「国立大学法人」になった。学生定員にほぼ比例して「講座費」が下りてきていたのが、「運営費交付金」が配られる仕組みに変わった。交付金は年一%ずつ削られていく。その代わりに「競争的資金」を獲得しなさい。分厚い書類を書いて申請しなければならない。

貰えるかわからない資金の申請書類を書いて、私など、一年のうち一カ月はつぶしていたと思う。教員組織も国立大学は、学部でなく大学院に組織替えされた。

ごちゃごちゃいじり回したけれども、大学はむしろ元気がなくなった。論文の引用数も減り、研究費も減って、じり貧になっている。

大学を法人化したのなら、基本資産を持たせ、財政基盤を安定させないとだめだ。

文科省の配る競争的資金は、五年限りなど、時限のものが多くて、期限が終わったらサンセットしてしまう(それが嫌なら、大学独自の資金を用意しなければならない)。雇用した助教や研究員は、路頭に迷ってしまう。

■「五人のうち一人が使いものになればいい」

そういう状況をみているから、研究者を志望する学生が減っている。文科省が大学を競争させ、言うことを聞いた大学にごほうびをあげる「一〇兆円ファンド」なるプランを進めている。さっさとやめ、半分は国立大学に分配し、半分は研究費にして配るのがよい。一般の人びとが大学に寄付するとそのぶん減税になる仕組みもつくるとよい。

日本の中央省庁は、改革するたびに、かえって膨張する。あらずもがなの組織や部署が多い。省庁の必要性を評価する仕組みがない。

省庁が膨張するのは、原資(税金)がタダで供給されるから。そのパフォーマンスをチェックする外部のものさし(企業の利潤や利益率にあたるもの)がないから。そして本人たちは、省庁が業界を監督するのは当たり前だと思っているから。リバタリアニズムのような考え方(政府に厳しい目を向ける)が、日本では稀薄である。

組織が膨張するのは、採用と昇進の仕組みに関係がある。省庁は縦割りで、部署が細かく分かれ、みなが排他的な職務と権限をもっている。しかも、デジタル庁とかこども家庭庁のようなわけのわからない役所がつぎつぎできて、業務の調整はますます煩雑になるばかりだ。

内情にくわしいひとから聞いた話。国家公務員の採用は、五人のうち一人が使いものになればいい。あとの四人は何をするんですか。一人が実際の仕事をして、あとの四人は、あちこちを飛び回って根回しをするのさ。

■だぶついた中間管理職をなくすAIの未来

新卒採用の人びとが、入省年次の通りに、順番に昇進していく。しかしポストは、ピラミッド型で、上がつかえる。閑職に回されるか関連団体に再就職するか、早々と民間に転職するか。どの省庁も、だぶついた職員向けの関連団体を山ほど抱えている。それを回してあげるために、税金で業務を外注する。

それもこれも、組織がピラミッドになっていることに、根本の原因がある。

生成AI系のビジネスソフト「未来マネジメント」が、中間管理職をなくして、組織をすっきりさせるのをみた。これからのビジネスの姿だ。

行政とビジネスは、違う。行政は金儲(かねもう)けをするわけではない。商品を販売したりもしない。何を目的に、何を基準に、改革するかをまずはっきりさせよう。

改革の目的は、国民のための必要で十分な公共サーヴィスを行なう体制を整えること。現状は、余計な人員が余計な業務(業務のための業務)をしていて、国民の負担となっている。これを正すのは、国会の役割だ。国会は、納税者の代表が集まる場で、主権を行使する機関だからである。中央省庁が、自分で自分を改革するはずがない。

中央省庁の改革のあるべき流れを示そう(実際にできるかどうかは別問題だ)。

まず国会で、与野党が共同で、中央省庁の改革を進めることで合意し、作業グループをつくる(与野党が協力することが大事だ。さもないと、政権交代が起こったら、改革がひっくり返ってしまう)。

■省庁を再編し、文科省はなくしていい

中央省庁べったりの与党が重い腰をあげるには、それをやらないと次の選挙に勝てないと思わせる、有権者のはっきりした声が届くことが大切である。生成AI系ビジネスソフトで、民間の企業が目を見張るような改革を行なっている。世界各国の政府も大胆な改革を進めているのに、なぜ日本の省庁は動きが遅いのか。そうした世論が追い風になる。

