40代以上の2人に1人が「突然の失明リスク」を抱えている…自覚症状がないまま視力を奪う「緑内障」の本当の怖さ
プレジデントオンライン / 2024年10月27日 17時15分
※本稿は、平松類『視る投資』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
■「サイン」を放置し続ければ最悪、失明に至る
「近視もないし、ドライアイになったこともない。目は生まれつき超いいんです」
そんな人にこそ聞いてほしい話があります。
「視る力」、いわゆる視力の高さと、目の健康には相関関係がほとんどありません。
たとえば、100mを9秒台で走れるウサイン・ボルト選手は「まったく病気にならない」わけではないはずです。健康管理を怠れば、いくら驚異的な身体能力をもつ人でも、病気にかかることはあるでしょう。
「どれだけ遠くが視えるか」という視力は、いわば「100mを何秒で走れるか」というような身体能力の一つです。
つまり、たとえ2.0の視力がある人でも、目のケアを怠れば目の病気になります。
そのわかりやすい兆候は「視え方」の変化です。
たとえば視力の低下、視野の欠け、まぶしさ……。
それらのサインを放置し続ければ、失明に至ることだってあるでしょう。
残念ながら「今の視力がいいから、何もしなくてもずっと健やかな目のまま」とは限らないのです。
特に視力については「失明する直前まで1.0くらい視えていたのに、なぜ急激に視力が低下したのか」と患者さんが驚かれるケースがよくあります。
目の病気のせいで視力が落ちるときは“急降下”と覚えておいてください。
■視力は、短期のうちに急激に悪化する
体の言い分としては……。視力の急激な低下は「それくらいわかりやすいサインでないと、本人に気づいてもらえないから」ということなのかもしれませんね。
ですから、自覚症状がなくても定期検診(健診)で測定することが大事なのです。
実際の病名を挙げておきましょう。
日本人の失明原因1位の緑内障、2位の糖尿病網膜症、3位の網膜色素変性、4位の加齢黄斑変性(加齢によって黄斑に老廃物が溜まりやすくなり、視力が落ちる病気)。
これらはすべて、徐々に目の健康が失われていきますが、その間、あまり視力は落ちません。不思議に思われるかもしれませんが、末期に近くなってから、急激に視力が落ちるのです。
たとえば私の患者のAさんは「視力が1.0もあるから問題ない」と思い、健診時もオプションの眼底カメラ検査は受けていませんでした。「目には自信があるから、追加料金を出してまで検査を受けることはない」と思っていたようです。
あるときAさんが急激な視力の低下を感じ、受診してくださいました。調べてみると、実際のところ極端に視力が落ちていました。そして検査の結果、「かなり進行した緑内障」だとわかったのです。
このように「私はもともと視力が高いから」と安心して過ごしていた人が、緑内障を突然発症し、無自覚のうちに進行し、気づけば視力が0.3、0.1、0.0……。
短期のうちに急激に悪化するケースが多いのです。
「日常生活で、いったいなぜちょっとした視力の低下に気づけないのだろう」
そう思いませんか。それには“優秀すぎる”人体の仕組みが関係しています。
■なぜ「ほぼ失明」するまで放置してしまうのか
1つ目の理由は、目そのものがたとえ視づらくなっても(機能が落ちても)、最終的に脳が自動的に補ってくれるからです。「盲点」を例に説明してみましょう。
人間には視えない範囲「盲点」があります。片目で視ると、必ず「視えない場所」があるのです。けれども、そのことに気づかないで済むように脳がうまく補ってくれています。それが脳の役割だからです。
緑内障のときも、それと似たことが起こります。
さらに、緑内障のときは視野の真ん中ではなく、視野の外側から欠けていくため、非常に気づきにくいのです。視野の欠損が中心部にまで迫って、ようやく「なんだか視にくくなった」と気づくのです。
2つ目の理由は、片目がたとえ視づらくなっても、もう片方の目が補ってくれるからです。試しに片目をつぶって生活してみていただければわかりますが、さして不自由なく暮らせます。
極端な例に聞こえるかもしれませんが……。片目がほぼ失明した状態でようやく眼科を受診し、「片目がほぼ失明していますよ」といわれて、自分の片目を手で覆い「あ、本当ですね」と気づく方もいます。
このように、目と脳の連携プレー、両目の連携プレーは非常に優れた機能です。
しかし、医療が非常に進んだ時代では、その優秀さがかえって仇になりかねません。つまり、目の病気の早期発見が難しくなっているという側面があります。
特に「目がいい人」は、目の変化をスルーしたり、自分の「視る力」を過信しすぎる傾向があります。そんな人にこそ「貴重な資産を守る」感覚で、目の定期検査や目のケアを重んじていただきたいと願っています。
■40代以上の人は「目の機能低下」に要注意
近年、健康な状態と要介護状態の中間のステージを指す「フレイル」という言葉をよく見聞きするようになりましたが、ご存知でしょうか。
フレイルとは、わかりやすくいえば「加齢により心身が老い衰えた状態」のこと。海外の老年医学の分野で使用されている英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源です。
「Frailty」を日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味します。
とはいえ、フレイルに早く気づいて正しく介入(治療や予防)を行えば、戻ります。
実は、目にもフレイルがあります。
目のフレイルは「アイフレイル」といいます。加齢による目の機能低下を指します。
日本眼科学会などの団体からなる「日本眼科啓発会議」では、次のように定義されています。
「加齢に伴って眼が衰えてきたうえに、さまざまな外的ストレスが加わることによって目の機能が低下した状態、また、そのリスクが高い状態」
つまり、加齢とともに眼球の構造と機能の衰えが生じ、その状態にさらにストレスが加わると目に障害が出現するというわけです。
