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違法と分かっていてもやめられない…円安・物価高に苦しむベトナム人が手を出す「もう一つの闇バイト」

プレジデントオンライン / 2024年10月28日 17時15分

Facebookで「違法バイト」の情報がやり取りされている - 筆者提供

日本で働く外国人労働者には、円安・物価高騰で収入の減少に苦しむ人も多いという。ジャーナリストの澤田晃宏さんは「違法と知りつつも『手渡しバイト』に手を出す留学生や、技能実習生などの労働者もいる」という――。

■Facebookで「違法バイト」の情報がやり取りされている

フェイスブックの検索窓にベトナム語で「việc làm lương tây」(手渡しバイト)と打ち込むと、複数のグループが表示される。そのうちの一つ、メンバーが14万人を超える公開グループを覗いた。

ホーム画面にはイラストと共に「手渡し確定申告なし求人(ジャパン)」とある。都市部の食品製造工場や飲食店、ホテルなどの清掃の求人のほか、地方の農業の求人などもある。なかには募集条件に「不法在留者」と明記し、宿舎を準備するとアピールするものもあった。

■留学生への締め付けが厳しくなった

こうした手渡しバイトが横行し始めたのは、単純労働を認める在留資格「特定技能」が新設された2019年頃から。新たな在留資格を創設する一方、留学生に対する締め付けが厳しくなったことが原因だ。

九州地方の日本語学校幹部は話す。

「留学生には資格外活動として、週28時間のアルバイトが認められていますが、その上限を超えて働く出稼ぎ目的の学生が多かった。人が集まりづらい深夜帯のコンビニや食品工場など、留学生は貴重な戦力になっていた」

だが、単純労働を認める在留資格を創設したことで、国は「出稼ぎが目的なら特定技能」と線引きし、これまで黙認していたと言わざるを得ない週28時間を超えて働く留学生の在留資格更新を認めないなど、留学生の在留審査を厳格化した。

「とはいえ、週28時間では時給のいい深夜バイトでも最高月収15万円程度。授業料と生活費を払い、そこから母国に仕送りするには足りない。農家などの需要もあり、週28時間にカウントされない手渡しバイトが広がっていきました」(前出の日本語学校幹部)

28時間を超えるバイトは「違法行為」である。給料をわざわざ「手渡し」にしているのは、もちろん違法性の認識があるからだ。

■円安・物価高騰が直撃

ただ当時はSNSに情報グループができるほどの広がりはなかった。コロナ禍で留学生の新規入国が止まり、現在の留学生は週28時間労働を理解し、出稼ぎを目的とした留学生は減った。

なぜ、違法な手渡しバイトが急増しているのか。大きく3つの理由がある。

一つ目は、円安だ。外国人労働者の約25%を占めるベトナム人をはじめ、出稼ぎ目的で入国する東南アジア諸国の通貨に対しても、円は安くなっている。

7月に日銀が追加利上げを発表するなど円高が進んだが、6月には1円=160ドンを切る水準にまで下がっていた。ロシアがウクライナへの本格的な軍事侵攻を開始した22年2月頃から円安が進み、以前は1円=200ドンを上回る水準だった。

円安は、物価高騰も意味する。ベトナムの送り出し機関幹部が話す。

「生活費も上がって使えるお金が減り、同じ金額を仕送りしても、母国通貨に戻すと目減りする。留学生だけではなく、技能実習生や特定技能外国人のなかにも手渡しバイトで少しでも稼ごうとする者もいる」

平日は技能実習生や特定技能の在留資格で働き、週末は違法な手渡しバイト――。

目減りした賃金を補おうと、こうした違法バイトが留学生以外にも広がったという。

お金の手渡し
写真=iStock.com/rai
違法な手渡しバイトが急増(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/rai

■「働き方改革」で残業ができなくなった

目減りしたのは円安による可処分所得だけではない。18年に改正された「働き方改革関連法」に基づき、休日労働を含まない残業時間の上限枠が設けられた。

中小企業や建設業・ドライバーなどの特定の職種には猶予期間が与えられていたが、24年4月以降は企業規模を問わず、すべての業種が対象となった。

出稼ぎ目的で入国する技能実習生や特定技能外国人から、その採用面接で必ずといっていいほど出てくる質問が「残業はありますか?」

もちろん、彼らが残業の少ない仕事を探しているわけではない。むしろ逆だ。お金を稼ぐことが目的の彼らにとって、「残業の多い企業=いい企業」となるのだ。国による残業規制は、そんな彼らにとってマイナスであり、違法な「手渡しバイト」が横行する2つ目の理由となっている。

