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100均グッズで地震から自宅を守る…「家の中がメチャクチャで絶望」を回避する"耐震アイテム6選"

プレジデントオンライン / 2024年10月30日 18時15分

阪神・淡路大震災で実家が全壊したのを機に災害医療に目覚めた辻直美さん。1991年から看護師として、1995年から災害レスキューナースとして活動している - 撮影=プレジデントオンライン編集部

地震大国・日本では、南海トラフ巨大地震や首都直下地震といった大地震がいつ起きてもおかしくない。自分や家族の命を守るために、いまから備えられることはあるのか。東日本大震災や熊本地震などの被災地で救助を専門に活動する災害レスキューナースの辻直美さんに「防災の心構え」について聞いた――。(第1回/全3回)

■「避難所に行けば何とかなる」は甘い

「日本全国で防災リュックを準備しているという人の割合は約10%しかないんです」

辻さんは開口一番、こう話す。

災害への危機意識が高まった東日本大震災から13年の間に、日本各地で大きな揺れが発生したにもかかわらず、備えが広がらないのはなぜなのか。

「行政が何とか対応してくれると思って安心しているのでしょうけれど、行政ができることは、避難所の設置や給水の手配といった最低限生命を維持できるレベルまでです。避難所に行けば、自分の席が用意されていて、水やお弁当が手に入って何とかなると甘く考えている人がいるかもしれません。しかし、実際の避難所では席どころか、水も食料も寝床も用意されていません。

それに、大規模災害の場合、避難所は人が殺到してキャパオーバーで入れないこともあります。自宅が損壊していなければ、自宅避難になる。どちらにしても、復興まで自力でやるしかないんです」

■夏場、真冬の被災地は想像以上に過酷

辻さんの災害レスキューナースとしての活動歴は約30年と長い。その間、被災地へ救助・救援活動に赴いたのは、2011年3月の東日本大震災、2016年4月に2度起きた熊本地震、2018年6月の大阪府北部地震など国内34カ所、海外2カ所に上る。

また、辻さん自身も阪神・淡路大震災、大阪府北部地震、そして現地入りした熊本地震と3度被災した経験を持つ。そうした被災地の過酷な状況を目の当たりにしてきたからこそ、被災することに対しての世の中の認識の甘さにしびれを切らしている。

「地震後にライフラインが途絶えることは、容易に想像できますよね。水、電気、ガスが止まる。それも1~2日ではありません。最低2~3週間は止まる。そうなると、トイレ、お風呂、冷蔵庫、エアコンと何も使えなくなる。夏場や真冬ではどうなると思いますか。

何となくは被害状況が想像できるけれど、どこかで自分は大丈夫、と根拠なく安心してしまっている。だから、他人事になるんです」

■東京都から住民への重大な「警告」

東京都が2022年5月に発表した「東京都の新たな被害想定」(マグニチュード7.3/冬/18時)によると、首都直下地震発災直後から1日後に「家庭内備蓄をしていた携帯トイレが枯渇したり、トイレが使用できない期間が長期化した場合、在宅避難が困難化」と想定している。

東京都防災会議「東京都の新たな被害想定」より災害シナリオと被害の様相の一部
東京都防災会議「東京都の新たな被害想定」より災害シナリオと被害の様相の一部

これについて、辻さんは、危機感を持つ。

「東京都がここまで踏み込んで言及するのは初めてのこと。つまり、役所ができることには限界があるから、自分たちで備えて、というメッセージだと解釈しました。私たちへの警告なんです」

実際に辻さんが被災地で見てきた光景は、被災者でなければ想像すらできない過酷なものだ。メディアで報道された被災現場の様子はほんの断面でしかない。例えば、トイレ。数日経つと、トイレは閉鎖されて使えなくなる。それはなぜか?

