だからスリーコインズは全国にファンを増やし続けている…無印良品とはまったく違うヒット商品の生み出し方
プレジデントオンライン / 2024年10月28日 9時15分
■1人当たり月40もの新商品を作り出している
(前編から続く)
2024年7月末に発表されたパルグループホールディングスの連結決算によると、売上高・利益ともに3年連続で過去最高を更新。この好調をけん引しているのが、300円の雑貨などを販売する3COINSだ。
営業利益は全体では前年同期比10.5%増のところ、雑貨事業では実に54.9%増となっている。価格の安さに品質の高さ、投入スピードの速さ……そのすべてが時代にマッチした。
月に700~800点にも及ぶ新商品を企画するのは、20人の商品企画担当者だ。「キッチン」や「キッズ」など、カテゴリーごとに1~2人の担当者が配置される。かつては「適性がある」と見込んだ人材を指名していたが、現在は挙手制となっている。
ディレクターの肥後俊樹さんは「数年前まで、商品企画の担当者は7人ほどしかおらず、パツパツの状態でした」と話すが、20人でも1人当たり月40アイテムほどを新たに生み出さなければならない計算であり、決して楽とは言えないはずだ。
■データより大事なのは熱量
だが、「みんなやりたいことが多すぎて、その思いをどのように整理していくかが大変なんです」(肥後さん)という。
3COINSの躍進を支えるのは、まさにその熱量だ。企業の中には、「データから売れ筋の商品を割り出し、それに沿って商品開発を進める」という企業も少なくない。
だが3COINSでは、データはもちろん確認する一方で、最終的には担当者の「これがやりたい」といった熱意を重視する。
会社からの指示も最低限にとどめ、担当者に大きな裁量を持たせる形だ。仮に実現が難しいものを提案したとしても、肥後さんは頭ごなしに否定するのではなく、「なぜそれをやりたいのか」を丁寧にヒアリングし、違う形で昇華させていく。
■俺には“推し”がわからないけれど…
この「やりたい」重視の姿勢は3COINSの屋台骨とも言える。たとえば2017年に大ヒットしたのが「推し活」関連商品だ。
これも自身が推し活をしている女性従業員からの「こんなものがほしいけど、世の中にはない。だから作りたい!」との直談判がもととなった。肥後さんは、「俺にはわからないけど、それほどの熱量を持っている人がほかにいるのであれば、それは絶対にやるべきことだよね」とGOサインを出した。
最初に展開したのは、うちわを入れるための手提げとペンライトを入れるためのケースで、それぞれ白と黒の2色で展開。ユーザーからは「こんな商品を待っていた」と想像以上の反響が寄せられた。その後、推しの“色”に合わせたグッズも多数展開されるようになり、新たなヒットジャンルを創設した。
推し活グッズはいまや、3COINS以外のショップでも見られるようになったが、「私たちが一つのトレンドを作り上げるきっかけとなれたことは嬉しい」と肥後さんは話す。
ほかに人気を集めているのは「コラボ商品」だ。もともと小売業界では、一般的に「二八(2月と8月)は消費が落ち込む」と言われている。それは3COINSも例外ではない。そのため「安定的に売り上げを立てるには」と考え、コラボ企画の実施に至った。
■宇宙にも”幸せ”をお届け
最初にコラボしたのはアニメキャラクターとのコラボ企画。これも担当者の「やってみたい」に端を発したもので、大成功を収めた。その後も、次々と人気が高いコンテンツとのコラボを展開。
意外なところでは、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載される商品がある。
これは、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が宇宙飛行士のQOL向上を目的とする生活用品アイデアの公募において、3COINSが提案・商品化を行い、ISSに搭載可能と判断されたもの。実際に2025年にISSへの搭載が予定されている。店頭では、素材などを変更した商品を3COINSで発売する予定。
「宇宙といっても、人が住んでいるのであれば、そこで“ちょっと幸せ”をお届けできると考えたのです」(肥後さん)
補足すると、ISSへの搭載が決まった商品には“宇宙ならではの特別難しい技術”が使われているわけではないという。肥後さんは「ただアイデアで勝負しただけ」と語るが、熱量に裏打ちされたこのアイデアの豊かさが、3COINSを支えている。
■“素人集団”だからいい
2019年以降のブランド改革とともに、300円より高い商品も多数展開するようになった3COINS。価格の自由度が上がったことにより、商品開発の難易度も上昇したものの、作れるものの幅は格段に増えた。
そんな中でいま、3COINSが自信を持って展開しているものの一つが、“香り”の関連商品だ。たとえばアロマディフューザーは500円(税抜)で提供しているが、広報の矢八有香子さんは「フレグランスのブランドと戦えるくらい、商品のクオリティを追求している」と自信を見せる。
3COINSが安さと品質を兼ね備えられる秘訣の一つとして、肥後さんは「担当者が専門家ではないこと」を挙げる。
「もともと担当者は、フレグランスの商品が好きで自分でも集めているような人です。ただし専門家ではないので、業界の常識も知りません。だから『普通はこう作る』といった固定概念を持っておらず、純粋に『もっとこうだったらいいのに』と考え、実現してしまえるんです」