それを放置すると、当然ながら常に視えづらくなり、さらに進行すると重度の障害に陥り、回復は困難となります。失明の可能性も高まります。
つまり、目の病気は徐々に進行していくため、若いうちからの予防が大切なのです。
40代以降の人は、特にアイフレイルに注意してほしいと思います。
問題が何もないうちから「アイフレイル」という言葉を理解しておくことも、「視る投資」となります。
■半数近くの人は「不調」があっても病院に行かない…
日本眼科啓発会議が40代以上の男女に「目の健康に関する意識調査」を行ったところ、「目について何らかの自覚症状がある」と答えた人のうち、3年以内に目の検査を受けた人は全体の57.9%でした。つまり「目に何らかの不調があっても、半数近くの人が眼科へ行っていない」ということです。
忙しい現役世代が、通院の時間を捻出しにくいという事情はよくわかります。
とはいえ、どのような病気も早期発見、早期対応は非常に重要です。
日本眼科啓発会議による次のチェックリストを、ぜひ確認してみてください。
このリストにある10項目を、詳しい理由つきでご紹介しますね。
■目の病気を早期発見するための「10大ポイント」
【アイフレイルチェックリスト】
①目が疲れやすくなった
「目が疲れやすくなった」ということは、目の使いすぎで負担をかけているのかもしれません。また、何らかの病気が隠れている可能性もあります。
②夕方になると視えにくくなることが増えた
目が健やかな場合。寝る寸前まで「視えにくい」とは感じないものです。
しかし夕方くらいで「視えにくい」ということは、かなりの負担がかかっていることになります。もしかすると、老眼が始まっていることも考えられます。
③新聞や本を長時間視ることが少なくなった
「もともと新聞や本をよく読んでいたのに、最近読まない」、そんな人も要注意です。
新聞や本に興味を感じなくなっただけかもしれません。
面白い本と出会えていないだけかもしれません。
でも、もしかすると目の問題かもしれないからです。
「視る力」が弱くなっている、もしくは何らかの病気がある恐れがあります。
④食事のときにテーブルを汚すことがたまにある
食べているものをこぼしやすい、またそれに気づきにくい人がいます。
急いでいたり、何かを読みながら食べていたりする場合、そうなってしまうのは仕方がありません。
また「もともとよくこぼすのだ」という人もいるでしょう。
しかし、そうではない場合。「前はこんなにこぼさなかったのに……」という人は、視る力が衰えているのかもしれません。
■メガネをかけても「よく視えない」は病気のサイン
⑤メガネをかけてもよく視えないと感じることが多くなった
近視でも、遠視でも、乱視でも、老眼でも、メガネさえかければ「よく視える」ように矯正が可能です。でも「よく視えない」ということは、白内障、緑内障、加齢黄斑変性などの病気があるのかもしれません。
⑥まぶしく感じやすくなった
ドライアイで目が傷ついている場合。白内障で水晶体が濁っているため光の屈折が正常に行われない場合。まぶしく感じることがあります。
⑦はっきり視えないときにまばたきをすることが増えた
主な原因としてドライアイが想定されます。目が乾燥して視づらくなると、目の表面を潤そうとして、無意識のうちにまばたきが増えるのです。
⑧まっすぐの線が波打って視えることがある
「黄斑」での問題が考えられます。
網膜の中心に「黄斑」という部分があります。直径約1.5mm~2mmの小さな部分です。非常に小さなパーツですが、ここがダメージを受けると、さまざまな病気が発症します。
たとえば加齢黄斑変性、糖尿病黄斑症などです。
■2つ以上あてはまった人は「アイフレイル」の可能性
⑨段差や階段が危ないと感じたことがある
まずはできる範囲で「視えやすくする工夫」をしてみることです。
たとえば自宅に段差や階段があるなら、そのへりに視やすい色の「転倒防止(滑り止め)テープ」を貼ってみましょう(通販でも、さまざまな色の転倒防止テープが販売されています)。また照明も明るくしましょう。眼科の早期受診もおすすめします。
⑩信号や道路標識を見落としそうになったことがある
これは車を運転する人に、特に気をつけていただきたいことです。
緑内障のせいで視野が欠けたり、白内障のせいで視界がかすんだり、眼瞼下垂のせいで瞼が下がって上の視野が欠け、大事なサインを見逃してしまう人がいます。
これは大事故につながりかねませんので、早めに受診してください。
下のチェックリストで2つ以上あてはまった場合、アイフレイルの可能性があるとされます(図表1)。もちろん1つでも気になる項目がある場合は、速やかに対処しましょう。
【参考文献】アイフレイル啓発公式サイト
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眼科医 医学博士
愛知県田原市生まれ。二本松眼科病院副院長。「あさイチ」、「ジョブチューン」、「バイキング」、「林修の今でしょ! 講座」、「主治医が見つかる診療所」、「生島ヒロシのおはよう一直線」、「読売新聞」、「日本経済新聞」、「毎日新聞」、「週刊文春」、「週刊現代」、「文藝春秋」、「女性セブン」などでコメント・出演・執筆等を行う。Yahoo!ニュースの眼科医としては唯一の公式コメンテーター。YouTubeチャンネル「眼科医平松類」は20万人以上の登録者数で、最新情報を発信中。著書は『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った!』(時事通信出版局)、『自分でできる!人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など多数。
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(眼科医 医学博士 平松 類)
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