まず、中央省庁を、本質的な業務を行なう機関/それ以外の機関、に分ける。

本質的な業務を行なう機関とは、

・財務省……予算を決める
・外務省……外交を担う
・法務省……法務実務を担う
・防衛省……実力で防衛を担う
・特許庁……特許業務を担う
・気象庁……気象や自然災害を調査研究する
・海上保安庁……領海付近の法秩序を守る

などなど。こうした機関は、水ぶくれがあれば絞るとしても、なしですませることはできない。

いっぽうそれ以外の機関(本質的な業務を行なわない)は、必要であることが証明されない限り、存続できない。陸海軍はなくなった。復員省もなくなった。それと同じだ。

関係の業界を監督する官庁、みたいなものは存在しなくてよい。たとえば、大学を監督するのが役目の、文科省の高等教育局みたいな機関は、存在しなくてよい。そんなものがなくても、いや、ないほうが、大学はうまく行くのである。

オフィスのデスクで空の椅子とデスクトップ
写真=iStock.com/Portra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Portra

■多すぎる省庁職員を議会の政策スタッフに

日本の政府(中央省庁)と議会の関係を正しくするには、政治改革が必要である。与野党がまともな議論ができるようにする。存在理由のわからない弱小政党が乱立する現状は最低だ。与党も野党も、責任ある政治姿勢と周到かつ現実的な政策をもち、有権者の自発的な地方組織に支えられなければならない。

そのうえで、議会の機能を強化する。議会は、法律をつくれるのだから、議会の予算を増やして、中央省庁の職員を半分か三分の一にし、辞めた彼らを議会の政策スタッフとして雇用するのがよい。省庁の職員は、政府提案の法律案をつくって、実質的に立法に参画していた。それが正しい姿に戻る。国会の権限と機能が強まることは、国民の主権が伸長し、国民が政府を監督する能力が高まることである。

この、現状からはできそうにない改革が、どうやってできるか。まず誰かがとにかく提案する(本書のように)。そのとおりだと思う人びとが増える。そして、各選挙区で、有権者を組織して議席の獲得につなげる。国会で多数を握って改革を行なう。憲法は、これ以外のルートを国民に与えていない。この順序に従って改革するという、希望と熱意とビジョンを国民が持つことである。

政治改革の話をし出すと、話がいくらでも長くなる。もう何冊も、本が必要だ。機会を改めるとしよう。

■生成AIでどうやって行政を変えるか

生成AIが企業のマネジメントを変えるように、生成AIは行政を変える。

けれども、生成AIが行政を変えるのに、少し手間取るだろう。なぜか。

マネジメントのやり方は、どの企業でも、だいたい同じである。ある企業でうまく行った生成AI系のマネジメント・ソフトは、少し手直しすれば、ほかの企業でも使える。生成AIを導入するのに小さなコストで済み、効果はすぐ目にみえる。経営にプラスになるし、企業の財務も改善することが数字に表れる。世界中で、あっという間に導入が進むだろう。

行政は、省庁と省庁で、やり方が違う。部署と部署でも違う。省庁の職員は、それぞれ別々の種類の業務に従事している。マネジメントと違って、ある部署の業務を生成AI系ソフトに置き換えたからと言って、別な部署で役に立つとは限らない。

ではどうする。

生成AIの大規模言語モデルに加えて、すべての省庁の行政文書の全体を電子化してデータベースにする。そして、生成AIソフトに学習させる。関係法令や先例もすべて学習させる。そして、ひとつの省庁、ひとつの部署を、企業や事業本部に見立てて、組織のヴァーチャルなモデルを組み立てる。手間と時間がかかるが、完成すれば、業務の効率化、透明化がはかれる。

■横並びの地方自治体と相性がとてもいい

生成AIソフトは、人件費がかからない。疲れず二四時間はたらく。ひとつのソフトが組織全体の(つまり、数百人分の)業務をカヴァーする。過労でへばっている中央省庁の職員も、ひと息つけるだろう。そして、本来の創造的な業務に取り組めるだろう。

中央省庁と違って、地方行政は、生成AI系ソフトと相性がいい。すぐ普及するだろうし、その効果は絶大だ。

地方自治体は、都道府県も市町村も、全国で同じ業務を行なっていて、事業所の数が多い。一箇所でソフトを開発すれば、すべての自治体で採用できる。行政裁量の余地が少なく法令どおりに実施すればよい業務を、効率よく正確に進められる。