「汚れが理由です。誰も掃除する人はいません。本来なら避難している人が当番ですることになっているんですが……。1回汚すと、次に使う人も気にせず汚して、トイレはどんどん汚くなる。水も使えない状況なので、便器内に汚物が溜まっていく」

熊本でも大阪でも石川でも、避難所のトイレは真っ先に劣悪な状態になったという。トイレが使えないために、野外でせざるを得ない。そこに雨が降ると、排尿・排便混じりの汚水が溜まり、悪臭が漂い、感染症のリスクが高まる。衛生面だけでなく精神面でのダメージも大きい。

さらに、水が使えないということはトイレが問題になるだけでない。つらいのは、身体から発せられる臭いだ。身体を洗えないために汗や汚れが蓄積した体臭は強烈になる。大勢の人の臭いが密集・密閉空間に漂う状況を想像できるだろうか。

■1日3回、1人分を食べられるとは限らない

ガスも電気も使えないため、配給される食事は常温食になるというのは、よく聞く話だろう。それだけならまだしも、毎日家族の人数分の食事が配られるとは限らないというのだ。

大阪府北部地震後のある避難所では、家族3人に配給されたのは、白ご飯1杯とわかめスープ、白い小袋に包まれた中身のわからない物1人分だけだった。地震ではないが、2018年の西日本豪雨の際も、朝食におにぎり1個、昼食にメロンパン1個、夕食に小さな幕の内弁当1個が家族3人に配布された。この分量を3人で分け合うのだ。

大阪府北部地震での避難所の食事(ふりかけは本人が持参)
提供=辻直美
大阪府北部地震での避難所の食事(ふりかけは本人が持参)。1人分ではなく家族3人でこの量 - 提供=辻直美

「水や食べ物が配られるだけでもいいほうですよ。毎日3食人数分の食事というのはありません」

■家の中のあらゆる物が「凶器」になる

こうした過酷な被災生活を自力で乗り越えるには、何をどう備えればいいのか?

そう辻さんに問うと、「防災グッズを買い備えるのも大切ですが、まず在宅避難できるように『地震に強い家』をつくることを最優先しましょう。そのためには、極力物を置かないすっきりした部屋にして、家にある家具、家電、ありとあらゆる物をすべて固定することです」と答えは明快だ。

命を守るための家の断捨離。なぜなら、家具、電化製品から、インテリアグッズ、戸棚のキッチン道具、食器、書棚にある本、冷蔵庫の中の物まで、ありとあらゆる物が倒れたり落ちたり飛んだりして、命を危険にさらすからだ。地震で死亡する原因で最も多いのが、家具や物などの下敷きになる圧死だという。

辻さんが出動した被災現場では、クローゼットから雪崩のように落ちてきた洋服や本棚にあった数百冊の本、壁に飾られていたスニーカーに埋まったり、飛んできた菜箸や包丁がからだに刺さったりして、多くの方が犠牲になったという。地震では、部屋、キッチン、床に置かれたありとあらゆる物が凶器になる。

被災後の室内の様子
提供=辻直美
被災後の室内の様子。本棚が倒れ、大量の本が落下している - 提供=辻直美

■震度6弱で明暗が分かれた2つの家

「被災地に行くとよく分かりますが、災害で人はサクッと簡単に死ねないんですよ。孤独と戦いながらじわじわと痛みに苦しみ、時間をかけて死んでいくのが圧死なんです。脅すわけではありませんが、これが現実なんです。ちょっとした準備でお金もかけずに命を守ることができるんだから、やらない手はないですよ」

辻さんはこう必死に訴える。

辻さん自身、震度6弱の大阪府北部地震で被災した直後から自宅マンションで普段通りの生活を送ったという。地震による「被害」はキッチンの物がいくつか動いただけ。

一方、間取りが同じお隣さん宅では、家具が倒れ、奥さんはラックの下敷きになって負傷し入院。旦那さんは物で散乱した部屋に入ることもできず、親類宅へ避難した。散乱した物を片付けるのに約1カ月かかり、調味料や酒がこぼれてキッチンの床に穴が開いたため修繕に約60万円を費やしたという。

被災直後の辻さん宅のキッチン(右)とお隣のキッチン
 
提供=辻直美
被災直後の辻さん宅のキッチン(右)とお隣のキッチン -   - 提供=辻直美

■「固定」するためのアイテムは100均で買える

「自宅の片づけって大掃除をイメージしているかと思うんですけど、どの部屋もぐちゃぐちゃで、ゴミ屋敷ですよ。この凄まじい惨状を見ると、大抵片づけの意欲や気力が失せます。