■裏金を作ってまで「違法バイト」を欲している

手渡しバイトの外国人を採用した経験のある関西地方のある建設会社社長から、こんな証言を得た。

「ただでさえ人手がいないところに、残業時間を規制されたらひとたまりもない。給与手渡しであっても、働いてくれる人がいればありがたい。実習生や特定技能外国人を採用すると、国が定める管理組織に管理費を払わなければならないし、社会保険料の企業負担も大きい。そう考えると、安いものです」

もちろん違法なバイトのため、人件費として帳簿に記載できないお金となってしまうが、社長自身の給与を増やし、そこから支払っていると話した。

会計ソフトウェアに仕訳を入力する女性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■「転職」は事実上不可能に近い

最後の理由は、国の在留資格制度の問題である。

「特定技能」は、転職を認めない技能実習制度に対し国内外から批判があり、生まれた制度だ。世間一般には特定技能=転職可能な制度といったイメージが広がっているが、実際はそうではない。

外国人にとって手続きが煩雑すぎるため、転職は事実上不可能に近いのが実情だ。

特定技能の在留資格は所属機関に紐づいている。同職種――たとえば、ラーメン屋Aからラーメン屋Bへの転職など――でも在留資格の「変更」が必要になる(同じ仕事のため、同じ在留資格「特定技能」から「特定技能」への変更となる)。

転職先の登記事項証明書や間近の決算書など、転職先の所属機関に関する必要書類も多い。日本人であっても、その手続きを一人で行うのは難しいだろう。

■「違法バイト」をやらないと生活できない

問題なのは、その複雑な変更手続きの間、アルバイトさえ認められていないことだ。しかも手続きが数日であればいいが、実際には数カ月間もかかる。

出入国在留管理庁は申請の処理期間の目安を在留資格変更許可の場合「2週間から1カ月」としているが、現実には平均45.8日(24年第1四半期)かかっている。追加書類の手続きなどを求められた場合は、半年程度かかることだってある。

半年間の無職生活を支えたのは「違法な手渡しバイトだった」と、ベトナム出身の男性(26歳)が振り返る。

「建設現場の解体工事や足場の仮設工事のバイトをしていました。日給は1万3000円で、保険や税金も引かれず、すべて手取りになります。仕事は毎日あって、休まずに働き続けることもできます。普通に働くより、2倍近く稼げます」

この男性は在留資格変更許可後に、予定通り転職が決まっていた会社で働き始めたが、こんな言葉もこぼしていた。

「不法就労とはわかっていましたが、やるしかなかった。普通に働くと税金が高く、転職を辞めようと思った時期もあった」

■国の改革が不法就労を助長している

国の働き方改革や在留資格制度が不法就労を助長しているとも言える。外国人の支援団体幹部は、こう危機感を話す。

「SNSを中心に手渡しバイトの情報が増え、転職の間の空白期間に利用する特定技能外国人が増えています。税金なども引かれず、普通に働くより手取りが増えるため、放置しておくとそのまま不法就労者として働く者も出てくる恐れがあります」

SNSには、今回取り上げたグループのほか、不法在留者を対象としたコミュニティが無数にある。極地的な人手不足対策のために国があえて黙認しているとまでは思えないが、もし認知していながら放置しているのなら怠慢でしかない。

目下、10月より厚生年金に加入するパートタイム労働者の範囲が拡大される。企業からすれば、ただえさえ社会保険料が高いのに、企業の負担がより一層拡大するという不安が大きい。

そんななか、広がりを見せるスポットワーカーだけではなく、手渡しで働いてくれる外国人は貴重な存在だろう。

違法なバイトが今後も活用される可能性は高く、政府としても何らかの対応が必要になるのではないだろうか。

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澤田 晃宏(さわだ・あきひろ)
ジャーナリスト
1981年、神戸市生まれ。高校中退後、建設現場作業員、男性向けアダルト誌編集者、週刊誌『AERA』(朝日新聞出版)記者などを経て、独立。阪神総研代表、ともいきジャーナル(NPO法人日越ともいき支援会)編集長。著書に『ルポ技能実習生』(ちくま新書)、『東京を捨てる コロナ移住のリアル』(中公新書ラクレ)、『外国人まかせ 失われた30年と技能実習生』(サイゾー)など。

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(ジャーナリスト 澤田 晃宏)

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