地方自治体は、職員不足に悩んでいる。そのため行政サーヴィスに支障が出る。職員を増員しようにも財源が厳しい。法令はしょっちゅう変わるので、勉強が欠かせない。責任も重い。生成AI系の行政ソフトが導入されて常時、関係法令や職務手順がアップデートされるなら、とても助かる。少ない人員で、いま以上の行政サーヴィスが提供できるはずだ。

だから、特に地方行政では、生成AI系ソフトの導入は、急速に進むはずである二〇二三年一二月には、法務省が日本の法律の条文の英訳を、生成AIを用いて試行してみるというニュースがあった。それまでは英訳に二年間ぐらいかかっていたという。そういうことはさっさと進めるべきだ。生成AIの翻訳機能を常備すれば、外国人が日本に来た場合の行政サーヴィスをぐんと向上させることができる。

AI技術によるデータ分析科学とビッグデータ
写真=iStock.com/Khanchit Khirisutchalual
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Khanchit Khirisutchalual

■これ以上遅れる前に官民で動くべき

生成AI系のソフトは、各国でつぎつぎ行政に組み込まれ、業務を改善させていく。日本よりずっと先に、行政革命を進める国が続出する。

すると日本の行政も、重い腰をあげることになる。外国にできることが、なんで日本にできない、という非難の声が高まるからだ。

そんな情けないことになるまえに、これをチャンスととらえるべき。世界中の国々で生成AI系の行政ソフトが採用されるのなら、日本のソフト産業にも十分出番がある。世界の国々は、ローカルな自国語で、行政を行なっているところが大部分だ。日本語で行政を行なっている日本と同じように、英語やスペイン語やアラビア語や……のような、マーケットの大きい言語から切り離されている。手作りで、自国向けの行政ソフトを開発しなければならない。

そこを、日本のソフト産業が手伝える。日本の行政ルールは、西側のやり方を踏まえているが、西側ルールそのままではない。微妙な調整を加えている。世界の数ある国々の行政ルールも、そうした手加減を必要としている場合がある。その機微を、日本のソフト産業は、西側諸国の企業よりもうまくすくい上げることができそうだ。

■行政サーヴィスはローカルからグローバルへ

世界の国々の行政サーヴィスが生成AIによって合理化されることは、世界の人びとにとっても、企業にとっても、利益が大きい。

行政サーヴィスはもともと、ローカルなものだ。その国の市民(だけ)に向けて、その国の法律にもとづいてサーヴィスを行なう。ほかの国と違った法律による、その国独自のサーヴィスだ。外国から来た人びとや、多国籍企業にとっては、なにかと不便が多い。その国ごとの事情に合わせなければならないから。

行政サーヴィスが生成AI系ソフトに支援されるなら、その障害が低くなる。

第一に、世界の国々それぞれの行政サーヴィスのなかみや根拠になる法令が具体的にどのようになっているのか、そのデータベースができあがる。移住予定者や進出企業が自分でいちいち調べなくても、ワンクリックで情報が手に入る。

橋爪大三郎『上司がAIになりました 10年後の世界が見える未来社会学』(KADOKAWA)
橋爪大三郎『上司がAIになりました 10年後の世界が見える未来社会学』(KADOKAWA)

第二に、生成AI系ソフトに乗るように、行政サーヴィスを見直し整えるので、それが合理的で可視的になる。ほかの国のやり方と比較可能になり、互いに似てくる。ローカルなルールだったものが、世界共通なルールに近づく。

第三に、移住予定者や進出企業や、国境を越えて活動しようとする人びとを、支援しようとする民間のサーヴィス会社が増えて、国際的な活動が便利になる。制度が似てくればあとは翻訳だけの問題になる。

それやこれやで、生成AIは、世界中のマネジメントを革新するのはもちろん、世界各国の行政サーヴィスや教育をも革新していくのである。

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橋爪 大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
社会学者
1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(大澤真幸との共著、講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『おどろきのウクライナ』(大澤真幸との共著、集英社新書)『中国共産党帝国とウイグル』(中田考との共著、集英社新書)など。

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(社会学者 橋爪 大三郎)

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