なぜ300円ショップなのに「300円じゃないモノ」ばかり売るのか…スリーコインズに聞いて返ってきた意外な答え
プレジデントオンライン / 2024年10月25日 9時15分
■「絶好調のスリコ」のきっかけは2019年
商業施設の中にある、3COINSの店舗を訪ねてみた。店内は広々としていて、幅広い年代の女性やファミリー、そして少数の男性が思い思いに商品を手に取っていた。
ふと、10年ほど前の3COINSを思い返してみる。当時の店内は人がすれ違うのがやっとの広さで、明るいピンク色や水玉模様など、いかにも若い女性が好みそうな色やデザインのものが多かったと記憶している。
それがいまや全体的に落ち着いた色合いとなり、一般的にビビッドな色が使われがちなベビー・キッズ向けの商品すら、いわゆる“くすみカラー”をまとった落ち着いたテイストとなっている。
この変化は、2019年にターゲットをガラリと変えたことによるものだ。3COINSは1994年、大阪梅田・茶屋町に1号店をオープン。当初は外部から仕入れた雑貨を売っており、店舗数を拡大していくに従って自社独自の商品を展開するようになっていった。
このとき、明確にターゲットを定めていたわけではなかった。3COINSを運営するパルでディレクターを務める肥後俊樹さんは次のように語る。
■データで浮き彫りになった本当の顧客
「昔は一般的に、『雑貨は若い女の子たちが好きなもの』という風潮がありました。その風潮に私たち自身も無意識のうちに乗っかってしまい、いつの間にか『ピンク色やポップな商品が3COINSらしいよね』と、自分たちで決めつけてしまうようになっていたのです」
しかし2019年ごろ、それまで順調に推移してきた売り上げの伸びが鈍化する。その原因として肥後さんは、それまでは安さが売りだった100円ショップの商品にデザイン性が付加され始めたことや、外国発の雑貨ショップが台頭し、低価格雑貨が当たり前な存在となったことが大きかったと話す。
3COINSも試行錯誤するものの、なかなか起死回生の一手を打ち出すことはできなかった。
事態を打開するきっかけとなったのが、同社のアプリだった。そこから顧客のデータを分析したところ、3COINSの主な顧客層が30~40代の女性であることがわかったのだ。
想定していたターゲットとは異なる結果に、「売り上げも伸び悩んでいて、自分たちはどこに向かっていくんだろうと不安を抱え、迷子になっていた中で出てきたのがこのデータ。みんなで『どうする?』と言いつつも光が見えたように思いました」と肥後さんは振り返る。
■大事なのは「顧客が何を欲しているか」
売り上げの停滞とデータが示す現実を受けて、3COINSはターゲットおよびスタンスの変更に踏み切る。そして「『3COINSの商品がほしい』と思われるにはどうすればいいか」を徹底して追求した。
まずはそれまでの若い女性の部屋に好まれそうな明るい色合いやポップなデザインを一新し、30~40代の女性が生活の中で取り入れやすいカラー・デザインに変更。
「安物」のイメージの払拭に努め、見た目も品質も値段以上のものとすることにこだわった。ベビーカーを押していてもゆっくりと商品が見られるよう店舗を大型化し、内装も商品の見せ方も落ちついた雰囲気に変えた。
「店舗にしてみたら急な変化だったと思います。ですが『こうなりたい』との共通認識が徹底できていたからこそ、1~2年間のうちに変わることができました」(肥後さん)
この変化に顧客が魅せられ、メディアに取り上げられる回数も格段に増加。認知度が高まってさらに注目され、売り上げが伸びていくことで3COINS側も自分たちの方向性に自信を持ち、さらなる商品を投入していく……。こんな好循環が実現した。
■40%が300円より高い商品
店内を見渡してみて、商品のデザインや店内の動線に加えて変化を感じたのが、商品の価格だ。「300円よりも高い」商品が明らかに昔より増えている。
3COINSを訪れたことのある人は「これも300円なのか」と手に取ったところ、実は300円ではなかった……という経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。筆者もその一人だ。
肥後さんに、ここ1年の売れ筋商品を聞いてみた。すると、「デバイスバンド」「ワイヤレスゲームコントローラー」「マグネットスティックジェルネイル」「ツールボックス」の4つの商品の名が挙がった。
このうち300円の商品は、マグネットスティックジェルネイルの一点しかない。デバイスバンドは現在3800円、ワイヤレスコントローラーは2500円、ツールボックスは800円(いずれも税抜)となっている。この値段だけを見れば、「とても300円ショップ」とは呼べないだろう。
ただしいずれの商品も、市場価格に比べると割安だ。大画面スマートウォッチであるデバイスバンドについて、Apple Watchと比較してみると、最も安い「Apple Watch SE」でさえ3万4800円からとなっている。それに比べれば“安すぎる”水準だ。そしてそのギャップを市場は評価した。いまや、300円より高い商品の割合は実に4割を超える。