素人の強さの発揮は、香りの商品だけにとどまらない。ほかの商品においても、大手メーカーの製品は総じて多機能・高性能だけれども高価格。対して3COINSでは、徹底して消費者の目線から「この機能は絶対必要だけど、ほかの機能はなくてもいいんじゃないか」と考え、その分の価格を抑える。
「たとえばヒット商品のデバイスバンドでも充電ケーブルだけつけてACアダプタをつけなかったり、スマホポーチでも完全な「防水」ではなく「防滴」にしてみたり。それでも、『安いならそっちのほうがいい』と評価してくださるお客様が案外多いんです」(矢八さん)
それぞれの領域に特化し過ぎない“素人集団”であり続けることが、かえって差別化を生み出していると言える。
■インフルエンサーは「有名じゃないほうがいい」
商品開発以外にも従業員の熱量が起点となって成果を上げているのが、「社内インフルエンサー制度」だ。同社は2015年、まず衣料部門にてInstagramを開始。
その流れで2016年、3COINSとしてもInstagramを開始した。試行錯誤を繰り返すうちに、段々とInstagramの投稿が実際の購買行動につながっていくようになっていった。
Instagramの効果を確認したパルグループは、フォロワー数の多さなどが評価にも加算される「社内インフルエンサー制度」を正式に制定。
現在3COINSだけで80人ほどの社内インフルエンサーがおり、総フォロワー数は80万人を超える。3COINS内でのトップインフルエンサーは、実に27万人以上のフォロワーを抱えている。
社内インフルエンサーも、挙手式だ。会社として、効果的な投稿について教える勉強会は実施するものの、投稿内容を厳しく制限することはない。
「上から『こう発信しろ』と強制してしまえば楽しくなくなってしまい、長続きしません。商品開発もそうですが、選ばれるためには結局その人の“個性”が重要なのだと思っています」(肥後さん)
また特徴的なのは、「著名人による発信は求めていない」点だ。矢八さんはその理由を、「著名人による発信はどうしてもPR感が出てしまい、3COINSのユーザーが離れていってしまうから」だと説明する。
あくまで重要なのは「消費者の目線に立てるかどうか」。その思いが商品企画でも社内インフルエンサーでも徹底されている。
■目指す意外な将来像
「やってみたい」「おもしろそう」を重視し、トレンドに合わせて流動的に仕掛けていく3COINS。肥後さんはそれこそが「自分たちの強み」と言い切る。そこに筆者は、顧客第一主義で従業員を信頼する大阪商人の血脈を見る。
いつの間にか雑貨だけでなく家電や食品を展開するようになり、今年には古着の販売も試行するなどチャレンジをし続ける3COINSは、“300円均一”から、ライフスタイル全般を扱う店へと変貌を遂げつつある。
これまで3COINSといえば、「100円均一よりはちょっといい商品が並ぶ店」といったイメージで、ライバルといえばダイソーやセリアが近かった。だがここにきて、どちらかといえばそのイメージは無印良品に近づいてきていると言えるだろう。
そう告げてみるも、肥後さんは「滅相もありません。あんなにしっかりとブランディングされている会社と比べていただいて、ありがたい限りです」と謙遜する。
確かに無印では、「自社のありたい姿」に則り、明確な基準に沿って商品を展開する。「顧客にこびない、ブレない」無印と、「顧客目線で自分がほしい、やってみたい」を大事にする3COINS。その思考は真逆だ。
■「あるべき姿がない」ことの意味
一方で無印は一時苦戦を強いられ、現在立て直し中であるのに対し、3COINSは新型コロナウイルス流行下の時期を除き、ずっと上昇基調にある。この結果からも、「顧客がいまほしいもの」と対峙し続ける3COINSの強さを感じることができる。
肥後さんに、「ライバル企業はどこか」と聞いてみた。返ってきたのは、「どこの企業がライバルなのかを考えたことはない」との答えだった。その背景には、彼ら自身が「3COINSが今後どこに向かっていくのかを絞り込んでいない」ことが挙げられる。
意地悪な見方をすれば、明確な“ありたい姿”“あるべき姿”が定まっていない点に、不安要素を見出すこともできる。
さらに言えば担当者の個性に頼る3COINSのやり方は仕組み化からは程遠いし、社内インフルエンサー制度は炎上リスクもはらんでいる。一般的には企業の規模が大きくなればなるほど、忌避しがちな手法でもある。それでも3COINSは、これらを“強み”だと捉え、成果を上げている。
今後3COINSは、女性顧客の年齢層の幅の拡大や、男性顧客の拡大に乗り出すとしている。枠にとらわれない挑戦でどこまで進化し続けるのか、ぜひ注目し続けたい。
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ライター
1987年生まれ。大阪府出身。2007年防衛大学校に入校。人間文化学科で心理学を専攻。 陸上自衛隊幹部候補生学校を中途退校し、2012年、時事通信社に入社、社会部、神戸総局を経て政治部に配属。2018年、第一子出産を機に退職。その後はITベンチャーの人事を経て、現在はフリーランスとして執筆活動などを行う。
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(ライター 松田 小牧)
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