戸建ては瓦礫を外に出せるんですけど、マンションの場合は出す場所がない。エレベーターが止まっているので、非常階段で瓦礫を下に降ろさないといけなくなるんです。そこまで想定しないといけない。だから備えるんです」

辻さんが「固定」に使ったグッズは、滑り止めシート、転倒防止マット、開き戸ロックなどで、ほとんどが100円ショップで購入できる。中でも、滑り止めシートは棚の中や小型家電製品の下に敷きつめるだけで、物が落下したり飛び出したりしにくくなるおすすめのアイテムだ。

100円ショップで購入できる滑り止めシートと防振粘着マット
撮影=プレジデントオンライン編集部
100円ショップで購入できる滑り止めシートと防振粘着マット。滑り止めシートは色やサイズもさまざま - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■手を付けるのは高リスクのキッチンから

食器などの割れ物は、シートを中に敷いた収納ケースに入れて、滑り止めシートを敷いた棚にぴったりと隙間なく置くと、強度を増強できる。冷蔵庫内も同じやり方で、中の物が飛び出さないように固定する。このひと手間で被害を最小限にすることができる。

辻さん宅の冷蔵庫
提供=辻直美
辻さん宅の冷蔵庫 - 提供=辻直美

「地震に強い家」づくりに効果があるアイテムは図表1の通り。キッチンは、食器や刃物、ガラス瓶の調味料類など凶器となるものが多いので、最優先で対策を講じたほうがいいそうだ。

【図表1】「地震に強い家」のためのマストアイテム6選

■防災グッズを買って満足してはいけない

「防災意識は東日本大震災から10年過ぎてもまったく進化していません。役所に備蓄がある。会社に社員用の防災ボックスが設置されている。防災バッグを家に用意している。それで大丈夫だと安心していませんか? 中身は何が入っていますか? 使い方を知っていますか?」

辻さんの問いかけに、「はい、万全です」と自信をもって答えられる人はどのくらいいるだろうか。

防災グッズを買い揃えて安心している、「防災15点セット」をそのままパッケージを開けずに新品の状態で保管している、自衛隊の使っている最強の防災品を用意しているなど、身に覚えのある話かもしれない。

被災地では、防災品の使い方がわからず使えなかったという話を辻さんは多く聞いてきた。

「災害用トイレを持っていても、4年経過すれば入っている凝固剤が湿気っていて使えないかもしれません。災害用トイレの使い方、わかりますか? 被災して冷静でいられない状況で、悠長に説明書を読んで試すなんてできますか?」

■「我慢する」ではなく「心地いい」を目指す

地震が居住地付近で発生したとき、あるいは今年8月のように南海トラフ地震臨時情報が発表された際、防災バッグの中身を見直して初めて気づくのではないだろうか――保存食が消費期限切れだった、ラジオの乾電池が液だれしていた、ウエットティッシュが乾燥していたなど、いざというときに使い物にならない数々のグッズに。

「防災グッズを買い揃えることではなくて、今持っている物をどう使うかを考えることが重要なんです。使い方も知らない使ったこともない防災品で、ストレスフルな避難生活を何日我慢できるでしょうか。

自分が心地いいと感じる避難生活にするという発想に転換しましょう。水は大量に使えないけれど、いつも自分が使っている物をそのまま避難生活でも使えるように工夫すれば、我慢しないですみます。そのためには、在宅避難できる環境を平時から整えておく必要があるんです」

私たちは、防災グッズを揃えるのと同時に、防災の心構えを変える必要があるようだ。

(第2回に続く)

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辻 直美(つじ・なおみ)
国際災害レスキューナース
一般社団法人育母塾代表理事。吹田市民病院勤務時代に阪神・淡路大震災で被災、実家が全壊する。その後赴任した聖路加国際病院救命救急部で地下鉄サリン事件の救命活動にあたり、本格的に災害医療活動を始める。東日本大震災や西日本豪雨などで救助を行う。現在はフリーランスのナースとして国内での講演、病院や企業や行政にむけて防災教育をメインに活動中。全面監修した防災リュックも販売している。著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』(扶桑社)など。

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(国際災害レスキューナース 辻 直美 聞き手・構成=ライター・中沢弘子)

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