■「デバイスバンド」は発売と同時に即完
高価格帯の商品開発のきっかけも、ブランド改革に端を発する。広報の矢八有香子さんはこう話す。
「もともと『家電をやりたい』『スマホケースが売れているのだから、それに付随する商品は絶対に売れる』などの意見は社内で根強くありました。
ただ『どうしても300円では実現できない』と諦めていたんです。それがターゲットを変え、『価値あるものを提供できるのであれば、300円じゃなくても良い』と考え方を変えたことで、ようやく実現に漕ぎつけることができたのです」
そして2020年、ワイヤレスイヤホンを発売。価格は1500円(税抜)。市場価格に比べると割安だが、「これは3COINSにとっても相当なチャレンジだった」と肥後さんは振り返る。
それでもこのワイヤレスイヤホンはユーザーに受け入れられ、大ヒット商品となった。さらにこの商品をきっかけに、それまで3COINSにはあまり足を運ばなかった男性客の姿も増えた。そうした影響もあって、2022年に発売を開始した「デバイスバンド」は新型が発売するたびに「即完」している。
■“ちょっと幸せ”を実現できなら何をやってもいい
「300円」を店名に掲げているのに、「300円じゃないモノ」を売ることについてはどう思っているのか。
「私たちが掲げているのは、みなさんの“ちょっと幸せ”をお手伝いすること。ブランドの軸を『300円』に置くこと自体は、今後も変わりません。ですが“ちょっと幸せ”を実現できるのであれば、もっと柔軟になってもいいと思うようになりました」(肥後さん)
ターゲットをしっかり定めたことでブランド力は強くなり、300円の枠から飛び出したことでチャレンジできることの幅も広がった。
たとえばコスメはこれまで、「何度もチャレンジしてみたものの、すぐに商品も売り場も変わり、若い子向けだったり大人向けだったりと迷走を繰り返し、惨敗してきました」(矢八さん)
それを改めて「and us」のブランドに統一し、化粧品やスキンケア、美容家電まで一気通貫で展開することで、固定のファンをつかむことに成功した。
またブランド改革の後、売り場を大きく拡充したベビー・キッズ向け商品では、育児中である商品企画担当者の「こんなものがあったら絶対に欲しい」という思いを具現化。リビングに置いていても悪目立ちしない色合いとコストパフォーマンスの高さが、子育て中の家族に支持されている。
■「ずっとかわらない定番商品」は作らない
また先に挙げたのはここ1年の売れ筋商品だが、ホームページで公表されているランキングを見てみると、「NEW」と書かれたものも目立つ。
実は3COINSでは、毎月700~800もの新商品を発売している。毎週月曜日に新商品を発売しており、「いつ行っても新しい商品に会えるのが、3COINSの強みの一つ」と肥後さんは話す。
驚異的な商品投入スピードの基になるのは、「4週間MD」の考え方だ。4週間MDとは、4週間という短いサイクルの中で商品をすべて売り切り、無駄な在庫を作らない・持たないとの方針を指す。
これにより、感度の高い商品企画担当者が「こんな商品が作りたい」と思ったことが、速いスピードで実現する。
売れ筋の商品はその後も店頭に並び続けるが、「定番商品であっても『ずっとまったく同じ』ものはありません。見た目が大きく変わっているわけではなくても、少しずつブラッシュアップしています」(肥後さん)
■大量の新商品をつくり続けるワケ
また月700~800点もの新アイテムを投入するとなると、すぐに店頭から姿を消してしまう商品も多い。筆者自身も好んで買っていた商品がある日突然店頭から姿を消し、悲しい思いをしたことがある。
肥後さんは「狙ったわけではない」と言うが、結果的に「いま買わなければもう買えなくなってしまうかもしれない」という焦りが、購買意欲にもつながっていると言える。
なぜこれほどまでに多数のアイテムを投入するのか。肥後さんはこう語る。
「昔に比べて、一つのものが売れるサイクルがどんどん短くなっていることを痛切に感じています。さまざまな情報が絶えず発信され、消費者のニーズもめまぐるしく変わっていく中では、選ばれるために自分たちもどんどん変わっていなければいけないのです」
次に訪れる3COINSは、また違う顔を見せてくれるはずだ。(後編に続く)
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ライター
1987年生まれ。大阪府出身。2007年防衛大学校に入校。人間文化学科で心理学を専攻。 陸上自衛隊幹部候補生学校を中途退校し、2012年、時事通信社に入社、社会部、神戸総局を経て政治部に配属。2018年、第一子出産を機に退職。その後はITベンチャーの人事を経て、現在はフリーランスとして執筆活動などを行う。
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(ライター 松田 小牧)
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